不可能を可能にする
現時点でホバーボードがまったく存在しないわけではない。2015年にあわせるように、いくつかの方法でホバーボードが作られていることは僕も確認している。
例えばホバークラフトのようなものや超電導のしくみを用いたものがある。しかし映画で描かれたホバーボードは、そのように物々しくはなかったはずだ。
そうした中、ぼくはまったくシンプルな方法でボードを浮かすことに成功した。まずはとにかく出来上がったものをご覧頂きたい。
これがホバーボードである
明らかに飛んでいる…
どのように浮いているのか全く想像もつかないだろう。一見して魔法のように思われるかもしれない。
全景はこのようになっている。
どうやって浮かんでるんでしょうね
周囲にある枠が気になるところだが、ボードは完全に浮いている。「充分に発達した科学は、魔法と見分けが付かない」という言葉があるが、まさにこのことをいうのではないか。
乗ってみよう。
乗ってみる
2015年あけましておめでとうございます!
瞳孔が開くのを感じる。
いまだに誰もピッタリしたスーツを着ていないしょうもなき未来ではあるものの、今ここだけはちゃんと「あの2015年」している。
一体どんな技術の粋が集められているというのか……?(あなたにはまだ金具が見えていないと私は考えています)
こうして僕はホバーボードの開発に成功した。自分の名をとって「フジワラ式ホバーボード」と名づけたい。
「フジワラ式ホバーボード」には、一体どのようなテクノロジーが詰まっているのか。次頁ではそれを明らかにする。
ホバーボードの設計図
さっそく種明かし。これがホバーボードの設計図だ。無駄を省いたシンプルな構造である。
一切無駄がない設計図
なんと中央にピアノ線が張ってあったのだ! ボードをホバーさせる技術についてはこれで完璧なはずである。
周囲のパイプが丸見えだという問題は、光学迷彩の技術がいつか解決してくれるはずなので今回は気にしないことにする。
そして驚くべきことに、ホバーボードの材料はすべてホームセンターで揃うのである。ドラえもんの未来デパートもホームセンターのことなのかもしれない。
パイプは棚などを作ったりする用のものがちょうど良さそうだった。接続パーツもある。
ピアノ線もホームセンターで売られている。自分の人生の中にピアノ線との接点があるとは思わなかった。
ホバーボードの作り方
まずは木の板をそれらしくしていこう。これがなければ始まらないだろう。ペイントしていく。
木の板の先端はホームセンターで丸く切ってもらった
塗料でピンク色にしていく
デザインはこのくらいで手を打っておいた
できれば映画と同じデザインにしたいところだが、世間の風潮をかんがみてこんな感じにしてみた。
そしたら何だかいかがわしくなってしまった。
続いて、パイプの接続パーツに車輪をくくりつけたい。
角のパーツに車輪を貼り付ける
穴をあけてネジで留めるのが正しいやり方だと思う。だが工具と技術がないので、接着剤と針金で荒々しく仕上げることにした。
針金をペンチで引っ張って巻いていく。
はじめのうちは針金を手で巻いていて手こずっていたのだが、途中でペンチを使いはじめるとスイスイできるようになった。自らのサルっぽさを恥じつつ、道具はちゃんと使ったほうがいい。
マッドマックス
できあがった車輪をパイプに装着し、接着剤で固定する。このとき全体がねじれないよう壁に押さえつけておく。
どことなくエヴァンゲリオンを思わせる
最後にピアノ線をピンと張る。手探り状態でやってみるのだが、弛んでしまったり解けてしまったりなかなかうまくいかない。
作業中何度かペンチで壁を殴った
けっきょく一人作業ではムリだったので、家族の力も借りた。父と母、そして僕。ピアノ線を張るために家族が協力する。2015年、期せずして思い出深い夏となりそうだ。
家族でピアノ線を締めるお盆
ネジの付いたフックで締め上げる。パイプがかなり歪んでいて怖い。
出来上がった。ピアノ線を締め上げすぎてパイプがゆるく曲がっていたのが恐ろしいが、家族で作り上げた歪みだと思うと誇らしくもある。
気が付くと設計図は描いてあったはずの「筋交い」(補強のための斜めに入れられた棒パーツ)の部分が省略されてしまっているが、なんとか完成してしまったのでこれでいいことにした。
あの未来のホバーボードがこんなにも簡単に手に入ることがお分かり頂けただろうか。
さあ、さっそく公園でトライしてみよう。
やはりピンと張ったピアノ線は怖い。戦争中、ピアノ線は車輌に乗った兵士の首を跳ね飛ばす罠として使われたという。
これがホバーボードだ
真夏の公園はセミがミンミンと鳴いていて去年も来年も変わらないそうだが、手にしたホバーボードだけは未来である。
ホバー装置にボードを乗せたらフューチャードライブの準備は万端だ。
ちなみに黒いのは足を固定するマジックテープ。
ピアノ線の上にセット完了。
あとは乗るだけなのだが、素人工作なので強度の面で不安がある。何かのきっかけでピアノ線が切れて大けがをしてしまわないか。そういうタイプの忘れられない夏は望んでいない。
おそるおそるホバーボードに足をかける。
ホバーボードに足をのせ、少しずつ体重をかける
ヘイッ
おや、未来かと思っていたが、どうやらここは元いた世界のようだ
慎重にすべての体重をかけ終わると、ボードは無抵抗に地面に付いた。未来の道具だと思っていたホバーボードは木製の板に戻った。
より一層の歪みを見せるホバー装置
1ページ目ではこのようにちゃんと浮いていたはず。
じつは、支えがあった。
ピアノ線で浮かぶトリックと見せかけて、じつは発泡スチロールのブロックを隠していたのだ。なさけない2重のトリック。ふつうに乗るとちっとも浮きやしないのだからしかたない。
つまりフジワラ式ホバーボードは「人を乗せると着地するけど、何も乗せなければホバーする」、そういうダメなドラえもんの道具のようなホバーボードである。
遊び方としては押したり紐で引っ張ったりが考えられる。
押すとホバーしたまましばらく移動するホバーボード。
遠隔操作も可能。あまりにスムーズなので「これで乗れたらな……」という思いが倍増する。
むりを承知でためしに片足だけを乗せてスケボーのように漕いでみると、足を浮かせたときだけ浮かび上がってくる。
弱い動物を踏みつけているようで、申し訳のなさが胸に去来した。
踏むと地面にぺたっとくっつくが離すとホバーする。
わかったかこれが未来だぞ
はずかしい話だが設計図を描いている時点では絶対にうまくいくと思っていた。ピアノ線を張っているときに怪しいぞ…と不安になり、ボードに体重をかけているときに徐々に目が覚めてきた。
2015年になっても鉄パイプは強い力をかけると歪む。これがバック・トゥ・ザ・フューチャーの「未来」にはなかった「現在」のディティールである。
あらゆる過去の人たちには、未来人として一言「わかったか、このしょうもないのが未来だぞ」と言いたい。
あと3回くらい改良すればこの仕組みのままでもできそうなので、それは未来の誰かに託す