特集 2021年5月12日

鏡の服でまちの色を着てみたい

4月上旬、通勤電車がトンネルを抜けると黄色い世界が広がった。河川敷に菜の花が咲いていたのだ。

あまりにきれいで異世界に来たのかと思った。

 

過ぎゆく菜の花を見る私は、黒のロングコートにグレーのタートルネック。電車が再びトンネルに入ると、色も華もないマスクの女が窓に映った。

 

明るい服が欲しいと思った時、いいことをひらめいた。

鏡ばりの服を作るのだ!それを着て歩けば、街や自然の色を着ることができる。春に咲く花も、夕陽の色も、夜の街のネオンも、ひとときの景色を身に纏えるのだ。

1995年、海の近く生まれ。映画と動物とバーベキューが好きです。オレンジジュースを飲んでいたコップに麦茶を注いでもらう時でも「コップこのままでいいよー!」と言えます。

前の記事:寝床を変えると非日常が味わえて楽しい

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鏡の服をつくろう!

そんなわけで、色と華のある人間になるために鏡の服を作ることにした。

鏡の布なんてあるのだろうかと調べたらAmazonにミラーシートというものがあった。

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通常は好きな形に切って壁に貼ったり小物に貼ったりして使うみたい。

少し固い素材だが、片面がシールになっているので縫わずに貼って作れそう。

 

このミラーシートは、布と違って切りっぱなしにしてもほつれる心配がない。

要するに、布では難しい自由な曲線を作ったり、穴を開けたりが簡単にできるのだ。

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波のモチーフを切り出してみた。これをポケットにつけてもいいね。

しかし、不安要素がひとつ。布よりもかなり固いのだ。

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このぐらい固い。布と風合いが全然違う。

なかなか似ている固さのものがなくて伝えにくいのだが、気持ち的にはいろはすのペットボトルぐらい固い。他のペットボトルほど固くないけど、満足に使えるほど柔らかくはない。

それなりの固さなので関節の部分がどうなるか少し心配である。

 

でも、とにかくやってみよう!

じっとしたまま先を考えるのは苦手なのだ。将棋もフィーリングで指すタイプ。

お試し版コートを作る

今回はこんなコートを作ることにした。

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コートにしたのは鏡の面積が大きい方が、景色がたくさん映っていいと思ったからだ。

まずは紙でお試し版を作っていく。

ミラーシートと同じぐらいの固さのカレンダーの後ろに型紙を書いた。

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これは前身頃と後ろ身頃の半身です。

次に、縫い代(今回の場合は貼りしろ)を残して切り、テープで貼り合わせて、着る!

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着てみたはいいが、左腕が動かせない。

自転車手信号の「止まります」をしてしまう。止まりたくないのに。

これでは着ることができても胸を張って服とは言えない。

そこで、型紙の精度を上げるために微修正していこう。

 

ここからが大事なポイント!

腕を動かしたり、シルエットに注目すると、

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ココ!膨らんでて違和感がある!

肩の前が不自然に膨らんでいるので、なじむように貼り直す。

今のままだと、肩が上がらない、脇も閉じれない。

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ココ!動かしにくい。

脇の下が動かしにくいので、アームホール(肩から袖に繋がる穴)を下に広げよう。

着たまま動かしやすいように貼る位置を調整し、貼り直した箇所には印をつける。

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こんな感じで赤い印をつけました。

印をつけたら、型紙をバラして印を頼りに新しい線を引く。

 

修正版を着てみたが、肩のあたりがどうしても動かしにくい。いっそ穴を開けてみよう。

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ちょっと心がざわついてきた。

薄々気づいていたけど、今のところカッコよさがない。この不安、あれだ。初めての場所に行く時の、この電車であってる?という不安と同じだ。

まぁ、いいか!とりあえずこの電車に乗ろう。

 

修正を繰り返して、私だけの型紙が完成した!

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頼むぞ、きみたち!

目的地は南なのに、車窓から見える田舎の風景に白い塊が見える。たぶん、おそらく、あれは雪だ。

でも今は見ないふりをして、行き着くところに行ってしまおう。

流れ流れてヨーロッパへ

流れに身をまかせ、修正した型紙をミラーシートに写し、貼りしろをつけて裁断。

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前後左右で4枚の身頃を切り出した。

次にカッターで貼りつけ部分を切り抜き、

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実寸の線で貼り合わせていく。

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片方の貼りしろが余分だったと今気づいた。

シールは簡単に貼れて良いのだが、空気が入って貼り直したい時に、はがしにくいのが辛いところ。はがすときの音も怖い犬ぐらいうるさい。

でも糸始末をしなくていいのは縫うより楽だ。

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わお!メタリック!

マテリアルのカッコよさで先ほどの不安を解消できる予感!イケてるのでは?という芽が心の中にぴょこっと出てきた。

 

どこに行くのかわからなかった、この電車。

不安になったりもしたけれど、ようやく終点に着いた。

微修正を重ねて、1日作業をして、やっとできたのだ!

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中世の拷問器具が。

思ってたのと全然違うな。どうもおかしい。

内側がトゲトゲの中世ヨーロッパの拷問器具にしか見えない。

型紙から引いてできたのがこれとは、正直私も驚いている。

 

とりあえず、袖と衿もつけよう。話はそれからだ。

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あー!

焼け石に水だ。

袖がどうしても動かしにくかったので半袖にしたのだが、今はそんなことどうでもいい。もっと根本のミスなのだ。

まちの色を着たいのに、これは着たくない。どうしたもんか。

試しに、前開きじゃないデザインならどうなるかなと思って、前後逆に着てみた。

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オズの魔法使いに出てました?

