特集 2021年5月28日

石焼きいもの歌は誰が歌い始めたのか

誰もが聞いたことがあるであろう「♪いしや〜きいも〜」の歌。

ふと「これは誰が作った歌なのだろう?」と気になってネットでググってみたら、誰にも作者がわからない謎の歌らしかった。

わからないと言われると気になってしまってしょうがない。

「♪いしや〜きいも〜」は誰が歌い始めたものなのか。あらゆる手段を使って調べられるところまで調べてみることにした。

どうでもいいことを真剣に分析してみる記事をたくさん書いているエンタメライター。音楽や映画が特に好き!

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とりあえずJASRACに聞いてみる

急に思い立って「♪いしや〜きいも〜」の作者を調べてみることにしたものの、何をどうすればいいのかまったくわからない。

とりあえず「一番知ってそうなところに聞けばいいのでは?」と思い、真っ先に思いついたここに問い合わせてみることにした。

石焼きいもJASRAC.jpeg
JASRAC!!!!!

ご存知、日本でもっとも音楽の権利に詳しそうな団体・JASRAC。

音楽の権利を管理する団体はいくつかあるが、その中でもバツグンに知名度の高い「音楽の権利のプロ」である。

石焼きいもJASRAC返答.jpeg
こちらが知りたいことをそのまま聞いた。

問い合わせてから祝日をはさんで約半日。ありがたいことにすごい速さで返事がきた。 

石焼きいもJASRAC返答.jpeg 「♪いしや〜きいも〜」の前には、JASRACすらも無力だった。

「JASRACなら何かヒントくらいはあるんじゃないか?」と期待していただけに絶望もかなり深かった。今回の調査、思っているよりかなり大変そうである。

国会図書館でひたすら「石焼きいも」をググり続ける

「JASRACならきっとなんとかしてくれる!」作戦が撃沈したので、自分で調べるしかなくなった。

そうとなったらここしかない。

石焼きいも国会図書館.jpeg
日本最大の図書館、国会図書館。

古文書から最新の雑誌まで納められた、日本で唯一の国立図書館である。

ここでひたすら「石焼きいも」に関する資料を探していく。

石焼きいもの本.jpeg
国立図書館は、読みたい本をリクエストして、受付でプリントしてもらう仕組み。ひたすら石焼きいもの本を探し、かたっぱしからプリントした。

いも類振興会の「焼きいも事典」という専門書から、里中満智子さん作「やきいもの味は恋の味♡」という恋愛焼きいもマンガまで、石焼きいも屋に関するすべての本を取り寄せた。

さらに本だけでは足りないのではないかと思い、新聞記事もあわせてリサーチ。

石焼きいも記事.jpeg
「この世には焼きいもをよく取り上げる新聞と、そうでない新聞がある」という事実も知った。

 こうして調べた情報をもとに「石焼きいものだいたいの歴史」を整理する。

石焼きいも歴史.png

焼きいも自体の歴史は長いが、いわゆる街を歩きながらいもを売る「石焼きいも屋」は意外と最近のものらしい。

 

しかも、石焼きいもにはハッキリとした「最初の人」まで存在した。

もともと「珍来」というラーメン屋をやっていた三野輪万蔵さんが、なぜかはわからないが急に始めたのがリヤカーの石焼きいも屋だったという。世の中いろんな人がいるものだ。ひとりのいも好きとして三野輪さんには感謝したい。

 

それから本題の「石焼きいもの歌のだいたいの歴史」も整理した。

 石焼きいも音歴史

いろいろな新聞を読んでみると、1960年代後半から「♪いしや〜きいも〜」のカセットテープが出回るようになったらしく、それまでは(特に地方で)いろんなバージョンの「石焼きいもの歌」が存在していたようである。 

石焼きいもカセットテープ.jpeg
どうやらカセットテープによっていろんな「石焼きいもの歌」が淘汰されていったらしい。

 

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最後のキーパーソン、「藤田道具」の藤田さん

本でわかることは調べ尽くしたので、令和のいま「石焼きいもの歌」を販売している人に直接問い合わせてみることにした。石焼きいも藤田道具.jpeg

浅草・かっぱ橋道具街に「藤田道具」というお店があり、ここでは「石焼きいもの歌」をCDにして売っている。ここなら何か知っているのではないか。

最後のヒントを求め、店主の藤田さんに連絡してみることにした。

電話に出てくれた藤田さんは「石焼きいもの歌のCDについてお聞きしたいのですが...」という突然の電話にもまったく動じず「いいですよ」と気さくに質問に答えてくれた。

石焼きいも藤田道具インタビュー.jpeg
CD、けっこう売れている。

 

できれば声優の方のお名前を知りたいと頼んだものの、ネットを通じてお願いしたので難しいとのことだった。

CDの作曲者には会えなかったが、「石焼きいもの歌」の作詞家のひとりである藤田さんと話せたのは大変光栄なことだった。

皆がなんとなく歌い継いできた「石焼きいもの歌」

結果的に、石焼きいもの歌を最初に歌い始めた人はわからなかった。

が、なんとなく「こういう流れなんじゃないか」という予想を最後に書いておきたい。

  1. 1951年に三野輪さんがリヤカーの石焼きいも屋を発明
  2. 1951年〜60年に東北から来た出稼ぎの人が、銀座などで石焼きいも屋として歌い始める
  3. 焼きいも発祥の地である東京の売り声をもとに、カセットテープが発売される
  4. CDなどに形を変えつつ、日本全国へ広がっていった

いまの「石焼きいもの歌」は、1950〜60年頃に東京でに生み出された曲をもとに、みんなの中にある「石焼きいもの歌のなんとなくのイメージ」をそれぞれが形にしたものではないかと思う。

石焼きいもまとめ.jpeg


まとめ

石焼きいもの歌を誰が歌い出したのかはわからなかったが「石焼きいもの歌を誰が歌い出したのかについて調べると、かなり石焼きいもに詳しくなる」ということはわかった。

 

特に「なにが手がかりになるかわからないから!」と焼きいもをテーマにした1950年代の児童小説や「森鴎外は焼きいもが好きだった」というたいして関係ない新聞記事まで読みまくったせいで、飛躍的に石焼きいもの知識が身についていき、調査が終わる頃には「だいぶ石焼きいも屋に詳しい人」になってしまった。

 

(余談だが今回の資料の中に『焼きいもの味は恋の味♡』というマンガがあり、「毎日ニンニクしか食べさせてくれない母親にイライラした女子中学生が、たまたま家の前を通りかかった石焼きいも屋に恋をして、その石焼きいもを食べることで最終的に受験のストレスからも開放される」というかなりアクロバティックな恋愛焼きいもマンガだったので機会があればぜひ読んで欲しい)

 

最終的にそういった小説や記事はほぼまったく参考にはならなかったが、かなり楽しい作業だった。たまには、こういう小さな疑問をひたすら調べまくるのも悪くないなと思う。

 

参考資料

週刊少女フレンド10(19)(507) 集英社
いのちかなし 新潮社
政界往来38(1)
東京回顧
東京っ子
日本医事新報(3225)
焼きいも事典 いも類振興会
読売新聞(1961/11/01京阪版、1968/12/02、1983/12/20、1972/10/08、1983/12/20、1960/11/30、1969/10/29、1988/11/27)
朝日新聞(1982/01/27、1962/10/18、1965/10/11、1975/01/13)
毎日新聞(1958/01//01)
河北新報(1992/04/15)
NHKアーカイブ
日本いも類振興会>焼き芋小百科

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