蕎麦の多くは白~黒
蕎麦は使う粉によって色が変わる。
ひとつは「更科蕎麦」と呼ばれるもので純白の色。実を挽いたとき最初に出てくる一番粉だけが使われており、高級で上品な味わいが特徴だ。
ふたつめは、実の外皮も挽き込んだ黒ぽい蕎麦。黒いツブツブが麺に混じってるやつだ。蕎麦の風味が強くつゆをそんなにつけずにいただける。日常的によく食べるのはこれだろう。
よくお世話になる蕎麦はだいたい黒め。
3つめはその中間のやぶ蕎麦。外側の固い殻を取り除き、甘皮を付けたまま挽いたものが使われている。
収穫したての新そばは甘皮が緑色だそうで、その結果、蕎麦もほんのり淡い緑色になるそうだ。
釧路蕎麦の緑色は新鮮さを表してる?
釧路がなぜ緑色の蕎麦なのかは諸説あるそうだが、このやぶ蕎麦(しかも新そば)の淡い緑色を再現しようとした、というのがその一つだ。
検証しに釧路にやってきた。
釧路には蕎麦屋がたくさん!
レンタル自転車屋さんの話によると、釧路市民はラーメンよりも蕎麦好きが多いらしい。「釧路そば商組合」というところが蕎麦屋さんマップを出してるくらいだ。
さっそく案内所で蕎麦マップを手に入れた。すると、どうやら全ての蕎麦屋が緑色な訳ではないことが判明。
白い麺も意外とありそう。なお、このマップに載ってない蕎麦屋さんもたくさんあります。
店名に「東家」がついていればだいたい緑
釧路には店名に「東家(あづまや)」とついた蕎麦屋が多い。なんと25店もある。すべて暖簾分けをした分店で、そこでならだいたい緑色の蕎麦があるそうだ。
ただ、店によってはこだわりで白い更科蕎麦のみ扱っているところもあるそうなので、どうしても緑色の蕎麦が食べたい場合は電話などで事前確認してから行くといいかもしれない。
地元の人たちにまずはここへ行け、といわれた東家総本店「竹老園」。釧路の緑蕎麦はここから始まったという。
昭和天皇がお代わりした名店
まずやってきたのは、東家の総本店。創業は明治7年で140年も続いている。
自転車でフラフラとやってきてしまったが、隣に日本庭園があるような、少し敷居の高い門構えのお店だ。
なんとここ、昭和天皇をはじめ皇族の方や著名人などが多く訪れたようなお店だという。
テーブル席はこっち。
入るのに少し緊張したが、座敷とテーブル席の建物は別にされていた。テーブル席は割と普通で、気兼ねなくいただけそうだ。
頼んだのは「茶そば」970円。この濃い緑色は上質の抹茶だそうだ。
総本店では緑色が2種類!
店員さんに緑色のお蕎麦が食べたいことを告げると、「うちは緑色の蕎麦が二種類あるんです」、と意外な回答が返ってきた。
一気に2つも食べられるかな。ど、どうしよう。
美しく艶めく緑。美味しそう!
口の中で蕎麦がおどる!
とりあえず頼んだのは茶そば。抹茶が使われているというだけあって鮮やかな緑色である。口に入れるとふわっと抹茶の風味が感じられた。
驚いたのはその麺の細さ。「繊細」とも言える細さだが、一本一本がしっかりと弾力があるため口の中を麺が踊っているようだった。これはうまい! 昭和天皇でなくともお代わりしたくなる蕎麦だ。
色はシアン50%、マゼンダ5%、イエロー90%。まんまだけど、抹茶色だな。
抹茶はここだけ。普通はクロレラ
そうか、緑色の正体は抹茶なのか。と納得しかけたが、これは総本店にしかないオリジナル。
通常、釧路の緑蕎麦といえば「クロレラ」が使われているという。そこでもう一品、クロレラ入り蕎麦を頼んでみよう。
こちらはクロレラ入りの普通の緑蕎麦。ただし「寿司」である。700円。
クロレラ入りの蕎麦を使った「そば寿司」である。私は蕎麦も寿司も大好きだが、そば寿司の存在をここで初めて知った。
クロレラにそば寿司。2つの初めてが同時にやってきて興奮せずにはいられない。
初めての蕎麦寿司
単に蕎麦に海苔を巻いて巻き寿司ぽくしただけかと思ったら、ぜんぜん違った。蕎麦にしっかり甘酢が絡まっている。これは確かに寿司である。衝撃的なうえ美味しい。
おつまみのようにパクパクとあっという間に食べ終えてしまった。ちなみにクロレラの味はまったく感じなかった。
しっとりとした海苔と蕎麦の間にはさまってるのはショウガ。ピリッとして凄く合う。
おっと色を確かめねば。カラーは、シアン20%、マゼンダ5%、イエロー70%。抹茶蕎麦よりかなり薄め。
クロレラ入りの蕎麦は黄色に近い
さきほどの茶そばよりも青みが抑えられた、さわやかな若草色だった。
釧路の緑蕎麦の由来のひとつに、ここ東家総本店の庭にあった竹やぶの色に近づけた、というのがあったのだけど、もしかしたら初代は日のさす明るい竹をイメージしたのかもしれない。
次にやってきたのは「ぬさまい 東家」。さきほどの分店。
蕎麦マップによると、「ぬさまい 東家」では元気な店主が迎えてくれる、とある。
入ったら実際そうで、質問にも丁寧に答えてくれた上、ほかの美味しい店まで教えてくれるような気の優しい店主だった。
元気で評判の店主。すぐ好きになっちゃった。
こちらでは「無量寿そば」というものをオーダー。800円。
無量寿(むりょうじゅ)そば?
