特集 2020年11月12日

秋の夜長の暗闇坂めぐり

四谷で遭遇したたんきり子育て地蔵尊。子供の風邪、咳止め、老人の喘息、タン切りで、おん・かー・かー・かー・び・さまえい・そわか。

ももんがー!!

どこで知ったか忘れたが、東京には暗闇坂という坂がいくつかある。検索してみると5つは都心に集中していて廻りやすい。東京の夜は明るいと言われるけど、暗闇坂はさぞ暗かろう。

秋の夜長の11月、僕は暗闇を求めて東京メトロの24時間券を手に暗闇坂を巡った。

あばよ涙、よろしく勇気、こんにちは松本です。

1976年千葉県鴨川市(内浦)生まれ。システムエンジニアなどやってましたが、2010年にライター兼アプリ作家として自由業化。iPhoneアプリはDIY GPS、速攻乗換案内、立体録音部、Here.info、雨かしら?などを開発しました。著書は「チェーン店B級グルメ メニュー別ガチンコ食べ比べ」「30日間マクドナルド生活」の2冊。買ってくだされ。(動画インタビュー)

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今日のマイマップ

下の地図の赤いピンを反時計回りに廻りました。スタートは右上の根津。台東区と文京区の境にあって、上野の西隣です。そこから北西のの白山へ。東洋大学の白山キャンパスがあります。

 

白山から歩いて本駒込駅へ。東京メトロ南北線と丸の内線で四谷三丁目に移動して四谷の周りをウロウロしてから、また南北線で麻布十番へ移動という流れです。

第1話 根津の暗闇坂

最初は根津。インターネットが、東京大学のそばに暗闇坂という坂があると言うんです。

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初めて降りた根津駅。

東京で仕事をして東京に暮らして22年。もう人生の半分を東京で過ごしているけど、まだ行ったことが無い場所がたくさんあります。根津もそういう場所の一つです。

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意外と暗い東京の夜を歩く。次は明るい時に来よう。

東京でも夜中まで明るいのは繁華街とか大通りとか一部の地域だけで、多くの住宅街は地方都市と同じ程度に暗くなります。

街が暗い一方で、空は明るい。この日は適度に雲が出ていて、それがよく見えるものだから余計に空が明るく見えました。

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東京は、街よりも空が明るい。綿飴色の雲が見えるんです。

てくてくと住宅街を歩いていくと暗闇坂に着きました。 

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左側の森は暗いけど、暗闇坂という名前にしては意外と明るい。

予想はしてましたが、街灯が灯っており真っ暗ではありません。場所は東京大学本郷キャンパスの裏、弥生町(弥生式土器の由来)。

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東が上野、西が東大という位置関係。

2枚上の写真の暗い森が東京大学本郷キャンパスという事になります。このあと5つの暗闇坂を廻って知った傾向を書いてしまうと、暗闇坂の多くは大学やお寺、神社の近くにあります。

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クライモリの向こうは日本の最高学府。

大学やお寺みたいに広くて木が茂っている土地の横にある坂は、昼も夜も光が遮られて暗いため、暗闇坂と呼ばれるようになるみたいです。

ゆるやかな坂を登っていくと大学の門がありました。

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時刻は19時半。まだ明かりがついています。

門の前はとても明るくて、通り過ぎるとまた暗くなります。

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弥生から鶯谷など通る言問通り(ことといどおり)。隅田川の言問橋まで続いています。

てっきり『この坂は暗闇坂』みたいな説明の板なり棒なりが立っていると思ってたんですが、この暗闇坂では見つけられませんでした。

という事は、もしかしたら誰かが勝手にインターネットにそういう情報を載せただけで、本当は暗闇坂でもなんでもない可能性もあります。

真相は闇の中。モヤモヤしたまま次の暗闇坂に向かいます。

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第2話 白山の暗闇坂

根津から白山までは歩いて20分ほど。東京は狭い範囲に色んな地名がひしめいており、それぞれは意外と歩ける距離にあります。

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途中、良い感じに野放図なダメワゴンがありました。雑多でとても良い。

夏の昼間なら木陰で気持ちよさそうだけど、秋の夜には暗すぎる道を歩いていきます。 

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この先で暗がりにオジサンが座ってて驚き、「ギャッ!」と言ってしまいました。

せっかくなので白山神社を経由します。

両手に杖を持ったおばあさんが階段を登っていました。暗闇で中年男に追い越されるのは不安だろうと思い「こんばんは」と挨拶をしました。彼女も「こんばんは」と言ってくれました。いい夜です。

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背伸びした路地から続く階段を上り、白山神社へ。

白山神社は 西暦950年くらいから千年以上の歴史がある、由緒正しい神社だそうです。猫と妻と友達の健康を祈願。

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みんなが元気でいますように。

全体的に暗くてとてもいい雰囲気の神社です。歴史が醸すすごみがあります。

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頭をぶつけそうになりながら奥へ進んでいきます。

白山神社をあとにし、東洋大学の白山キャンパス横を抜けると、いよいよ第2の暗闇坂が近づいてきました。 

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住所的には白山5丁目のあたりです。

この暗闇坂は住宅街の真ん中にいきなりあります。 

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この先に暗闇坂がありますが、ここが一番暗かったかも知れません。

