父のことはほとんど忘れて

店でパフェを食べながら談笑。さまざまに話に花が咲いた楽しいひとときだった。
そしてふと、店を出ようと席を立つ。今まで座っていて忘れていた、自分のいでたちに気がつく。なんだこの服は?そうだ、今日は父の服を着ていたんだ。
店の窓に薄く映る、斎藤さんと私。
取材に同行してくれた斎藤さんの奥様も私の妻も、私たち二人の全身像を改めて見て笑顔。笑うことはお肌にもいいと聞いたことがあるので、それでいいと思います。
生まれて初めて出会う同性の人生の先輩、父。男である私にとって、父親とはそんな風に言い表すこともできる。
時に一緒に遊び、時に厳しく叱る。頼もしくも恐ろしくもある存在だった父だが、子供の頃からずっとうっすらと感じていたのは、「その服どうなの?」ということだった。
悪さをして怒られながらも、「なんか変な服だな…」と心の中で思っていたあの頃。言われたことはわかっても、服については釈然としなかった。
そんな私も父親の年齢の半分を超えるようになった。こちらから歩み寄るべく、父の服を着こなしてみた。
※2006年5月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
家族を養うため、当人たちの知らないところで仕事に精を出す。休日にはさまざまな家族サービスも厭わない。良い面ばかり言ってしまってる気もするが、世の中で言われる父親像というのを端的に言えば、そんな風にもなるだろうか。
思い起こすに、私の父もそれなりに例外ではなかったと思う。それはそう思う。普通に感謝の気持ちもある。
ただ、個人的なことで言えば、服装についてだけはいつも微妙だった。
退職してすっかりネクタイを締める機会も少なくなった父。実家に来たのでいいのがあったら借りていこうと思ったのだが、個人的な趣味では普段しないようなものばかり。
つい批判めいたことばかり言ってしまいそうになる。しかし、60年・70年代のファッションがおしゃれともされる昨今。
もしかしたらこれは、かっこいいんじゃないだろうか。
そんな祈りも、別の箱にしまわれていたネクタイを見てすぐに疑問に変わる。どこかで見たことがある気がするのは、血液の顕微鏡写真みたいだからだろうか。
もしかしたらやっぱりかっこいいかも。いや、ほんとか?冷静になれ、気をしっかり持て。
こういう場合、頭で考えるよりも実践する方が話が早い。
ネクタイに合わせるためにスーツも借りて着てみたのだが、父はかなりの細身なのでウエストが入らない。やはり全身を父親化するのは無理だろうか。
仕方がないのでズボンは自分のものを合わせて着てみた。
こうして見ると、思っていた以上に普通になじんでしまっている。軽くショック。
もっとダサカッコイイといった線を狙ったつもりだったのだが、その半端さや微妙さが意外にしっくりきているような気がしてくる。こんなはずでは…。
袖の丈が短く、シャツの白が多めに見えているのも見方によってはかっこいいか。いやほんとか、それは。
血液ネクタイもあまり違和感がない。またもショック。
じっくり写真を見すぎたためか、どう評価していいかわからなくなってきているが、この日は人と会う約束があったのだ。袖が短いのは気にせず、このまま街に繰り出します。
心の中ではもじもじしつつも、街行く人は特に私を目に留めない。意外と溶け込んでいるのかもしれない。
そういう状況をどう評価していいかわからないまま、待ち合わせ場所に向かう。
途中でどうも気になる広告が目に付く。なんとなく写真を撮ってみたのだが、この格好をしているからなのか、いちいちしっくりきてしまう。これが変なネクタイの魔力なのだろうか。
そうこうしているうちに待ち合わせ場所に到着。なんとなく上着のボタンを留めてみると、なぜだかおっさん度が微妙にアップしたような気がする。
とぼけて見える表情は、単に太陽がまぶしいだけだ。と、そこに約束していた相手が到着。
実はこの日待ち合わせしていたのは、当サイトのライターであるT・斎藤さん。そしてやはり私と同じく、お父様の服を着てきていただくようにお願いしていたのだ。
レトロフューチャーな斎藤さん、と思ってみたが、別にフューチャーではないなと思い直す。そしてディティールがすごい。
私の父とはまた違った方向性のファッション。ダンディというかポップというかクールというか、とにかくその辺の言葉を適当に羅列したくなるインパクトだ。
ブルゾンの下にのぞく楽しい柄のシャツ、印象的な馬のレリーフが映えるバックル。言葉を費やす無力さすら感じる。
今回斎藤さんとお会いしたのは、昨日(5月12日)の斎藤さんの記事『男パフェ2』の取材で、一緒にパフェを食べ歩くことになっていたため。そういうわけで、目的の店に到着。
そしてなんとなく並んで撮影。微妙な服を着た仲間が増えてうれしいのだ。
