特集 2020年5月12日

家に眠る40年前のお酒を開ける

ステイホームで家を発掘。お父さんが大事にしている洋酒を飲んでしまえ!

緊急事態宣言が明けない。これはもう家にあるお父さんの洋酒を飲んでいいというメッセージではないだろうか。

トロフィーのとなりに置いてあるようなホコリのかぶったあの洋酒の瓶である。そりゃお父さんは大事にしているお酒かもしれない。しかし今や外に出られないのだ。私たちの好奇心は外ではなく内に向かう。

あの酒はどんな味がするのか。今、あの瓶を開けるときがきた。

動画を作ったり明日のアーというコントの舞台をしたりもします。プープーテレビにも登場。2006年より参加。(動画インタビュー)

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

片付けで出てきた古い酒をもらう

「調味料全部飲む記事読んだんやけど」と大学の同級生から連絡があった。家を冒険しよう、まずは調味料を全部お湯で割って飲もうという記事だ。

「片付けしてたら、 実家の父が酔った勢いで譲ってくれた古いお酒が出て来たんやけど。1979年とか書いてあって。瓶のはずやのにもう軽いねん。記事のネタになったりするんかな、って思って…」

わかる。うちの父も酒が飲めず頂き物の酒をためこんでいる。応接間に置いてあるような権威を示す酒、父なる酒。あれだ。

今片付けをしてる人は多いはずだ。こういう古い酒を飲んでいいものか迷ってる人も多いことだろう。「もう軽い」というのが若干気になるがゆずりうけて飲むことにした。

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父からゆずりうけたという洋酒を大学の同級生からもらってきた。3本ある

古い洋酒は買い取ってくれるそうだ

1本記念に持っておきたいといって残りの3本をいただいた。友人が調べたところ一本数千円とか数万円とかするかもしれないから売ってしまってもいいという。飲めるどころかそんな世界があるのか。

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1本目、ル・ドーヴィルというブランデー。さすがに瓶が曇っている

そもそもナポレオンってなんだ??

「ナポレオンやで」とくれた1本目はブランデーのル・ドーヴィル・ナポレオン・デラックスというお酒。「ほんまや!」と言ったもののナポレオンってなんなんだろう(たしかこち亀の両さんが高い酒として飲んでたような…)。

ナポレオンを検索するとどうやらお酒の熟成度合いだそうだ。となるといいちこの「下町のナポレオン」とはなんだ? 下町が熟成かむしろ下町の英雄のことなのか?

「お~れは、ナポレオンだぞ~!」とくだまくおっさんのことなんだろうか。いや、いいちこのことはいいか。

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ナポレオンというのは熟成具合だそうだ。V.S.O.Pより熟成され、X.O.より若くて12~15年熟成。という解説のサイトもあれば40年以上という解説もあったり。よくわからないが「めちゃくちゃ熟成しました」なのだろう

贈答品として大人気

ルドーヴィルというお酒は知らないし、検索しても古酒買取情報しか出てこない。

ルドーヴィルは、昭和43年(1968年)、フレンチブランデーとして、最も早く日本にお目見えした銘柄。

かつては高級で高嶺の花だった洋酒(ブランデー)の中でコストパーフォーマンスが抜群であった為、根強い人気が生まれ、発売当初は日本国内の贈答品として大人気のブランデーでした。

お酒買取専門店JOYLAB(ジョイラボ)「ブランデー【ルドーヴィル ナポレオン】買取ました。」より

なるほど、家に眠るお酒とはほぼ贈答品由来なのかもしれない。父なる酒とはお酒を贈りあっていた時代の名残なのだ。

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字体ですでに古そう。明朝体で細いと古そうに見えるのだろうか

大阪木下商事というところが輸入していたようなのだが調べてみると現在の木下インターナショナル株式会社のようだ。 電話してみた。たしかにその当時ルドーヴィルというお酒は扱っていたようだが分かる者はだれもいないらしい。もう何十年とこのお酒は日本に入ってないようだ。

もはやどんな味がしても正解のわからないお酒となった。父なる酒はミステリアスだ。二本目を見てみよう。

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2本目はBEAM と書かれたウィスキー。あのジムビームだそうだ

1983年のウイスキーか

「これあのジムビームやで」 ともらったのがこれ。鳥の絵が描かれたウイスキーである。ジムビームならよく見るし飲んだこともある。1本目とちがって正解のわかるなじみのある酒だ。

そもそもジムビームとはアメリカのウイスキー会社の世界で一番売れているバーボンだそうだ。しかも2014年にサントリーが買収して現在はビームサントリーという会社になってるという。

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Wood Duck アメリカオシという鳥。e-bayで1983年の空き瓶が2447円で落札されていた。空き瓶でそれなら中身が入ってると高いのではないか

