特集 2015年12月28日

木造牛舎が建ち並ぶ、小岩井農場の空気感が凄い

小岩井農場には100年前の空気が満ちていました
小岩井農場には100年前の空気が満ちていました
岩手県のシンボル的な存在である岩手山の南麓に、コーヒー牛乳など乳製品の生産で知られる小岩井乳業の農場が広がっている。

約3000ヘクタールにもおよぶ広大な敷地には、明治時代から昭和初期にかけて建てられた木造建築が建ち並んでおり、しかも今もなお現役で驚いた。
1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。

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盛岡観光のついでに寄ったら凄かった

今年の9月下旬から10月中旬にかけて、北海道南部と東北地方を旅行した。私はできるだけお金をかけないリーズナブルな旅行を心掛けており、移動手段は燃費の良いカブ、宿泊地はもっぱら無料キャンプ場である。

青森県から岩手県に入り、さて今日はどこに泊まろうかと考えていたところ、盛岡市から西へ少しいった、鞍掛山の登山口にあるキャンプ場をTwitterでお教え頂いた。

ちょうど盛岡市内の観光もしたかったので、拠点として良さそうな場所である。意気揚々と訪ねてみると、そのキャンプ場は広大な牧場地帯の中にあった。
宮沢賢治の作品にも登場する鞍掛山。その麓に位置するキャンプ場
宮沢賢治の作品にも登場する鞍掛山。その麓に位置するキャンプ場
振り返ってみれば、広々とした牧場が一望のもとである
振り返ってみれば、広々とした牧場が一望のもとである
なんでもこの辺りには大きな牧場が数多く、小岩井乳業の農場もすぐ近くにあるらしい。

キャンプ場の情報と併せて、小岩井農場にも寄ってみてはとオススメされたものの、私の関心は盛岡観光に向いており、時間が余ったら行ってみるか程度に考えていた。
明治44年(1911年)に建てられた岩手銀行旧本店本館。東京駅の設計で有名な辰野金吾&葛西萬司の作品だ
明治44年(1911年)に建てられた岩手銀行旧本店本館。東京駅の設計で有名な辰野金吾&葛西萬司の作品だ
中津川沿いに通る紺屋町には、立派な町家が残っている
中津川沿いに通る紺屋町には、立派な町家が残っている
妙にカッコ良い消防団の建物。元は明治24年(1981年)に建てられた番屋らしい
妙にカッコ良い消防団の建物。元は明治24年(1981年)に建てられた番屋らしい
街の中心、盛岡城は石垣に巨石を組み込んでいるのが印象的
街の中心、盛岡城は石垣に巨石を組み込んでいるのが印象的
築城時に土中から出てきたという烏帽子岩は、ご神体として祀られている
築城時に土中から出てきたという烏帽子岩は、ご神体として祀られている
かつて盛岡藩の家老屋敷があった盛岡地方裁判所の敷地には、巨石を真っ二つに割って成長した石割桜があった。岩手県というだけあって、岩に関する見どころが多い
かつて盛岡藩の家老屋敷があった盛岡地方裁判所の敷地には、巨石を真っ二つに割って成長した石割桜があった。岩手県というだけあって、岩に関する見どころが多い
見たかったものを見て感心し、思いがけないものを見つけて驚き、盛岡市内の観光を満喫することができた。一息ついて時計を見ると、まだ昼の12時過ぎ。

時間は十分にあるし、それなら行ってみようと小岩井農場に向けてカブを走らせた。国道46号線を西へと進んでいくと、案内看板が出ていたので右折して北へと進む。

そのまま丘陵を登っていくと、ふと、かわいらしい建物が私の目に留まった。小岩井農場の入口に位置する、本部事務所である。
路地の奥に見える、雰囲気たっぷりな建物だ
路地の奥に見える、雰囲気たっぷりな建物だ
小岩井農場が創建されたのは明治24年(1891年)。創業者は小野義眞、岩崎彌之助、井上勝の三人で、それぞれの頭文字を取って小岩井と名付けたという。もとは痩せこけた不毛の土地であったが、長い月日をかけて土壌の改良を行い、日本最大の民営農場と相成った。

この本部事務所は明治36年(1903年)に建てられたもので、なるほど、確かに歴史を感じさせるたたずまいである。
一見洋風だが玄関ポーチの破風には和風の懸魚がついており、和洋折衷な感じだ
一見洋風だが玄関ポーチの破風には和風の懸魚がついており、和洋折衷な感じだ
周囲の木々が成長する前は、屋根に乗る望楼から農場全体を見渡せたらしい
周囲の木々が成長する前は、屋根に乗る望楼から農場全体を見渡せたらしい
かの宮沢賢治はこの辺りの景色を好んでいたそうで、小岩井農場にも度々訪れたという。この本部事務所はその作中にも登場しており、「本部の気取った建物」と評されている。

個人的な意見としては、そう気取っているようには見えず、むしろかわいらしく親しみの持てる建物だと思った。もっとも、宮沢賢治もまた親しみを篭めて、そう評したのかもしれないが。
本部事務所の周囲に並ぶ建物も年季の入ったものばかりだ
本部事務所の周囲に並ぶ建物も年季の入ったものばかりだ
明治25年(1892年)の第一倉庫(右)。小岩井農場に現存する最古の建物だという
明治25年(1892年)の第一倉庫(右)。小岩井農場に現存する最古の建物だという
この使い込まれた感じがたまらない
この使い込まれた感じがたまらない
どこを見ても古い建物しかないことに、衝撃を受けた
どこを見ても古い建物しかないことに、衝撃を受けた
今回の旅行では、ニッカウヰスキーの余市蒸留所にも足を運んでいた(→参考記事「余市蒸留所の異次元っぷりに驚いた」)。余市蒸留所もまた昭和初期の施設がそのまま残っており、石造の建物が建ち並ぶその様は、まるでヨーロッパから風景を切り出してきたかのような、極めて特異な印象を受けた。

一方、小岩井農場に見られる建物は、馴染みのある日本家屋と同じ、木造下見板張りのものばかり。いわば、戦前日本の原風景が残っているのである。いやはや、これは凄いところだぞ。盛岡観光のついでとかいってゴメンナサイ。

本部事務所のエリアからさらに北へと進み、農場の奥へと分け入っていく。その途中にはいくつかの施設が存在したが、目に入るものはすべて歴史を感じさせる建物ばかりだ。外観もこげ茶色の板張りと赤い鉄板屋根で統一されており、ある種の美意識が感じられる。
製材所と思わしき施設もこの通り
製材所と思わしき施設もこの通り
一般公開されていないエリアなので近づけないが、大正5年(1916年)建造の四階倉庫
一般公開されていないエリアなので近づけないが、大正5年(1916年)建造の四階倉庫
いずれの建物もしっかり維持管理されているようで、廃墟感は一切ない。結果的に残ってしまったという古さではなく、意識的に残したという感じの古さである。

建ち並ぶ木造建築群に感嘆しつつさらに進んで行くと、程なくして「まきば園」という標識が見えた。どうやら羊と戯れたり、乗馬を体験したり、おいしいものを食べたりできる、小岩井農場の主要観光施設らしい。家族みんなで訪れたら、きっと楽しいことだろう。

正直なところ、私はまきば園にたいして興味はなかったのだが、そこから道路を隔てた反対側に広がる「上丸牛舎」がとにかく凄かった。
上丸牛舎、小岩井農場の本丸である
上丸牛舎、小岩井農場の本丸である
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