特集 2018年2月23日

お祖父さんが作ったドールハウスが泣けるほど昭和の住宅だった

私ごとですが、この前のクリスマス、3歳の娘にシルバニアファミリーの家と人形をプレゼントした。ネットで購入した家が届いたとき、妻が「そういえば、子供の頃におじいちゃんが作ってくれたドールハウスが実家にあるはず」と言った。「すごい団地っぽかった」という。

団地っぽいドールハウスって何だ?と思ったけれど、正月に帰省したときに発掘したところ、何もかもが想像以上のシロモノが出てきたので紹介させてほしい。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:角の洋品店のウインドウサインが素敵だった

> 個人サイト ダムサイト

泣けるほど昭和のドールハウス

まずはこちらを見ていただきたい。クリスマスに(サンタさんが)娘にプレゼントしたシルバニアファミリーの家だ。
いかにもシルバニアな欧米風の家
いかにもシルバニアな欧米風の家
収納時は折り畳むことができ、遊ぶときは180度開く
収納時は折り畳むことができ、遊ぶときは180度開く
二階建てで階段もある
二階建てで階段もある
そして正月に発掘された、妻が子供の頃、妻の祖父が作ってくれたというドールハウスがこれだ。
泣けるほど昭和な日本風の家
泣けるほど昭和な日本風の家
収納時は折り畳むことができ、遊ぶときは180度開く
収納時は折り畳むことができ、遊ぶときは180度開く
二階建てで階段もある
二階建てで階段もある
どうだろう。偶然にも構成している要素はほとんど同じなのに、雰囲気はジャニーズと石原軍団くらい対極にある。

義母の話によると、妻が小学校低学年の頃、シルバニアファミリーの家がほしい、とねだられ、買ってもいいけれどプラスチックの家よりは木の家を使わせたい、と思い、日曜大工が趣味だった義母の父に相談したところ、数ヶ月後にこれが用意されていたという。家だけでなく、食器以外は家具も建具もすべて手作りだそうだ。
閉じたときの外観はヘーベルハウスのようだ
閉じたときの外観はヘーベルハウスのようだ
欧米風の家を想像していた義母は思わず「夢がない!」と思ったという
欧米風の家を想像していた義母は思わず「夢がない!」と思ったという
シルバニアファミリーの家をリクエストして、出来上がったのが80年代日本の中流住宅。ジブリ映画を頼んだのに伊丹作品を借りてきた、という感じだろうか。しかし子供だった妻は特に不満を言うでもなく、楽しそうに遊んでいたという。

というか、このドールハウス、よく見ると構造も作り込みも昭和っぽさもはんぱない。見れば見るほど、半笑いで「すげぇ...」と唸るほどなのだ。
玄関の石畳や床の木目の再現とか
玄関の石畳や床の木目の再現とか
応接室っぽい部屋の座卓とかじゅうたんの色とか
応接室っぽい部屋の座卓とかじゅうたんの色とか
ダイニングセットとか床材の質感とか(食器棚の食器のみ買ったものだそう)
ダイニングセットとか床材の質感とか(食器棚の食器のみ買ったものだそう)
青いタイルや深い浴槽はまさに昭和の家
青いタイルや深い浴槽はまさに昭和の家
すべての扉は開け閉めできる
すべての扉は開け閉めできる
掃除機とか古新聞の束とか置いてあるスペース
掃除機とか古新聞の束とか置いてあるスペース
構造と質感の両方が「本物と同じ見た目」ってすごいと思う
構造と質感の両方が「本物と同じ見た目」ってすごいと思う
友達の家がこういう階段だった!
友達の家がこういう階段だった!
住んだことないけど見たことある部屋
住んだことないけど見たことある部屋
引き戸を開けたときのこのツライチ感!
引き戸を開けたときのこのツライチ感!
昔のアルミサッシってこうフレームが太い感じだったよね
昔のアルミサッシってこうフレームが太い感じだったよね
挙げればキリがないくらい、もうすべての場所が「なんか見たことある」のだ。2階寝室の人工芝のような緑色のじゅうたんなんて、いまの感覚ではあり得なさそうだけど、でもいつかどこかで見たことある。じっと見ていると本当に30年くらい記憶が戻る感覚に襲われるのだ。

