特集 2020年8月26日

切って捏ねて刻んで作るダンボールの超絶アート

オダカさんの最新作、クトゥルフ(H.P.ラヴクラフトの創作神話に出てくる神様)。キモい。

先日、ミニ額の取材にお邪魔した際に「ダンボールアーティストの方もウチのミニ額を使ってくれてますよ」という話が出た。そのアーティストさんことオダカマサキさん、実は僕も以前からTwitter経由でいくつも作品を拝見していて、すごく気になっていたのだ。

さらにオダカさん、この夏にダンボール工作本を出版されて、それもめちゃくちゃ面白かったのである。

よし、じゃあ取材をお願いして、いろいろ作品とか使ってるツールとか見せてもらおう。

1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

前の記事:ミニ額専門店に行くと日々の暮らしがちょい上質になる

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アトリエの中はいきなり超絶技巧の山だった

ということで、オダカさんの自宅兼アトリエにお邪魔したんだけど…棚に作品があれこれ並んでいたのを見て、カメラ担当で同行してくれた編集藤原くんから「うおおおー」と強めの声が出た。

あの“感情の起伏がほぼ水平”で弊サイトお馴染みの藤原くんが、である。

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え、これ本当にダンボール?と疑問に思ってしまう作品の数々。
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正直、我々が普段から見ているダンボールが、どうやったらこんなカタチになるのか想像もつかない。

うーん、本やSNSでこれまでオダカさんの作品を見ていた自分でも驚くんだから、そりゃ初見ならそういう声も出るわな、って感じ。

いっそ木彫りか何かと言ってもらったほうがまだ納得できるけど、でも、これらは全て、我々が普段から通販だなんだで手にしているお馴染みの、あのダンボール(工作用のだけど)で作られているのだ。

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こちらが、ダンボールアートのオダカマサキさん。作品はとても変態だけど、本人はとてもにこやか。

オダカさん、著書によると「2017年から作家活動を始める」とあるんだけど、それ以前からもずっとダンボール工作をされていたんだろうか。

オダカ「いや、せいぜい作家活動を始める数年前ぐらいからで、それまではダンボールでなにか作るとか、やったことなかったです」

あれ、そうなんですか。

オダカ「最初は、この家に引っ越してきたときに大量のダンボールがあったので、息子と工作して遊ぼうか、と。父親としていいところを見せたくて、最初に作ったのがこれですね。ザクと、ゲルググ・マリーネ。ジオン派なので、連邦機は作れなくて」

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かぶれるMSヘッド。初めてのダンボール工作がこのクオリティなのか。やっぱり元から変態だったぽいぞ。
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引っ越しのダンボールが足りなくて、近所のイオンでももらってきたそう。綾鷹とかファンタとか。

父親としていいところを見せたい、の「いいところ」がこのレベルだとしたら、世間の父親のほとんどは立場がないぞ。
そりゃあ息子さんは、さぞテンション上がったことだろう。

オダカ「喜んでくれましたよー。ただ、そのあとに幼稚園のハロウィンイベントがあったんですけど、前日の夜に息子が「ドラゴンをかぶりたい」と言い出して…。仕事終わって帰ってきたのが20時過ぎで」

いや、息子さん、それはさすがにお父さんが変態でも難しいのでは。

オダカ「疲れてるから無理だよ、と言ったら、息子に「お父さんはいつも、やる前から諦めちゃダメだ、っていってるのに。お父さんは諦めるの?」って返されて。仕方ないから、徹夜して完成させましたよ」

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ハロウィン当日の息子さんの様子。お父さんすごくがんばった。(画像提供:オダカマサキ)

なんというか、父親って大変だなと心から思う次第である。

で、それ以降はSNSで作ったものを公開しているうちに、様々なところから工作記事の執筆や展示会の出展などの声掛かりがあって、アーティストとして活動するようになった…という流れだそうだ。

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著書「オダカマサキ ダンボール アートワークス」より。これが作家としての初期作「龍神」。

それにしたって、なにもやったことのないレベルから、よくぞここまでのものが作れるな−、と驚かされる。

オダカ「仕事でプロダクトデザインをやっているので、立体物も見てたらなんとなく図面が浮かぶんです。浮かばないときも、トライ&エラーで切り貼りしてるうちになんとなくカタチになるのがダンボールのいいところだし。失敗したって捨ててもそんなに勿体なくないですしね」

