「できたてのダンボールって温かいんですよ」
今回は山田ダンボール株式会社さんというダンボールメーカーのほこる巨大工場である、千葉工場を見学させていただいてきた。
そもそもは当サイト、デイリーポータルZの編集部が入居している渋谷ヒカリエのaiiima3のガラス面をダンボールで覆う展示のためこの山田ダンボールさんに協力を要請したのがはじまりだ。
この全面を、ダンボールで覆う
覆いとなるダンボールに小さな穴をいくつかあけそこから中を覗いてもらおうという、ちょっと説明しづらい展示である(展示は2013/8/26~9/20を予定!またブログやTwitterでお知らせしますね)。
説明しづらいにもかかわらず製作を請け負ってくれほっとしたのだが、このときに製造している工場について話が及んだのだ。
「できたてのダンボールってほっかほかで、温かいんですよ~~」というのは商品企画部の山上さん。
ことばの端々からダンボール愛がにじむ。夢は「時間がたっても反らないダンボールを作ること」!
できたてのダンボールについて「湯気が出てることもあるんです~~っ」とも。
あっ! この人ダンボールのこと、「かわいい」って思ってる! と驚愕した。ダンボールを語る目が輝いている。
ダンボールって、そんなに愛おしいものだっただろうか。
……確かにダンボールというものは私達の生活のうえにおいて単なる箱ではない、なにか萌えどころのある素材である。ほら、工作に使ったりわくわくする感じ、きっとあるのではないか。
ハッとすると同時に気づけば「ぜ、ぜひ工場見学させてください!」とお願いしていたわけである。
サンプルとしていただいたダンボール「トリプルウォール」は板のように硬い3層の製品。なるほどこれがホカホカだったら…興奮するかも…
暑い工場に熱くるしい2人で乗り込む
そして迎えた見学当日。ダンボール工場へ行くという情報を聞きつけ文房具マニアとして有名で紙周辺にも詳しいライターきだてさんがかけつけてくれた。
マニアであるきだてさんの期待度、興奮度は相当であろうと思うのだが、実は私も自分でもおどろくほどこの日を楽しみにしまくっていた。
巨大工場! できたてダンボール! 楽しみにしすぎて子どもが熱を出したくらいである。
あわてましたが子どもの熱は無事下がりました
見学が始まる前から暑苦しいほどに胸を熱くして向かう私たち。8月の本気の暑さが勢力を増し、工場の中も大変に暑いと前日に聞いていたのだが、大丈夫だろうか。
受付にあった顔ハメに迷わずはまっていく きだてさん。この顔ハメは当初「くまもん」で作ろうとしたのだが、熊本となんの関係もないため普通のクマにしたそう。天然系のエピソードである
迎えてくれたのは前述の山上さんに加え、工場長代理の早坂さんと工場管理統括の椎名さん。
われわれ2名に対してお3人とずいぶん大勢で案内してくださるのだなと恐縮していたが、これには訳があった。工場潜入後に明らかにしたい。
左から早坂さん、椎名さん、山上さん。ダンボール業界人のお3人! よろしくお願いします
敷地、5万平米
さてこの工場、ダンボール工場としては国内でも1、2を争う規模なのだそうだ。
広さは5万平米強。5ヘクタールである。ヘクタールを超えてくると広さの素人としては感想が「わあ~、広~い」でしかなくなってしまって申し訳ない。
そんな広い工場で、「原紙2500mm」という、つまり2.5メートル幅というとんでもない大きさの紙をダンボールとして加工しているとのこと。
この原紙の大きさはなかなか他ではないらしく、サイズ感をいかした大型の注文も多くさばいているという。
かつてフジテレビ系の番組「トリビアの泉」からの依頼をうけ、巨大空気砲用のダンボールを製作したことも(写真は提供していただいた撮影現場のようす)
1枚1枚のでかいダンボールをつなぎあわせて作られている
空気砲に飽き足らず、以前はデモンストレーションとして車を梱包してはどうかと車メーカーへかけあったこともあったそうだ(残念ながらうまくまとまらなかったそうなのだが)。