検索しても日本語のサイトは出てこないのだが、同じラベルの空き瓶がebayで2447円で落札されていた。1983年のウイスキーだそうだ。どうやらジムビームのなかでもロックハートさんの絵画シリーズというのがあるらしい。シリーズということは毎年更新されたりするのだろう。これが1983年のお酒である可能性は高い。

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生物画家のロックハートさん動物絵画ラベルシリーズだそうだ。アメリカオシという鳥についての説明がめっちゃ書かれている。ウイスキーについてはとくにない。ジャポニカ学習帳みたいな酒である。

ブランデー、バーボン、ときて3本目はスコッチウイスキー。ハムナプトラみたいな箱がついてある。さかのぼりすぎてやしないか。

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三本目は箱つきだ
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シーバス社のロイヤルサルートの21年、スコッチウイスキーと書いてある
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大垣様 1979年タイ旅行の土産とある。どうやら大垣さんがタイの免税店で買ったらしい。海外に行ったら免税店で洋酒を買ってお土産に贈る。そういう文化があったのだな

 

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箱から出すと袋に入っている。 マトリョーシカ的な過剰包装が良い酒の条件なのか
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しかも瓶が陶器だ。現行品はAmazonの並行輸入品で9000円、HPの参考価格で18900円とある。高いものは一回袋をかますのが真理
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めちゃくちゃ高い酒だった

ロイヤルサルート21年とはシーバスリーガル社のウイスキーだそう。親会社のペルノ・リカール社の日本法人HPによると21年以上熟成された類稀なるモルトとグレーンウイスキーのブレンドは、最高級のブレンデッドスコッチウイスキーとしている。

21年寝かされた酒が入っている。それはすごい。参考価格は18900円だそう。これ持ってスラム街を歩きたくないレベルで高い。

しかもここから41年が経っていて合計62年! 赤ちゃんが年金もらえそうになるほどに熟成されている!

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ところがここに問題がある。やけに軽いのである

譲り受けるときに「瓶のはずやのにもう軽いねん」と言われたのがこれ。封はされているはずなのにたしかに軽い。

とはいえなんとなく理由はわかる。というのもこの3本目だけやたら洋酒の匂いが漂っているのだ。どこからか微妙に漏れ続けているのだろうか?

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とはいっても封は切られてないしどこかが割れてるわけでもない。バンコク空港免税店の名前も入ってるな。高級酒は瓶に販売店名を入れるのか

古酒買取業者に聞いてみよう

こうして3本の父なる酒を手に入れたわけだが世の中には古酒買取業者というのがあるようでそのうちの一つファイブニーズさんに電話して聞いてみた。

――買取する古い洋酒ってそもそもどういうものが多いんですか?

海外渡航の免税店のものをお土産で買われることが多いですね。家の整理をしたときに出てきたものを売られたり。こうした買取に出されるのはブックオフで本を売る感覚に近いのかもしれないですね。

――どういう人が買っていくんですか?

買われるのはコレクターさんが多いですかね。あとは好きなお酒がそもそもあってそれの古いものを飲んでみたいという方だったり。ちょっと前までは中国のバイヤーさんがよく買われてましたね。

――そもそも飲んでいいんですよね?

古酒自体は飲んでも大丈夫です。おいしいと思いますよ。角が取れるといいますか、嫌なアルコール臭が抜けるんですよ。

――封が開いてないのに軽くなってるものがあるんですけど

軽くなってるのは蓋がコルクなことが多いんですけど、コルクがしぼんでしまうのでそこから蒸発していったりすることがほとんどですね。古酒全体としては1~2割くらいがそのせいでお酒そのものがなくなったり、全部でなくても半分なくなったりしますね。

コルクがしぼんで隙間ができてそこからもれていくらしい。それかもしれない。

こういう酒があります、と説明をするとそもそも種類によって買取金額が決まってるようなのでそれぞれ教えてもらった。

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買いやすいブランデー、ルドーヴィルのナポレオン。これは買取価格100円。なんと! たしかにブックオフ感覚だ。
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ところが蓋をひねるとモロっとコルクがもげた!! あわてる!
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あたふたしてコルク抜きを入れてみたのだが明らかにもろくなっていて引っかからない。そのまま貫通してコルクが中に落ちてしまった…物理的に飲みにくいぞ、古酒!
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これが買取価格100円の酒だ! 大五郎売るほうが高く買ってもらえるのではないか

そしていよいよ父なる酒を飲む。お土産として人気があったというルドーヴィルナポレオン。何年も寝かせてそこから40年近く寝かせて今や買取価格100円。しかし飲めばその味は極まっていることだろう。

とはいえ、ブランデーを飲むことがあまりない。昔のドラマでガウン着たおじさんが飲んでいるイメージはあるが…。飲み方を検索していると「30分かけて飲め」というものがあった。

たとえばバーでブランデーを注文したなら、最初の20分はグラスを傾けながら自分を見つめなおし、残りの10分は何も考えずにただ味わう……なんて飲み方をすると、いろいろな意味で味わい深い時間を過ごせると思います。