ダンボールは濡らすの厳禁!だけどなぜか霧吹きが必須ツール

オダカさんがダンボールアーティストとして活動を始めて、今で3年目。その間に作った作品は、大小あわせて100点いかないかな…ぐらいとのこと。(著書にはそのうち30点ほどが掲載)

パッと見でも相当にコッテリと手がかかっていそうな作品ばかりなんだけど、そう考えると制作スピード、めちゃくちゃ早い。

オダカ「ダンボールって、粘土みたいに焼いたり乾燥待ちする必要も無いし、木材ほど堅くないし。どんどん切って貼っていけるんで、ほぼノンストップで作業できちゃうんですよ」

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愛用のグルーガン、SK11「ピタガンGM-130」。電源スイッチ&自立して置けるのがポイントとのこと。作業中に置けるの、すごくラクだ。

ちなみに、接着は乾燥待ちがないグルーガンがほとんど。場合によっては15時間連続で使うこともあるそうで、よく見るとノズル周りがかなり焦げ付いているのが分かる。こういうガッツリ使い込まれたツールって、格好良くてゾクゾクするな。

実は僕も同じ機種を使ってるんだけど、ノズル周りは全然ナマっちょろい小僧だ。

オダカ「ダンボールは再生紙なので、水分に弱い。なので、乾燥待ちがないのに加えて水分のないグルーガン(ホットグルー)が接着にはベストなんです」

なるほど、確かにダンボールはパルプが短く、水分を含むとすぐモロッと崩れてしまう。あと、3層構造を水溶性のノリで組んでいるので、それが溶けて剥がれてしまうのだ。

それは当たり前のことなんだけど、そうなると、ここに置かれている霧吹きはなんなのだ。あからさまに水が入ってるじゃないか。

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「使ってる道具を見せてください」と頼んだら出てきた霧吹き。なぜだ。

しかし、この霧吹きこそがオダカさんの作品作りに必須の道具なのだという。

オダカ「折り紙には、ウェットフォールディングという、紙を濡らして折りやすくする技法がありまして。僕はそれをダンボールでやるんですよ」

もちろんそんな変なことをしているのは、ダンボールアート業界でもオダカさんだけ。ダンボールメーカーの人も「普通は絶対に濡らさない」と断言されたらしい。

オダカ「ただ、どうしてもダンボールで曲面を作りたくていろいろ試行錯誤したんです。で、濡らせばいけるんじゃないか、と」

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ダンボールを濡らして捏ねて作られた「ぬらりひょん」。ダンボールの直線的なところがほぼ無い、不思議な作品だ。(画像提供:オダカマサキ)
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そうして生まれたのが、オダカさんのオリジナル技法である、ダンボールを「捏ねる」だ。

ダンボールを“捏ねる”という新概念

…と、捏ねの話をする前に、素材となるダンボールの話を確認しておこう。

以前に古賀さんのダンボール工場取材に同行したこともあって、僕もそれなりにダンボールについては学んだつもりだ。

まず、ダンボールは基本的に表ライナー・裏ライナーと呼ばれる紙で波状の中芯をサンドした3層構造。そして中芯の波の高さで、Aフルート(5㎜厚)やCフルート(3㎜厚)といった規格に分けられている。

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ちなみにこれは3㎜厚のBフルート。Amazonで買い物すると、商品を乗せてフィルムパックしてあるダンボールが、これ。

輸送用のダンボールは頑丈さやクッション性の面で厚みのあるものが好まれるが、工作に使うにはもうちょっと薄い方がやりやすい。僕がダンボールでなにか作る場合は、Bフルートか、さらに薄いEフルート(1.5㎜厚)を使うのが主…なはず。

なのに、オダカさんが捏ねるのに使うと言って出してきたコレは、ちょっと見たことない薄さである。なんだこれ。ほとんど中芯が見えないぞ。

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上写真のBフルートと比べると、マジで?と思うレベルで超極薄のGフルート。

これはGフルートと呼ばれるサイズで、なんと厚みが0.8㎜しかない。

確かにこれは工作するにはカットしやすそうだな…と思ったが、気軽に折り曲げるとパキッと意図せぬところで折れるそうで、これがなかなかの難物なのだ。

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そうは言うても紙なんだから、どうとでも折れるでしょ?と試したら、即パキッと割れた。

実際に折らせてもらったが、確かに感触が普通のダンボールとまったく違う。

グッと曲げるとしなるんだけど、力がある一点を超えた瞬間、ライナーに亀裂が入って割れた。わー、これは扱いづらいわ。

ただ、捏ねる作業にはこのGフルートが一番良い、とオダカさんは言う。

オダカ「ダンボールは中芯の波の向きで、曲がりやすい・曲がりにくいがあるんですが、濡らして柔らかくしてから、波の目(紙の張力が釣り合うポイント)にあたる部分に指を入れてやると、思ったように曲げることができるんです。

で、そのときに波が細かいGフルートだと、目の密度が高くなる。つまり解像度が上がるんです」

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「やってみましょうか」とGフルートを濡らして捏ねだす。なるほど、指でつまんでグイグイと捏ねる感じだ。
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中芯の波の向き関係無しに、きれいな曲線がモリッと盛り上がる。これが捏ねか!