店内に入り、ファンシーなパフェを食べる。パフェの詳細は斎藤さんの記事を読んでいただくこととして、ファンシーさでは斎藤さんもパフェに負けていなかった。ブルゾンを脱いで見えてきたシャツの袖口がすごいのだ。
過剰とも言えるラブリー。完全に僕の負けだ。
話によると、斎藤さんのお父様は趣味でダンスをなさっているとのこと。この服はダンスのときに着るものであるということで、決して普段着ではないらしい。
なるほど、そういうことだったか。飛び道具を食らって1ラウンドは負けてしまったが、次は巻き返しを図りたい。
パフェの取材を続けるため次の店に移動。電車の中でもお互いの服について話が弾む。
写真だけ見ると、全く接点のなさそうな服を着た二人に見える。他人にはそう見えても、心の中で感じている微妙な何かを二人は共有しているのだ。
今回はパフェめぐりをしつつ、店ごとに衣替えをすることにしていた。そんなわけで、次の店に入る前に着替えタイムだ。
まずは私から、先ほどはスーツで決めてみたが、今回はうかつさがうっかり出がちな父親の休日ファッションで攻めてみた。言葉にしがたいやるせなさを感じていただけたらうれしい。
そのせつなさに拍車をかけるように、ズボンの裾が短い。よし、今回は勝ちに行くぞ。
対する斎藤さん、今度はスーツで決めてきた。渋い色のスーツは実年齢に15歳ほどプラスさせる力強さがある。
そして、裏地とネクタイとがともにペイズリー。気の利いた小技も効かせてくる斎藤さん、さすがであるが私の間抜けさも負けてはいないはず。かなりいい勝負ではないだろうか。
こんな二人が互いに写真を撮ってるのは通行人からすると明らかにおかしいであろうので、速やかに次の店に入ろう。
楽しい談笑をしつつも、話が途切れたときに撮った一枚には互いの表情に疲れが見える。
やってることはパフェを食べて移動して、ということだけなので、やはりメンタルな部分に負担が来ているのだろうか。パフェを食べてもあまり元気になれない。
なぜだかアイスティーが金魚鉢に入れられて出てくるこの店、互いに渇いた喉を一気にうるおす。いろいろな部分が間違っているが、盃を酌み交わしているようにも見える。
さあ、残す取材はあと一店舗、がんばろう!
最後の店に行くに当たって、私が選んだテーマは「家着」だ。反則気味と言われるかもしれないが、このラウンドは落とせない。
チョイスしたのはあたたかい綿入れのベスト。それはいいのだが、背中の柄の味わいが抜き差しならない感じなのだ。
ぱっと目に飛び込んでくるアップリケはラガーマンのサイだろうか。胸に「31」と書いてあるのが「サイ」とかけてあるのだろうと気づいて、なんだかがっくり来る。
さらには上の方に「I LIKE SPORTS」と刺繍されてあるのも見逃せない。見逃したいけど見逃せない。
楽しいことは楽しいんだけど、やっぱりそれだけではない。写真に撮られてるという意識がないときにたまたま撮られた写真には、どうしても陰が垣間見える。
奇をてらった感もある私に対して、斎藤さんはあくまで王道で対応。
再びお父様のダンス服をチョイスした斎藤さん。目が慣れてきたという言い方がふさわしいかどうかわからないが、もうこれは普通にかっこいいんじゃないかと思う。
シャツの白い部分に描かれた柄がなんともかわいい。そう見せかけておいて、タイの金具ではすっかりうなだれた人が。
こうしたディティールの部分で変化をつけてくる斎藤さん。強いとか弱いとかいう尺度が適切がどうかはもうわからないが、やはりかなりの強者だ。
「ようこそ貴族の森へ」と書かれているのが確認できるだろうか。別にそういう森に来たわけでなく、パフェの取材に来た店がそういう名前なのだ。
写真で見てもやっぱり私たちは貴族ではないと思うが、そういう店なのだから仕方がない。何かをあきらめて中に入る。
ここでのパフェはわたあめにくるまれたかなりの変化球。食べ始めた斎藤さんだが、明らかにペースが落ちている。
もちろん私もあんみつ注文して、のそのそと食べる。ゴールはすぐそこだ。もうどっちの方が変な服かなんて、そんな勝負はどうでもいい。
言葉少なにじんわりと食べ進み、なんとかお互いに完食。
戦いは終わり、店内に張られている気の利いた言葉たちを前に記念撮影。僕らは父親の服を着て一日過ごして、一体何を見出したと言うのだろうか。
答えは未だ見えないが、もしかするとここにある言葉たちがそのひとつの解なのかもしれない。
店でパフェを食べながら談笑。さまざまに話に花が咲いた楽しいひとときだった。
そしてふと、店を出ようと席を立つ。今まで座っていて忘れていた、自分のいでたちに気がつく。なんだこの服は?そうだ、今日は父の服を着ていたんだ。
店の窓に薄く映る、斎藤さんと私。
取材に同行してくれた斎藤さんの奥様も私の妻も、私たち二人の全身像を改めて見て笑顔。笑うことはお肌にもいいと聞いたことがあるので、それでいいと思います。
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