答えてくれたのはJOYSOUNDです
話を聞かせてくれたのは株式会社エクシング 制作部の金子さんと阿部さん。株式会社エクシングはカラオケJOYSOUNDを運営している会社である。お世話になっております。
左から阿部さん、金子さん
お話を伺ったのはエクシング社内にあるスタジオ。正直に言うとカラオケの会社にスタジオがあるとは思っていなかった。でも、ここでカラオケの楽曲が収録されているのだ。
ピアノ、ボーカルブースが分かれているすごいスタジオです
カラオケビデオの仕組み
――― まず基本的なところですが、背景映像はどうやって出しているんですか?
曲は毎月1000曲ずつ市場に配信されていますが、背景映像は最初からカラオケの機械のハードディスクにあらかじめ入っています。
ただ、本人が登場しているミュージックビデオに関しては毎月配信しています。
――― どうやって映像を選んでいるんでしょう?
何千種類というパターンを持っていまして、例えば失恋だと男女が出てきて悲しいような映像になるし、冬の海をうたっている演歌があると冬の海がドーンと出てくる。
――― 曲が複数あって映像が1ですか
正確には曲と映像はn 対 n です。同じ曲を歌う人が毎回同じ映像だと飽きてしまうので、違うものが出るように何本か持たせています。冬の海でも何本かのバージョンがあります。
―――同じ曲2回歌っても違う映像が出てくるんですね
だけど同じ曲を1時間に何十回も歌うと同じ映像が出てきます。
昔はまたこの映像だよみたいなのがあったと思いますが、今は減ってると思います。
我々もそうさせないように学んできましたし、ハードディスクの容量が増えたので映像を潤沢に準備できているというのもありますね。
お借りしたカラオケ背景映像に独自に歌詞っぽいテロップ追加
記憶に鮮明に残ってはいけない
――― 背景映像の大事なところは何ですか?
いちばん重要なところは記憶に鮮明に残ってはいけないということなんです。
カラオケはまず歌うお客様が一番です。その次にテロップ。映像は邪魔してはいけない、かつ違和感があってはいけない。
時代を感じる素材を出してしまうと、なんか古いものが置いてあるなとそっちに目がいってしまうんですね。
人は背景にあるものをすぐ気にしたがるので。
――― 目立ってはいけないクリエイティブって珍しいですね
音でも全く一緒なんですね。歌うのを邪魔しちゃうのがいちばんいけない。例えばいきなり変な音が鳴っているとかそういうことがないようにしています。元の CD 通りに作るというのがいちばん大事です。映像も音も違和感を与えないのがいちばん大事です。
――― ミュージシャンのベクトルと全く逆ですね
音も映像も個性が重要ですよね。そうなんですけれども我々の場合は個性はお客様なので。
お借りしたカラオケ背景映像に独自にテロップ追加
長く使えるもの
―――さっき、時代を感じる素材を出さないという話がありましたが具体的にはなんですか?
携帯は危ないですね。携帯電話はものすごくサイクルが早いので。特にガラケーの時代は半年に一回とかのサイクルで変わっていたので、それが映るといつだかすぐにわかってしまいます。
カラオケの機械を納品する時点で映像がほぼ入っていますので。
―――使われる期間は長いんですね
最近では最新機種への入れ替えのサイクルも早くなってきていますが、以前はカラオケボックスだと長くて5年ぐらい、スナックや居酒屋だと10年とか、長い期間使われることもありました。
だから、映像作って入れたらあと10年は使える映像にしないといけないと考えています。
業務用カラオケのカタログでは堅牢性をおしていて、いかに過酷な状況で使われるかがわかる
―――10年使われる前提って難しい!
出演される方のお化粧ですね。男性はそんなに変わらないですけれども、女性の眉毛はしょっちゅう変わるのでアップになっても違和感ないように気を付けています。
これは服装もしかりですね。
―――スタイリストさんにそういう依頼をするわけですか?
古くならないものというオーダーをします。それが非常に難しいところですね
他にも時代を感じさせるところとしては電化製品ですね。そういったものが映り込むといつ頃の製品だと思われてしまうので。
冒頭に1990年代のような、2010年代とも言えないと書いたが、意図的に作られていたものだったのだ!
ロケ地を選ぶときは2パターン
―――ロケ地はどうやって選んでいるんですか?
濁す場合とあえてロケ地をわかりやすくする場合の2パターンがあります。
後者の方で言いますとご当地ソングですね。名古屋で言うと石原裕次郎「白い街」、「ふたりの大阪」「恋の町札幌」これらはそこの映像の場所を出さないとなんともならないので。
――― 札幌、大阪はあると思いますが、まさかそんなところがそんなところのご当地ソングが登場するなんて、ってことはないですか?
それはもう撮りに行くしかないですね。ロケハンして場所を選んで撮影班が5、6人で回ってます。
映像は最初に搭載してますが、スカイツリーなどの新しいランドマークができたときは撮りに行って後から載せるということはやりますね
―――濁す場合というのは?
