ガソリンスタンドなのにのぼり旗は『かき氷』『ソーキそば』
今回訪れたのは『やまあき』という個人経営のガソリンスタンド。
どこからどう見てもガソリンスタンドである。『かき氷』と『ソーキそば』ののぼり旗以外は。
道端のエネオス
に、なぜか『かき氷』『ソーキそば』ののぼり旗
防火塀にも。ガソリンスタンドならガソリンスタンドらしくそこは『タイヤ交換』や『洗車』だろう
ぱっと見イベント会場のようになっているが、やはりガソリンスタンドであることは間違いなさそうだ。
ガソリンを入れに来た軽自動車
ガソリンスタンドだからガソリンを入れに来たのに、外で待つ人が多すぎてガソリンを入れに来た側が間違って入ってきてしまったかのような空気感が漂っている。
実際、車が敷地内に入ってくると行列に並んでいる人たちの視線が一気に車に集まるので、知らずに入ってきた運転手はかなりドキッとするだろう。うっかり車内で歌なんか歌っていた日には赤っ恥だ。
普通ガソリンスタンドで車から降りて外で待つといったら、洗車が終わるのを待ったりタイヤ交換を待ったり、せいぜい待っても1時間ほどだが、ここで待っている人たちはそれ以上の時間、しかも洗車でもタイヤ交換でもないあるものを待っている。
ここまでくればもうおわかりいただけるだろう…
そう、かき氷だ(何回も言っちゃった)
ここのガソリンスタンドは休憩室がカフェになっていて、そこで食べられるかき氷がいわゆる『かきごおりすと』にも大人気の絶品かき氷なんだそうだ。みんなそれを目当てに行列を作っている。
確かに入口にも『氷』の旗があった
ガソリンスタンド併設のカフェというとドトールやプロントはよく見るが、さすがに個人経営のカフェは見たことがない。
その上かき氷だけでなく、ソーキそばなど軽食ではなくきちんとした食事がとれるというからさらに驚き。
ガソリンスタンド併設のカフェは駅構内やショッピングモールに入っているカフェと比べて空いていることが多いので、結構愛用している。が、さすがにソーキそばを食べたことはない。
順番待ちの用紙に名前を記入し、待ち列に加わった。
待ち時間にお父さんとふれあう
わたしの順番はなんと16組目。最終的に店内に入れたのは待ち始めてから約2時間後。マジさわやかじゃん…
待ち時間だけでなく、実際に静岡県外からも多くの人が集まるらしく、東京や名古屋から来るお客さんもいる。かき氷への期待がどんどん膨らむ。
それにしても暑い。この日の浜松市の最高気温は34.9℃。暑すぎて意味がわからない。
ただ待っているだけでは顔が険しくなりそうだったので、先ほど入ってきた軽自動車に給油していた男性に話しかけたところ、このガソリンスタンドのご主人だった。
顔写真はNGとのことで、給油中の写真を再度ご覧ください(給油しているのがご主人の古橋 以智郎さん)
車が来ない間お話を聞かせてくれた。
以智郎さんは『やまあき』(ガソリンスタンドを経営している会社)の3代目で、カフェ部分は4代目である息子の秋仁さんが運営されているそうだ。
そのため、カフェに関することは秋仁さんへ聞いてほしいとのことで、以智郎さんからは「ガソリンスタンドは儲からないのでいい加減辞めたい」という生々しい情報と、「自分『以』上に『知(智)』恵のある男はいないという意味で『以智郎』という名前だ」というお名前の由来に関する情報のみ仕入れた。
以智郎さんとふれあっている間にさらにお客さんは増え、この日は土曜日ということもあって通常のオーダーストップよりも1時間早く受付が終了。
受付終了後も何人かのお客さんが知らずに来店し、以智郎さんはそのたび「ガソリンですか?かき氷ですか?」と選択肢を与えていた。
カフェに関することは息子の秋仁さんにと言っていたが、以智郎さんはカフェにとってもガソリンスタンドにとっても、重要な役割を果たしていた。
イロモノではない!超本格派なかき氷
お話を聞いたり、貼り紙を見たりしている内に名前が呼ばれた。猛暑の中待ったので、この後食べるかき氷はさぞかしおいしいだろう。
カフェ入り口に貼ってあったワンちゃんの紹介。「ライオンはアマゾンより先に買ったんだ」の吹き出しが愛くるしい
地元の人が立ち寄りそうな気軽な雰囲気の店内。
さっきまで暑さで険しい顔をしていたお客さんがみんな笑顔になっている。とってもピースフル…!
学生、カップル、家族などさまざまな年齢層のお客さんが
沖縄をモチーフにしたカフェということで、店内には沖縄を感じさせるアイテムがたくさん。高校の修学旅行が沖縄だったので、修学旅行を思い出した。
入口に並べられたシーサー。集合体で魔除け力抜群
琉球人形。守礼門の前で、この格好で写真を撮ってる人をよく見る
BEGINが持ってるアレ(三線)
イカ汁ってなに…!
