大学のサークルに潜入してみた
早稲田大学の「早大スピードキュービングサークル」に参加させてもらい、部員の皆さんがガチャガチャとルービックキューブをする様を見せてもらったのだが、これが面白いほど早い。
みなさん、ささっと揃えてしまう。いったいどういうことなんだろう。
そもそも新入生って、できる人が入部してくるんですか?
そんなことないです。今年の新入生もほとんど知識なく入ってきました。
まず「6面揃える」のに挑もうとするときは、こんな攻略書を参考にしたりしますね。1個ずつ手順を追って「どう動くか」を説明してくれてるので、結構分かりやすいんですよ。
ルービックキューブにはたくさんの解き方があるんですけど、初めての人だと色んな手順があっても困っちゃうんで、本当に必要最低限覚えるべき手順がこれなんです。この7手順だけで理論上は解けるようになってます。
これを見て練習すれば、素質ある人ならできるようになる感じなんですか?
いや、誰でも手順に沿えばできます。なにも見ずに解けるようになるまで、これを見ながら繰り返し、繰り返し……
覚える必要があるんですね……。それで今ではどんな感じなんですか?
早くなりたければ身体で覚える
全面揃える早さを競う大会も多く開催されている『ルービックキューブ』。世界記録は3秒台。まったく訳が分からない……。
まわす回数を極力減らして、解いてるんですよ。さっきの手順書に書かれてた以外にもっとたくさん手順があって、それをどれだけ覚えてるかで決まります。
どうやら「この色の配置になったら、この手順でやれば揃う」という最短パターンを覚えているらしい。
ここにいるメンバーだと、多い人が120いくつぐらい。あとは100ちょいと、70~80ぐらい……というのが、上位3~4名です。
もし「この形の手順知らない!」ってなったときは、どうするんですか?
暗記してるのは「一発で解く手順」なんですけど、汎用的に使える、段階を踏んで徐々に揃えていくようなやり方もあります。そっちで「この形なら暗記してる」というところまで持っていって、最短ルートに切り替える感じですね。
そもそもルービックキューブのブロックの配置の組み合わせって、何パターンぐらいあるんですか……?
け、京……!!! へぇぇ~~すごいけどピンとこなさ過ぎる……。全部覚えるのは絶対無理ですね。
ここで、ある部員さんが趣味で作ったソフトが出てきた。バラバラになったルービックキューブを揃えるアプリだ。
彼が発案者ではないんですけど、趣味で作ったアプリです。
自己満で。このやり方だとちょっと頭が悪いやり方なんですけど……。
「頭が悪い」のレベルが高すぎる。なんでこんなロジックを組めるのか本当に訳が分からない……。
奥が深い「ルービックキューブ」という競技
さっきのアプリで使ってるのは、「目隠し」で使われる解法でもあるんです。
えーと、ルービックキューブを渡されて、まず見て、ここから目隠しで解いてください! ということですよね?
