特集 2018年6月17日

「アフリカの少年は全員バク転できる」説、7カ国で検証してみた

!
突然ですが、あなたは「バク転」ができますか?

オリンピックや世界体操などの体操競技、ジャニーズのパフォーマンスくらいでしか、見ることのないバク転。日本人でできる人は、ほとんどいないのではないでしょうか。

しかし、ここアフリカでは、かなりの数の少年がそんなスゴ技を繰り出すことができるんです。

※この記事は、 世界のカルチャーショックを集めたサイト「海外ZINE」の記事をデイリーポータルZ向けにリライトしたものです。
海外ZINEは、世界各地のカルチャーショックを現地在住ライターが紹介する読み物サイトです。 / 青年海外協力隊としてルワンダの農村で2年間活動。身長と体重と生まれた年がテイラー・スウィフトと同じ。


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「バク転」でふつうに遊ぶアフリカの少年たち

こちらはモザンビークで撮影した、海岸でバク転する子どもたちの様子。
こちらはモザンビークで撮影した、海岸でバク転する子どもたちの様子。
動画版。驚くべき身のこなし……! 彼らは日ごろからこうやって遊んでいるようです。
私の住んでいるルワンダでも、近所の子どもたちが原っぱで「ノリ!見てみて!」と声をかけてきて、何かと思ったら、いきなりその場でバク転しだしたことがありました。まじか……! どこにでもいるような、何の変哲もない子どもたちにこんなことができるなんて。
「少年時代の思い出」っぽい。
「少年時代の思い出」っぽい。
たしかに「黒人は生まれつき身体能力が高い」という話もよく耳にしますし、私の周りだと日頃の遊びでも身体を使って遊ぶものが多い気がします。日本と同じようにドッジボールや縄跳びもよく見かけますが、木登りは異常に速いですし、「タイヤ転がし」という遊び(上記のGIF動画)で上半身と下半身を連動させた動きも幼少期から鍛えられているようです。

やっぱりそれって、黒人の「バネ」のお陰なのか

世界陸上などの陸上競技を見ていても、上位進出者は黒人選手ばかりのイメージですよね。日本の駅伝でも黒人留学生が多いですし。「黒人の肉体にはバネがある」とも聞いたことがあります。

やはり、生まれつき身体能力が優れているんでしょうか。食生活は日本と比べればかなり質素で、特別なトレーニングもしていないのにしっかりした体つきの人も多いので、「やっぱり遺伝子が違うんだろうなあ」と思わざるを得ないことも多々あります。
ルワンダの中学生。特別な訓練を受けていないのに、筋肉がしっかりした人は多い。
ルワンダの中学生。特別な訓練を受けていないのに、筋肉がしっかりした人は多い。
ということは、もしかしたらモザンビークやルワンダに限らず、アフリカの子どもたちはみんなバク転できるんじゃないでしょうか? そこで今回は、「アフリカの子どもたち、みんなバク転できる説」を検証してみました。
Kazuma Matsuda提供
Kazuma Matsuda提供
ちなみに、この写真で子どもたちが取っているのはカンフーのポーズ。ルワンダでもジャッキー・チェンやブルース・リーの映画は有名で、アジア人を見るなり「カンフー教えて!」と声をかけてくる人は子どもに限らず、大人でもたくさんいます

続々と! アフリカ各地からの「バク転報告」

アフリカ各国在住の友人たちに目撃情報を尋ねてみたところ、ルワンダのほかにも、シエラレオネ、カメルーン、ザンビア、タンザニア、マラウイ、モザンビーク、といった計6カ国から「バク転報告」が続々と寄せられました。こんなにたくさん! やっぱりルワンダだけじゃなかったんですね。早速見ていきましょう。
タケダ作成のアフリカ・バク転マップ(©OpenStreetMap)
タケダ作成のアフリカ・バク転マップ(©OpenStreetMap)
裸足で凸凹の道路で普通にバク転しててビビります@シエラレオネ

■マラウイの村の近所のガキんちょは、乾燥させたメイズ(とうもろこし)をかき集め山にして、その上でバク転の練習してました!

■タンザニアの僻地もちっちゃい子たちよくバク転してますよー。みんなとうもろこしの皮ひきつめたとこに飛び込みながらバク転してます
クッション代わりのとうもろこしの皮(©FraWanMalE)
クッション代わりのとうもろこしの皮(©FraWanMalE)
■ザンビアでもバク宙しますよーーー!体幹トレーニング全然できんとに、なんでバク宙はできるんやろっち疑問です。バク転できる子が片足ケンケンできないとか全然ある事例です。多分勢いとジャンプ力でなんとかなるやつは得意やけど、体勢キープせなんやつが体幹使うから無理なんやと思います

