特集 2022年10月27日

これが本当のノマドワーカーだ!モンゴルの草原からリモートワークする

ここ数年で、リモートワークはずいぶん身近なものになった。特定のオフィスを持たない「ノマドワーカー」も増えていることだろう。

しかし「ノマド」という言葉は本来、遊牧民のことを指しているはずだ。カフェやコワーキングスペースを渡り歩くだけで、ノマドを名乗っていいものだろうか。

ノートパソコンさえ持っていれば、どこでも仕事ができるのだろう。それなら、遊牧民と同じ環境で仕事をしてこそ、本当のノマドワーカーなのではないか。

ファンクバンド「踊る!ディスコ室町」のまこまこまこっちゃんです!ギターを弾いています!京都在住!

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ノマドといえばモンゴル

ノマドワーカーの「ノマド」は移動しながら暮らす遊牧民に由来しているが、遊牧民といえばモンゴルだ。

遊牧という生活は、中央アジアや中東、アフリカからツンドラまで様々な場所で行われているが、モンゴルはその代表格。広い国土の大部分を占める草原や砂漠では、今でも遊牧生活が営まれている。

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かなり力強い生活

わたしは3年前の夏に初めてモンゴルを訪れて、草原での遊牧生活に魅了された。常に地平線が見渡せる草原の大地には開放感があるし、ウマやウシなどの動物との距離が近いのも楽しい。乾いた風も気持ちいい。

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ええもんですよ草原は

しかしここ最近は、海外に行くことも難しくなり、いよいよ自宅にこもって仕事をするのにも飽きてきた。モンゴルの草原が恋しい。

そんな折、遊牧ワークショップ「モンゴル武者修行」を主催する伊藤洋志さんから、モンゴルの草原からリモートワークするのをテストしてみませんか、とお誘いをいただいた。

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遊牧ワークショップ「モンゴル武者修行」を主催する伊藤洋志さん。今回は二人でモンゴルからのリモートワークが実施可能か調査した。写真はカザフ族の遊牧民に鷹狩を習ったときのもの!

草原から仕事ができれば、連続した休みを取りづらい会社員でも、長く現地に滞在できる。

それに、遊牧民と同じ環境でリモートワークができれば、それは本当の意味で「ノマドワーカー」といえるのではないだろうか。スタバでパソコンに向かうより、草原でパソコンに向かった方がかっこいい。

考えれば考えるほど、おれもノマドワーカーになりたくなってきた。モンゴルに行くしかない!

草原へ出勤

というわけでモンゴルに来ました。今回のリモートワークの舞台は、遊牧民のゲル(移動式住居)である。伊藤さんの友人から、親戚を紹介してもらったのだ。

首都・ウランバートルから車で走ること5時間。草原の合間にポツポツと砂丘が現れる場所で暮らしている家族にホームステイしながら、リモートワークが可能か検証を行う。

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かなりダイナミックな出勤風景
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オフロードも走破して
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最後は近所の人に聞き込みをしながら到着!

まずはご家族に挨拶すると、よく来たね〜という優しい言葉とともに、ヒツジの頭の丸焼きと馬乳酒で歓迎してくれた。

田舎のおばあちゃんちに帰省したときのご馳走みたいなノリで、モンゴルではヒツジが登場するのだ。

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頭の丸焼きはナイフで切り分けながら食べる。頬肉が柔らかくてうまい

コワーキングスペース・ゲル

ヒツジを食べ終わってから案内してもらった仕事部屋は、もちろんゲルである。草原でリモートワークをしたいという日本人(私たちのことですね)のために、ホストファミリーがひとつゲルを用意してくれたのだ。

まぎれもなくリモートワーク用に用意されたゲル。これが草原の真ん中に現れたコワーキングスペースである。

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モンゴルの移動式住居・ゲル(「パオ(包)」は中国語)。夏休みに帰省してくる家族や親戚のために、複数のゲルを所有している遊牧民も多い
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ウシに囲まれたこちらがコワーキングゲル。ここで仕事をしてみます。

ゲルのなかはけっこう広い。円形なので日本の部屋と比較するのは難しいが、ざっくり12畳くらいはあるんじゃないだろうか。天井が高いのも開放的だ。

天窓からは太陽光が入って明るいし、空気も常に新鮮。四畳半の自室で仕事をしているのと比べると、ずいぶん快活な気持ちでいられそうである。

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「ぜんぜん仕事できますね〜これ」
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伊藤さん「たしかに仕事できちゃいますね」
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気温もちょうどよかった。乾燥していて過ごしやすい!
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天井も高くて気持ちいいし、
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天窓から光が入って明るい!