あまり場所を意識させないようにしています。高速道路を走る自動車というシーンでは場所を特定してしまうと、あそこだ!と思われてしまうのでなるべく分からない場所を使っています。
お借りしたカラオケ背景映像に独自にテロップ追加
カラオケ映像はそんなに動いてない
――― 曲のテンポはさまざまなのに映像があうのはどうしてですか?
あまり出していただきたくないんですけれども、実はカラオケの映像というのはあんまり動いてないんです。
もちろんテンポの速い曲専用だと動きのある映像はありますけれども。
演歌の映像ですと動いてるのは何箇所です。波だけが動いてるとか
――― 動いてない!そういえばエクストリームバイクみたいな映像ないですね。
カラオケではテロップを見せないといけないので、テロップの塗りと同じ方向に違う速度で物が動くと人間は場所が追えなくなってしまうんです。
そのため、どの映像もテロップと同じ方向に動くというのはないです。錯覚が生じてしまいますので。これが一番のテクニックですね。トップシークレットのところです。
―――トップシークレットありがとうございます!動画を左右に振らない代わりに奥行きとか エフェクトになるんですね
何かに焦点を当ててそれを動かすとかそういうことはしないです。そうなると効果は限られてきます。ピントが動くぐらいの動きになっていると思います。
―――ダンスの映像は煽りが多いですね
そうですね。景色は水平が多いですし、俯瞰の映像って少ないですね。まだドローンは使ってないので一度やってみたいです。
ドローンで天城峠を越えたりしたいですね。
カラオケ背景映像っぽい画像を作ってテロップを追加(こういうエフェクトもよく見る)
モデル選びのひみつ
―――どうやって出演者を選んでいますか?
あまりにも特徴がある人だとちょっと残っちゃいますんで…あんまり特徴がない人、一般的なモデルさんになりますね。
――― 10秒から15秒モデルが登場して心象風景、というパターンが多い気がしますが、人はずっと出さないようにしているんですか
ずっと人が出ているとそのイメージがついてしまうので出てくるのは要所要所ですね。でも出す位置がとても難しいんですよ。
―――位置ですか?
テロップにかかってしまうので、下のほうがあくように撮らないといけない。人が画面の下の方にいると文字と重なってしまうので。
でも、曲によってはかぶってしまうことはあります。
――― カラオケの映像って背景に文字がないですね
看板とかがたまにあるぐらいですね。なるべく映さないようにしています。文字があるとそっちに行ってしまいますから
カラオケ背景映像っぽい画像を作ってテロップを追加
映像のテーマはどうやって選ぶ?
――― 背景映像にはシナリオがあるんでしょうか。
やっぱり最初に絵コンテを書いています。台本を作るときに元となるのが曲の歌詞です。
例えば冬の海の歌だと、夜か朝か、暖かいのか寒いか天気はどうだとかそういうのを平均的にとっていきます。複数の曲の歌詞を解析するといろんな曲に合わせやすくなります。
冬の海なら朝パターン、夜パターン、吹雪いてるパターンなどいくつもあってコンテを書いていくんです。
――― よく出る言葉を映像にするわけですか?
いや、言葉そのままではなく、楽曲に適したイメージを言葉にしたもの並べていってストーリーを作ります。
楽曲って例えば絶対出てこない言葉とかもありますよね「進捗率が30%」とかそんな言葉が出てこない。
逆に「彼のハートを」や「あの空を越えて」というフレーズは出てくるので、それに合わせやすい単語でストーリーを作るような形ですね。
いま、ノウハウの核心を聞いてます
――― 歌詞から想像されるイメージ、それに合うモチーフを選ぶということでしょうか?
演歌をイメージするとわかりやすいと思います。酒とか船の歌があるとして。
お酒でも演歌だとテキーラでイエー!ではないので、そういう映像には絶対ならないし、船も豪華客船ではなくてどちらかといえば漁船。そうすると自ずとストーリーは決まってきます。
――― 筋肉少女帯みたいな独特の歌詞は難しくないですか?
難しいですね…。難しい言葉とか比喩的な表現が多いとかになってくると残念ながら意味と合致しないことが出てきてしまいますね 。
あとはアニメソングが難しいですね。
――― アニソン難しいのはなぜ?
アニメソングはひとつのジャンルのように思われてますけれども、曲のジャンルで言うとありとあらゆるものがあるので。
それにアニメソングは作品のイメージがついているので、その作品の映像を使わせていただけるのがいちばんいいです。そうじゃない場合には本当に違和感のないものを出すしかない。
アニメがいちばんつらいです…。
雰囲気すべてに理由があった
なんとなくかっこいいものを作る人はなんとなく作っていない。こうして作るとかっこよくなる、というのを知って作っている。
カラオケ背景映像もそれであった。
あのなんとなく独特の雰囲気は、ひとつひとつのノウハウに基づいた結果だったのだ。
目立たない、動かない、特定されない、10年使える。
カラオケ背景映像を鑑賞する会を開きたい。
そして自分でも作りたくなっている。