特集 2021年1月13日

冬はずっとキャンプ用のテーブルを作ってた

テーブルがあると、屋外の食事が文化的になります。

師走、年末年始、新春、今日。

てっきり終わらない日常を生きるんだと思っていたら新型ウイルスによって映画っぽい世界になってしまった2020年の終わりから2021年の始めにかけて、僕は何をしていたかと言うとキャンプ用のテーブルを作っていました。

テーブル作り以外のことをほとんどしていなかった(あとハンコ作り)ので、今回はその辺を書かせていただこうかと思います。

あばよ涙、よろしく勇気、こんにちは松本です。

1976年千葉県鴨川市(内浦)生まれ。システムエンジニアなどやってましたが、2010年にライター兼アプリ作家として自由業化。iPhoneアプリはDIY GPS、速攻乗換案内、立体録音部、Here.info、雨かしら?などを開発しました。著書は「チェーン店B級グルメ メニュー別ガチンコ食べ比べ」「30日間マクドナルド生活」の2冊。買ってくだされ。(動画インタビュー)

前の記事:ハンコ廃止の今だから!すすんで押したいハンコづくり 完結編

> 個人サイト keiziweb DIY GPS 速攻乗換案内

2年前に折りたたみテーブルを作った

記録を検索すると、2019年の2月に初めてキャンプ用のテーブルを作ったようです。

 

どこのご家庭にもある3Dプリンターで足を作って、適当な大きさと厚さのベニヤ板にネジで固定するというテーブルです。

IMG_2211.JPG
いまや電子レンジ並みに普及したと、まことしやかに言われたり言われなかったりする3Dプリンター。大きさはまさに電子レンジ並み。樹脂のフィラメントを価値のある形に変換します(ゴミにも変換します)。

パーツの設計は微妙に違いますが、基本は今もほとんど変わってません。

こんな感じのテーブルです

下の写真で約A4サイズ。幅30cm、奥行き22.5cmくらい。

IMG_1936.JPG
足の付根がオレンジで、足が黄色い春っぽい色使いのテーブル。

大量の試作品を作って、3Dプリンターでの生産性(樹脂を積層する時に作りやすい形とそうでない形がある)や強度を検証した結果この様なデザインになりました。 

IMG_2144.JPG
足を90度折りたためます。かなりがっちりしており、そうそう壊れません。

登山で2年間使ってきた

初めて作ってから2年間、登山でテント泊をする時に毎回使ってきました。地面が湿っぽくても雪が積もっていても文化的にキャンプ飯を食べられます。

00100dPORTRAIT_00100_BURST20190210161329200_COVER.jpg
地面が雪と霜で湿っていても食器や装備が汚れない。汚れるのはわずか、テーブルの足先だけ。

テントの中で使うときもテーブルがあるとちょうどいい高さになります。床に置くより調理などがしやすい。 

IMG_20190210_171258.jpg
登山のテント泊ではテントの床にベニヤ板を敷いて炊事したりしますが、それに足が付いたものと考えればよいです。高さがちょうどよくなります。
IMG_20200118_172916.jpg
雪中キャンプでもテーブルがあるとコンロが安定するし雪から離れるのでガス缶が冷えにくくなります(ガス缶は冷えると火力が弱くなります)。
IMG_20190804_211134.jpg
テントの中でダラダラ飲酒するときもテーブルがあるとカップを倒しにくくてよい。

 というように便利に使ってきました。

いったん広告です

改良したくなってきた

2年間使っていると改良したくなってきます。例えば小さくするとか。A4サイズのテーブルは広くて快適なんですが、荷物をコンパクトにしたいテント泊では大きすぎると感じることもあります。そこでB5サイズを作ってみました。

IMG_2152.JPG
約B5(幅26cm、奥行き18cm)。小さめのザックでも余裕で入ります。
IMG_1630.jpg
こういうサイズ感です。コンパクトでいて狭すぎず、なかなかいいかも。