本当に草原からリモートワークが可能なのか不安に思うところもあったが、ひとまず落ち着ける仕事場を確認できたのでちょっと安心。

仕事ができる環境は整いつつある。あとはパソコンが問題なく使えれば言うことなし。

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むしろ家の近所にも、こういう貸しスペースが欲しい
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電波:ある

リモートワークに必要なもの、それは電波だ。さすがにWi-Fiが使える場所はないが、事前のリサーチでスマホの電波がつながることは確認している。それをキャッチできれば、テザリングでパソコンが使えるだろう。

しかし、つながるよって言われても、見渡す限り広大な草原である。街に暮らしているから、どこかに中継のアンテナがあるんだろうな…と思っているが、ここには見渡す限りそれらしきものはない。

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本当にケータイつながるんですか?

しかし心配は杞憂だった。普通に4G電波がビンビンに来ているのである。

電波をさえぎる建物がないので、遠くの街から電波が届いているようだ。デジタルなのかアナログなのかよくわからない話だが、とにかくスマホは電波をキャッチしている。

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「MONGOLIA UNITEL」の回線をキャッチ

電波があるのはありがたい一方で、地球が電波に覆われているのを体感するようで恐ろしい気もする。もう逃げられない。地球のどこに行っても仕事ができてしまうのか。

……と思っていたが、電波はまだらに飛んできているようで、ちょっと歩くと圏外になるエリアもあった。

遊牧民たちもスマートフォンを使っている(めっちゃFacebookを更新してたりする!)ので、電波が届きやすいところを選んでゲルを建てているのかもしれない。

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タイの会社のSIMカードを使ったら、Adobeの広告がタイ語になった

電気:発電できる

電波の次に必要なのは、電気である。ノマドワーカーは、常にパソコン・スマホの充電を気にする生き物だ。

しかし、これについては心配無用。携帯型のソーラー発電機を用意しました!

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日の出とともに発電がスタート
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USBポートから各種デバイスやモバイルバッテリーを充電できる

モンゴルは、国土のほとんどが高地(首都・ウランバートルが海抜1,300メートル!)であり、日差しが強い。しかも、草原には日光を遮るビルや山がなく、太陽が地平線から登って地平線に沈むので、日の出から日の入りまでしっかり発電できるのだ。現地でも、ソーラーパネルで発電しているお宅が多い。

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地平線から日がのぼる
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パネルは太陽の動きに合わせて移動する

試しに、バッテリーが30%くらいになったiPhoneを繋いでみたところ、お昼ごはんを食べている小一時間のあいだに50%くらいまで充電できた。

けっこうな発電量である。これで一日に使う電力はまかなえるだろう。電波に続いて、電気も確保できるのを確認できた。いよいよ仕事が始められるぞ!

ビデオ通話:できる

さて、リモートワーカーの仕事といえば、ビデオ通話を使っての会議だ。

ZOOMミーティングはリモートワークの華である。これができなければ、ノマドワークの環境としては不十分。

でも安心してほしい。これも普通につながりました。

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ミーティングの相手は編集部の石川さんにお願いした
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「ためしに画面共有してみましょうか」「資料が出ると、急に仕事してる感じになりますねー」
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でも場所はゲルである。バーチャル背景じゃないよ。

途中、ちょっと電波が途切れ気味かも…と思う場面もあったものの、おおむね問題なさそうな接続状況だ。

というか、草原だから多少電波が途切れるくらいで不安になってしまうけど、日本でやってるときでも繋がりにくい瞬間くらいある。上々の電波環境である。

時差も1時間ほどで、欧米圏に比べれば日本の勤務時間とも合いやすいタイムゾーンだ。モンゴルノマドワーク、けっこういいんじゃないか?