Googleマップと位置情報によると、ここが白山の暗闇坂です。 

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確かに暗く、そして坂。坂の向こうにはマンションと明るい空。

根津の暗闇坂と同様、この暗闇坂も標識や説明は無く、ただインターネットの情報だけが『ここが暗闇坂』と指しています。 

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坂の下から撮ると、結構な坂であると分かります。東京は、車や電車で移動していると気付きにくいけど、結構な高低差があります。

もしかして、暗闇坂というのは都市伝説の類で誰かが勝手に言い出して、勝手にGoogleマップやWikipediaに載せただけなのかも?

そんな事を考えながら本駒込駅まで歩いて南北線に乗り、次の目的地を目指しました。

24時間券の全能感を感じつつ四谷三丁目へ。

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第3話 曙橋の暗闇坂

南北線と丸の内線を乗り継いで四谷三丁目。四谷三丁目から曙橋までは500m、歩いて10分弱ありますが歩きます。

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僕が買ったメトロの24時間券は都営地下鉄には乗れないので、東京メトロだけを使って移動しています。曙橋にも駅はありますが、都営地下鉄なのでメトロの四谷三丁目から歩くことになりました。さっき感じた全能感の不全感。

四谷三丁目の交差点はとても明るい。とても歩いて10分弱で暗闇坂があるとは思えない、東京らしい明るさです。

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真ん中に写っている大きな建物は四谷消防署。
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四谷消防署は消防博物館を併設していて消防の歴史や装備品を見られます。

四谷交差点から少し歩いて日高屋の角を曲がると、暗闇坂に向かう路地です。

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急な暗さに怯む。

目が慣れないまま進んでいくと闇が迫ってきました。お寺です。根津の暗闇坂編でも書きましたが、暗闇坂の近くには大学やお寺がありがち。

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くらっ!って口に出して言ってしまった。

お寺なので墓地もあります。四谷なんて都会のど真ん中に墓地があったんですね。

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当然、墓地は暗い。

更に進んで曙橋近くに到着すると、サード暗闇坂が出現。

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暗坂(くらやみざか)と書かれた標識がありました。

『もしかして:都市伝説』かと思われた暗闇坂ですが、ちゃんと公的に認められたものと確認できました。よかった。

説明を読むと『くらがり坂』とも呼ばれていて、江戸中期には知られていたそうです。全長寺の墓地に植えられていた樹木が茂って暗がりを作ったことからの名前だといいます。

振り返ってみると、確かに暗い。

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街灯とか建物の明かりがあるので真っ暗とはいきませんが。

さすが認められた暗闇坂、墓地の感じと相まってよい雰囲気です。

暗い中で遠くのマンションがランタンの様に映えます。

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緋色の帆を掲げているようなタワーマンションが蒼空に映える。

わー、暗いなーって写真を撮っていたら30代くらいの女性に声を掛けられました。

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この建物の感じが良かったので撮っていた。

「なにか見えますか?」

え。

なにかって、いや、空とか暗い建物とかが見えますし、暗闇坂っていう坂を巡って写真を撮ってるんですが、そういうの説明した方がいいですか?デイリーポータルって知ってます?え、知らない?そうか、知らないか。あれです、仕事で撮影に来てるんです。カメラマンってわけじゃなくてライターなんですけど、ってな感じで140文字くらいの文章が頭に浮かびましたが(0.1秒)結果として、

「この辺がいい雰囲気だったので…」

と答えました。

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この辺がよかったのです。

「あ、そっちか」

と言われました。

「そっち?」

「空を撮ってるのかと思って」

「ああ、空。空も…明るくていいけど、僕はそこの壁を撮っていて、次はあのお地蔵さんを撮ろうかと思ってるんだ」

なにこの村上春樹の小説みたいな会話、と思いながら次に撮ったのがたん切り子育て地蔵尊。

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みんなのタンがよく切れて、みんなの子どもたちが健康に育ちますように。

女性はいつの間にかいなくなっており、僕はパスタを茹でずにすみました(村上春樹氏の小説に出てくる男は大体女性と知り合うとパスタを茹でます(雑な印象))。

19時から始めた撮影ですがぼちぼち21時半。急がないと麻布十番に辿り着けなくなります。急ぎ、四谷方面に南下します。

第4話 四谷の暗闇坂

たん切り子育て地蔵尊から800mくらい、歩いて15分。4つ目の暗闇坂に向かいます。大通りから一本入ると早速この暗さでした。期待できます。

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またしても、とても暗い。

どうも、この通りはお寺が多いようです。

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お寺その1。真言宗。
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お寺その2。日蓮宗。
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お寺その3。霊園の性格が強いみたいけど、日蓮宗だそうだ。