■おれがルワンダで見たのは、バク宙できる二人組の子に二人三脚やらせたら10メートルも走れなかった!呼吸を合わせるのも苦手!聞いた話によると、バク転・バク宙は「千の丘の国」ルワンダの坂を利用して、子供達独自で練習しまくるみたいです。で、学校ではあまり団体で息を合わせてやる活動が少ないから、大縄跳びとかも苦手だそう。
ルワンダは起伏が激しいため「千の丘の国(Land of a thousand hills)」と呼ばれています。
ルワンダは起伏が激しいため「千の丘の国(Land of a thousand hills)」と呼ばれています。
■カメルーンの小学生、いきなりロンダート(側方倒立回転跳び1/4ひねり後向き)やバク転、バク宙しだす子結構います! それも、みんなでバク転して遊ぶ、とかではなく、移動している途中にふとやり始めます(笑)。指導者とかがいる感じではなく、みんな日常的に外でワーッて遊んでいる中で、誰かの真似をしたりしてできるようになったんだと思います!
カメルーンの体育の授業風景。もはや「体育」の域を超えている…!
カメルーンの体育の授業風景。もはや「体育」の域を超えている…!
■運動神経良さそうなカメルーン、小学校で体育の指導してますが、実は多くの子どもたちがでんぐり返しや馬跳びなどの基礎的な動きはヘタッピです(笑)。勢いでパワーを発散する系は得意な感じですが、力をコントロールするのは苦手なようで、馬跳びで怪我人続出しました(笑)

すごい! すごすぎるぞアフリカの子どもたち! 「とうもろこしの皮の山に飛び込みながらバク転」とか「いきなりロンダートしだす」とか、想像以上です。

これで、アフリカ計7カ国で「特別に訓練を受けたわけでもない子どもたちがバク転できる」ということが確認されました。しかし、個々人の身体能力は高くとも、片足跳びや二人三脚といった、バランス感覚を必要としたり、他人と息を合わせる動作は苦手な子どもが多いようです。
カメルーンの子どものでんぐり返し、確かに両足が揃っていない。
カメルーンの子どものでんぐり返し、確かに両足が揃っていない。
この目撃情報のみで「アフリカの子どもたちは全員バク転できる」とまでは言えませんが(当たり前)、12億以上の人口に対して8000人という、ただでさえ母数が少ないアフリカ在住の日本人(外務省 海外在留邦人数調査統計 2015年)からこれだけの数が寄せられたので、アフリカの少年がバク転できる確率はかなり高いということがお分かりいただけたと思います。

黒人のアスリートは「努力する天才」なのか

ところで、彼らが軽々とバク転できてしまうのは、「黒人だから」なのでしょうか

実は、『人種とスポーツ – 黒人は本当に「速く」「強い」のか』(中公新書)によると、「黒人であること」と「運動に優れている」ことの間に因果関係を見出すことは難しいと書かれています。

では、なぜ「黒人優位説」がこんなに広まったのでしょうか? その背景として、人種差別によって不可視の状態に置かれていた黒人が1930年代ごろから様々なスポーツで台頭してくるようになり、「黒人は先天的に有利なだけ」というステレオタイプ的な論調がメディアで繰り返し為されたためだと著者の川島浩平氏は指摘しています。「努力によって得られた結果ではない」と主張することで、白人や黄色人種が自分たちの優位を確保しようとしていた可能性があるんですね。
©Alvin Loke
©Alvin Loke
アフリカで出会った子どもたちは、バク転ができることをそれほど特別なことだとは思っていないようでした。おそらく「当たり前」と思えるほど幼い頃から練習してきた結果なのでしょう。

逆に、バランス感覚が必要な動きや、他人と呼吸を合わせることが苦手という報告が多かった理由としては、日本の学校で教えられた我々と比べて練習の機会が少なかったというだけのこととも考えられます。もしかしたら、「バク転の練習をする」という習慣がなかった日本人も、ある程度練習すれば彼らのようにひょいひょい回れるようになるのかもしれません。
以前調べたところ、ルワンダ農村部では1日1回の食事が当たり前。でも少年たちは走り回って元気ハツラツというふしぎ(「アフリカ・ルワンダの朝食を調べたら節約して食べていなかった」より)
以前調べたところ、ルワンダ農村部では1日1回の食事が当たり前。でも少年たちは走り回って元気ハツラツというふしぎ(「アフリカ・ルワンダの朝食を調べたら節約して食べていなかった」より)
しかし、先述の通り、アフリカで2年間生活した者としては、質素な食生活にもかかわらずしっかりした筋肉をもつ人が多いので、人種による差は少なからず存在すると考えています。さらに、先天的な素質だけに頼っているわけではなく、幼少期からバク転の練習などの努力もしていることは明らか。言わば「努力する天才」ということですね。

日ごろから練習をすれば、あなたもバク転できるかも?

アフリカの少年たちはほとんど全員バク転できる、でもそれは必ずしも「身体のバネが強い黒人だから」という理屈で済ませるには惜しい話。バク転に憧れのある方は、アフリカの子どもたちに負けじと練習してみてはいかがでしょうか(くれぐれもケガにはお気をつけて!)。
たらふく食べることは少ないかもしれないけど、みんな明るく元気です!
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