特集 2023年8月16日

150本の松明で子どもたちが港北ニュータウンの街を巡る「虫送り」

「虫送り」という行事をご存じだろうか。

ここで送られる虫とは、稲につく害虫。虫送りは、農村部において農作物につく害虫を駆除・駆逐して、その年の豊作を祈願する呪術的な行事である。

そんな民間行事なので、都心部に住む自分には縁のないイベントかと思っていたら横浜でも行われていることを知った。

生まれも育ちも横浜。大人げない大人を目指し、日夜くだらないことを考えています。ちぷたそ名義でも活動しています。(動画インタビュー

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虫送りが行われているのは横浜市都筑区南山田地区。南山田町内会・虫送り行事保存会によって今も「虫送り」が行われており、平成4年には横浜市無形民俗文化財の指定を受けている。

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南山田地区のあたりは港北ニュータウンの一角であり「新しい街」というイメージがあったが、昔は水田がたくさんあったという。その頃は稲につく害虫を松明の明かりで集めて、囃子にのせて町外に送り出していたのだとか。

今は害虫のほか、災いを害虫に見立て送り出す行事として続けられている。

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集合場所の道路(菊屋前道路)で。火を扱うから消防団もいる

今回、この虫送りは、私が神社や風習などが好きだということを知っている友人から教えてもらった。普段から好きなものを好きだと言っていてよかったな……! 

今まで自分とは縁のなかった地域の行事に参加させていただく。気分はすっかり来訪神だ。

 

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南山田の虫送りは子どもたちが主役

虫送りが行われたのは7月22日。夏休みに入ってすぐの同級生との再会を喜ぶ子どもたちをたくさん見かけた。

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消防団の大人たちが松明に火をつけていく

南山田の虫送りの主役となるのは地域の子どもたち。昔は大人だけの行事だったそうだが、現在の虫送りは地域の子どもたちが松明(150本)を持って町内を練り歩くのだ。

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集合場所の道路で、19時を回ると点火された松明が次々と子どもたちの手に渡っていく。

それまで友達との再会ではしゃいでいた子どもたちが、松明を手にすると神妙な顔つきになり背筋が伸び、大人びて見えるから不思議だ。

ちなみに松明も地元の小学6年生が作ったものだとか。竹の先に空き缶がついていて、中の着火剤に火を付ける。

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地元の小学生作松明。なるほどな~!

お子さんが行事に参加していた友人は、前はひとりで持たせるのも不安な感じだったので、親としては子どもの成長を感じられるイベントでもあること、松明のエントリーは基本的に地元の“小学生”のみなので、ラスト松明の年が近づいていることを考えるとしみじみすると言っていた。

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夏みかん公園目指して行ってらっしゃい!(親たちは近くで見守っている)

エモい、エモすぎる……。港北ニュータウンにこんな行事が残されていたとは……。

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そしてちゃっかり持たせてもらう

実際に持たせてもらって、緊張感があってこれは背筋が伸びるわ~となった。なお、松明を持てないような年齢の子は、親にペンライトを持たせてもらってる子もいて微笑ましかった。

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ペンライトがぴかぴか光る

歩いている際、松明を持って歩いてるとどうしても途中で火が消えることがある。

それを子ども同士で自然に火を分け合う光景がすごく輝いて見えて、心の宝物コーナーにそっと入れておいた。虫送り、友情が深まるイベントでもある。

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行列からの光景。いいなあ素敵だなあ

子どもの頃の夏の思い出としては完璧すぎる行事なのではないだろうか。私もこんな夏の思い出が欲しかったな……!

また、歩いている間はお囃子に合わせて子どもたちが「ヨーイヨイ」と唱えている。これ、夏休み期間じゃなかったら、翌日「ヨーイヨイ」の掛け声がクラスで爆流行りしてたんだろうな……。

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行列は途中の南山田町内会館まで来た

虫送りの行列は先頭の方で提灯を掲げ、笛、太鼓、鐘のお囃子や獅子舞の獅子がいて、その後を子どもたちが並んで夏みかん公園まで町内を巡る。

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行列の先頭部分

夏みかん公園までは1キロ程の道のりだが、150本の松明の行列は幻想的で、夢でも見ているようだった。

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動画でも見てください。

 

こちらも、途中友人が撮った写真が映画のワンシーンのようなので見て欲しい。

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山から降りてきた怪異に追われるシーン?

 

そうこうしてるうちに夏みかん公園(名前かわいすぎだな)に到着し、松明が集められて燃やされる。夜空に熱せられた缶がはじけた音が響く。

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また、先述の「ヨーイヨイ」という掛け声だが、最初の方は恐る恐るといった感じで口にしていた子どもたちも、夏みかん公園につく頃には絶叫のようになっている。子どもたちのフェスやん……!!

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老いも若きも火を見守る

気が付いたら松明の火は、大きな火柱になっていた。猛暑の日に見る火柱……悪くない。子どもたちは依然として、お囃子に合わせて「ヨーイヨイ」と歓声を上げている。やっぱり夢の中にいるみたいだ。

……と、獅子舞とひょっとこが芸を披露する。

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火の周りで獅子舞とひょっとこが舞を披露する

ひょっとこが近づいてくるファンサ(ファンサービスだと私は思った)に対してハイタッチして喜ぶ子どもたちも、獅子舞には「ギャー!」と声をあげて逃げまどう。

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やっぱりちょっと怪異っぽい

わかる。獅子舞は縁起物だけど、かちかちと歯を鳴らしながら来られると、やっぱりちょっと怖いよね……。

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