次々と右に現れるお寺を右に見送って進むと、狛犬が鎮座する石屋さんがあらわれ、そのすぐ横に闇坂がありました。

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玄関に狛犬。羨ましい。
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唐突に現れた、ここがフォース暗闇坂。闇坂と書いて『くらやみざか』です。

説明を読むと、ここもお寺の木が茂って暗い事から闇坂と名付けられたそうです。現代の様に街灯がない江戸時代、月明かりが木で遮られればさぞかし暗かったことでしょう。でも、現代の闇坂はそこそこ明るい。

ももんがは出そうにありません。

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狭い路地に輝く街灯。

坂を進むと、お寺の敷地に生えていたはずの木が切られていました。 なるほど、だからこんなにも街灯が明るく見えるんですね。

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闇坂を闇たらしめていただろう木の切り株。

そしてここにも墓地。 

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関東のお墓には卒塔婆が立ってますが、卒塔婆が無い地域もあるそうですね。

下から見た暗闇坂。

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そこそこ急な坂でした。

ちっとも暗闇じゃありませんが、肉眼ではもう少し暗く見えました。肉眼より明るく写ってしまうのはスマホやデジタルカメラの性能が良くなりすぎたせいもあります。

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スマホのカメラ性能良すぎ問題

今回の写真はすべて手持ちで撮っています。三脚は持って行ったんですが、手持ちでも普通に明るく写ってしまったので使いませんでした。

iPhone12ProとGoogle Pixel4、あとデジカメはEOD 5DMark2を使いましたが、特にiPhoneとPixel4のナイトモードが優秀で、三脚なしでも明るく撮れてしまいました。

現代の街灯とスマホの進化が、暗闇坂を明るくしてしまったというわけです。人類はテクノロジーで暗闇を克服してしまいました。心の闇はいつ無くなりますか?

余談の鉄砲坂

闇坂から四ツ谷駅へ向かう途中、学習院の初等科がある辺りに鉄砲坂という坂がありました。

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鉄砲坂も都内に複数あるようです。そもそも、なぜ人は坂という坂に名前を付けるのか。歩くのがしんどいからでしょうか。

江戸時代この辺りに御持筒組(鉄砲隊)の屋敷があり、屋敷内に鉄砲稽古場があったためこの名前になったそうです。

三國シェフのオテル・ドゥ・ミクニが建っていたり、雰囲気のいい坂でした。

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GoToEatしに行きたい。

閑話休題。 

第5話 麻生十番の暗闇坂

最後は東京麻布十番、おりしも午後10時、暗闇坂を目指します。

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駅を出てすぐ成城石井(お高いスーパー)。

道中にあった石像がマスクをしていました。シャレてますね。

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ハイカラでビューチフルな街、麻布十番。

暗闇坂に向かう途中にある大黒坂。この先に大黒様があるからだそうです。

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けっこう暗いし、ここが暗闇坂と言われても違和感は無いけど。

そんなこんなで、今回最後の暗闇坂。

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やってきました、本命の暗闇坂。黒マントで目が光る妖怪変化は見当たりません。

ここもかつては樹木が生い茂って暗かったから暗闇坂だそうですが、周りに大使館やマンションが立ち並ぶ今となっては真っ暗闇ではありません。

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見る方向によっては暗くも撮れますが。

どうしたって街灯があるので真っ暗にはなりませんが、周りよりは暗めの設定になっています。

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右にある建物はオーストリアの大使館。その向こうにはオレンジ色の東京タワー。

ここの暗闇坂はタクシーがひっきりなしに走っていました。暗闇坂の暗さのせいかヘッドライトがとても眩しく見えました。闇の中の光はやけに眩しく見えるものですね。

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暗闇坂を下から見ると、結構暗いですね。麻布十番の繁華街と比べれば十分暗闇坂かも知れません。

どこが明るくてどこが暗いかというのは、結局相対的なものです。

明るい方から見れば暗闇坂は暗いし、暗闇にいれば他が眩しく見えてしまう。明るいも暗いも、全ては捉え方次第だって、ミスチルの桜井さんが歌ってた気がします。

そう、捉え方次第です。暗闇坂は暗かったとも言えるし、意外と明るかったとも言えます。本当はどっちか?実際に見に行ってみてください。


暗闇坂という安直さがとても好ましい

坂で暗かったから暗闇坂って、そのまんまなネーミングがいいなと思ったのが最初でした。どうせ今の東京で暗闇って言ってもたかが知れてると思いながら出かけて、やっぱ街灯が点いてるし真っ暗じゃないなとも思ったり、意外に暗いなと思ったり、風をあつめたりあつめなかったり。

たぶんどの坂も、こんな事が無ければ行くことはなかったと思います。ももんがには会えなかったけど行って良かったな。

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