「紙の解像度」というのがそもそも初めて聞く考え方なんだけど、実際に僕も工作をする人間なので、言われてみればなんとなく分かる。

オダカ「去年の夏に個展を開いて、在廊していたときにこの技法を思いついたんです。ちょっと手持ち無沙汰でダンボールをコネコネと捏ねまわしていたら、なんとなくイケるような気がして…で、これを作ってみました」

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初の捏ね技法で作られた「トリケラトプス」。ここからオダカさんの独自技法が確立された。

オダカ「当時の僕の課題が「継ぎ目無しで作る」だったんで、この立体はツノや目以外はほぼ1枚のダンボールから捏ね出しています。ダンボールアートって張り子みたいにして作る人も多いんですが、でも生物の皮膚って、継ぎ目が無いじゃないですか。なので、作品も継ぎ目無しでやりたかった」

なるほど、継ぎ目無しで凹凸や曲面をダンボールで作ろうと思ったら、捏ねる技法に行き着くわけか。

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濡らして捏ねて作られた「メンダコ」。本に型紙と作り方が掲載されているので、みんなもチャレンジだ。(画像提供:オダカマサキ)
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それにしても、捏ねるの、思った以上に難しいな!

僕もオダカさんに見本をみせてもらいつつ捏ねてみたが、当然、話を聞いてなんとなく分かったのと、実際にできるか、の間には大きな断層がある。うわー難しいー。

濡らして柔らかくなってるので、乾いた状態ほどピーキーに割れることはないが、捏ねるそばから周囲に変なシワが発生する。さらにそれを押さえるように指を動かしていくと、今度は指がもつれて軽くパニックになる。

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オダカさんはスパチュラも駆使して凹凸をきれいにつけていく。

一方、オダカさんはスパチュラ(粘土用のヘラ)も使ってグイグイとダンボールを捏ねて、ふっくらとした曲面を作っていく。

紙に折り筋をつけるのにスパチュラを使うのは分かるんだけど、こういった用途で出てくるのは斬新だ。

オダカさん曰く「感覚的にはほぼ粘土を捏ねるのと一緒なんですよ」とのことだが、その感覚に到達するにはかなり練習が必要っぽい。

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お父さんの道具はいいやつだから(あるある)

さて、粘土用のスパチュラが出てきたついでに、他の道具も見せてもらおう。

オダカ「よく使うのはピンセットですね。メインで使うのは用途に合わせて4種類ぐらいですが…」

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愛用のピンセット4種。どれも使い込まれてるなー。

オダカ「細い毛をつまむ、いわゆるピンセット的な使い方をするもの。で、これが折る用です。肉厚なので、力を入れてもダンボールに負けないんです。段折りをするときにピンセットではさんでねじると、だいたい同じ間隔で段折りが続けていけるんです」

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折る用のピンセットでダンボールをつまんだままグリッとねじると…
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段折りがスムーズ。薄いピンセットだとねじったときにヨレるので、肉厚なのが使いやすい。

オダカ「もっと力をいれたいところはハサミタイプですね。接着したいところをグッとはさんで圧着させるとか、手の入らないところを剥がしたり。あとは逆作用(手で押すと先端が開く)ですが、これも接着するときに挟んでおく用に」

ピンセットだけでも、これだけ使い分けるのである。いろいろな道具、見てるだけで楽しい。

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これも珍しい、先端が丸棒になってるヤットコ。本来は針金を丸く曲げる用の道具らしい。
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ウロコなどを大量に作るとき、これで巻き付けるように挟むと、きれいなカーブが作れる。

オダカ「あともうひとつ…えーと、あれ?見つからないな。たまに息子が持って行っちゃうんですよ。お父さんの道具はいいやつだから、みたいな感じで」

あー、文房具マニアにもよくあるヤツだ。あいつの文房具はたぶん便利なやつだろう、と家族や同僚が勝手に借りていってしまうのだ。
それにしてもドラゴンをかぶっていた息子さん、今ではすっかり工作キッズとなっているらしい。そりゃ父親を見ていたらそうなるわな。