見覚えがありすぎると思ったら、オズの魔法使いのブリキ男だ。

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これだ。大好きな作品なので機会があったら見てみてくださいね。(Google画像検索より)

どうしよう。

気づきたくなかったけど、ミラーの面積が多いほどダサい。

途方に暮れているうちに、日も暮れてきてしまった。

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今は何も考えられない。波を見るしかない。

今日は1日かけてブリキ男になって終わった。

でも、大丈夫。あのエジソンが「失敗ではない。上手くいかないやり方を見つけただけ。」って言ってた。

うん、そうだそうだ!まだ、なんとかなるし、明日考えよう!

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寝て起きて、好きなように作ろう!

次の日。

寝て起きてすっきりして、自分の好きなように作ることにした。

ファッションは着たい服を着るのが1番だ。そう感じてきた。

ミラーの素材が似合うセットアップ(ビスチェ+タイトスカート)を作ることにした。

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ミラーの面積の大きさでコートにとらわれていたが、気分が上がらなければ意味がない。

 

さぁ、まずはタイトスカートを作ろう!

ミラーのタイトスカート、絶対カッコいいぞ!

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再び型紙を書いていく。

ふりだしには戻ったけど、足取りは最初より軽い。サクサク進む。

ピタッとしたタイトスカートを作るときのポイントはダーツだ。

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この三角がダーツ。

これがあることで、ウエストから腰にかけての曲線をきれいに出せるのだ。

さらっと型紙完成!はやーい!

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学生の時は、型紙を書くパターンの授業が一番好きだった。

これをシートに写して、

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定規で曲線を引くのも得意なのだ。

裁断してから貼り付けていく。

先程ほどのダーツを重ね合わせると、

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ダーツをたたむと言います。

カーブができて体にフィットする。

最後にウエストにベルトをつけて、

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長い道のりでした。

できたーー完成!!

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私の足がスカートに写り込んでいる。

素材と形がマッチしていていい感じ。

 

さらにビスチェも作る。こちらは簡単!

ミラーで長方形を作り、肩紐をつけて、背中側に穴を開ける。

背中をレースアップにして調節できるようにするのだ。

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穴を開けてもほつれない!

そこにリボンを通して完成!

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ミラーシートだけでなく、リボンのように異素材が入ると一気に凝った感じが出る。

さらに立方体のカバンも作って、鏡の服のできあがり!

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かっこいい・・・!未来の服みたいだ!

あー、満足!作りたかったものが作れて、この上なく嬉しい。

なにか映そう

着る前にどんな感じでものが映るのか試してみよう。

一目ぼれして買った信楽焼のたぬきをスカートに映してみる。

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こっちを見ている。

リアルだ。こんなにリアルなたぬきの服はない。

床の木目と窓のサッシも見える。実際には直線のはずのものが服のカーブで歪んだ曲線になっていておもしろい。

 

次は、アロハシャツの柄をビスチェに映してみた。

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カモフラされている!

一瞬どこからがミラーなのか戸惑うくらいなじんでいる。

まちの色を全部を取り込みたいと考えていたけれど、結構物体が近くにないと映らないと気づいた。

さぁ、着てみよう!

初めての服を着るのはいつだって楽しい。自分で作った服ならなおさらだ。

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チャラーン!コズミック!

カチカチでギラギラのウルトラダサいコートから一変、スタイリッシュでクールなセットアップになった。嬉しい!

後ろはこう。

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カバンもお気に入りです。

コートの時に悩んだ関節問題も、ビスチェなら腕や肩は自由だ。足は大きく開けないけれど、歩けるのでよし。

 

背中のリボンもポイント。あ!カバンに顔が映っている。

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いる!伸びた私がいる!!

映るって楽しい。もっといろんなものを映したくなる。

これでどんなまちの色を着ることができるだろう。はやく外に行きたいなぁ。

まちの色を着にいく

人混みを避けて早朝の浅草に来た。

さっそく見つけた赤い色に近寄ってみる。

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半分、赤い。

全身が赤色になるように写真を撮るのは難しかった。でも赤と白が半分ずつ映っていてなんかおめでたい。角度や服のシワが影響して、いろんな色が入るのだ。これがまちの色を着る醍醐味である。

 

次は自然の緑を入れてみよう。植木に近づいてみる。

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葉っぱ柄のスカートだ!

スカートの右半分には、右側にある植木が映り、左半分には下の芝生が映っている。

生だ!生命の柄だ!

プリントではなく、今そこにある諸行無常のものが映り、それを着ていることに感動している。ねこや鳥が映ったらもっと面白そう。

 

最後は雷門に行った。よくよくみて欲しい。

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私のビスチェに、

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雷門のちょうちんが、

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映っている!!

歴史的なちょうちんを着ることができて嬉しい!ビスチェの真ん中に映るとアイコンっぽくてカッコいいし、何よりリアルに映るのがいい。

 

今回は行けなかったが、夜の街でのネオンや、海での夕陽はどう映るのだろう。遠すぎて映らないのか、色だけでも拾えるのか。まだまだ試したりないのだが、どれも楽しそうだ。

また、お出かけできるようになったら、ひとときのまちの色を着に行きたいと思う。


スターになれる

コートとセットアップを全部着てみたら、

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マイケルジャクソンの衣装みたいになった。意外といい。大スターみたい。町は歩けないけど。

 

鏡の服を試したい方は、ミラーシートを切ってTシャツに貼るだけでも、景色が映り込んで楽しいと思います。

やってみてください!

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