そば寿司に引き続き、また他では食べたことのない蕎麦があったので頼んでみることに。
無量寿そばとは、蕎麦にたっぷりのネギと海苔、そして生卵の黄身を乗せ、そこにごま油と麺つゆをからめたもの。これも釧路ならではなのだそう。緑の細麺と黄身の黄色がよく似合う。
しっかり緑色の麺。ひときわ艶っぽいのはごま油がかかっているから。
黄身を絡ませて。うーまそーう!
さきほど食べてきた蕎麦とまるで違う味だ。ごま油のおかげですっかり中華仕立てになった蕎麦は、ネギと合うこってり味に。
量もボリュームがあり、普通の蕎麦じゃ物足りない人にはかなりおすすめの蕎麦である。
気になるお色は…総本店の蕎麦の色に、ブラックが5%入り、少しくすんだ渋い色に。
2店目のぬさまいも、系統でいえばきれいな若草色だった。だが、ほんのちょっぴりだけど違いはあった。
店主によると、「東家」と名前がついている事から、どこも同じ蕎麦を使っていると勘違いするお客さんが多いそうだ。が、これで別物だということが証明された。それぞれのお店で毎朝ちゃんと蕎麦を打っているのだ。
カラーチャートの分厚い本を眺めているのを見て、店主が「旅の思い出に」とスズランの押し花をくれた。あと冬の釧路の絵葉書も。無量寿蕎麦を食べたあとだけに、感無量!
きれいに色がつくのは更科蕎麦だから
緑色がきれいにつく理由も教えてくれた。それは、更科蕎麦を使っているからだそう。
最初の方で書いたように、更科蕎麦は皮や殻の入っていない純白の一番粉でつくられている。これにクロレラの粉で色をつけることで、きれいな緑色になるというのだ。
クロレラ粉の量は店ごとで違う
また、私はほとんど感じないのだけど、クロレラの粉を入れすぎるとやはりクロレラの香りが強くなるらしい。なので色の違いはお店側の好みの違いでもあるという。
3店目は「北大通 東家」。繁華街の中にある、創業100年の老舗。
もりそば550円を頼んだ。あれれ、だいぶ薄めの色だ!
3店目のお店の蕎麦はほんのり薄ーく緑がかった程度だった。店内の照明が暗かった影響か写真ではほとんど白に近く見えるほど。本当に店それぞれ違うんだなあ。
シンプルなもりそばを頼んだため、濃い目につくられたつゆの味がしっかりと分かる。ズズズっと一気にかきこんだ。
クロレラが入っているか店員さんに再確認してしまうほど薄い。こういうお店もあるのだ。
シアン20%、マゼンダ5%、イエロー60%あたりかな。
手持ちのカラーチャートではぴったりあてはまる色がなかった。だが「ひわ色」と呼ばれる黄緑色に近い気がする。
なお、こちらのお店では他に柚子・紫蘇・レモン・さくら・けしなどの食材を練り込んださまざまな色の蕎麦がいただけるらしい。
真っ白な更科蕎麦なら色付けは意外と簡単なのだろう。
緑かも、と追加した蕎麦だんご。緑じゃなかったけど黒蜜がかかりモッチリと香ばしく、激うまだった。
食紅からクロレラに
ちなみに緑の蕎麦は今でこそクロレラで色をつけているが、かつては食紅をつかっていたそうだ。
そのうち食品添加物を控える風潮になり、安全で健康効果もあるといわれるクロレラを使って色をつけるようになったという。
4店目は「江戸東」。東という字がついているが東家とは別系統。
次は東家さん以外でも食べてみよう、と、釧路駅の隣の新富士駅へ向かった。
隣駅だからすぐ行けると侮っていたが電車やバスで向かおうとするとそれぞれ2時間に1本しかないので要注意だ。
おおっ! これは濃いぞ。
やっぱり濃い方がテンションあがるかも。
苔のような渋みのある、ややくすんだ濃い黄緑色だった。
かしわ蕎麦とヌキ
ここでも釧路ならではのメニューを発見してしまった。「かしわ蕎麦」と「ヌキ」である。
聞けば、かしわとは鶏肉のことで、関西より西でよく耳にする呼び名だそうだ。つまりかしわ蕎麦といえば鳥が入った蕎麦。
そして「ヌキ」というのは、かしわ蕎麦から蕎麦を抜いちゃったもののこと。簡単に言えば鳥のスープである。
かしわ? ヌキ??