と、ダンボール工場というとある規定のサイズの箱をじゃんじゃん作るイメージだったがこの工場では扱うすべての製品は注文商品。大きなものから小さなものまで必要に応じて手作業をはさみつつ、用途も箱だけではないいろいろな商品を作っているということだった。
聞けば最近では「ダクト」までもを不燃のダンボールで作って人気だそう。災害などで万が一落ちてきても危なくないと。なるほど。いやしかしダンボール、働いている。
工場に入るにあたりロゴ入り帽子を装着、このだらしない笑顔よ…
そしてさあ、いよいよ工場だ。
粛々と、工場
事務所のあるクーラーのきいた建物から渡り廊下へ出た。夏の盛りの狂ったみたいにまぶしい日差しとむわっとくるおなじみの蒸し暑さ。そのままもう一歩ふみだすともう工場だ。
照明と機器のランプが光り、屋根の明りとりからうっすら日の光が入ってくる。
野外とは違ってこもるように熱い。夏の暑さとは違う、これはあれだ、仕事の暑さだ。熱さも仕事のうちと引き受ける業務的な暑さだ。
そしてボンドのようなのりのような、“工作”のにおい。
ごうんごうん低くなにかの音がひびいて、どうかと思うくらい見たことのないでかさのクラフト紙のロールが積みあがっていた。
粛々と、工場である。
う、うわあ。
何しろまだ案内もしていただいていない段階、入って1歩、いや、5歩くらいかな、そこでもう私の頭には断固としてこの言葉が浮かんでいた。
結婚してくれ、山田ダンボール(株)!
心の中で叫ぶ
はっ! いきなり心が荒ぶってしまって小見出しでプロポーズしてしまった。
のちに回想しあっていたのだが今回の取材はきだてさんも私同様、妙に感情的になっていたそうだ。これまで見学してきた工場は全部興奮してきたが、かつてないこの高ぶりは蒸れた熱気のせいだろうか。重ね重ね暑苦しくて申し訳ない。いやあ、いかんいかん。
と、私達の脇を結構なスピードでフォークリフトが原紙のロールをつかんだ状態で駆け抜けていった。早い!
すばやく器用に原紙をつかんではこれまたすばやく運んでいくフォークリフト
原紙を運ぶほかにも工場内は築地かという勢いでフォークリフトが行ききしている。雰囲気にのまれてプロポーズするようなぼんやりした見学者はうっかりするとすぐじゃまになってしまいそうだ。
早坂さんが解説しながら先導するなか、危なくないように椎名さんが道を作ってくれ、山上さんが後ろをガードする形で見学は行われた。3人がかりであったのはこれが理由だったのだ。
紙がダンボールになっていく
最初に案内していただいたのは、クラフト紙をまさにダンボールのシートに加工するライン。
一列に並べられたコルゲートマシンとよばれる巨大な機械がもくもくと原紙をダンボールのシートにしていく。
この左側にあるのがるのがコルゲートマシン
原紙を装着すると、引き出していく
あっちからこっちからと紙を引き出す
ここで、あの“波”のはなしを
ダンボールはご存知のとおり紙と紙との間に波型になった紙がはさまれてできている。
この波を「フルート」といって、並みの高さによって強度が変ってくる。
5mmのA、3mmのB、4mmのCの3種類(数字がアルファベットの昇順に対応していないところがむちゃくちゃぐっとくる)のフルートをベースに特注パターンなどもありつつ、さらに重包装とよばれる、フルートを2段、3段と重ねるタイプもある。
そしてこれがフルートの型。この型で波を作る
このようなあの波型ができる(気づくとこういう断面の写真をやたらと撮っていた)
きだてさんもこのフルートにぐっときているようで、「この商品はCBCフルート(各フルートを重ねたもの)ですよね?」などといきなり突っ込んだ質問をしていた。
このフルートはAですかね?Cですかね? 質問が濃い!
さ、さすがだ。これはぜったいきだてさんもダンボール工場と結婚したいと思ってる。負けられない!