色の配置を脳に焼き付けるというような方法ではなく、それぞれのブロックに文字を振るんですよ。上から「あ・い・う・え……か・き・く・け……」のように。そして対応させたひらがなを覚えて、つぎは「は」だからこう回す……という考え方なんです。
なぜ20文字かというと、こんな理屈だ。ルービックキューブは全ブロックが回転してると思われがちだが、実際は真ん中のブロックは一切動いていない。
つまりは動くブロックの数は20個なので、「それをどこに配置するか」と考えればいいらしいのだ。まったく訳がわからないが。
もし「ルービックキューブじゃなく、20個数字があって 、それを順番に並び替える」と考えたら、たかだか20回入れ替えれば済むじゃないですか。
え、いやまあ……そうかもしれないですけど、ルービックキューブにそれが適用できるのがあんまり納得できなくて……。4000京の組み合わせを交換する回数は20回で済むんですね。
毎回異なる崩し方にはなるんですけど、やってることはいつも同じ順番で繰り返してるんです。どんなに崩されても、揃える手順(まず十字を作って側面を揃えて……という手順。下の動画参照)はいつも統一されてるんです。
じゃあ基本的にその「20回の入れ替え」だけでいい……と。
「目隠し」はそんな風な考え方で解いているようです。
ちなみにアプリに出力されてる記号は、回し方らしい。例えば、F(フロント)、B(バック)、R(ライト)、L(レフト)、U(アップ)、D(ダウン)、2が付いてたら2回。
これは「スクランブル」といって、複数名でタイムを競い合うときにも使うらしい。この通りにブロックをシャッフルし、全員のルービックキューブに難易度の差がないようにする。
更にこんなものも出てくる。
これはタイマーアプリで、タイムを100回ぐらい計ると、平均とかグラフとかを出してくれるんです。
次から次へと、当たり前のように知らないものが出てくる。しつこいほどにいちいち驚いてしまう。
ところでこのお借りしたルービックキューブの回転がスムーズすぎて、慣れない感じがものすごいんですけど。私が持ってる古いのと違って、ぬるぬる動きすぎる……!!
これはマグネットが入ってて、強さも変えられるんですよ。ここ1~2年ぐらいで、自分の好みに合うようにカスタマイズできるキューブが増えました。
そうですね。3種類ぐらいあるので、差し替えて調整します。あとはバネを使って回転の重さの調節ができたり。
じゃあ大会に行って「自分のを忘れた!」ってなったら終わりですね。
どんなすごい人がいるのか
色んな種目のすごい人が、色んな大学に散らばってるような感じですね。
例えばこの正十二面体のを解く日本記録を持ってる人が慶応大学にいたり、
「すごい人」でいうと、大学生より若い人も多いです。2×2のキューブを解くのが日本で一番早い人がいたり、目隠しが早い高校生もいますね。
あとは小学校2年で大会で8秒台出してる子もいます。
「小学生大会」みたいなのはあるんですか? それとも大人と混じって……?
階級みたいなのはなく、基本的には大人も子供も一緒です。
昔は「目隠しが強い」と言われてた早稲田だったんですけど、今は完全に廃れてしまって。5年ぐらい前までは、1時間に何個目隠しで揃えられるか「複数目隠し」ができる人もいました。一度に全部のルービックキューブを覚えて、目隠しして全部解くという競技です。
これの世界記録が最近更新されて、55個だったかな。
公式種目なら5×5の目隠しまであるんですよ。ただ、ナンバリングさえ対応できれば、それ以上でも可能なんです。一時期、阪大生のキューブやってる人が7×7を解いた動画をTwitterにアップしてめっちゃバズったことがありまして、ただその彼のアカウントが凍結されて。
で、その動画は闇に葬られちゃったんです。いや、どっか探せばもしかしたらあるのかも……。
もう色々すごくて「えー」とか「うぇー」とかしか出てこない。
そんなに国に偏ってなくて、まばらに要る感じですね。みんなネットから情報を持ってくるんで、そんなに差はないような気がします。
中国にも強い人はいますし、オーストラリア、アメリカ、イギリス、インドの人も最近すごいですね。
そんなに差はない気もしますけど、やっぱアメリカが強い気もしますね。情報がいっぱいあるから。更なる追加手順や理論もやっぱり英語のものが多くて。
あとはアメリカだと、キューブの通販サイトやメーカーが個人とスポンサー契約を結んで、会社のキューブを使って記録を出すといくらかもらえる、というようなこともあるらしいです。
それって、プロのルービックキューバ―? みたいなことなんですか?