そして、見た目だけでなく、開き戸や引き戸はスムーズに動くし最小限の隙間でピッタリ閉まるし、全体的な工作の精度が恐ろしく高い。リクエストを受けてからほんの数ヶ月でこんなものをポンと出してくるなんて、お祖父さんは何者だったのだろう。
いったん広告です

家具も手作りである

せっかくなので中身をもう少し紹介したい。家だけでなく家具も手作りらしく、そのひとつひとつが手の込んだ作りになっているのだ。
一見するとシンプルな座卓だけど...
一見するとシンプルな座卓だけど...
わざわざ脚に微妙なカーブをかけていたり
わざわざ脚に微妙なカーブをかけていたり
よくある感じのダイニングセットも
よくある感じのダイニングセットも
真ん中と縁で板目を変えているのすごくない?
真ん中と縁で板目を変えているのすごくない?
椅子も座面にクッションが貼ってあるのはもちろん、
椅子も座面にクッションが貼ってあるのはもちろん、
背もたれのわずかなカーブ、シルバニアの背中を支えるのに再現する必要ある?
背もたれのわずかなカーブ、シルバニアの背中を支えるのに再現する必要ある?
たぶんドールハウスにマストな鏡台は...
たぶんドールハウスにマストな鏡台は...
もちろんすべての扉が開くし鏡の角度も変えられる(いま気づいたけど縦長の扉の中に棚がある!)
もちろんすべての扉が開くし鏡の角度も変えられる(いま気づいたけど縦長の扉の中に棚がある!)
このタンスがまたすごくて
このタンスがまたすごくて
この工作精度!
というわけで、(当時の住宅の)再現度、工作精度がやたら高い、ということはお分かりいただけただろうか。
大きさを比べるものとしてプラレールを置いてみた
大きさを比べるものとしてプラレールを置いてみた
でも、住宅も、昭和も、ましてやドールハウスも、僕は専門外なので自信がない。それぞれ本当にすごいのか、その道に詳しい人に実際に見てもらいたいと思い、内覧会を開催することにした。
いったん広告です

内覧会を開催

声をかけたのは、高度経済成長期のビルを愛でる「東京ビルさんぽ」のメンバーとして「いいビルの世界」という本も出しているバドンさん上野タケシさんのお二人。バドンさんはその道では知らぬ者のいない団地マニアであり、上野さんは本職の建築家だ。そして、当サイトからはライターの西村さんにも来ていただいた。
西村「これやばくないですか」
西村「これやばくないですか」
さっそく皆さん食いついてくれた!僕が感じたすごさは単純にすごさとして捉えてよいようだ。

上野さんによると「ドールハウスは1フィートを1インチに縮小した12分の1が標準」なのだそうだ。それに対してこの家はおよそ15分の1から18分の1くらいのスケール。どうしてこの大きさになったのか分からないけれど、シルバニアファミリーが対象と考えるとちょうど良いと思う。
いきなりメジャーで測り出すところがプロっぽい
いきなりメジャーで測り出すところがプロっぽい
バドン「これ、ヘーベルハウスの初期型にすごく似てる」 (画像を一部修正しています)
バドン「これ、ヘーベルハウスの初期型にすごく似てる」
(画像を一部修正しています)
そう、ヘーベルハウスっぽいな、と思って調べたら興味深いことが分かった。シルバニアファミリーの発売が1985年なのでこの家が作られたのもそれ以降のはず(シルバニアファミリーの家というオーダーなので)、そしてヘーベルハウスのCMで「ハーイ」と屋根を掲げるキャラクター「ヘーベル君」が登場したのも1985年らしい。

さらに、お祖父さんがモデルにした家に心当たりありますか、と義母に聞いたところ、当時住んでいた家の近くに白い四角い家が建って、それを見たのではないか、とのことだった。たぶんテレビでヘーベルハウスのCMも見ただろう。