お昼ごはんの支給:あり

ZOOMでワイワイやっていると、ガチャッとゲルのドアが開いて、ホストファミリーのお母さんがやってきた。ちょうどお昼の時間帯。どうやら昼食を用意してくれたようだ。

この日のお昼ごはんは、ミルク粥と羊肉。お粥はミルクで優しく炊かれており、羊は脂身がプルプルでおいしい。どちらも味付けは薄い塩味である。ポテチのうすしおではなく、本当に薄い塩味。そのぶん、お肉の味がよくわかる。

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(食べさしの写真ですみません)

ミルクにしてもお肉にしても、口に含んだ瞬間、草原でフワッと香るのと同じ匂いがする……それはもちろん、羊や牛がその香りの草を食べて育っているからだ。間接的に草原の恵みをいただいているのである。日本のスーパーに並んでいる牛乳やお肉とは全くちがう食体験だ。

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しかし、見た目は普段の在宅勤務と同じ感じになってきたな

電気電波も問題なく、お昼ごはん付き。これ、ワーケーションプランとして申し分のない環境なのでは……。

そう思っていたのは、ちょっと見通しが甘かった。

馬乳酒の支給:あり

ご飯も食べ終わって仕事に戻ろうとしたところ、またもゲルのドアが開いた。今度はお父さんの登場である。

手には小さなバケツを持っていて、こちらに「アイラグ?」と問いかけてくる。どうやら、馬乳酒飲もう! と言ってくれているみたいだ。

馬乳酒とは、馬のミルクをかき混ぜて作る飲み物で、アルコール分は1〜3%くらい。これ飲んで酔っ払うぞ! みたいなノリの飲み物ではないけど、たくさん飲むとちょっと酔う。

普段の在宅勤務中だと、酔っ払ってしまうと相当よくない感じがするが、今はせっかくのおもてなしを無下にするわけにもいかない。どんぶり一杯いただきます。

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バケツから支給
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アムトゥタイ(おいしい)!

これがまた美味しいのだ。 カルピスはもともと馬乳酒から生まれたアイデアだったそうだけど、まさにカルピスみたいな風味がある(甘味はないけど)。

聞けば、秋の馬乳酒は特別おいしいらしい。夏にたくさん草を食べた馬はよく太っていて、いいミルクを出してくれるからだ。

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馬、たしかに太っている

しかも、9月に学校が始まると家から人が少なくなって(小学生以上の子供は寮に入ってしまうから)搾乳の人手が足りなくなるため、遊牧民のあいだでも売買されるほど貴重なものになるらしい。そんなありがたいものだったのか!

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どんぶりは右手で受け取るのがマナー。

遊牧民は夏のあいだ、この馬乳酒だけを飲んで生活することもあるほど栄養満点であり、生野菜の入手にハードルがある草原でのビタミン源でもある。

しかし一方で、これはやっぱりアルコールを含んだ酒でもある。ゆっくり飲んでいたつもりだったけど、だんだん酔いがまわって、頬が熱くなってきた。

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お父さんは、私が持ってきた和蒙辞書を眺めている。「ちょっと酔っ払ったかも」ってモンゴル語でなんて言ったらいいですか?

ご飯も食べて、馬乳酒も飲んで、お腹いっぱいである。酔ってるし……というところでちょっと横になったつもりだったが、いつのまにか眠ってしまった。

モンゴルでリモートワークをする際は、いきなり馬乳酒タイムがはじまるので覚悟しておこう。

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来客(こども):あり

小一時間たって昼寝から目覚めて、よっしゃ原稿でも書いたろか! とパソコンに向かい始めたその瞬間、またもゲルのドアが開いた。

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子ども来た!

やってきたのは、近所に住んでいる遊牧民の子どもである。しばらく遠くから私たちの様子を伺っていたようだったけど、ついにゲルのなかに入ってきた。

歳を聞くと5歳だという。もちろん言葉がぜんぜん通じないが、とにかくいろいろ話しかけてくる。大人とは、多少の英語を使ったり、簡単な単語を使ってもらったりすることでなんとかコミュニケーションを取っていたけど、子どもはお構いなしにガンガン話しかけてくるのだ。

それでもなんとか身振り手振りから読み解くと、たぶん「外にいこうよ」と言っているようだった。

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みてみて、馬!

