でかいやきとり缶は独り占めするものではない
ホテイフーズのコーナーには、おなじみのやきとり缶のでっかいバージョンも置かれていた。
「こんなにでっかいやきとり缶、ひとりじゃ食べ切れないねぇ」といったら、同行者に「普通分けて食べるんじゃない…」とさとされた。
ド正論だった。

静岡は缶詰が充実している。
静岡土産というとお茶やわさび漬け、うなぎパイなどが思い浮かぶが、最近はそれらをしのぐ勢いで缶詰が売れ筋商品となっているそうだ。
しかし、なぜ静岡で缶詰が盛り上がっているのか?
いつから缶詰を売り出すようになったのか?
こんなに種類が豊富なら、もっと知られてもいいのでは…
缶詰の歴史、進化を遂げた最新缶詰事情を調べた。
まずはこちらを見てほしい。
どこもかしこも缶詰だらけのこの場所は、新東名高速道路・静岡サービスエリアのお土産コーナー「しずおかマルシェ」の一角。
缶詰以外のお土産も並ぶが、缶詰が占める割合がすごい。
あまりの量に圧倒された。缶詰に圧倒されたのは初めてだ。
これは「缶詰王国静岡」という展示販売コーナー。調べると、一般社団法人 静岡缶詰協会という団体が開催しているようだ。
静岡缶詰協会…なんておいしそうな協会名なんだ。ニッチな香りがプンプンするし、ここなら静岡の缶詰事情に詳しい人がいるに違いない。早速、静岡缶詰協会にコンタクトを取った。
静岡缶詰協会に取材を申し込んだところ、缶詰に詳しい人が退職してしまったらしい。
残念!缶詰に詳しい人が在職しているあいだに気づいて話を聞けばよかった…
しかし、静岡缶詰協会の方はとても親切に対応してくださり、「静岡県缶詰史」という貴重な文献をわざわざ郵送してくださった。
自分の知らない世界がこの中にぎっしり詰まっていそうでワクワクした。
静岡県缶詰史には、戦前から続く缶詰の歴史、ツナ缶やみかん缶詰の生産実績や動向、安全への取り組み、容器のトレンドまで、缶詰に関するさまざまな情報が書かれていた。
静岡県缶詰史は静岡缶詰協会の缶詰に詳しい方が書いたそうだが、缶詰界のそうそうたるメンバーが解説や指導で参加していた。
一部紹介すると、
・「いなばライトツナ」やキャットフードの「CIAOちゅ~る」で有名ないなば食品の会長
・「シーチキン」や「シャキッとコーン」でおなじみのはごろもフーズの会長
・ホテイのやきとり、ヤキヤキヤキ、食べればハッピー♪のホテイフーズコーポレーションの常務
など、日本缶詰界のトップ中のトップの方々ばかりだ。
静岡県缶詰史によると、日本の缶詰の歴史は明治4年、長崎の松田雅典という人がイワシ油漬缶詰を試作したことがはじまりといわれている。
明治4年というと、廃藩置県が行われた年だ。もはや歴史教科書の中の話…
静岡県ではその数十年後の日清・日露戦争当時、家内工業のかたちで魚類の缶詰が多く作られた。しかし戦争中だったため、“軍用缶詰”として製造されることも多かった。
陸軍向け缶詰、海軍向け缶詰などいくつか種類があったが、中でも気になったのがこちらの「口取り缶」。
口取りという言葉を知らなかったのではじめはどんなものかまったく想像がつかなかったが、このラインナップを聞いたらすぐにわかった。そう、おせちだ!
当時の地元新聞にも、
「満州の征野に働く将兵はお正月の元日に後方にある兵には折り詰め※を与えているが、第一線にある将兵には年々、正月らしい気分さえ味わわしめることが出来なかったので 今回陸軍省は清水市の清水食品会社に命じて 第一線で活躍する将士に与える正月用の缶詰を製造せしめることとなり 同社は感激して製造を急いでいる。」
とある。
※折り詰めとは料理を折り箱に詰めたもののこと。
現在も缶詰は軍隊や自衛隊で戦闘糧食として多く採用され一部では「ミリめし」と呼ばれ話題になっているが、戦時中はブリ三切れは「身を切る」、四切れは「死」に通じるなど品質のみならず忌みをはばかった細かい注文も多かったため、製造会社は苦労したようだ。
こうして戦争を乗り越えた静岡の缶詰は、戦後もアメリカを主要市場としめざましい復興を遂げ、それまで輸出額1位だったお茶をしのぎ輸出の王座を勝ち取るまでに成長した。
あのお茶を…静岡といえば?と聞けば1000%の確率で返ってくるあのお茶をしのいで缶詰が首位に立っていたのだ!