いや違う、勝ち負けじゃないだろう。そ、そうだ、工程的にそろそろできたてのダンボールが見られるのではないか。
いよいよできたてのダンボールが
このコルゲートマシンは原紙をシートにしたところから、商品によってはカットと折目を入れるところまで一環して行う。
大きなダンボールを切り分け
工場入口のあたりでは原紙だったものが、工場奥、マシンの端っこまでたどり着いたころにはかなり製品に近い形になっているわけだ。
こちらのできたてをさわらせていただいた。確かにほんわりあたたかい! これができたてほやほやダンボールだ…
いつものあのダンボールが、確かにほかほかなのである。
表面が熱いというよりは芯からあたたかく、圧倒的にできたて感がある。
聞いてはいたのだが、実際にさわってみるとその微妙な微妙な非日常間が楽しくてつい「わはは」と声に出して笑った。
偶然にも、そうしてできたてに感激しているところへ「エレクトリカルパレード」のあの曲が響いた。
立派にエレクトリカルパレードである
作業の完了を知らせる音らしいのだが、偶然にもここは千葉である。
私のなかでここはもう立派にもう一つのディズニーランドであるとして刻まれた。
でかいダンボール(キャラクター)との記念撮影も
ダンボールホスピタリティ
この後、カットされたダンボールのシートの山の連なりを眺めながら次の工程のマシンへと移動していたのだが、ふと山上さんに「古賀さん、よかったら囲まれてみませんか。ダンボールに」とお誘いいただいた。
山上さんはさきほどできたてダンボールに感激していた際「もっと湯気が出てて」「もっともっとあったかくてほやほやの日もあるんですよ!!」と悔しそうに力説していたのだ。
温かいダンボールを触らせてあげたいというお気持ちだけで十分こちらは胸がいっぱいと感激していたのだが、畳み掛けてのこのホスピタリティ。
ここはお言葉に甘えて、ひとつ囲まれよう。
おお、安心感
印刷が入って一気に目がさめる
積み重なるダンボールに囲まれて安心感を抱くという日がくるとは意外な展開の人生だ。しかしうかうかうっとりする暇もなくダンボール作りの工程は続く。
シートになったダンボールは続いて印刷が入る(製品によっては、ここでカットが入る)。
ここであっ! と思ったのだが、ダンボールって印刷が入ると一気にただのダンボールではなくなるのだ。
このタイミングは電器メーカーのロゴの入った大きな製品を製作中
こういった収納用品らしきものも
ここまで主役として輝いていたダンボールが、印刷が入ることにとによって、どうだろう、急に梱包材としてつつましやかな雰囲気に変った気がしませんか。
俺俺!俺、ダンボール! とアピールしまくっていたのが、急にアイデンティティをひそめて「私、○○社の商品を内包しております。ささ、どうぞ開封ください」と自己PRなどそっちのけの謙虚さをにじませているではないか。
ダンボールといえば素材としての注目度は高いが、ダンボール箱と、こと“箱”になるとやはり役は中身であり自身はそれを守る役割だと自ら言っているようである。
そうして完成したものはずばばばばとまとめられて束になり
くくられて、うねうねと流れていく。ザ、工場という景色(ちなみに上部は企業秘密のためぼかしを入れております。どうだ、工場見学記事っぽいだろう)
このときダンボールをくくる結束バンドがダンボールに入っていて、ダンボールの人生が私のなかで交錯した
流れた先ではロボットが積んでいく。かっこいい!
普段は商品を梱包する材料であるダンボールがここから納品されるまでは新品の商品だ。開梱された瞬間から何かを梱包する材料に一瞬で切り替わるのだから刹那ではないか。そんな人生もあるよなと、やっぱり今日はエモーショナルである。
切なくハンカチを出荷ダンボールに降りながら、これで終わりかと思いきや、続いて人力での超スピード作業も見せていただきましたよ!
おわらない見どころ
これでダンボール箱はひととおり完成だが、さらに手作業でなければ対応できない種類のステッチ(箱への鋲止め)作業や、複雑な型のカット作業なども行われており目を奪われる見学ポイントはまだまだある。
3人ひとくみで1辺1.5m以上ある大型のダンボールを扉のような見開きの状態にしていく。ものすごいスピード
カラフルなスポンジのようなものがついた板は何かと思ったら
このような変わった形のダンボールを切るための型でした。笑顔!
