ヨナグニサン、ヨナグニシュウダにキシノウエトカゲと、でかくてかっこいいものに事欠かない最西端の絶海の孤島で、でかくてかっこいい溝に出会ってしまった。他にも日本のどこかに、こんな石造りのかっこいいテキサスゲートがあるだろうか。そしてアメリカのテキサスにもテキサスゲートはあるのだろうか。興味はつきない。
イケメンヘビに会いたくて
そのヘビを見たとき、一般的な爬虫類に対していだく「かわいい」だとか「かっこいい」というものを超越した色気を感じた。精悍でするどい、それでいてどこか憂いや虚無感を漂わせた表情。市川雷蔵演じる眠狂四郎に流し目されたような。
こういうポージングですっと動きを止める。
ヘビの名はヨナグニシュウダ。日本の最西端、与那国島だけに住む日本最大級のヘビである。
現地で見るには最西端までいかなきゃならんのか、俺は太陽かと調べたら飛行機を乗り継いで意外とさっくり行けるじゃないか。思わずその流れで航空券を予約してしまった。カード払いはいい。なんといっても金を使った気がしない。(後で脳が揺れるくらい請求がくるので気をつけよう)
現地で見るには最西端までいかなきゃならんのか、俺は太陽かと調べたら飛行機を乗り継いで意外とさっくり行けるじゃないか。思わずその流れで航空券を予約してしまった。カード払いはいい。なんといっても金を使った気がしない。(後で脳が揺れるくらい請求がくるので気をつけよう)
台風一過の与那国島。
荷物引き取り場のジオラマ。こんな感じの島です。
おっかなびっくり遠巻きに見ていた新宿伊勢丹メンズ館のコムデギャルソンコーナーに一歩も足を踏み入れる事なくこの歳になった。結局伊勢丹より先に西端にきてしまった。到達のしにくさは距離ではない、敷居の高さなのだ。
「西」を体で表現。慣れない事はするもんじゃない。
日本最西端の碑の後ろには日本最西端の擬木が。
マンホールも最西端推し。「そない」「おすい」のリズムが気持ちいい。
日本最西端の来夢来人ではないだろうか。
ひとしきり最西端を堪能して島の中央東寄りにあるアヤミハビル館を訪れる。
ヨナグニシュウダの情報もきっとここに。
「アヤミハビル」とはこの島に住む開長(羽を広げた時の幅)18cm~24cmにもなるやたらでかい蛾「ヨナグニサン」のことで、ヨナグニシュウダよりむしろこちらの方が有名だ。
生きているヨナグニサンがいた。でかい!
モフモフ!
美しい羽の先端の模様はヘビを模していると言われている。
アヤミバハル館ではこのモスラ以外にも与那国に生息する数々の生き物を展示しており、もちろん、ヨナグニシュウダもいる。
飼育されているシュウダ。180cmを超える大型。
駐在している方にヨナグニシュウダの動向をたずねたところ、
台風の影響で与那国には数日にわたって強い雨が降った後でヘビの活動に関してはかなりいい条件らしい。ではシュウダはどのへんに出没するのか。
台風の影響で与那国には数日にわたって強い雨が降った後でヘビの活動に関してはかなりいい条件らしい。ではシュウダはどのへんに出没するのか。
かっこいいが危険を感じると臭いにおいを出す。だから臭蛇、くさかっこいい。
「山道や家畜小屋の周辺などはもちろんですが遭遇できるかはタイミング次第ですね。有名な観光地でも出るし私は空港の前の県道を横切るのを見ました。え、ここ?みたいなところにすっと出ることもあります。」
どこかにすっと……。
なるほど。探索の方針は決まった。てきとうに島を回ろう。
日本最大のトカゲ、キシノウエトカゲの幼体。大きくなると40cmにもなる。スペースシャトルみたいなでかいのが道路を横切って息を飲んだ。
すっとぼけたカジキ。
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車と脳をがんがん揺らした溝、テキサスゲート
山道やら県道やらをシュウダいますかと言いながら回っていたら突然車が発作のように上下にガタガタと激しく揺れた。車を停めて振り返ると道路を大きく、深い溝が横切っている。
道路をばっつり寸断。
存在感のある溝だな。
居眠り防止にしては大げさだ。
一体なんなのか。こんなに車ガタガタ言わしてなにがしたいのか。
観光マップにはちゃんとこの溝が記載されていた。「テキサスゲート」というらしい。名前が無闇にかっこいい。
一体なんなのか。こんなに車ガタガタ言わしてなにがしたいのか。
観光マップにはちゃんとこの溝が記載されていた。「テキサスゲート」というらしい。名前が無闇にかっこいい。
南西諸島にいきなりのテキサス。
与那国島には3つの大きな牧場があり、日本在来種にして天然記念物の与那国馬や黒毛和牛が放牧されている。門や柵があるわけでもなく、中を普通の道路が通るシームレスな牧場だ。