そして現在の生産量がこれ。
(静岡県公式ホームページより引用)
もうグラフを全部塗りつぶしてベタ塗りの円にしてもいいくらい静岡の生産量が占めている。あなたが今夜食べるツナ缶は間違いなく静岡のツナ缶だ。わたしが大切にとっておいているピザポテトを賭けてもいい。
しかし、なぜ静岡の缶詰はここまでシェアを伸ばすことができたのか。
最大の理由は、優位な立地だ。
静岡には全国屈指のマグロ・カツオ漁港の焼津港・清水港があり、おびただしい量が水揚げされている。これらが缶詰の主原料になるのだ。
一方、三ケ日みかんなどで知られるように静岡はみかんの産地としても有名で、これもまた缶詰の主原料に。
さらによかったのは、マグロやカツオは夏、みかんは冬というように季節的にもうまくずれており、この2つを主軸に静岡の缶詰はみるみるうちに全国を支配していったのだ。
食べることくらいでしか貢献していないが、なぜかやってやったぜ!というすがすがしい気分になった。
記事執筆中、静岡市にある駿府匠宿という施設でちょうど缶詰の展示販売イベントがあり、土日は試食もできると静岡缶詰協会の方から教えてもらったので、試食ができる日曜日に遠慮なく伺った。
本当は白飯も持って行きたかったけど大人なのでやめた。
さすが静岡缶詰協会主催のイベント、これまで見たことのない缶詰がズラリと並んでいた。
定番のツナ缶から肉系の缶詰、フルーツの缶詰までたくさん種類があったので、試食をいただきつつメーカーの方おすすめの缶詰を買った。
試食提供は各メーカーの担当者が持ち回りで行っているそうで、この日は静岡県焼津市にあるいちまるというメーカーの方が来ていたが、いちまる以外の缶詰についても丁寧に教えてくれた。
缶詰業界の人に悪い人はいないようだ。
お土産缶詰の定番 はごろもフーズ
「シーチキンとろ・炙りとろ」
新東名高速道路・静岡サービスエリアのお土産コーナーにも大量に並べられていた、はごろもフーズの「シーチキンとろ・炙りとろ」。
静岡サービスエリアのみならず、静岡県内のお土産処ではよく目にするので気にはなっていたが、今回初めて食べる。
食べてみると歯ごたえがしっかりしていてとってもジューシー!味はシーチキンだけど、上質なシーチキンといった感じ。単体でも十分酒のあてになるな…
在庫がなくなる前に絶対買うべき!いちまるの「CANTIPASTO(缶ティパスト)ラグー」
いちまるおすすめの「CANTIOASTO(缶ティパスト)ラグー」。「缶」に入った「アンティパスト(前菜)」という意味で、そのままお皿に出しても料理として提供できる缶詰として売り出していた。
そう、売り出して“いた”ということは、実は残念ながら終売が決まってしまったのである。
現在在庫売り切りセール中で、通常600円のところ半額の300円で買えた。
しかし、600円払ってでも食べたいほどあまりにもおいしい缶詰だった。
盛り付ける皿のセンスが悪すぎてビストロ感があまり出ていないが、店で出されてもうまいうまい言いながら缶詰だとは気づかず完食してしまう。
よくグルメリポートで「お肉が口に入れた瞬間とろけちゃいました~!」などというが、あれだ。あれが缶詰で起こっていた。
終売になるのが惜しすぎる。せっかく出会ったのにもうお別れなんて…!
やきとりの次はからあげ! ホテイフーズ
「からあげてりマヨ味」
やきとりで有名なホテイフーズが今年3月に全国発売したからあげシリーズ。
からあげ缶の登場は、長く続いている缶詰業界もかなりざわついたらしい。
旨辛たれ味、和風醤油味、てりマヨ味と3種類ある中の、今回はてりマヨ味を購入。
しっとり系からあげ、これはこれでありだ。こどもは絶対好きな味。隣の席の子の弁当にこれが入ってたら玉子焼きと交換してもらいたい。
あぁ…白米が食べたい。
めんどくさがりにピッタリ ホテイフーズ
「グレープフルーツ」
みかん、桃、パイナップルなどフルーツの缶詰はたくさんあるが、グレープフルーツの缶詰は今回が初めてだ。
試食を提供してくれたいちまるの担当者の方も「たしかにグレープフルーツは珍しいですね…」とホテイフーズに嫉妬していた(ような気がする)
グレープフルーツ缶詰のもっともいいところは、なにより自分で皮を剥かなくてもすぐにグレープフルーツが食べられるところだ。
超超超めんどくさがりのわたしにピッタリだ!
そして味も甘すぎず苦すぎずちょうどいい塩梅…これはリピート確定。近所のスーパーにもいって置いてもらおう。
リサーチから食するまで静岡の缶詰を堪能した。
静岡はさわやかもいいけど、缶詰もあるぞ~!
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