特集 2021年5月31日

今、二等辺三角形が熱い!~小学校の算数が懐かしい

自分が小学生時代に流行ったマンガやアニメ、おもちゃなどに触れると、懐かしむのみならず改めてハマってしまうことはないだろうか。

筆者は最近、YouTubeで中学受験の算数の問題を解説する動画を観るのにハマっている。小学生のときに塾に通っていたためである。

ゲームのプレイ動画感覚で見ている算数の図形問題、その良さを読者にも味わってもらいたい。

1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。(動画インタビュー)

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小学校の算数の良さ 概念が難しくない

まず算数よさとしてあげられるのはその容易さである。覚えることも複雑でなくていい。

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名前がかっこいいよね、二等辺三角形

まず三角形の種類の一つとして、二等辺三角形があるのだが、二等辺三角形には

・2つの辺の長さが等しい
・底角(∠B、∠C)の大きさは等しい

という性質がある。これを暗唱できるようにしろというのではない、意味がわかっていればいいのだ。

ちなみに三角形の内角の和が180°というのも思い出そう。この性質から二等辺三角形の内角の関係は

頂角(∠A)+底角×2=180°

と表せ、つまり内角の角度がどこか1つでもわかれば全部わかるというお得な三角形ということがわかる。

(この二等辺三角形の性質が、あとでいろいろな問題を解く鍵になるのだ……。)

念を押すように確認してみたがこれは全く難しくない。説明されても躓かない(なにしろ一度通った道だ)。それが算数のいいところである。

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この比は忘れようにも体が覚えていないだろうか

ついでに言っておくと、三角形の二辺ではなくて三辺が等しくなると正三角形になる。

このとき正三角形は30°、60°、90°の三角形2つに分けられて、辺の長さの比は上の図のようになる。これも思い出しておきたい。

「あ~、なんかわからないけどここの長さの比、1:2だったな~」という懐かしみの声が聞こえてくるようだ。

(なんかわからないけど~、と思ってる人は、もしかしたら高校の三角関数の記憶の残滓があるからかもしれない。そういう複雑なことは忘れてほしい。)

まだまだ簡単。どんどん来い、という気持ちになってくるのが小学校の算数の良さである。

二等辺三角形がたくさん出てくるのがうれしい

小学校の算数の図形問題には二等辺三角形がたくさん出てくるので、二等辺三角形が出てくるだけで喜ぶ体になったほうが都合がよい。

そこで長方形を見てみよう。

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たくさんあってうれしいよ~

長方形の対角線は4つも二等辺三角形を作ってくれる。2本の線だけで4つも! なんとなく嬉しいのは筆者だけであろうか。(4つなのに「たくさん」と書いてしまっているところに喜びが表れている。)

さらに五角形。

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更にたくさんあってうれしい

五角形の対角線のさらに多くの二等辺三角形がある。五角形の対角線を全部引くと五芒星の形になるわけだが、そうなると二等辺三角形の数はもう数え切れないほどである(厳密に言うと、数えられる)。

たくさんだ。声に出して言ってみよう。「うれしい」と。

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ここにもうれしい二等辺三角形

もう問題が解ける

もう二等辺三角形を見ただけでうれしい気持ちになるようになっただろうか? では、下の問題を見てほしい。世迷言を言っているうちに、もう解けるはずなのである。

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問、正方形ABCDがあります。弧ACと弧BDの交点を点Eとするとき、∠AEDの大きさは何度ですか。

この問題をもうあなたは解けるはずなのだ。

まず体が三辺が等しい△EBCは正三角形であると言いたがっていないだろうか。言わせておけばいい。

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すると正方形の内角は直角なので、ここはこうなりますな。

点A、点Eは同じ弧上にあるので長さが等しい。つまり△ABEは二等辺三角形。来た、二等辺三角形だ。勝った。

二等辺三角形である△ABEの底角は等しく、頂角が30°なので、三角形の内角の和180°から…(180-30)÷2=75(°)。

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ここまできたら解答まであと少し

右側の∠DECも同様にして出して、間にある△EBCは正三角形なので……。

360-(75+60+75)=150(°)

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答えは150°!

解けた。角度を出す問題だが、実質は二等辺三角形と正三角形を見つける問題だったと思う。今、二等辺三角形が熱いと言われる所以である。

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二等辺三角形が熱い!
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円を使った問題も楽しい

二等辺三角形の熱さを語ったが、懐かしい感じを思い出すためにすこし寄り道して円の問題にも触れたい。通貨ではない、図形の円の問題である。

では、円周の長さを求める公式を思い出してほしい。「直径×円周率」である。小学校なので円周率はπではなく3.14としておこう。

さて…

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問、弧ABの長さを求めなさい。

弧の長さを求める問題だ。あーあったあった。

見ての通り円と二等辺三角形は密接な関係がある。半径が等辺になったりするので。

中心角は先程の二等辺三角形と同じように出せる。底角が75°なので、残りの角は30度だ。扇形の中心角を出すと弧の長さも求まるぞ。

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弧長さは円周のうち30°分だから30°/360°=1/12。

6×2×3.14÷12=3.14(cm)となる。割り切れて気持ちがいい~。

ちなみに下の赤い部分の面積もこれまでの知識と、扇形の面積の出し方がわかれば出せる。

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扇形から二等辺三角形を引けばいい

円の面積の出し方は「半径×半径×円周率」で、扇型は30°なので扇形の面積は

6×6×3.14÷12=9.42(cm²)

ここからマイナスする二等辺三角形OABは初めの方に見た正三角形の長さの比を使うと面積を出すことができる。

(説明が洗練されてないが趣味でやってるだけなのでご容赦願いたい。)

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1つの角が30度なのでこうやって高さを求めることができる

底辺が6cm、高さが3cm。三角形の面積は底辺×高さ÷2で出せる。このとき底辺か高さのどちらかの長さが偶数だと嬉しい。さて二等辺三角形の面積は

6×3÷2=9(cm²)

よって赤い部分の面積は

9.42-9=0.42(cm²)

となる。わかったかな? わからなくても問題はない。なぜなら我々はもう小学生じゃないから。なんの引け目も感じる必要はないのだ……。

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大人でよかった!(二等辺三角形!)

