ミニ額パラダイスは江東区にあり
今までにも弊サイトではいろんな専門店を取材させてもらったけど、それは歯ブラシとかフリーズドライ味噌汁とか、とりあえず誰が聞いても「へー、専門店があるのね」的な納得感のある、既知のジャンルでの話。
対して今回はジャンルそのものがやや謎。ミニ額専門店と聞いたら、ミニ額?の専門店?と、二段階にわたってクエスチョンが発生すること請け合いだ。
とはいっても、ミニ額に関しては冒頭で述べたとおり、ミニサイズの額縁という以上の説明は難しい。
「基本的には、飾る絵がハガキサイズより小さいのがミニ額、という分類になりますね」…と教えてくれたのは、今回取材でお邪魔したミニ額専門店、江東区森下にある「サトウ画材」の佐藤友人さん。
このサトウ画材、もともとは画廊 兼 普通の額縁や画材を取り扱う画材店だったそうだが、とはいえ町の小売店としては、他店と明確な差別化をはかりたい。
で、なにか特化できるものはないかとあれこれ模索していたのだそう。
佐藤「以前にデザインフェスタ(プロ・アマのクリエイターが自作品を販売できるイベント)を見に行ったとき、サイズの小さい作品を作ってる人が非常に多かったんです。じゃあ、それを飾る用のミニ額の専門店をやるのは面白いんじゃないか、と」
店内を見渡すと、普通の額縁をギュッと縮めたような、様々な形や装飾のミニ額がぎっしりと並んでいる。なにも飾ってない状態でも、額縁のミニチュアのような雰囲気で充分に楽しい。
というか、額縁自体が工芸的な美しさを持っているので、それがコンパクトにまとまって大量にある状態が、すでに見応え充分なのだ。
佐藤「ミニ額って、もともと普通の画材屋さんでも取り扱いはあったんです。ただ、大きな額縁を作る際に出た端材を組み合わせただけのオマケ的な扱いだし、同じようなものばかりになって面白みもない。うちは額縁工場を巡って自分で端材を探して、それを提携工場でミニ額に仕立てるので、他では無いようなオリジナルのミニ額がいろいろ出せるんですよ」
ちなみにサトウ画材さんのお客さんは、まずここで額を買ってから、それに合わせて作品を作るという人も多いとのこと。
既存のミニ額はハガキサイズやATC(カード)サイズ、豆色紙サイズなどの既成サイズが基本で、それ以外のバリエーションがない。
なので、サトウ画材オリジナルのちょっと変わったサイズにインスピレーションが湧いた、なんてこともあるようだ。
実は今回の取材には、8月に個展を開く予定で作品を飾る額選びに余念がない妻(漫画家 栗原まもる)にカメラ担当で同行してもらっていたんだけど、彼女も撮影そっちのけで「おおお、これいいな」とか「これにどういう絵を入れたら」とか、ミニ額選びモードに入っている。
仕事してくれ。
クリエイターじゃなくてもミニ額は楽しいし、もちろんクリエイターも楽しい
ちなみに僕も、以前に渋谷ヒカリエでコレクション文房具の個展をさせてもらった際には、ヒカリエ近くの画材屋さんで購入したミニ額を使って、消しゴムを飾ったりしていた。
単なる100円の消しゴムが、額装するだけで妙に高級かつアーティスティックになったのは、妙に面白かったのだ。
佐藤「そうそう、別にクリエイターじゃなくても、額縁を使うと面白いんですよ。例えばメモリアルフレームという使い方もありまして」
メモリアルフレームとは、自分に思い入れのあるものを額装して飾る楽しみ方。
例えばワイン屋さんから、長らく使っていたソムリエナイフが折れてしまったので、これを店内に額装して飾りたいんだけど…と相談されたことがあったそうだ。
使い込んで折れたソムリエナイフは、飾っておくとお店の歴史をアピールできそうだし、なにより額にナイフを飾るのって、なかなかかっこいい気がする。
サトウ画材の店内にも、佐藤さんの息子さんが小さい頃に履いていた靴と当時の写真が額装して飾られていた。
額の後ろを厚くすればこういう立体物も普通に額装できるし、単に置いておくだけよりもグッと説得力が出る。(厚くする加工は頼めば対応してくれる)
額縁にいれて空間を区切ってしまうことで、なんでもアートっぽくなるのが額縁の魅力なのかもしれない。もう、なんでもかんでも額装しちゃえばいいな。
佐藤「ちょっと前は水槽を額装して小エビを飼ってたこともありました。あとは花瓶の絵を描いて、裏に小さな水のタンクを貼って観葉植物を挿しておくのも面白かったですね」
なんでもどころか、生物まで額装!