この何事かという形のダンボールはユニパルと呼ばれるダンボール製のパレット用のダンボールであった。
海外輸出などに使われるそうで形も製品に合わせた特注品として作られるそうだ。
受付にかかっていたこののぼりがかっこよかった
あのダンボールがすごい、このダンボールもすごい。いやいや、こっちのダンボールこそすごいと見て回るうちに目の前のダンボールがゲシュタルト崩壊を起こして一瞬瞳孔が開ききるなどしていた(そういうときは印刷の入った段ボール箱を見ると落ち着いた)。
突如として建具エリア
さて、ゲシュタルトまで崩壊させてダンボールにかじりついてきた取材班であるが、最後に工場の片隅にある、今までとは全く違う雰囲気の場所へ案内してもらった。
なにやらずらっとふすまが並んでいる。ふすまって、あのふすまだ。家の、和室にあるやつ。
ふすま、ふすま、ふすま
これ、全部ダンボール製品なのだそうだ。
ダンボール製のふすまは公共住宅標準部品という住宅のパーツとしての指定をうけ、団地などを中心に広く使われており今年で製造50周年だという。
木枠に布や紙を貼る通常のものよりも軽量、安価でリサイクルも可能とふすま界ではダンボールが引っ張りだこだそうだ。
重ね重ねダンボール、仕事しすぎである。
この歴史を感じさせるふるまもダンボール!
この工場では製造のほか修理も行っており、修理依頼のため預かったふすまも並んでいる。ダンボール工場の一角に建具店があるような形だ。
なかになぜか障子もあった。さすがに障子はダンボールでは作れないと思うのだが…。
障子?
聞くと、「ふすまのついでに障子の修理の依頼があることがまれにですけどあるんですよね…できるだけ断らずにお受けしているので…」
ということだった。断らないのそこ!
ダンボール工場ですが、ふすまの紙見本がずらり
器用な子、発見
ダンボール工場の見学がまさか障子の修理までたどりつくとは思わなかった。感慨である。
いよいよ最後にお土産を…ということで案内してくれたのはダンボールのシートをデータどおりにカットするマシン。
大量にカットするのではなく、少量を細かく複雑にカットするために使われるものだそう。
ダンボールのシートをセットすると、おもむろに機会が動き出し、ダダダダダダダダとカット
おお、Zくんだ!
このカットマシン、すごくきれいに切れるのでどうなっているのかと覗くと、ふつうの文具店で売っているような小さなカッターがついていて(とはいえ実際は強靭で専門的な業務用なわけですが)、ロボットが器用に器用に動かしていた。
冒頭で、覗き穴をあけたダンボールを渋谷ヒカリエの編集部で展示するとお知らせしたがまさにその覗き穴もこのマシンで開けてくれるそう。
見本の穴を見せてもらったのだが、35m、32mm、30mmの穴を開け分けていた。私が手でやったら10回は失敗するパターンのやつである。ありがたい。
2ミリの違いで見え方がだいぶ違うので驚いた
じーんときました
見学を終えて応接室へ戻って冷たいコーヒーをいただいた。
しばらく興奮で押し黙ってしまったのだが、ぽつりときだてさんがいったのだ。
「じーんときました」
お、ずるいそれ私もそう思ってたんだけど恥ずかしいからいわなかったのに。と、山田ダンボールの椎名さんや早坂さんも
「実は私も今日は感激しました。あんなに喜んでいただけて」「楽しかったです」
口々におっしゃるじゃないか。さらに工場の方々もみなさん今日はちょっとテンションが上がって笑顔だった気がする、と。
私などは工場に入るなりむやみに心の中でプロポーズをしてしまい自分に何が起きているのかと思ったが、この気持ちの高ぶり、だてではなかったのだ。
思いをはせながら家に帰ったらすみやかにふすまの素材を確認したい。
印刷のあるダンボールはこうやって工場の名前が入っているものもあるそう。熱い(胸が)
改めて「みんな大好きダンボール」
工場見学への期待が高まりすぎて娘が熱を出したと書いたが、上の子どもである息子の方はむちゃくちゃにうらやましがった。
「ダンボール工場?! いいな、いいな、いーいーなーっ! あーっ!」と本気である。
ダンボールといえば、子どもにとってはわくわくする工作材料なのだろう。私がダンボールに今でもうきうきするのは、だからかもしれない。
半分は自覚していながら、半分潜在化してしまっていた自分のダンボールへの興味に気づかされた次第である。
取材協力ありがとうございました!
山田ダンボール株式会社
会社案内のパンフレットには浅井新平さんまでダンボールへ愛の告白をしていた。ライバル多いわ~