度を超えたハロウィン
いわいともひささん。カクカクしたCGを実体にする人である。
いわいさんが知人に頼まれて作ったハロウィンのコスチュームがすごい。ハロウィンとかコスチュームという範疇を超えている。
だってこれである。バーチャファイターのアキラ。
これは仮装と呼ぶのだろうか…。よく見ると首やひざに人の身体らしきものが見えている。バーチャファイター(ビデオゲームです)は進化してどんどん滑らかになっていったのに現実の世界のほうがカクカクしていっている。そのうち入れ替わるぞ。
同じ人からハロウィン用に頼まれた以前の作品がこちら。
サンシャインマン。指のあたりに肉体らしきものが見える
名古屋のサンシャインサカエの前で(サンシャインだけに)
サンシャインマンはキン肉マンに登場するキャラクターだが、さほどメジャーではないためサンシャインサカエでの反応は今ひとつだったという。
ここまでインパクトのある仮装があれば「同じ名前だから~」のようなささやかなボケにはなかなか気づかれないのかもしれない。
その前年が機関車トーマス
血まみれのナースがトーマスに何か飲ませている。何をどうしたらこんな状況が現れるのだろう
このトーマス、うつ伏せになって台車に乗っていたのだが、その姿勢が辛くてすぐに立ち上がってしまったという。
トーマスの第二形態
そして大垣ミニメイカーフェアで隣になったときに展示していたのはいわいさんの友達の顔だった。
世界で一番哀愁のあるポリゴンの写真
デイリーポータルZでもカクカクしたペーパークラフトのマスクを作っていたため(
こちら)、「あ、デイリーで見た」と言う人もいたのだがいわいさんのほうがもっと細かい。
下唇から顎のあたりの立体感が素晴らしい
本人から依頼があり、写真を見ながら作ったそうだ。
「でも顔が鮮明になっていく過程でだんだんむかついてきて(笑)。ずっと俺を見ているから」。
このモデルとなった人に会ったことがないのだが、少しわかる気がするのはなんでだろう。
かっこいいものも作ってます
いきなり変わったものを紹介してしまったが、いわいさん本来の作風はもっとかっこいいのだ。
冒頭にも載せたアイアンマン。RPGでアイテムがないと通れないタイプの門のようになった
これがすごいところは自立するところである。
僕が作ったら絶対に立たない。断言してもいい。
「立てるまで立つかどうか分かんなかったんですけど、最初から足一本でもちゃんと立ちましたね」
アイアンマンの足の裏がきれいに平らである
いかにもなマスク
全体の造形がきれいなのはもちろん、実物を間近で見ると細かいところまできれいなのだ。
細かい折り目で丸みを出していたり、紙を合わせた線がそろっていたり
見えないところまできっちり作られている。このひとペーパークラフト好きだろうな、というのを感じる。いやもうそんなこと十分分かっているのだが。
目のところの継ぎ目を合わせているところとか!
こちらは紙製のダフトパンク(というアーティストがいます。知らない人は検索してください)
アコースティックな演奏をしそうなダフトパンク
これは地元のテレビ局の依頼で作ったとのこと。
ただ、最初はシンプルなダンボールのロボットという話だったのだが、締め切り1週間前になって「ダフトパンクの左みたいにしてくれ」と言われたそうだ。
ダフトパンクの左。
ダフトパンクに立ち位置があったとは。やすきよで言えば横山やすしだ。
ダフトパンクのきよし、いや左は「二日間徹夜で作りましたよ」とのこと。
耳。こういうところを細かく作っちゃうから徹夜なるんですよ!
白い紙で作ってあるのでここだけ現実感がない。
ダフトパンクの右を持っているのはライターべつやくさんである。
今回はデイリーポータルZでペーパークラフトのデカ顔プロジェクトのメンバー+地元(取材は愛知県一宮市で行われた)の手芸作家のペシュカさん(
リンク)が取材に同席している。
DPZの工作チームがこのあといわいさんに細かいことを根掘り葉掘り聞きます。
ダンボール工作のノウハウ!
これらの作品をどうやって作っているのかを聞いた。ダンボール工作の知恵が満載である。工作をかじっている人は即ブックマークしたほうがよい。
ここから自分のためのインタビューです
「modoというCGソフトでデータを作ります。アイアンマンの全体の製作期間は1ヶ月半ぐらい。だけど1ヶ月ぐらいはモデリングに費やしています。いきなりバシッと形が決まるわけではないので、作って放置してもう1回見て直して…という試行錯誤があるので」
アキラの元データ
いわいさんは20代なかばからなのでCGの経験が20年近くある。おれにもできるかも!という甘い目論見が遠ざかってゆく。
CGデータができたらペパクラデザイナーというソフトで展開図にする。デイリーポータルZのデカ顔でも使っていた定番ソフトである。
展開図になったらダンボール板をレーザーカッターで切って組み立てる。
「ダンボール板は1.5ミリ厚のものを使っています。グルーガンで辺どうしを接着しています。ダンボールは面がしっかりしているのでのりしろがなくてもくっつくんです」
そうなのか!
裏から見たところ。のりしろがない!そして接着してない辺もある
「無理にくっけるとそこに力がたまってしまって割れてしまうので。力を抜くために、くっつかないところはくっつかないままでいいんです」
インタビュー中、心のがってんボタンを連打していた。
いわいさん愛用のグルーガン。小型で電源ケーブルが外れるため、内側の細かいところでも使える(すぐ買おう)
いわいさんのありがたいノウハウはまだ続く。
「ダンボールって1.5 mm でも厚みがあるから折を重ねていくと差が出てしまうので、そこ切ります。現状合わせで。」
切っちゃえばよかったのか!ダンボールで物を作ると厚みでちょっとずつ歪んでいくのだ。顔を作るときの順序については
「大きいところから作っていくと、細かいところで合わなくなってしまうので、小さいところから作っていって大きなところでずれたぶんを切ります。
ただ、歪みが出て顔が広がっても紙なんで整骨みたいにきゅっきゅっと揉んでいくだんだん形に沿っていくんです。」
デジタルなCGのあとに揉むというアナログな作業があったとはねえ。
このほかにも
・ ペーパークラフトのかぶり物を頭に固定する場合は、モノタロウで売ってるヘルメットの中だけをかぶり物の中に固定する
・塗料はホルベインのイージーペイントが安くて臭わなくてよい
・犬山市のリトルワールドはおもしろいから取材すべき
などとても有益な情報を聞いた。前の2点はお役立ち情報サイト デイリーポータルZと名乗りたいぐらいの有益さである。
いきなり手で切る作品も作った
元データをCGで作ってない作品もある。
これがそうなのだが、そう思えない。
「CGでしか作れないやつになってしまう気がしたので適当に手切りしてつくったんです」
とはいえスケボーの板の微妙な曲線が再現されている。
脳内でCG作ってそうである
このネジの再現度といったらもう
スケボーを見ただけでダンボールで作ってしまうって、いわいさんは人間3Dプリンタを名乗るべきだと思う。
これからの仕事
いわいさんが自宅ガレージで作業をしていると、近所の人が面白がって見に来たそうだ。これが仕事であることを説明すると
「…こ、これからの仕事ね!」
と言って去って言ったとのこと。
3Dデータをもとに大きなものを作るときはペーパークラフトが実は現実的なので(3Dプリントだと高い)、あながち正しいんじゃないかなと思う。
これからの仕事と言われて20年の僕に言われたくないと思うけど。