どうやら、お気に入りの木の棒にまたがって、乗馬ごっこをするのが彼の一日の過ごし方らしい。

日本でも子どもが電車ごっこをしていたりするけど、周りの大人が馬に乗っているのを見て育つと、それに憧れるようになるんだな。それにしても、けっこうな坂道をめちゃくちゃ走りまわっていて体力がすごい。

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なにかと戦っている…遊牧騎馬民族はこうして強くなっていくのか
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わたしもウマ役をつとめました
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カメラを向けるとめっちゃフザケる

遊んでいるのも楽しいけど、ずっと遊んでいるとこちらの体力が持たない。しかたなくパソコンでアニメを見せてみると、食い入るように見始めた。

日本語のセリフは全くわからないはずなのに、熱心に見ている。基礎体力はめちゃくちゃあると思うが、アニメを見せると静かになるあたりは日本の子どもと同じだ。

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静かになった。
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めちゃくちゃ熱心に見てる

来客(おじさん):あり

そのまま子どもに大相撲を見せて過ごしていると、また来客があった。やってきたのは、近所のおじさんである。

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「タマワシ勝った!」
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「どれどれ、ほんまやな」

おじさんは、ホームステイ先の家族と共同で遊牧を行っている3世帯のうちの一人らしい。滞在中は特になにか仕事をしているところは見られなかったけど、すこし離れたゲルから、毎日バイクで通ってきていた。

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業務日報には「来客対応」と書こう

おじさんは子どもと一緒に相撲を見たり、机のうえに出してあった指さし会話帳をじっくり眺めたりしたあと、猛烈に話しはじめた。ゲルの外を指差して、両手でハンドルを握るジェスチャーをしている。どうやら自分のバイクを見てみるか! と誘ってくれているみたいだ。

外に出ると、ゲルの前に赤いバイクが停められていた。せっかくだから乗ってみろ、という指示に従ってバイクにまたがってみる。ブレーキはゆるゆるだし、5秒でエンストしてしまう。けっこうな速度で走っているのを見ていたが、大丈夫なのか。

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「エンジンをかけたらすぐにスロットルをまわすんだ、でないとエンストするぞ」
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おそるおそる乗ってみたが、日本のバイクに慣れているとかなり不安になるマシン

おじさんは私がへっぴり腰で運転しているのを見たあと、ワハハ!と笑いながら自らバイクにまたがり、後ろに乗れ! とジェスチャーしている。言われるがままにリアシートに腰掛けると、おじさんはいきおいよくスロットルを回す。当然バイクもいきおいよく発進。

ボコボコの地面とマシンへの不安が入り混じってかなりの恐怖を感じたが、気づけばバイクは意外と安定している。サスペンションの具合がよくないので、2人で乗ったほうが重くて安定するらしい。

ほんまかいな、と思う話だけど、たしかに草原では二人乗りのバイクをよく見かける。羊やヤギを誘導するときは二人乗りの必要はないんじゃないかと思っていたけど、安定性がアップしていたのか。

そんなことを考えていると、バイクは羊の群れの方面に向かう。もう夕方だ。そろそろ放牧している家畜を家の近くに戻す時間である。

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後方から近づくと群れが移動する

お気づきかもしれませんが、リモートワークはずいぶん前にストップしています。モンゴル、楽しいな!

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夕方の仕事①:ストーブの燃料、馬糞を集める

日が暮れる前にはいろいろやることがあるので、17時すぎにはパソコン仕事を切り上げなければならない。

遊牧生活にお邪魔しているわけだから、遊牧の仕事も両立してこそ真のノマドワーカーというわけだ。今回の私たちの場合、とっくにノートパソコンを閉じているのでスムーズである。

まず1つめの仕事は、草原に落ちている牛糞・馬糞をひろうことだ。寒い夜に焚く、ストーブの燃料にするためである。

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これが馬糞。カラッカラに乾いていて、ニオイはしません
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これは牛糞、かなりデカい。これもニオイなし。
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そして山盛り集める。なんぼあってもいいですからね〜

草原では、薪を用意することが難しい(木がほとんど生えていないから)。なので、カラカラに乾いた牛糞や馬糞が燃料として使われる。

ウシやウマは草原の草だけを食べていて、フンにはその繊維が残る。水分が飛んでしまえば、圧縮された枯れ草のかたまりのようになるのだ。天然の燃料ペレットである。

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想像以上の高火力!