もう飲み方に迷わない!ブランデー初心者もこれがわかれば通の仲間入り macaroni 

20分見つめるのかよ、ブランデー。そりゃドラマに出てくるはずだ。あのサスペンスドラマの殺された富豪もガウン着て20分見つめてたのかよ。

50年くらい寝かせてからコップに入れたものを20分見つめる。洋酒の香りが漂うしなんというか応接間っぽい匂いがしている。

あれ? もしかしたら応接間の匂いってこの洋酒から来ているのか!? まさかそんな!? とは思うものの、この匂いとこの手に持ってるもの、今私はものすごく父なるなにかだ(実際に父だし)。この感覚はポマードで7:3に髪を分けたときにも味わったやつだ。

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もちろん20分待つことはなかった。あれ? なんか渋いぞ。これコルクが味に影響を及ぼしてるのではないか
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水で割ると飲みやすくなるだろうか
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なんか飲むと香りがしないなこれ。古くて香りがしないので飲んでてすごく不安になる味だ

なぜだ、香りがしない!?

飲んでみる。あれ?っと思うほど印象がない。

嫌なアルコール臭はたしかに少ないのかもしれないがそもそも香りが少ない。水割りを薄めすぎたのかと思って濃くしても香りは少ない。

香りも少ないし甘みみたいなものも少ない。かわりにほんのり渋みがある。瓶の中に入ってしまったコルクの破片のせいだろうか。全体としては古ーい応接間っぽい感じがほんのりする。ダメな父という感じがする。

どこかで弱まっているのだろうか? そもそもこれ飲んでいい味なんだろうか? 古い酒はうまくなかったときに不安を感じる。このサイトで変なものを食べるたびに言ってるが、最も美味しい味とは安全の味なのだ。

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今度はジムビーム。こちらはコルクでなく内蓋があった。買取価格は500~1000円。空き瓶をe-bayに売った方がいいかもしれない(送料とか高そうだが)。
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やはり注ぎ口の古ぼけた感じなどは美味しそうとは言い難い。色はちゃんとウイスキーだ
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40年くらい経ったジムビームははたして美味しくなっているのだろうか?
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うー、40度! そしてあまい、なるほど!

父なる酒、その味は幼児っぽさ

37年前のジムビームを飲んでみる。

うん? あ、うまい。これはうまい。甘いんだ。最後が特に甘い。たとえば山椒かじるとピリピリピリピリって口の中に拡がってく感じがあるがああいう感じでわわわわわ~っと甘みが拡がっていく。

水で割ってみる。たしかにアルコールっぽい臭さがない。ふだん飲んでるすごむぎに見習ってもらいたいな。ウイスキーなんだけど匂いとか甘みとかあらゆるところが丸くてなんていうか児童館の幼児用プレイルームみたいなものが思い浮かぶ。

……児童館の幼児用プレイルームを思わせます? こんなソムリエは嫌だな。

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角という角がとれたウイスキーという感じ。たしかにおいしいと思うがその後で新品の安ウイスキーを飲むと「安心して飲める!」という美味しさがあった
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やはりこれは冒険の味だ

その夜、コンビニで売られている一番安いウイスキーを飲んでみた。やはり37年前のジムビームに比べてアルコールの臭いでツンツンしていた。しかしだ。こちらには新品ならではの安心して飲める美味しさがあった。

これが古酒として売られているものなら安心して飲めたかもしれない。しかし家にある酒を飲むのはやはり冒険の味だ。

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軽くなってるロイヤルサルート21年、蓋は開いてない。気になる買取価格は1000~2000円だそう。うーむ、価値自体は上がらないのか
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コルクはきれいに抜けたが、やはりしぼんでいたのかもしれない

さきほどのファイブニーズさんにコルクがしぼんでるかもしれませんよ、といわれたロイヤルサルート21年を開けた。やはりコルクだった。

コルクがしぼんで蒸発していったものの残りも飲んでいいのかと聞いてみたが「濁ったり風味が抜けてしまったりしますので、飲むのはきびしいですね」ということだった。せめて濁ったりしてませんように…!!

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濁っていた
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もちろん飲めはしないがせめて嗅いでみよう
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こうなって
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こうなってって
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こうなる
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ここまでいって
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こうなってから
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こうなって
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こうなった
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袋はなにかにつかえそうだ

父の時代の終わり

父なる酒、状態の良いものは角がとれて円熟味といったうまい酒になっていた。これが理想的な父だろう。しかし父にもいろいろある。匂いのなくなったもの、古ぼけたもの、そもそも蒸発したもの。

かつてはこれだという強い父像があったのだろう。応接間のある家にトロフィーが置いてあって隣には贈られてきた洋酒が飾ってある。

しかし今そういった酒を実際に開けてみると、ああ、こういうことかという味がする。全古酒ファンを敵に回すようだが個人的には新品の安い酒がいい。古ぼけた父の酒になつかしい思いはあるのだが、今は安全で信頼できる味がいい。

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