壮年鉄仮面伝説
ご覧のように世の中は意外といいものであり、人それぞれにいろいろな事情はあるだろうが、勝手に拗ねてはいけないのである。
三年B組金八先生第二シリーズにおいて、腐ったミカンでおなじみの直江喜一演じる加藤優が言い放った「勝手に拗ねるな」というセリフは、その後に放送されるスケバン刑事への警告だったのかもしれない。絶対違うけど。
三十数年ぶりに「スケバン刑事Ⅱ少女鉄仮面伝説」を観た。
鉄仮面を強制的にかぶらされて育った少女がグレてスケバン(女性番長)となり、紆余曲折のすえスケバン刑事となって学園にはびこる悪と戦っていくというアレである。
しかし本当に鉄仮面をかぶって生活したら、グレたくなるような気持ちがするのだろうか?
わからないので、やってみよう。
「スケバン刑事Ⅱ少女鉄仮面伝説」とは、1985年に放送を開始した一話30分の学園ドラマ。あらすじはこうだ。
悪の組織に父親を殺害され、素性がバレると身に危険が及ぶとの理由で脱ぐことのできない鉄仮面をつけて育てられた少女がいた。
そのバイオレンスなルックスゆえ、人々から冷遇された結果、17歳になるころには人間離れした身体能力を持つスケバン鉄仮面として地域では一目置かれる存在となっていた。
その頃、全国各地の荒廃した高校に手を焼いていた警視庁は、学園内部の潜入捜査を行うための特命の学生刑事、その名もスケバン刑事として彼女をスカウト。
警視庁特製ヨーヨーの力で十数年ぶりに鉄仮面を脱ぐことのできた少女は、父親を殺害した悪の組織への復讐の足掛かりになればとコードネーム「麻宮サキ」を名乗りスケバン刑事として悪と戦うのであった。
と、長々書いてしまいましたが、意味わかりました?
私はわかりませんでした。
鉄仮面は当サイトの過去記事「CGをダンボールで実体にする男」を参考に、ダンボールで作成していくことにした。また記事に登場する、いわいともひさ氏よりマスクのベースとなる展開図を提供いただいた。
その展開図を、厚さ1.5mmのダンボールにスティックのりで軽く貼り付け、そのうえから定規とカッターで展開図ごと切っていく。
組みあがるまで本当にできるのかヒヤヒヤだったが、うまくできたと思う。
それではさっそくこれを被って街を歩き、どんな気分になるのか検証してみよう。
なるべく目立たないようにそっぽを向いて動かないようにする。
エレベーター内で「撮影ですか?」と話しかけられたので「はい、すみません」と答えた。詫びる必要は全くないのだが無意識に謝罪の気持ちが湧いてきたようだ。
とても寒い日だったが不思議に寒さは感じない。セーラー服が暖かいのか、恥ずかしさで感覚が麻痺しているのか。
スケバン刑事の代名詞ともいえるヨーヨーにもチャレンジする。小学生の頃にヨーヨーの世界チャンピオンと名乗る、今から思えばどこの馬の骨ともわからない人間のイベントを見に行ったことのある世代としての意地だ。
休憩がてらスタバにでも行こうと店に近づくが、私の姿をみた人々が不穏な空気になるのを感じる。
スタバでくつろいでいる人に迷惑をかけたくない。誰にも何も言われていないが強く思う。
わずか数時間でこれである。仮にこの生活を十数年続ければ、心がすさんでグレたくもなるだろう。
そのうえ、警察に鉄仮面をはずしてもらい特命刑事になれと言われればもう、なるなる!オレ、スケバン刑事になるよ!とスカウトに応じるはずだ。
意外とあのシナリオは、その辺の心理まできちんと描かれた優れたものだったのだなあ。
ということで私が5代目スケバン刑事を襲名したことにより、歴代のスケバン刑事のラインナップは、斉藤由貴、南野陽子、浅香唯、松浦亜弥、つりばんど岡村となったのである。
そして「鉄仮面をつけて生活すればグレてスケバンになるのは当然!」という結論で検証を終えようとしたが、この日はたまたま撮影場所近辺で成人式の式典があり、各政党の政治家たちが新成人に向けて街頭でメッセージを送っているところに出くわした。
どうりで人出が多いと思った。
そうだ、ここはひとつ趣向を変えて自分から打ち解けに行ってみたらどうだろう。
なんとグータッチに応じてもらえることができた!
ということで鉄仮面をつけて生活しても、自分次第で人々の温かさを感じることができ、必ずしもグレるとは限らないということがわかったのである。
ご覧のように世の中は意外といいものであり、人それぞれにいろいろな事情はあるだろうが、勝手に拗ねてはいけないのである。
三年B組金八先生第二シリーズにおいて、腐ったミカンでおなじみの直江喜一演じる加藤優が言い放った「勝手に拗ねるな」というセリフは、その後に放送されるスケバン刑事への警告だったのかもしれない。絶対違うけど。
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