家畜のフンはそこらじゅうに落ちているので、乾燥したものを選んで拾い集める。燃料の自給だが、山で薪割りするよりはお手軽だ。しかも家畜は毎日ウンコをする。近くに落ちているものを拾っても、次の日には補充されているのである。

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一生懸命集めました!
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が、お父さんチェックで何割かのNGが発見された。水分が残っているものや、古すぎて土に置き換わっているようなものはダメ!
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おじさん「馬糞を直接炙って、お香として使うこともあるんだよ。ふーふー」
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「お前もやってみろ」「ふーふー」

夕方の仕事②:家畜を集める

燃料を集め終わったら、次は放牧している家畜を集めるのを手伝う。

ウシやヒツジ、ヤギは基本的に放牧(放し飼い)されているが、夜にはゲルの周りに集めておく。あんまり遠くにいきすぎると管理しきれないし、オオカミに襲われてしまう可能性もあるらしい。

日が暮れる前の18時ごろ、遠くからウシたちが集められてきた。歩いて行ける距離まで近づいてきたら、私たちも後ろから追い立てる。

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馬で集めてきたウシたちを
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後ろから歩いて追い立てる。近くまで来ると、わりと自分から歩いてくれます

毎日在宅勤務をしていると、パソコンの中で全てが完結していて家から一歩も出ない日も多くなる。しかしモンゴルに来ると、否が応でも草原で「仕事」をすることになる。

そして、ここでいう「仕事」とは、生活をするうえで必要なこと全般を指しているように感じられる。考えてみれば当たり前だけど、会社に行ったりモニターに向かうことだけが仕事じゃないんだな。

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ウシにとってはケンカするのも仕事だ

夜の仕事:馬乳酒をかき混ぜる

日が暮れると、みんなで母屋に集まってテレビを見ながら団らんの時間を過ごす。ただし、大人は交代で馬乳酒をかき混ぜながらである。

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みんなでテレビを見ると、急に実家みたいな空気になる

馬乳酒は、混ぜれば混ぜるほどおいしくなると言われている。だいたい必要な回数は、1万回とも10万回とも聞いた。かなり幅があるが、とにかくいっぱいかき混ぜるという意味だろう。かき混ぜると発酵が進んで、おいしくなるそうだ。

私たちも昼間からどんどん飲ませてもらったので、積極的にかき混ぜる。意外と難しくて、役に立ってるかわからないけど!

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お父さんがやるとブクブク泡立っていたのが
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私がやると泡が消えた! 混ぜ方にもコツがあるっぽい

それにしても、夜は静かなものだった。一日中家畜の世話やら搾乳やらで忙しかったはずで、みんなもっと「疲れた〜」とか言いながら酒でも飲みそうなものであるが、特に酒盛りが始まる様子もない。テレビを見つつおしゃべりをして、ゆったりと過ごしている。

私たちもしばらく馬乳酒をかき混ぜたあと、おやすみを言って自分たちのゲルに戻った。

夜は特に来訪者がいるわけでもなく、もし急ぎの仕事があるならこのタイミングでできるのかもしれない。

でも、特に仕事をする気にもならず、ストーブの火を起こしてから寝てしまった。こんなところに来てまで残業をするのも、あんまりよくない気がしたのだ。

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夜は星がきれいで、宇宙にいるみたいだった

モンゴルの草原からのリモートワークは、環境的には可能である。が、来客が多いのと、あんまり積極的にパソコン仕事をする気にならないのが問題かもしれない。

ただ、遊牧民と一緒に過ごして、何度も「お前はなんの仕事をしているんだ」と質問されるうち、自分も恥ずかしくない仕事をしないといけない! と思うようになった。

今後は、遊牧民にも誇れるような仕事がしたい。なにか楽しくて真っ当な仕事がありましたら、お知らせください。ときどきモンゴルからリモートワークできる仕事だとなお嬉しいです!

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ウシとの距離が近いのが本当のノマドワーク
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アットホームな職場でした!

取材協力
・伊藤洋志さん(Twitter / Tumblr
・モンゴル武者修行(Twitter / Instagram / ホームページ

 

(お知らせ)
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モンゴル武者修行公式ZINE「羊と自分が同じ直線上にいる」
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