 さらに小さいのはどうかな?とA5サイズも作ってみました。

IMG_2153.JPG
幅22.5cm、奥行き15cmくらい。板の厚さは4mmにしてみました。

流石にA5サイズはやりすぎかなってくらい小さく感じます。その代わり超軽量。登山は荷物が重いと道中ずっとツライので軽いほどいい。

IMG_2188.JPG
だいたい100gくらい。このくらいの重さだと躊躇なく登山に持っていけます。

しかしやはり狭い。軽食を乗せたらもう終わりな感じです。割り切って十分とも言えるけど、やっぱ狭いかなぁ。

IMG_4678.jpg
軽さのために広さを対価としたが、やはり狭さも感じる。

折りたたんだらどうかと2年前から考えていた

使う時の広さと携行時のコンパクトさを両立する方法として、テーブルを折りたたんではどうか?と2年前にも考えました。で、試しにCADで設計してみましたが、うまくいく気がしません。

003.png
テーブルの真中にあるヒンジで折りたたんでみる設計。
002.png
折りたたんだ足がぶつかるので厚みが出てコンパクトになりません。

こんなに厚くなるくらいなら折りたたまないほうがマシって気がしませんか。実物のテーブルの足を重ねてみると厚すぎて目眩がします。

IMG_2215.JPG
ちょっとあり得ないくらい厚く、折りたたむ意味を感じない。

まずは、足の付根を薄くしてみることにした

そんなある日『足がぶつかって厚くなるのなら薄いパーツを作ればいいじゃない』って心の中のマリーが言うので薄いパーツを作りました。

こうです。

IMG_2155.JPG
2本あるネジの接合部分をずらしたら30%程度薄くなりました。

しかしこれでも重なると厚い。

IMG_2204.JPG
薄くなったと言っても、折りたたむと2倍になるのでまだ厚い。

テーブルを重ねたりいろいろやってたら解決方法が降りてきました。

折りたたむ場所を中心がずらせばいいのだ

心の中のマリーが言いました。

『ぴったり重ねて厚いのならずらせばいいじゃない』

なるほど、こうですか。

IMG_2206.JPG
足が重なって厚くなるならずらせばいいじゃない。

中央の位置をずらしてカットした板を用意して実装。

IMG_2158.JPG
足のパーツが重ならないように、左の板がやや短くなっています。

折りたたむとこんな感じになります。

IMG_2160.JPG
足のパーツがずれて畳まれる感じ。
IMG_2161.JPG
この様になります。ずれ畳みテーブルとでも呼びましょうか。

広げるとA4で、畳むとA5まではいかないけど大分小さくなり厚みも抑えられました。

賢い人なら2年も経たずに解決するのでしょうが、賢くなくても時間を掛けて考えていればそのうち解決策を思いつきます。僕と同様、賢くない人は長い時間考えましょう。

よいものを作ったと思っていたが

我ながらよいものを作った、2年前の問題が解決した、などと数時間はニヤニヤしながらテーブルを広げたり畳んだりしてましたが、次第に気になってきます。

ずれてる部分が美しくない。

IMG_2162.JPG
気になってしまうと、どうしたって解決したくなってきます。

A4を半分に畳んでもピッタリA5にならないとか、ずれてる分だけ裏が見えているとか、造形物としての美しさに欠けます。気になって仕方ない。

という事で、解決策を考え始めました。

映画館で映画を見ながら解決策を考えた

ずれ畳みテーブルを作った日の夜、妻と映画館に『ビルとテッドの時空旅行』を見に行きました。が、どうやら続きものだったらしく僕にはやや意味がわからないシーンが多く(妻は全作見ているので楽しそうに見ていた)、映画を見ながら折りたたみテーブルの事を考えていました。

映画が始まってから90分くらい、ビルとテッドが最後のライブをする辺りで板を半分にしてたたんでも足が干渉しない設計を思いつきました。

レイトショーを見終わって帰ってから設計して夜中にプリント。

こうなりました。

IMG_4644.jpg
足を斜めにたたむのをやめて、平行にずらして配置してみました。

足を伸ばすとこうなります。

IMG_4643.jpg
足は斜めに折りたたむものと思い込んでましたが、正解は平行でした。
IMG_4645.jpg
真ん中からテーブルを畳むとこんな感じ。
IMG_4647.jpg
ピッタリ半分の大きさで、厚さも抑えられました。