つまりこの家には、1985年前後の局地的な住宅情報がぎゅっと詰まっているのではないだろうか。
上野「この扉、蝶番の板の上から板を貼って隠してる」
上野「この扉、蝶番の板の上から板を貼って隠してる」
建築家らしく、細かい構造の部分のこだわりを指摘する上野さん。蝶番はプレート状の部分を扉と枠に固定するんだけど、そのプレートが表に出ないように板で挟み込んであるのだ。
蝶番の板が挟み込まれている
蝶番の板が挟み込まれている
理由ははっきりしないけれど、ビスが打ち込めないくらい小さいから強力に接着させるためではないか、とのこと。また、全体的にネジや釘の頭を潰したり削って埋め込んであったり、小さい子供が触っても怪我をしない、そしてそう簡単に壊れないような造りが徹底されていることが分かった。
閉じたときに階段の吹き抜けを塞ぐ、透明なプレートの根元の蝶番も、固定したあと頭を削り取っている
閉じたときに階段の吹き抜けを塞ぐ、透明なプレートの根元の蝶番も、固定したあと頭を削り取っている
萩原「そういう意味で言うと、これもこだわりだと思うんですけど...」
玄関から入った最初の部屋の天井だけ、横向きに梁が通っている
玄関から入った最初の部屋の天井だけ、横向きに梁が通っている
ほかの部屋にはない梁。これに何の意味があるのかと思ったら、そのまま伸ばして階段の最上部を支える片持ち梁になっているようだった。接着してしまえばここまでの強度は必要ないはずだけど、我慢ならなかったんだろう。
梁が壁を貫通して階段の最上部を支えている
梁が壁を貫通して階段の最上部を支えている
一同「シルバニアの体重を支えるための片持ち梁!」

というわけで、構造的にもかなりのこだわりがあちこちに見てとれた。何しろ屋根についている取っ手の場所を完全に中心にするため、壁の一部を削り取ったりもしているのだ。
屋根についている取っ手(これもネジを曲げたりして手作りしている)
屋根についている取っ手(これもネジを曲げたりして手作りしている)
僕だったら削るの面倒で取っ手を1mmくらいずらしてる(そして微妙にバランス取れなくなる)
僕だったら削るの面倒で取っ手を1mmくらいずらしてる(そして微妙にバランス取れなくなる)
そのほかにも、木で再現されたお風呂のタイルの、上部が壁に向かって収まり良く丸く加工されていて、これを役物というらしいのだけど、それがちゃんと再現されているとか、
バドン「あー役物!役物いいよねぇー」 西村「子供はこの手仕事は理解できないよなー」
バドン「あー役物!役物いいよねぇー」
西村「子供はこの手仕事は理解できないよなー」
寝室の緑色のじゅうたん、剥がして畳が出てきたらどうする!?などと内覧会は盛り上がった。
よく見たらじゅうたんの端をピンで留めてあったりして...
よく見たらじゅうたんの端をピンで留めてあったりして...
しかし、どうしてそうなっているのか分からないところもあって、これは作った本人に聞いてみたかった、という部分も多い。妻の祖父は25年くらい前に亡くなっているので叶わないのだけど。

「じゃあ、恐山、行きますか?」


ところで、どうしてここまで精度が高く細かい作業ができるのか、という点だけど、義母に聞いたところ、お祖父さんはとある新聞社で活字を作る仕事をしていたという。しかも、もともと実家が鍛冶屋で、鋳造もしていたというから、技術はかなりのものだったのではないかと思う。

さらに、日曜大工は趣味の域を超え、自宅に中二階のような倉庫を作ったり、家具をバラしてリメイクしたり、その家具はいまも妻の実家で使われているそうだ。近所で大工さんが仕事をしていると見に行って、ずっと質問をしたりもしていたらしく、いつか家を建てたい、という夢を持っていたらしい。

だから、きっと、このドールハウスはお祖父さんが作りたかった夢のマイホームのプロトタイプなんじゃないか、と思った。
子供たちの夢の家とお祖父さんの夢の家を並べてみた
子供たちの夢の家とお祖父さんの夢の家を並べてみた

とつぜん出てきたドールハウスの精巧さに驚いて右往左往する日々だった。夢がない、と思われた昭和の家だけど、もしかしたらお祖父さんの夢を形にした家なのかも知れない、と考えると大事に受け継いでいかなければ、と思った。
試しに娘に見せたらクリスマスにあげた家では遊ばなくなってしまった
試しに娘に見せたらクリスマスにあげた家では遊ばなくなってしまった
▽デイリーポータルZトップへ

デイリーポータルZを

 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