多少の工夫も愉快

二等辺三角形が出てくると問題を解くのに便利ということは分かってもらえたと思う。

ここで付録として覚えておくとより二等辺三角形が映えるツールがあるので、2つ紹介しておこう。

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2直線が平行なとき同位角と錯角は等しくなる
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ついでに外角の定理というのも覚えておこう

これらも「あったな~」というやつだと思う。外角の定理のことを「スリッパの形」ということもあったはずだが、「そういう言い方もあった~」というやつだ。

これらはこれらでなかなか役に立つやつらなのだが今回の主役は二等辺三角形。どちらも二等辺三角形を映えさせる端役に過ぎない。

さて、この2つと二等辺三角形を使うと、以下の問題が解けるぞ。

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問、直線ABと直線CDが並行で、線分GFと線分HFの長さが同じとき、∠HGFは何度ですか。

∠EFDは∠AEFの錯角なので、角度が等しい。よって∠EFDは62°。

二等辺三角形FGHのの底角は等しいので、外角の定理より∠HGFは62÷2=31(°)。

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図示するとこうなります!

ようするに上の赤い角の半分が、下の二等辺三角形の底角になるわけだ。何も知らなくても勘で解ける問題ではあるが、下の三角形が二等辺三角形でなければ求まらない。二等辺三角形に敬礼、である。

いきなり出てくる二等辺三角形もいいが、こういった多少の工程が積み重なった末の二等辺三角形というのもいいだろう。

余談だがこの関係は間が離れていても成り立つのが、いい。

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遠くても成り立つのが不思議~

余談でした。

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二等辺三角形のつもりだったが……違うな
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ほとんどパズルなのが、よい

最後にもうひと捻りある問題を解いて終わろう。まだやるのかって? 下の図を見て、もう心の中の小学生が問題を解こうとしてるので静かにしてください。

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問 正五角形と正方形が図のように接しています。xは何度ですか。

ひとつひとつ順序よく求めていこう。「どこにも角度が書いてない!」 と焦る必要はない。これは正五角形と正方形がくっついただけの問題だ。

まず正五角形は三角形3つの集まりで表せるので、内角の和は180×3で540°。

内角は5つなので540÷5=108(°)となる。

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正五角形の内角は108°

するとここを頂角にした二等辺三角形が見えてきたと思うので、底角を出す。さっそく二等辺三角形が出てきてうれしい。

(180-108)÷2=36(°)。

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ここの角度が36°と求まる

正方形の内角は90°なので、下の赤い角は180-(36+90)=54(°)。

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ここは54°

で、赤い角が求まるわけだが一旦この角のことは忘れて、こんどは細長い二等辺三角形の底角を出す。また二等辺三角形を見つけられた。おれたちは二等辺三角形へのリスペクトを忘れないようにすべきだ。

さて、一気に出してしまおう。正五角形の内角は108°、正方形の内角は90°なので、細長い二等辺三角形の頂角は

360-(108+90)=162(°)

となり、二等辺三角形の底角は

(180-162)÷2=9(°)

となる。9°、細い。20°以下の角は細くて自分を疑ってしまう。が、ここはこれであっているので進もう。

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ここは9°

そして外角の定理よりxは

x=54+9=63(°)

と求まる。二等辺三角形のおかげである。二等辺三角形への感謝の念を忘れないようにしたい。

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赤い角xは63°と求まった。

あるいは平行な補助線を引くと同位角が求まるので細長い角を求めるだけでいいかもしれない。

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こういうことである。

という感じで、小学生の算数は基本的なことの積み重ねで順序よく解くことができる。この問題を解いて、あなたの心の中の小学生が喜んでいるのを感じないだろうか。ぼくの心の中の小学生は中学受験をしたがっている。(よしよし、もうむりなんだよ……。)

ことに図形問題はほとんどパズルであった。平面図形問題における二等辺三角形の発見は問題への黄金の道であることを紹介して、この記事は終わりにする。

実際は二等辺三角形なぞ役に立たない問題もありまくるが、この先はYoutubeの解説動画(死ぬほどある)か算数の中学受験用の参考書(一覧性が高くて燃える)に任せたい。


算数がおもしろい

数学で習う三角関数や複素数などはたぶんなにかの分野で役に立ちそうな感じはする。一方、小学校で習う算数の図形問題は、上で見てきたとおり簡単な要素の組み合わせを使ったパズル的なものであり、他の分野で役に立たなそうだ。

役に立たない、でおしまいなのか。

いやいやいや、これはひょっとして大人になったときの娯楽になりえるのでは!?と思い、勢い筆を執った次第である。おもしろいからいいのではないか、と。

このほか小学校の算数(の図形問題)では、立体をスライスしたときの断面の面積や、紐に繋がれた犬が移動できる面積、転がる円錐の回転数など、まったく謎な問題を解かされるわけだが、それらも挑戦してみるとまたおもしろい。

そういうおもしろさの中で、二等辺三角形はただ熱いのである。

おもしろいだけじゃなくて役に立つということがあったら、ごめん。

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