ずれ畳みバージョンと比べると、ぴったり半分にたためる方が美しく感じます。 

IMG_2167.JPG
左がピッタリ半分バージョンで、右がずれ畳みバージョン。

これは本当によいものが出来たと思って、またしばらくニヤニヤしながらたたんだり広げたりしていました。

ちなみに、失敗をはしょって書いてるのでスムーズに出来たっぽく見えますが、実際は幾多のトライ&エラーでゴミの山を量産しています。

IMG_2203.JPG
ゴミパーツの山。実際にはこの5倍以上のゴミを作っています。ベニヤ板も数枚ゴミになりました。

0.1mmの違いで出来たてのパーツがゴミになり、設計を変更して再度3Dプリンターにデータをセットして1時間待ちます。出来たらまたチェックしてゴミが増えて、10回くらい繰り返すと非の打ち所がないものが出来たり出来なかったりします。

賢い人なら一発で完成したりするのかも知れませんが、賢くなくても何度もトライすればどうにかなります。泥臭くやればいずれどうにかなります(たまにどうにもならない事もあるが)。

IMG_2208.JPG
文中では触れませんが、ヒンジひとつでもゴミの山を生みました。こんなもんが難しいんですよ!

樹脂積層型の3Dプリンターは、積層方向でも強度が大きく変わるので設計もプリントもよく考えないと強度が足らなくなります。 

005.png
これは弱くなる積層のしかた。やむを得ない場合は、厚くしたり大きくしたりして強くします。
004.png
強い円柱を作りたい場合はこのように積層します。ただ、他の部分との兼ね合いでこの方向に積層できないことも多く、積層方向と強度は常に悩みの種です。
IMG_4668.jpg
積層方向が悪いと、この様に破断してしまいます。

そしてたわみが気になる

よいものが出来たなぁと思っていましたが、重いものを乗せてみるとたわみます。

IMG_2176.JPG
真ん中に関節があるので重さに弱い。6kgくらいの荷重では壊れないけど、ここまでたわむのはなんだかイヤな感じです。

1枚板のA4サイズなら6kgくらい問題ないんですが、分割した板を樹脂製のヒンジで留めただけの構造だとたわみが出ます。

どう解決しよう?と思ったら、また心の中のマリーが言いました。

『マリーつまんない!』

じゃなかった。

『真ん中がたわむのなら足を増やせばいいじゃない』

幸い、平行に配置した足は増やすのも容易なため簡単に増やせました。こうです。

IMG_2169.JPG
6本足になりました。

6kgの鉄アレイを乗せてもびくともしません。 なんなら10kgでも余裕です。

IMG_2173.JPG
これで思いつく限りの問題は解決したと言ってよいでしょう。

僕はギャル曽根さんではないため実際に使うとき6kgの食事が乗ることはほぼありません。これくらいの耐荷重で問題ないでしょう。 

いったん広告です

公園でおでんを

『ティファニーで朝食を』みたいに言っちゃったね。 

PXL_20210112_040543772.jpg
小雨が降るクソ寒い公園の片隅、当たり前のように誰もいません。

試しに地べたに食事を並べてみると、その侘しさにおののきまして、僕はキメ顔でこう言った。

「野蛮」

table_oden (3).jpg
ダイソーっぽく言うと、ザ・野蛮。

テーブルに乗せると文明が開化します。

table_oden (4).jpg
地面からしっかり離れる、この高床こそが文明です。人類は文明が進むと地面から離れます。

サーモスのスープジャーに入れてきたのでちくわも熱々です。 

table_oden (2).jpg
どやさー。
PXL_20210112_035226767.jpg
熱くておいしい。

 今年もよろしくお願いいたします。

PXL_20210112_040602681.jpg
ゆで玉子を食べる。
table_oden (9).jpg
おでんのゆで玉子の黄身は、そのまま食べてもいいしつゆに溶かしてもいい。