羽毛を切るハサミは死にかけがいい

そんな道具類の中でも、文房具ライターとして特に気になるのがハサミだ。

どれぐらい気になるかというと、オダカさんの著書の使っている道具ページで紹介されていたクラフト用ハサミ(アルスコーポレーションの強力多用途ハサミHB-380)を、読んだ直後にすかさず購入してしまったぐらい。

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赤いハンドルのハサミのうち1本は、僕が本を見て即買っちゃったやつ。緑のハンドルはそれの色違い。

もちろん今までもクラフト用ハサミは持っていたんだけど、やっぱりプロがいろいろ試した結果にたどり着いたツールって、憧れちゃうのだ。そしてやっぱり良く切れる。

ちなみに普通に紙を切るハサミとクラフト用ハサミの最大の違いは、刃よりも柄が長くなっていること。テコの原理で、こちらのほうが力をいれて切りやすい。あと、細かい部分を切るときも、刃が短いほうが小回りが利くのだ。

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ベストな一丁を探してあれこれハサミを試し続けた痕跡。

オダカ「ハサミはもちろん形を切り出したりするのに使うんですが、あとは毛を切ったりとか…」

そう言うなり、剥がしダンボール(濡らすことでノリを溶かして剥がした表ライナー)をサクサクサクサクサクサクサク…と切りはじめる。

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水で濡らしてペリペリと剥がしたライナーを…
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サクサクサクと猛烈な勢いで切る。

切りながらもオダカさんの話は止まらない。

オダカ「ダンボールって、3つの厚さを使い分けられるんですよ。まずそのままの厚さで、次に潰して薄くして、最後に剥がして。同じ素材でこういう使い分けができるのは面白いですね」

なるほどー、と思って聞いているんだけど、どちらかというと、切ってる刃先が気になる。

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切り始めて1分もしないうちに羽毛(半分)が出現。

おおー、羽毛だ。実はこれ、僕の友人である文具王こと高畑正幸氏も、ハサミの性能をプレゼンするのによくやるワザ。それを僕も真似して練習したので、いちおう同じ感じで作ることはできる。

いや、作れるんだけど、でもこの速度はちょっとケタが違いすぎ。さらにいえばオダカさん、手元をほとんど見ずにこっちを向いて喋りながら切ってるのだ。いまや「テレビを見ながらでも切れる」そうで、それは真似できない。怖い。

オダカ「ところで気付きました?いま使ったハサミ、死にかけのやつを使ってるんですよ」

どういうこと?と思って触らせてもらうと、なるほど分かった。これは死にかけのハサミに違いない。

カシメがゆるんでガタが出てしまっているのである。

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カシメ(刃と刃を交点で固定する金具)がゆるんでカタカタと動く状態。普通に考えたら使いづらいんですけど。

オダカ「ガタが出ているので、刃の先端がコンマ数㎜ほど閉じなくなってるんです。これだと、切り終わりがスッとなめらかになるのがいいんです。あ、新品のハサミと切り比べてみましょうか」

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左が死にかけ、右が新品ハサミで切ったもの。あー、そういうことかー。

死にかけの方は刃先が閉じないので、切れ目がフェードアウトするように終わっている。対して新品の方は刃先が閉じるので勢いよくパッツンと切れているのが分かる。

どっちが美しいかといえば、そりゃ確かに死にかけハサミのほうだ。

オダカ「で、そうやって羽毛をいっぱい作ると、コレができます」

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羽毛を大量に切って作られた「尾長鶏」(画像提供:オダカマサキ)

それにしたって、羽毛を作るためだけに、死にかけのハサミを常にキープしなきゃいけないのは大変だ。だって、死にかけのハサミ、売ってないから。

普通に切る用のハサミをたっぷり使い込んで、死にかけまで持っていく必要があるわけで。ほんと、普段からどれぐらいの量を切ってるんだ、この人。

オダカ「あと、今の羽毛の切り方で短冊状の毛パーツを大量に作って、毛足が揃いすぎないように適当に乱してから貼っていくと、トビハナアルキの毛ができますね」

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ドイツの動物学者 ゲロルフ・シュタイナーが書いた架空の生物学論文「鼻行類」に登場する謎の生物、トビハナアルキ。

