ネパール料理屋の店主にその存在を聞く
グンドゥルックの存在を知ったのは、昨年末公開されたライター榎並さんの記事取材に同行した時でした。こちらの記事。
まずい料理、プロのひと手間でおいしく&ネパールになった
オーナーの齋藤さんに、ネパールには何か発酵食品はありますかと取材後に聞いた時のこと。グンドゥルックという食材がありますよと教えていただきました。
板橋区大山のネパール料理店マナカマナのオーナーでネパール料理研究家でもある齋藤さん。今回の記事でもお世話になりました。
齋藤さんによれば、グンドゥルックはカレーやスープに入れたり、和え物にしたりして食べると旨味が増して美味しいとのこと。発酵しているためほんのり酸っぱいそうだ。
ほう、それは食べてみたい。
ネパール料理と食材の店「ソルティカージャガル」。と、書いてあるのかな?
ということでやってきたのが新大久保。コリアンタウンとして有名だったこの町は、今ではインド、ネパール、タイなどエスニックな料理や食材が揃っていることでも有名です。
調べたところ、新大久保駅を出て線路沿いの「イスラム横丁」なる通りにある店でグンドゥルックを扱っているらしい。
左奥に食堂もあって、お店の方に食事を熱烈に進められたが、今回はグンドゥルックだけで。また来ます。
通りの中ほどのビルの2階。目的の店「ソルティカージャガル」がありました。店内に入りキョロキョロしていると、店の人(ネパール人)が声をかけてくる。グンドゥルックはありますか?と聞いたら、あるよと奥の棚を指さします。
値札が読めない。
ありました。グンドゥルック。日本語が通じる人だったので、これで間違いない・・・でしょう。ネットで写真は見ていったので、多分これです。買って帰りました。
お茶の葉?
そして買ってきた物を皿に出してみたらこのビジュアル。これ食えるのか?カッサカサです。香りは少し漬物的な香りがします。
とりあえずカレー風味のスープにします。
若干不安になったので、マナカマナの齋藤さんに写真を送って確認しました。これで間違いないと返事をいただく。
保存用の物はカサカサになるまでよく乾燥させるそうです。使う時は軽く洗って水で戻して使います。スープにする場合は戻し水も使うと美味しいそうです。
外国の田舎町とかの食堂で出てきそうなスープが出来た。
情報を元に買ってきたグンドゥルックを水で戻し、戻し汁と共にスープにしてみました。具材は、ネパールでは豆をよく食べるらしいので、大豆の水煮。あとはカレー粉、塩、胡椒、トマトペーストなどで味付けました。
分量的にはこんな感じ。4人分ぐらい出来ます。
・グンドゥルック 1袋
・大豆水煮 1袋(200g)
・トマト水煮缶 1缶
・カレー粉 小さじ2
・塩 小さじ1
・胡椒 適量
・オリーブオイル 適量
あっ、グンドゥルックうまいな。
グンドゥルックの部分を食べてみると、ほんのり酸味があり、漬物を食べた時のような独特の旨味を感じます。野沢菜漬けとかが近いかもしれません。なかなかうまいです。
ただ、ちょっと繊維が多く、気にしなければ問題ないレベルですが口に当たります。齋藤さんによると使う青菜の種類によってその辺りは変わるようです。
いずれにしろ、グンドゥルックは見た目とは違い、うまい食材でした。これ、自分でも作れないだろうか。
自分で作ってみよう
ということで、再び齋藤さんに聞いたところ、日本でも一応作れるとの答え。ならば作ってみようと材料を調達に行きます。
都内にも農協の直売所が幾つかあります。こちらは練馬や板橋で栽培された野菜売っています。
やってきたのは都内にある農協の直売所。齋藤さんによれば、マナカマナでもグンドゥルックを作るそうで、その時は高菜をよく使っているとのこと。硬めの繊維のしっかりした青菜が向いているそうです。
大根やカブの葉でも出来るのではないかということだったので、葉付きの野菜を売っていそうなこちらにやってきました。
捨てられそうになっていたやつも貰ってきました。
流石は直売所。スーパーとは違い、葉付き、泥付きの物が入手出来ました。これを使って自家製グンドゥルックに挑みます。
そして、ちゃんと出来たのですが、途中経過が何かもう凄かったです。初めてこれを食べた人は勇気があるなーという感じでした。
ぬるま湯だけの発酵
グンドゥルックの作り方は以下のようになります。
・青菜の繊維を切るようによく叩いて干す。
・シナシナになったら漬物容器に入れて更によく叩く。
・ぬるま湯を入れて重石をしたら暖かい場所(20から25度ぐらい)においておく。
・黄色い発酵した水が上がってきたら取り出して干す。
こんな感じです。最後の干す部分は、長期の常温保存用にカサカサになるまで干すか、表面だけ干して冷凍保存にするかのどちらかになります。
齋藤さんによれば、表面だけ干す程度の物の方が味としてはいいということでしたが、両方挑んでみます。
葉以外の部分は別の料理に。
まずは第一段階。青菜を集めます。黄色くしおれた部分は取り除きます。
大ざる2杯分の青菜。この後どんどん小さくなっていく。
サッと水であらい、水気を切ったら次の工程。すりこぎで叩いて潰していきます。
よく叩くのがうまく作るコツらしいです。
よく叩いて潰したら次は干します。現地ではザルに広げて天日干しにするようですが、ここは日本。大都市東京。干し網に入れて風通しのいい窓際に干します。
あると便利な三段干し網。
そのうちシナシナになってくるので、そうなったら次の工程へ。およそ4日ほど干しました。
大ざる2杯がこれだけに。
続いては漬物容器に入れて更によく叩きます。そうすることで乳酸菌が活動しやすくなるのでしょうか?よく分かりませんが言われた通りに叩きます。
更に小さくなっていく青菜。
続いて、よく叩いた青菜の上にぬるま湯を浸るぐらいまで入れます。塩は入れません。ぬるま湯だけです。
これだけで大丈夫なのだろうか?