人によっては「サイトで課金したらオレの手順が見られるぜ」みたいなことをやってる人もいますよね。
世界一の人は情報量も圧倒的に違うので、ちゃんとその人のサイトがあって、有料会員を登録すると専用記事が読めたり……というのもあります。
あとは、スポンサー契約を結んでるキューバ―の人が監修してるキューブが販売されてたりもしますよね。「その人が回し心地を吟味したキューブです」というような。
ここで初心者向け簡単レクチャー
すごすぎる話ばかり出てきたが、読者の中には「1面揃えるのもよく分からない」という人も多いと思う。
初心者に向けの1面揃える方法ぐらいなら私にだって教えることはできる……! という訳で、簡単にレクチャーしてみよう。
まず、揃えたい色を上の真ん中に持ってくる。
つぎに側面。両脇を回転させてみよう。いくつかは簡単に上面にくるブロックがあるはず。
次は「どうやってこの状態を崩さず残りの色を移動させるか」だ。ひとつずつ「どのブロックをどこへ移動させたらいいか」を考える。
あとは逃がしたり戻したりしてるうちにだいたい揃う。もし逃がしたときに上の面が崩れてしまう場合でも、一度別の場所に移動させればなんとかなる。
- 「揃えようとしている上の面」を崩さないようにしつつ
- ひとつずつ、退避させつつ移動させる
ものすごく初心者向けはこんな感じかなぁ、というのが個人的見解だ。
自分の苦手箇所をレクチャーされたい
冒頭にも書いたが、私はルービックキューブがまあまあ得意ではある。このぐらいであればすぐに揃えられる。
けど、ここから先はやり方がよく分からない。
いつもなんとなく回してるうちに、運よくすべての面が揃うこともあるが、何分もかかる。
そもそもこのサークルを見学させてもらうことにした動機は「数秒で揃えるやり方が分からないので、レクチャーしてもらいたい」だった。
攻略サイトを見たことは何度かあるが、なんだかよく分からず、すぐに「もういいや!」となる。手っ取り早く教えてもらいたいのだ。
サークル入ったら攻略法をまず覚えるって話でしたけど、一般的にそれが普通なんですか?
あの、私がルービックキューブにドはまりした高校時代(97年頃)ってネットの情報というのがまだなくてですね……。 何の情報もないままルービックキューブを触り続けてた期間が一週間あって、そのときに自分で考えた方法しか分からないんです。朝から晩まで、風呂でもトイレでも、友達とカラオケに行っても、授業中以外はとにかくずっと回し続けてる……という憑りつかれてるかのような時期があって……。
そのときに何もできないところから6面揃えられるところまで、独学でいったんです。
なんとなくどうすればいいのか、日が経つうちにだんだん分かってきて、なんとなくできるようになりました。一時期は1分半ぐらいで6面揃えられてたんですけど、ブランクもあるんでもうすっかり衰えてしまって。
ルービックキューブの解き方って結構いろいろあるんですよ。僕たちは「CFOP」というやり方の人が多いです。自分で思いつく方は「ツクダ式」寄りの方が多いんですよ。
僕たちは最初から情報が存在して、覚える作業から入っちゃったんで、自分で試行錯誤しながら揃えていくっていうのは、ちょっと羨ましいですね。
そのハマったときにちょうど文化祭があったんですけど、もうそんなのそっちのけでしたよ。
暗記は嫌いなんで「手順を覚える」以外のやり方で習得したいんですけど、なにか良い方法ないですか。
なかった。パターンを覚える以外に道はなかったのだ。
今までも散々考えてきたので、今後もきっと時間はかかる。こうなったらもう気長に解いていこう。
なんと新しいルービックキューブのお土産まで頂いた。昔自分が持ってたものに比べて何十倍もスムーズに動き、手が滑るような感覚があってなかなか慣れないのだが、うまく使いこなしていきたい。
今までまったくルービックキューブができる人に遭遇したことがなく、こんな話ができただけでも嬉しくて興奮しっぱなしだった。ひとりでひっそりただ何となく楽しんでただけだったので、その世界がどんなものなのかもサッパリ知らなかったが、今後も誰とも交わることなく地味に楽しむつもりだ。
そういや10年近く前、デイリー編集部にあったルービックキューブをもらったことがあり、今回持って行ってたが記事に出しそびれた。せっかくなので、ここで見せびらかしておこう。