かわいいけど、このみっしり生えた毛をああやって作ったのかと思うと、気がフーッと遠くなる。

オダカ「でも、これだと本物の毛みたいに先端が細くなってないじゃん、って仲間の作家に言われたことがあって。クソッと思って、先が細くなるように1本ずつ毛を切り出して、植毛していくのもやりました。だいたい0.2㎜ぐらいかな」

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剥がしダンボールを糸のように、かつ先細りになるように切っていく。地獄か。
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それを1本ずつピンセットでつまんで、ノズルの細い手芸用ボンドをつけて、植える。
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メンダコの左眉が細毛植毛。右眉は短冊状の毛パーツを貼り込んだもの。どちらにせよ胃が痛くなる作業だ。

オダカ「剥がしたダンボールって、裏表があるんですよ。表はきれいなんだけど、裏はノリがついてて汚いので、貼るときは1本ずつ裏表を確認しながら貼っていきます。あとは黙々とやるだけ」

この時点で聞いてる側としては「充分だ!もう勘弁してくれ!」って気持ちだったのに、まだそういうことをするのか、この人は。

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黙々と切って裏表を確認しつつ1本ずつ植毛した「天馬」。たてがみから尻尾まで、細い毛がびっしり。地獄だ。

まったく、「毛が細くない」などと、作家仲間の方もバカな挑発をしたものである。こういうド変態の人が本気になったら、ここまでやっちゃうのだ。

オダカ「あ、ちなみにその砂もダンボールです。毛をさらにみじん切りにしたやつですね。それ切ってるときにクシャミしたら大惨事なんですよ」

もういいだろ、と眉根を揉みほぐしていたら、さらにトドメがあった。

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わー、砂がダンボールだ(ついに語彙力が果てた)。

さっきまで「ダンボールは3つの厚みを使い分けられる素材だ」という話を聞いていたと思うんだけど、気付いたらそれが毛になり、最後は砂粒である。厚みどころの騒ぎではない。

どこまで変化するのだ、ダンボール。

肉体はダンボールに最適化されていく

オダカ「でもねー、毛はやろうと思えば誰でもできるし。単に時間をかけた分、作業が進むだけなので、あまり面白くはないんですよね。表現上必要だからやるけど、やっぱり捏ねる方が楽しいです」

いや、やろうと思ってもそんなできることじゃないし、なにより、普通ここまで切ろうとも思わないんだけど。

ただ、時間だけかければできるルーティンな切り作業よりも、指先で目を探りつつ立体をどんどん形作っていける捏ね作業の方がいい、というのは僕でも理解できる。やっぱり、作業の成果が手の中でどんどんできていくのは面白いのだ。

オダカ「とはいえ捏ねばっかりやってると左手が死ぬので、実は切り系と捏ね系の作品を交互にやったりしますね。筋肉の付き方も違うんですよ。ハサミを使うと右手のヒジ近くに筋肉が付いて、捏ねると左手の手首近くにつく。左右で手の形が違って来ちゃうんです」

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この辺が捏ね筋です、とオダカさん。作業中、この辺りがやたらとバンプアップしていた。
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こちらはハサミ筋がボコッと飛び出した右手。こんな筋肉の付き方するのか。

ちなみにオダカさんの著書の道具のページでは、なるほど、「自分の手」も紹介されている。

すごい。肉体がどんどんダンボール工作用に最適化されている。

なんというか、未来人は脳だけ肥大して手足が弱ったタコみたいなフォルムになる、みたいな話だろうか。

捏ねを極めたダンボールアーティストの最終形態は、どんなことになるのか。新しい作品もだけど、そこもちょっと興味深い。


7月に発売されたばかりのオダカさんの著書「オダカマサキ ダンボール アートワークス」(新紀元社)は、ダンボール工作の初歩から捏ね技法までみっちり詰まった、かなり画期的な本だ。工作に興味ある人ならまず読んで損するところがないと思うので、ぜひ。

難易度別で型紙と作り方ガイドまで掲載されているので、夏休みの工作がまだ終わってない!というギリギリなお子さまでも、間に合う可能性があるぞ。トライしてみよう。

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作品集として見るだけでも充分に価値ありなのに、作り方まで載ってるのはすごい。

あと、こちらもギリギリなんだけど、本に載っている工作をツイッターに投稿して参加する工作コンテストも8/31まで実施中だそう。

入賞するとカッターナイフセットや強力多用途ハサミ、Gフルートのダンボールなどの賞品ももらえるので、作ったからにはこちらもご応募を。

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