スターになれる
コートとセットアップを全部着てみたら、
マイケルジャクソンの衣装みたいになった。意外といい。大スターみたい。町は歩けないけど。
鏡の服を試したい方は、ミラーシートを切ってTシャツに貼るだけでも、景色が映り込んで楽しいと思います。
やってみてください!
4月上旬、通勤電車がトンネルを抜けると黄色い世界が広がった。河川敷に菜の花が咲いていたのだ。
あまりにきれいで異世界に来たのかと思った。
過ぎゆく菜の花を見る私は、黒のロングコートにグレーのタートルネック。電車が再びトンネルに入ると、色も華もないマスクの女が窓に映った。
明るい服が欲しいと思った時、いいことをひらめいた。
鏡ばりの服を作るのだ!それを着て歩けば、街や自然の色を着ることができる。春に咲く花も、夕陽の色も、夜の街のネオンも、ひとときの景色を身に纏えるのだ。
そんなわけで、色と華のある人間になるために鏡の服を作ることにした。
鏡の布なんてあるのだろうかと調べたらAmazonにミラーシートというものがあった。
少し固い素材だが、片面がシールになっているので縫わずに貼って作れそう。
このミラーシートは、布と違って切りっぱなしにしてもほつれる心配がない。
要するに、布では難しい自由な曲線を作ったり、穴を開けたりが簡単にできるのだ。
しかし、不安要素がひとつ。布よりもかなり固いのだ。
なかなか似ている固さのものがなくて伝えにくいのだが、気持ち的にはいろはすのペットボトルぐらい固い。他のペットボトルほど固くないけど、満足に使えるほど柔らかくはない。
それなりの固さなので関節の部分がどうなるか少し心配である。
でも、とにかくやってみよう!
じっとしたまま先を考えるのは苦手なのだ。将棋もフィーリングで指すタイプ。
今回はこんなコートを作ることにした。
コートにしたのは鏡の面積が大きい方が、景色がたくさん映っていいと思ったからだ。
まずは紙でお試し版を作っていく。
ミラーシートと同じぐらいの固さのカレンダーの後ろに型紙を書いた。
次に、縫い代(今回の場合は貼りしろ)を残して切り、テープで貼り合わせて、着る!
自転車手信号の「止まります」をしてしまう。止まりたくないのに。
これでは着ることができても胸を張って服とは言えない。
そこで、型紙の精度を上げるために微修正していこう。
ここからが大事なポイント!
腕を動かしたり、シルエットに注目すると、
肩の前が不自然に膨らんでいるので、なじむように貼り直す。
今のままだと、肩が上がらない、脇も閉じれない。
脇の下が動かしにくいので、アームホール(肩から袖に繋がる穴)を下に広げよう。
着たまま動かしやすいように貼る位置を調整し、貼り直した箇所には印をつける。
印をつけたら、型紙をバラして印を頼りに新しい線を引く。
修正版を着てみたが、肩のあたりがどうしても動かしにくい。いっそ穴を開けてみよう。
薄々気づいていたけど、今のところカッコよさがない。この不安、あれだ。初めての場所に行く時の、この電車であってる?という不安と同じだ。
まぁ、いいか!とりあえずこの電車に乗ろう。
修正を繰り返して、私だけの型紙が完成した!
目的地は南なのに、車窓から見える田舎の風景に白い塊が見える。たぶん、おそらく、あれは雪だ。
でも今は見ないふりをして、行き着くところに行ってしまおう。
流れに身をまかせ、修正した型紙をミラーシートに写し、貼りしろをつけて裁断。
次にカッターで貼りつけ部分を切り抜き、
実寸の線で貼り合わせていく。
シールは簡単に貼れて良いのだが、空気が入って貼り直したい時に、はがしにくいのが辛いところ。はがすときの音も怖い犬ぐらいうるさい。
でも糸始末をしなくていいのは縫うより楽だ。
マテリアルのカッコよさで先ほどの不安を解消できる予感!イケてるのでは?という芽が心の中にぴょこっと出てきた。
どこに行くのかわからなかった、この電車。
不安になったりもしたけれど、ようやく終点に着いた。
微修正を重ねて、1日作業をして、やっとできたのだ!