あとは重石をして暖かいところに置いておきます。早ければ1、2日程度で発酵してくるそうです。
漬けた直後。透明なつけ汁。というか現時点では、塩も入っていないただのぬるま湯。
この色、大丈夫か?
季節は冬。暖かいところということだったので、容器を毛布に包み暖房の近くに置いておきました。夜もなるべく暖かいところに置いておよそ2日。
容器の中がとんでもない事になっていました。
黄色い・・・
発酵して黄色い水が上がってくるとは聞いていましたが、予想以上に黄色い。そしてなんだかにごっている。これ、くさ・・いや、発酵したんだな。
凄い色ですが、香りは悪くありません。
フタを外して中をみると、更に黄色い。そしてにごりも結構ある。これ、くさっ・・いや、発酵したんだな。
確かに、色は凄いのですが、香りは野沢菜漬けなどと同じような香りがします。全く嫌な臭いじゃない。
慌ててマナカマナの齋藤さんに写真を送って確認したところ、このぐらい黄色くにごる。これで大丈夫と返事をもらう。汁を舐めて酸っぱかったら完成ですとのことでした。
汁を舐めて酸っぱかったら・・
発酵は成功していました。グンドゥルック、乾燥前までは完成。
ということで、勇気を出して汁を舐めてみたらしっかり漬物を食べたときのような酸っぱさ。どうやら発酵は成功したようです。
酸っぱいということは植物性乳酸菌の影響でしょうか。このままの状態を食べてみたところ、塩気のうすい(無い?)野沢菜漬けといった感じです。なかなか美味しい。
ここから更に乾燥工程に入ります。そして、出来上がった物をネパールの人に見てもらうことにしました。
半生と完全乾燥
続いては発酵が終わったグンドゥルックを乾燥させます
まだ汁が多めなので最初はザルに入れて乾燥。
表面が全体的に乾いたら、半分はこの状態で冷凍保存用に小分けにして、残り半分は更に乾燥させます。
このぐらいまで乾かす。和え物のような料理の時はこちらの方が味がいいそうです。
冷凍しておくと風味が長持ちするそうです。完全に乾燥させれば常温でも保存できます。
塩茹でした大根の葉をこんな風に冷凍しておいて、みそ汁に入れたりすることは今まであった。これからは発酵させてからにしようか。
もうこんなに小さくカサカサに。
黒く変色してカサカサに乾いていたら乾燥終了。グンドゥルック作り終了です。
買ってきた物と見た目は違うがグンドッルックになりました。
では、これを現地の人に見てもらって出来栄えを確認してもらいましょう。
板橋区大山、マナカマナ。何度もお世話になります。
マナカマナです。齋藤さんにお願いして、実際にグンドゥルックを使った料理を特別に作っていただき、現地の味を確認します。
そして、ネパール人のシェフに自作のグンドゥルックがちゃんとできているのかの判定もしてもらいました。
事前に連絡の上、ランチタイムの終わり近くに来て別料金で特別にお願いして作っていただきました。グンドゥルック料理は常にあるわけではありません。
こちらが作っていただいたグンドゥルックを使った料理です。
グンドゥルックサデコ。ビールにとてもよく合う味です。
グンドゥルックサデコ。グンドゥルックを使った和え物。グンドゥルックの他、煎り豆や玉葱、茹でたジャガイモが入っています。
スパイスのとてもいい香りが漂ってくる。
こりゃー、うまい!ビールが手放せないうまさ!
食べてみると、ちょっと酸味があり、カレーの香りの後に辛さがやってきます。ただの青菜とは違い、酸味と共に複雑な旨味を感じます。煎り豆のポリポリとした食感もいいアクセントとなって、香ばしい風味がスパイスの香りを引き立てます。これは実にうまい!
ランチビールだってのに、2杯目に行きそうになるうまさ。
新大久保で買ってきた物のような繊維は感じませんでした。高菜を使ったグンドゥルックだそうです。新大久保で買った物が何の葉で作られた物か聞いていないのでわかりませんが、食感がかなり違います。日本人にも食べやすく、うまいです。
現地の料理の味が分かったところで、ネパール人シェフに私の作ったグンドゥルックを見てもらいましょう。
みんな笑顔だから多分問題ないでしょう。
通訳してもらったところによると、いい出来だと褒めていただいたようです。現地の方からお墨付きいただきました。
では、この自作グンドゥルックを使って料理してみます。グンドゥルックサデコとオリジナルでグンドゥルックを使った和風の煮物を作ります。
自家製グンドゥルックでグンドッルックサデコを作る
では、自家製グンドゥルックでグンドゥルックサデコを作ります。
材料はグンドゥルックと豆と芋と玉葱。スパイス各種。
材料は以下になります。
・グンドゥルック 50~70g(冷凍の半乾燥の物)
・ジャガイモ 1/2個
・紫玉葱 1/8個
・煎り豆 大さじ2杯
・ターメリック 小さじ1/2
・フェネグリーク 小さじ1(無ければクミンでも可)
・チリパウダー 小さじ1/2
・塩 小さじ1/2
・油 大さじ4
分量は目安なのでお好みで調整してください。お店で食べたものよりも辛さなどマイルドな設定になっています。
レシピに目安の量は書いていますが、お菓子以外大体目分量でやっています。
まず、解凍したグンドゥルックの上にターメリックをかけます。
フェネグリークが結構跳ねます。
続いて、フェネグリークを油で加熱します。香りが立ち、フェネグリークが黒く変わったら火を止めます。
カレーのいい香りがする。
火を止めたら、油が熱いうちにターメリックの上から油をかけます。
残った節分の豆で大丈夫。
辛いのが好きな方は沢山入れるといいです。
全体を混ぜ合わせながら塩とチリパウダーで味付けすれば完成です。
自家製グンドゥルックのグンドッルックサデコ。グンドゥルックがあればすぐできる。
調理時間は油を熱くしてかけて混ぜるだけなので10分もかかりません。簡単でとても美味しいネパール料理です。
これはうまい!酒の肴にもご飯にも、どちらにも非常に合います。
ちなみに、グンドゥルックサデコのレシピを探したのですが、料理の紹介は見つかるものの、クックパッドの○○風みたいなのですら詳細な物は見つかりませんでした。まだネパール料理は珍しいらしい。今回の物も大まかに聞いて作ったものなので微妙に違うかもしれません。しかし、美味しく出来ました。
グンドゥルックうまいです。
和食にも使える
グンドゥルックの旨味は和食にも合いそうだったので、和風の味の煮物にも使ってみました。鶏肉と大根のグンドゥルック黒酢煮です。
グンドゥルックからいい旨味が出ます。
材料は以下になります。
・鶏肉 150g
・ダイコン 1/4本
・人参 1/2本
・グンドゥルック 20g(乾燥したもの)
・水 300ml
・酒 大さじ1
・みりん 大さじ1
・砂糖 大さじ1
・醤油 大さじ4
・黒酢 大さじ3
・塩 ひとつまみ
まず乾燥したグンドゥルックを水に入れて戻します。
ダシはグンドゥルックの戻し汁のみでいきます。
鶏肉、大根、ニンジンを深さのあるフライパンで炒めます。鍋でも構いません。鶏肉の表面の色が変わり、大根の角が白く透き通ってくるぐらいまで火が通ったら、水で戻したグンドゥルックを入れてサッと炒め合わせます。
煮るときは、一度煮立ったら火を止めて、冷めてからまた火を入れるのを何回か繰り返すと味がしみます。
炒め合わせてグンドゥルックの戻し汁と酒を入れます。煮立ったらアクを取り除き、砂糖、みりん、醤油、黒酢を入れ、最後に塩で味を調整して、しばらく煮たら出来上がりです。
ご飯のおかずに、酒にどちらも合います。
黒酢で汁にコクと酸味があるだけでなく、グンドゥルック自体もほんのり酸味があります。カツオや昆布とも違う独特の旨味が感じられ、ご飯の進む味です。野沢菜漬けのおやきの中のような味といったところでしょうか。コクのある酸味や旨味が丁度いい。
これからはもう大根やカブの葉は発酵させてから調理した方がいいかもしれない。捨てるなんてもってのほか。
グンドゥルックは和食の食材としても使えます。うまいです。
日本の漬物もカレー味に合うはず
グンドゥルックは、作っている最中の見た目にかなりインパクトがありましたがうまかったです。高温多湿の日本だと、夏場はちょっと危険な気もしますが、冬なら問題なく作れそうです。ただ、作る場合は自己責任でお願いします。ぬるま湯だけなので、失敗していたら何がどうなっているか分かりません。
とりあえず、半乾燥のグンドゥルックは、似たような味の日本の漬物があるので、それで代用が利きそうです。長野のすんき漬けはグンドゥルックと同じように塩を使わない乳酸発酵の漬物なので、おそらくグンドゥルックと同じように使えるのではないでしょうか。
カレーの具材に最適な日本の漬物選手権、みたいな事をやったら色々な発見があって面白そうです。そのうち気が向いたらやります。
マナカマナの各テーブルに置いてある手作り新聞に前回の記事の事が載せてありました。ありがとうございます。