かつては農耕馬として活躍した貴重な日本在来場の1種。一時は激減したが現在はなんとか回復傾向にある。
馬はまつげが長くてキレイでドキッとしますね。
放牧の放ち具合もかなりフリーダムでお馬さんは道路の真ん中をガンガンほっつき歩いている。
前を馬、後ろを工事車両に挟まれた。
交通整理も馬の前では無力。
ちなみにヤギも道路にいたが振り向いてこっち見るのがなんか腹立つ。
ただどこまでも自由に歩いていいですよ、ここはしゃかりきコロンブスが探せない夢の島ですよというわけにもいかない。
そこで馬や牛が街中に行かないように設けられた設備がこのテキサスゲートなのだ。
幅,深さ20cm、深さ30cmほどの連続した溝、ただこれだけなのだが馬や牛はひづめがはまってしまうのを恐れて渡ろうとしない。
そこで馬や牛が街中に行かないように設けられた設備がこのテキサスゲートなのだ。
幅,深さ20cm、深さ30cmほどの連続した溝、ただこれだけなのだが馬や牛はひづめがはまってしまうのを恐れて渡ろうとしない。
これ必要か?という気がしなくもないが図です。
山間の畑ではイノシシなど害獣の侵入を防ぐのにも使われているらしい。そういえば金物の網のようなものが道に埋められているのを見たことがあるがこんなに重厚なものは初めて見た。
「なんか、かっこいいな」
柵や扉を設けなくても動物の習性を利用して行動範囲を限定する叡智、そしてこれが牧場の中に島の一部が存在するような独特の雰囲気作りに一役買っているのだ。
「なんか、かっこいいな」
柵や扉を設けなくても動物の習性を利用して行動範囲を限定する叡智、そしてこれが牧場の中に島の一部が存在するような独特の雰囲気作りに一役買っているのだ。
これは間違いなくかっこいい。
装飾味のないシンプルなコンクリートの表面は所々摩擦で削られ遺跡のような風合い。溝の中には水がたまっており、見方によっては古き良きダムのようにも見える。水面を覗いてみるとそこはビオトープというか溝トープになっていた。
サキシマヌマガエルのオタマジャクシかな。
タイワンマツモムシが宇宙船のように遊泳している。
水上を目にも止まらぬスピードですべるように泳ぐタイワンオオミズスマシ。
地図には東牧場と南牧場にそれぞれ2カ所、計4カ所のテキサスゲートが記載されている。残り3カ所も見てこよう。
牧場の境界に付けられている。今見て「ほほう」と感心していたのは(1)
南牧場の反対側(上の地図でいうところの(2))へやってきた。
溝の水はそれほどたまっておらず、深さが強調されている。馬にとっては落ちたら骨がやばい感が増幅されて見えることだろう。
デス・スターの換気ダクトにつながっているに違いない。Xウイングで低空侵入したくなる。
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東牧場のテキサスゲートへ
場所によって異なる表情で牛馬をあわよくばコケさそうとにらみを効かせているテキサスゲート。東牧場ではどんな感じになっているのか。逆に隆起してたりして。
おお!溝緑化(上の地図でいうところの(3))
水耕栽培キットで丹念に育てたような芝が溝を埋め尽くしている。コンクリートとグリーンのボーダーが美しい。
寝そべってノンアルコールビールでも飲みたくなる気持ち良さ、こうなると牛馬もむしろ積極的に渡りたくならないだろうか。
と思ったがゲートの内側にしか糞がなかった。越えてない、効果実感!
ゲートを超えて牧場に入ると今度は牛の王国となっていた。
角がそそり立っていてなんか馬よりこわい。
東牧場には最西端の島の最東端、東崎灯台がある。
南牧場と同じで反対側は溝が強調されていてこわい。
角度によっては階段に見えるというトリックアートも発見しした。
かがみ込んで熱心に撮影していたら旅行者に「さっきからすごくテキサスゲート撮影してますよね」と話しかけられた。何度もテキサスゲートで目撃されたのでテキサスゲートの妖精あつかいされたのだろう。小さい島の観光あるあるだ。
こうして最西端の足元の絶景を堪能したわけだがそもそもの目的だったヘビ界の眠狂四郎、ヨナグニシュウダはどうしたのか。もちろん、昼夜を問わずせまい島を何周も走り探し回った。
こうして最西端の足元の絶景を堪能したわけだがそもそもの目的だったヘビ界の眠狂四郎、ヨナグニシュウダはどうしたのか。もちろん、昼夜を問わずせまい島を何周も走り探し回った。
しかし見つかったのは死体だけだった、無念……。
太陽が一番遅く落ちる島の鮮烈な夕日を眺めながらテキサスゲートに出会ってよかったと心から思った。
思わず「火事だ」と間抜けな感想が口をついて出た
ヤシガニもかっこいいよ与那国。