この「ヌキ」は味噌汁感覚で頼む人が多いそうだ。ごくごくと飲めるように味の濃さがちゃんと調整されている。
コシのある冷たい蕎麦をすすりながら、途中途中で温かいヌキを挟んで飲んでみる。これが、最高にうまい。
親鳥のプリプリコリコリとした肉と、その肉からしっかりとしみ出たダシが最高。この食べ方、釧路に来たらぜひ味わって欲しい。
蕎麦が抜かれたヌキ。しょうゆベース。鳥肉からダシがよくでててうまい!
さて、こんな感じで釧路の蕎麦屋4店をまわった。
それぞれ色の違いが分かっただけでなく、釧路ならではのいろんな蕎麦と出会えてとてもいい発見だった。
さいご、スーパーの麺事情を調べておこう
次ページはおまけ。
せっかくなので釧路のスーパーで見つけた緑麺を紹介したい。
お土産に最適、グリンめん!
乾麺コーナーでまず見つけたのはグリンめん。 お店の人によるとよく売れる商品だそうだ。確かにめっちゃ並んでる。
また、名前といいフォントといい、とても愛くるしい見た目である。
かわいい「グリンめん」。安い!
ひやむぎだったけど
小さく「クロレラ入り」と書いてあったので、まさしく釧路の蕎麦だな、とすぐさま手にとった。が、よくよく裏を見たら「ひやむぎ」と書かれている。
どうせなら蕎麦であって欲しかった。ていうか釧路はひやむぎも緑なのか。持ち帰って実食&色調査。
茹でるとこんな感じ。麺に角が無くてツルツルとしている。ちょっと太めかも。
シアン30%、イエロー60%。あまり色が混じっていない、きれいな色だ。
グリンめんは、さわやかな萌黄(もえぎ)色だった。釧路の人は夏の暑さをこのさわやかな色のひやむぎで乗り越えるのか。
ツユはついていないので、うちに置いてある麺ツユで食べた。うん、色以外はごくごく普通のひやむぎだった。
生麺も緑が人気!
要冷蔵の生麺コーナーにもやはり緑色の麺が幅をきかせている。こちらは麺つゆつき。
茹でるとこんな感じ。店のと比べるとこれもちょい太めかな。
色は落ち着きのある松葉色。
「知床そば」だったけど
こちらはれっきとした蕎麦であったが、「知床そば」という名称で売られていた。しかもクロレラではなく、知床でとれる羅臼昆布とわかめが練り込んである。せっかくなら地元の蕎麦を売ればいいのに、と思うが、釧路の人はあまりそこにはこだわりがないのだろうか。
ツユにも昆布がたくさん入れられているようで、食べると昆布味が強く出て、意外と癖になる味だった。
釧路で出会った緑麺のカラーチャート。ぜひ参考にしてください。
北海道の広い大地を想起させる緑麺
今回全部で7食の緑蕎麦をいただいた(ひとつはひやむぎだたが)。これだけ食べると、今まで食べてきた蕎麦がなんだか一層地味に見えてくる。
そういえば、緑色に着色した諸説のひとつに「見た目に清涼感を与えるため」というのもあった。たしかに明るい黄緑色の麺は、釧路に広がる大自然を見た時のように、爽快でここち良い色であった。釧路の蕎麦はもしかしたら、普通の蕎麦よりもちょっとだけ元気が出る蕎麦なのかもしれない。