ちなみにサトウ画材では店内照明のスイッチも額装されているし、それ以前に店の入り口のドアハンドルも額だ。森羅万象、額装OKである。
ところで今回取材にお邪魔すると、折良く店内でクリエイターさんの個展が開催されていた。
こちらはペーパーアーティストである我流切紙人さんの、切り折り紙作品である。
生物モチーフの作品がずらりと並んでいるんだけど…よく見ると…というか、よく見ないと分からないレベルの超小さい切り紙が額装されてる!
恐ろしいばかりの超絶技巧作品なんだけど、それがミニ額に納まっていると、より小ささが強調されて見応えがアップしているような。
さらに、額に入りきらないような立体作品は、額縁を逆に組んで作られた台座に置いて飾られているのも面白い。
我流「立体作家さんはみんなこういうの使った方がぜったいにイイと思うんですよ。例えば折り紙作家さんなんかだと、せっかく折った作品を机に直置きしちゃったりして。あれはもったいない。台座を使うだけで雰囲気はぜんぜん変わりますから。額としても台座としても自由に使えばいいんだし」
なるほど、そりゃ机に直置きと台座を使うのでは、見た目のグレードが大きく違ってくるはず。
額縁や台座で飾ってあるほうが、見る客側としても素直に「おー、すごい」って言いやすいし。
我流「額縁屋さんで個展するの、楽しいですよ。新しく入荷した額がいいなー、と思ったらすぐ購入して、その場で展示に組み込んだりしてます」
こちらの個展は7月頭から開催されている(会期は7月31日まで)のだが、我流さん、在廊しながらお客さんにオススメの額を紹介したりするうちに、やたらと店内の在庫状況に詳しくなったそうだ。
実際、うちの妻が「こういうミニ額ってないですか」って佐藤さんに訊ねたら、先に我流さんが「あー、そのサイズで良さそうなヤツ、先日他のお客さんがまとめて買って行かれたんですよ」と応えてしまうシーンもあったぐらい。
アーティストの額に対する入れ込み具合、すごいな。
ミニ額、本当になんでも飾れて楽しい
さて、取材を終えると、結果的に我が家には、夫婦合わせてそこそこな数のミニ額が。
なんか楽しくなって、ついついあれこれ買っちゃったのである。
買ったからには、使いたい。ということで、現在の我が家のミュージアム(自宅廊下)はこんな感じ。
普通の額縁だと狭い家に飾るのはとても無理だが、ミニ額ならこのスペースにこれぐらいは余裕なのだ。
妻はさっそく(取材翌日)、ミニ額に合わせて絵を描いていた。
額に飾ってしまえば見応えが出るし、なにより小さくていいのでラクだ。額装する=大きな絵を仕上げなきゃいけない、という心理的な障壁が無いので、サッと描いてサッと飾れるのである。
それこそ、子どもが画用紙に描いた落書きだって、合うサイズのミニ額に入れちゃえば立派な作品だ。
絵どころか、机の引き出しに転がってたような小物だって、額装してしまえば「ほほう、現代アートですか」的な扱いに。
いいぞー、アートのある生活。飾る場所に困ってたガチャガチャの玩具とか、捨てるタイミングを見失ってたアクセサリーとか、なんでも飾っちゃおうぜ。
できれば、飾ってみたい現物を持参でサトウ画材さんに行って、いろいろと合わせてみるのが楽しいと思う(このご時世なので、もちろん感染予防には注意して)。
取材の最後ぐらいに佐藤さんも「いろいろ相談に乗りますよ。なんでも入りますんでね」と頼もしく言ってくれてたし。
本文中にもあったサトウ画材での我流切紙人さんの個展「我流切紙百科事展」は、7月31日まで開催中。
ミニ額と超絶技巧切り折り紙作品のコラボは、ぜひ現物を直接見ることをおすすめしたい。ほんと、すごいよ。指先サイズの生物切り紙は、実際に見るとため息が出るレベルなのだ。
あと、すいません家庭的な告知も。
今回同行してくれた栗原まもるの原画展も8月19〜24日、中野区新井薬師のギャラリー2549にて開催します。
過去の作品原画やカラーイラストなど額装していろいろ展示しますので、こちらもよろしければ。
取材協力:サトウ画材
東京都江東区森下3-14-3
地下鉄森下駅/清澄白河駅からそれぞれ徒歩10分
営業時間:月〜金(10:00~18:00) 土/日(10:00~17:00)
定休日:祝日