テーブルはA4サイズでも十分広く感じます。一人分なら余裕ですね。 

写真 2021-01-12 12 56 12.jpg
一人で使って窮屈さを感じないサイズがA4。
IMG_2191.JPG
重さは180gくらい。板の厚さが4mmなのもあって軽めです。畳んだときの厚さは18mm。

広げるとB4になるサイズも作りました。B5の板を2枚使います。 広げると幅35cm、奥行きは26cmあります。

写真 2021-01-12 13 05 15.jpg
B4なら二人分の食事も乗りそうです。花見などにいいかも。畳むと厚さは24mmです。
IMG_2189.JPG
B4サイズは300gくらい。重さは板のロット(?)によっても変わります。ホームセンターで売ってるベニヤ板は個体差が大きくて、同じ大きさでも最大3割くらい重さが違います。

余談ですが、永谷園の『はま吸い』がとても美味しいのでここでご報告いたします。 

table_oden (6).jpg
はまぐり味のお吸い物です。松茸のお吸い物と同じシリーズ。
table_oden (7).jpg
三つ葉、ゆず、お麩、はまぐりの出汁が完璧に調和する。

先日たまたま買って飲み、こんな美味しいお吸い物があったのか!という衝撃を受けて以来よく飲んでいます。ホントに余談ですね。

椅子はヘリノックスのグラウンドチェアが良い

余談ついでにもう一つ。テーブルと言っても高さは10cm程度なので、ヘリノックスのグラウンドチェアみたいな低い椅子と相性がいいです。 

001.png
この椅子がとてもいいのです。

ヘリノックスは韓国のテントポールメーカー『DAC社』のブランドで、軽量で丈夫なポールと布を組み合わせた椅子『チェアワン』が有名です。

グラウンドチェアは高さが低いバージョンの折りたたみ椅子。

table_oden (11).jpg
視線が低くなり自然との一体感がよい。

なぜか最近プレミアが付いているようで、ネットショップでは3倍くらいの値段がついています。定価は1万円程度なので在庫が復活するのを待って正規の値段で買いましょう。 

table_oden (1).jpg
畳むと小さくまとまって、重さは実測で650g。
table_oden (12).jpg
テーブルも折り畳めるので荷物がコンパクトになります。
PXL_20210112_035250377.jpg
グラウンドチェアと折りたたみテーブルは良いぞ!
table_oden (13).jpg
各種テーブル。家に30台くらいあるんですよね、こういうのが。

ただ、欠点がありまして…

かように良いものが出来たんですが、この折りたたみテーブルには欠点もあります。なにしろ作るのがメチャクチャめんどくさい。

パーツの数が多いし板の穴あけなど加工も手間が多いのです。 

IMG_4719.jpg
4本足のバージョンを作った時の材料とか。足を6本にしたら更に増えました。

6本足のバージョンを作る場合、樹脂パーツが16個とネジ18本、ナット18個を使い、2枚の板には10箇所の穴を正確に間違えず開ける必要があります。穴の位置を間違えたり1mm程度ずれると組み立ての精度が出ずに板がゴミになります。樹脂パーツのプリント時間も6時間以上。手作業で量産する気にはなりません。

これと比べると折りたたみ機能なしのテーブルはパーツ数も少ないし3Dプリントの失敗も少なく組み立ても簡単です。これはこれで一つの完成形だったのでした。

IMG_2145.JPG
生産性がよく組み立てやすい。耐久性や耐荷重も十分。

青い鳥は近くにいた、みたいな話でしょうか。違います? 


モデルデータを公開しています

以上のように折りたたみテーブルを色々作ってきましたが、モデルデータを公開しているので欲しい方は自分で作ってください。

頑丈で作るのが比較的簡単なやつ

A5サイズの小さい板で作るやつ

半分に折り畳めるやつ

折り畳めるやつを自作するのはあまりおすすめしません。本当に作るのめんどくさいですから。一番上のが一番簡単で頑丈です。

ところで、なぜテーブルに『Geographica』って書いてあるかというと、僕はジオグラフィカというアプリの開発者だからです。登山用のGPSアプリですが街でも世界でもエベレストでも南極でも使えます。使ってみてね。

ジオグラフィカのインストールはコチラから

▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