ひと口食べたらもう止まらない黒とうなども売っていた
しかしどうして沖縄なのか。
そういえばガソリンの計量器の上にもシーサーが座っていて、狛犬のごとくガソリンスタンドを守っていた。
よく考えたらあまり見ない光景
詳しいことは後で聞くことにした。とにかく早くかき氷が食べたい。
メニューは、通常メニューと限定メニュー合わせて約20種類ものかき氷があった。
ソーキそばやソーキ丼もあるが、残念ながらこの日は材料がなくなり販売終了。少しでも涼しい時にと夕方に来たのがうかつだった。
食べたい人は早めの時間が間違いない。
ここから涼しい写真が続く。
今回注文したのは
限定のマスクメロンスペシャル。メロンの果肉がゴロンゴロン入っていて、かき氷というよりメロンと一緒に氷を食べている感覚だった
マスクメロンスペシャル
贅沢度 ★★★★★
果実ゴロゴロ度 ★★★★★
キュウリが好きな男性におすすめ度 ★★
こちらも限定のブルーオキナワ。沖縄の青い海とサンセットをイメージして作られたかき氷。見た目も超さわやか
ブルーオキナワ
沖縄度 ★★★★★
カラフル度 ★★★★
傘が好きな女性におすすめ度 ★★★★
人気ナンバー1の紅ほっぺ。ソースはなんと自家製なんだそう。既製品のソースと風味が全然違ってひっくり返るほどおいしかった
紅ほっぺ
果肉度 ★★★★
定番度 ★★★
女子が食べてるとかわいい度 ★★★★★
人気ナンバー2の沖縄ぜんざい。黒とうで煮た金時が入っているので、普通の金時が乗っているかき氷と一味違う。黒とうの甘さが際立っていた
沖縄ぜんざい
満腹度 ★★★★
和風度 ★★★★
白玉を口に含んだまま昼休みを迎えたい度 ★★★★★
人気ナンバー3のアップルマンゴー。シンプルだけどマンゴー好きにはたまらない、とろけるような食感とマンゴーの味
アップルマンゴー
夏度 ★★★★
とろける度 ★★★★★
アップル度 ★
めちゃめちゃ食べた。これが6個目のマスクメロンピューレ
マスクメロンピューレ
幸せ度 ★★★★
緑度 ★★★★
ピューレがなにか知らないけどとにかくうまい度 ★★★★★
どのかき氷も氷がふわっふわで、ソースのおいしさも相まってパクパク食べられてしまう。ただ氷が細かい分溶けるのも早いので、勢い余ってたくさん頼んだらその勢いのまま食べるのがおすすめだ。
ここのかき氷はソースも自家製だが、主役の氷も自家製。
どんな水がメニューに適しているのか、凍らせる時間はどれくらいか、いろいろ試して徐々に理想の氷ができたとのこと。
削り方にもこだわりがある。
削り方もさまざまな削り方と食感を食べ比べ、ふわふわ感と食べ応えの両方を楽しめる削り方にたどり着いたそうだ。
徐々に山になっていくきれいな氷
正直かき氷そのものよりも、“見た目はガソリンスタンドなのに個人カフェをやっている”という外観の見た目が話題の中心になると思って来たが、いい意味で期待を裏切る本格的なかき氷を楽しめた。
確かにこれは、並んでまで食べたい。
ガソリンスタンドに長い行列ができる理由はこれだった。
なぜ、ガソリンスタンドに沖縄カフェを
おいしいかき氷を堪能したところで、そもそもなぜガソリンスタンドで沖縄カフェを始めたのか、秋仁さんに聞いた。
さかのぼること15年前、ガソリンスタンドの売上が低迷し副業として保険の仕事を秋仁さん。
その関係で知り合いを訪ねた帰り道、点滅信号の交差点に差し掛かった時16トントレーラーと側面衝突。乗っていた軽自動車はグチャグチャに。
左の肺破裂、横隔膜・脾臓も破裂、鎖骨骨折、肋骨も左がほとんど折れて、右の肋骨も2本骨折。右腕は路面に出たまま250メートル押されて、肌は見るに堪えない擦過傷。
それから7日間意識は戻らず、親族の皆さんは半分あきらめていたんじゃないかと思うほどの大事故だったそうだ。
事故から8日目、意識はなんとか戻ったもののからだを動かすと内蔵が揺れて痛み、退院後も家にいても「自分で何もできない」という負い目からそううつ状態。
そんな秋仁さんを見かねて、奥さまが沖縄への家族旅行を提案したのが運命だった。
気持ちが付いていっていなかった秋仁さんは、家族の意見に従って付いていくような感覚で特に思い入れもないまま沖縄へ。
ところが着いてみると、真っ青の空、青く澄んだ海、緑も深く、何を見ても鮮やかな世界が目の前に広がり、沈んだ気持ちを明るくしてくれる沖縄にあっという間に惹かれた。
その後再び沖縄を訪れ、現地の人たちの温かさを感じ、「沖縄に住みたい。沖縄になにかしら触れていたい」という想いから、イベントでの出店を経て現在の沖縄カフェ『果報(カフー)』を開店。
かき氷ブームやSNSが広まった時期とも重なって、その存在が知られるようになった。
今ではお台場や六本木ヒルズで開催される『かき氷コレクション』にも出店するほどの大人気店になった果報。
秋仁さんは、商売を大きくするのではなく、来てくれたお客さんと沖縄やサーフィンの話をしながらかき氷を提供するのが理想だと話す。
丁寧に氷を削る秋仁さん
見た目はガソリンスタンド、中に入ったら沖縄カフェという珍しい佇まいから興味を持ったが、沖縄への愛、人と人とのつながり、おいしいかき氷を提供したいという熱い想いを感じさせられる素敵なお店だった。
浜名湖の夕陽を臨む
帰り道、駐車場からはきれいな夕陽とそれを映す浜名湖が輝いていた。
沖縄の海ではないけれど、ここにも心洗われる風景があった。