パフォーマンスとしての空気イスとは
沖縄では家族連れが寄ってきた。東京の公園ではカメラを持つ友人の横まで来て子供が見ていた。
興味を持ってもらえたことは嬉しかったが、こういった時のコミュニケーションの方法を私は知らないのでどぎまぎしてしまった。見ている人と交流を図ることも含めてパフォーマンスだなと、空気イスを通してパフォーマンサーの凄さを感じた。

空中浮遊。テレビ番組や路上でのパフォーマンスなど、どこかしらで一度は見たことのあるだろう。
ウェブマスター林さんもやっている。(空中浮遊写真を撮る方法)
重力に抵抗しているそぶりも見せない不思議な術、マジックではその仕掛けとして鏡を使うことがあるらしい。
むずかしい理屈はわからないが、つまり鏡を風景を溶け込ませることができれば再現できるものなのでは。やってみることにした。
鏡を使った錯覚で思い浮かぶのは、大きな鏡を設置した飲食店。
せまいフロアも広く見せられる鏡の活用方法だ。このおかげで酔っぱらった際には店内で迷子になる。
鏡で壁を消せるのなら、地面も消すことができるのではないか。
鏡によってイスをカモフラージュさせる。その上に人が座れば浮いて見えるだろうという寸法だ。
モノトーンの材料で組み合わせた点がさりげないおしゃれポイントである。
まだまだ寒い二月半ば。雨が降ったり止んだりと落ち着かない日に撮影を決行した。
晴れていれば写真映えもしただろうにと天気をうらめしく思いながら、しめった地面にイスを設置する。
「上手いことして浮いているように見えるように撮ってほしい」と言うと「そんなの絶対むりでしょ」と友人は鼻で笑った。
そうは言いつつカメラを受け取った友人は、ファインダーを覗きながら前後左右にウロウロ、立ったり座ったりを繰り返しながらシャッターボタンを何度か押した。そうして撮ったばかりのデータをモニターで確認して、今度は首を傾げて「浮いてるね」と笑った。
仮説が間違っていなかったことが確認できて急激に楽しい気分になってきた。わいわい!
今回の企画について相談した人全員に成立しないのではと言われていたので正直不安になっていたのだ。良かった~!
いいですか、鏡をイスに立てかければ人は浮くことができます。
嬉しいのでこれに空気イスと名付けます。
ひとしきり撮影して気付いたことがあった。
鏡のふちに光が反射し、白い線がそこにあるように見えること、そして影の有無の差が現れるということだ。
パソコンに取り込んだ後加工ソフトで消してしまうこともできるが、編集無しでも完璧な空気イスにしたい。そして強靭なインナーマッスルを持つ人間としてドヤ顔をするのだ。
空気イスにぴったりな場所を探すことにする。室内と屋外で合わせて4ヵ所で試してみよう。
まずは試しに勤務時間外の職場で撮ってみることにした。
この空気イスは前提として不要な物が写り込まないある程度の広さが必要で、5畳半の自宅では狭すぎるのだ。
職場はスポットライトをメインに設置されている内装で、夜はややムーディーな雰囲気。
空気イスを舞台に立ったマジシャンのように明るく照らしてくれそうだ。
そこに偶然居合わせた社長が「何がしたいのかぜんっぜんわかんないんだけど」と言いつつ空気イスをするには良さげな場所を見繕い、座ってくれた。
鏡を持って社内を徘徊しているところで目が合った時にはドキッとしたが、社員が職場で全然わかんないことしてるのに気前の良い社長である。
社長からの厚い支援をよそに、鏡は周囲をまばらに照らすスポットライトの強い光を反射。
映った床は実物よりも白っぽく映り、照明に近い位置ほどその白さは増した。
また、フローリングの柄合わせも地味に気を使う。規則的な柄の床では難しそうだ。
次は通っている演劇の教室へ向かった。
ここは無地のカーペットが敷かれており、一般的な学校や会社でおなじみのまっすぐの蛍光灯が設置されている。室内全体がまんべんなく照らされていれば、床に複雑な影は生まれないのではと考えたのだ。
「浮けるイスを発明したので座ってください」と、役者仲間を誘導すると、彼女は「浮いてる…?」と、借りてきた猫のようにかしこまり、まごまごしていた。
座る側はなにがどうなっているのかわからないのでまごまごしたくなる気持ちもわかる。
【検証1】と比較すると、室内全体を照らしているぶん、やはりムラが無くなじみが良いように見える。
鏡には実物と比べてやや明るく床が映し出された。明るいよりは暗い方が適しているのかもしれない。
そしてやはり鏡のふちが白く浮かんでいることが気になる。曇りの公園、薄暗い会社と比較してもほとんど変化がない。こちらは明るさを変えるのでは解決しなさそうだ。
なかなか完全に鏡を消すことができないまま時間は経過し、予定していた家族で沖縄に行く日がやってきた。
生活圏内では撮ることができない場所で検証するチャンスではないか。
絶対浮きたいという気持ちもあるが、不可能だと言われた企画を失敗オチにはしたくない気持ちが七割だ。
そうして空気イスは快晴の沖縄に降り立った。
慣れない人がした加工画像にも見える。
とはいえ問題の鏡の下辺はやわからい砂に埋もれてなじんでいるし、白い反射も砂浜では気にならない。
ここでなら完全に浮くことができると確信したが、撮影を始めてすぐに父が「恥ずかしい」と立ち上がってしまった。「それはなんですか」と人に声をかけられたのだ。
顔をあげると、その場にいた他の家族連れが不思議そうにこちらを見ていた。砂浜のまぶしさと海風の強さに必死だったので気づかなかった。
数枚しか撮ることができなかったが、目立つことが苦手な父が付き合ってくれただけでも良しとし、砂浜を離れた。体が海側を向き過ぎて父が人魚フォルムになっていることを除けば風景と相まってかっこいい写真が撮れた。
飛行機内への荷物重量を気にせず持ち込んだかいがあったというもんだ。
それでは改めて浮かせていただきます。
より浮いてる感を演出したくてやわらかいマフラーを肩にかけたらなんだかチャンピオンベルトに見えなくもない。空気イスのチャンピオンは私だ。
最初の撮影日と同じくらいどんよりとして小雨が降ったり止んだりと不安定な空模様。写真を撮るにはむずかしい天候だ。
しかし先の3度の検証があったからこそわかったことがある。曇天は絶好の空気イス日和だったのだ。
そして最後に、足元の影の有無は斜めの位置から撮影することによって気にならなくなった。
鏡を見る時は真正面から向かい合う。日々の暮らしからなるその先入観が邪魔をしていたのだ。
沖縄では家族連れが寄ってきた。東京の公園ではカメラを持つ友人の横まで来て子供が見ていた。
興味を持ってもらえたことは嬉しかったが、こういった時のコミュニケーションの方法を私は知らないのでどぎまぎしてしまった。見ている人と交流を図ることも含めてパフォーマンスだなと、空気イスを通してパフォーマンサーの凄さを感じた。
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