思ってたのと全然違うな。どうもおかしい。
内側がトゲトゲの中世ヨーロッパの拷問器具にしか見えない。
型紙から引いてできたのがこれとは、正直私も驚いている。
とりあえず、袖と衿もつけよう。話はそれからだ。
焼け石に水だ。
袖がどうしても動かしにくかったので半袖にしたのだが、今はそんなことどうでもいい。もっと根本のミスなのだ。
まちの色を着たいのに、これは着たくない。どうしたもんか。
試しに、前開きじゃないデザインならどうなるかなと思って、前後逆に着てみた。
見覚えがありすぎると思ったら、オズの魔法使いのブリキ男だ。
どうしよう。
気づきたくなかったけど、ミラーの面積が多いほどダサい。
途方に暮れているうちに、日も暮れてきてしまった。
今日は1日かけてブリキ男になって終わった。
でも、大丈夫。あのエジソンが「失敗ではない。上手くいかないやり方を見つけただけ。」って言ってた。
うん、そうだそうだ!まだ、なんとかなるし、明日考えよう!
次の日。
寝て起きてすっきりして、自分の好きなように作ることにした。
ファッションは着たい服を着るのが1番だ。そう感じてきた。
ミラーの素材が似合うセットアップ(ビスチェ+タイトスカート)を作ることにした。
ミラーの面積の大きさでコートにとらわれていたが、気分が上がらなければ意味がない。
さぁ、まずはタイトスカートを作ろう!
ミラーのタイトスカート、絶対カッコいいぞ!
ふりだしには戻ったけど、足取りは最初より軽い。サクサク進む。
ピタッとしたタイトスカートを作るときのポイントはダーツだ。
これがあることで、ウエストから腰にかけての曲線をきれいに出せるのだ。
さらっと型紙完成!はやーい!
これをシートに写して、
裁断してから貼り付けていく。
先程ほどのダーツを重ね合わせると、
カーブができて体にフィットする。
最後にウエストにベルトをつけて、
できたーー完成!!
素材と形がマッチしていていい感じ。
さらにビスチェも作る。こちらは簡単!
ミラーで長方形を作り、肩紐をつけて、背中側に穴を開ける。
背中をレースアップにして調節できるようにするのだ。
そこにリボンを通して完成!
さらに立方体のカバンも作って、鏡の服のできあがり!
あー、満足!作りたかったものが作れて、この上なく嬉しい。
着る前にどんな感じでものが映るのか試してみよう。
一目ぼれして買った信楽焼のたぬきをスカートに映してみる。
リアルだ。こんなにリアルなたぬきの服はない。
床の木目と窓のサッシも見える。実際には直線のはずのものが服のカーブで歪んだ曲線になっていておもしろい。
次は、アロハシャツの柄をビスチェに映してみた。
一瞬どこからがミラーなのか戸惑うくらいなじんでいる。
まちの色を全部を取り込みたいと考えていたけれど、結構物体が近くにないと映らないと気づいた。
初めての服を着るのはいつだって楽しい。自分で作った服ならなおさらだ。
カチカチでギラギラのウルトラダサいコートから一変、スタイリッシュでクールなセットアップになった。嬉しい!
後ろはこう。
コートの時に悩んだ関節問題も、ビスチェなら腕や肩は自由だ。足は大きく開けないけれど、歩けるのでよし。
背中のリボンもポイント。あ!カバンに顔が映っている。
映るって楽しい。もっといろんなものを映したくなる。
これでどんなまちの色を着ることができるだろう。はやく外に行きたいなぁ。
人混みを避けて早朝の浅草に来た。
さっそく見つけた赤い色に近寄ってみる。
全身が赤色になるように写真を撮るのは難しかった。でも赤と白が半分ずつ映っていてなんかおめでたい。角度や服のシワが影響して、いろんな色が入るのだ。これがまちの色を着る醍醐味である。
次は自然の緑を入れてみよう。植木に近づいてみる。
スカートの右半分には、右側にある植木が映り、左半分には下の芝生が映っている。
生だ!生命の柄だ!
プリントではなく、今そこにある諸行無常のものが映り、それを着ていることに感動している。ねこや鳥が映ったらもっと面白そう。
最後は雷門に行った。よくよくみて欲しい。
私のビスチェに、
雷門のちょうちんが、
映っている!!
歴史的なちょうちんを着ることができて嬉しい!ビスチェの真ん中に映るとアイコンっぽくてカッコいいし、何よりリアルに映るのがいい。
今回は行けなかったが、夜の街でのネオンや、海での夕陽はどう映るのだろう。遠すぎて映らないのか、色だけでも拾えるのか。まだまだ試したりないのだが、どれも楽しそうだ。
また、お出かけできるようになったら、ひとときのまちの色を着に行きたいと思う。
コートとセットアップを全部着てみたら、
マイケルジャクソンの衣装みたいになった。意外といい。大スターみたい。町は歩けないけど。
鏡の服を試したい方は、ミラーシートを切ってTシャツに貼るだけでも、景色が映り込んで楽しいと思います。
やってみてください!
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |