この道に食べ物を(安全に)置いてもらって拾い食いをする。拾い食いストリートである
仕込んでおけば思う存分拾い食いできるのでは?
やることはかんたんである。一人が道に食べ物をおいて、そのあともう一人がすぐ食べる。
これなら躊躇(ちゅうちょ)なく拾い食いできるだろう。編集部の古賀さんに協力をあおいで仕込んでもらった。
何を仕込むのかぼくは知らない。古賀さんが紙袋を抱えて走っていった。
拾い食い開始。口笛でもふきながらカジュアルに、である
なんかあるなと思ったら、うぉっ、ケーキだ。やべえ、食おう
うおぅ、うめえ! うまいんかこれ! この状況でうまいってすげえ!
道に落ちてるケーキってうめえ。思ってたよりもクリアというか、売り物そのままの味だ!(当たり前だが)
フォークも落ちてる! 道に落ちてるフォークってどうなんだろう!
知らない!!
うめえ! わはははは、うめえ! うめえ!
タブーの向こう側の味
すす、すごいよこれは。
手にとったケーキは完全に「いけないもの」だった。これが人類のタブーか……と強く思いながらもそれをパクっといくのである。
ここでまず(…おれ今すごいことしてる!)という興奮がやってくる。
そしてその禁忌の向こう側がうまい。向こう側はこんなに普通の世界だったんだ(実際はちがうだろうけど)。そのあと興奮すると同時になぜか笑えてくる。逸脱した日常の緊張感を緩和しようとして笑ってしまうのだろう。世界のたががはずれたようにゲタゲタ笑う。
いやあ、これすごいですよ。と、ここで古賀さんと交代。今度はぼくが仕込む番だ。
今度は編集部の古賀さんが向かう。あそこに何かが落ちている
菓子パンだ。ゲラゲラゲラと笑い出す古賀さん。それもそのはず
このパン、封を開けて端をちぎってあるのだ。完全に食べかけのビジュアルである
それを躊躇なく食った古賀さん。すげえな! この人すげえな!
豪傑あらわる
古賀さんはゲラゲラ笑いながら食べかけと思われる蒸しパンをすぐ食った。
あとできいてみたところ古賀さんは一切躊躇しなかったそうだ。
「めちゃめちゃ食べかけっぽくてこれほんとなのかなって思ったけど、でもそういうことでやってるわけだからって思って」
古賀さんは一瞬で豪傑となった。ボス猿とかこんな感じでサル山を掌握していくのだろうな。
道に落ちてる菓子パンをすぐ食って笑いがとまらなくなった古賀さん。そんなすごい女知らん! 妾とか囲ってそう!
その先にあるのは…
封の開いた栄養ドリンクである。あるある、こういうの。道の脇にある
古賀さん、道に落ちてる栄養ドリンクを手にとって…
すぐ飲んだ! すごい! 三国志にもそんな豪傑出てこない!
で、そのあと爆笑する古賀さん。信じられない! 世が世なら魔女としてすぐ火炙りになっていそうだ!
あとで自分でもやってみた。リポビタンDを転がしてみて拾う。これはいけないものだという感覚が強い
わはははは、なんだこりゃなんだこりゃ! 笑いが止まらない
より美味く感じる
「リポビタンDやばかったね! あれ落ちてるからね普段」と古賀さんは言っていた。それを飲むのである。
後にぼくも飲んだがこれがまた驚くほど雑味のない味(もちろん封を開けただけのリポビタンD)で強烈な違和感がある。
「いっそううまく感じるね。だってうまいわけないからさあ」
いけないものと思ってたのにウマい。これがより美味しい。雨でずぶ濡れになった子犬をかわいがる不良の姿のように、私たちはいつだってギャップに弱い。
道に落ちてる栄養ドリンク飲んで爆笑して、次に「そばだ、そばが落ちてる!」と爆笑してるのだ。だめだ、世界の底がぬけている!
ちなみにそばはスーパーで買ったおそばを持ってきたビニール袋に移し替えておいた。こんなものを食べようとはだれも思わないだろう
しかもその先にあるのは
中身を半分くらい移し替えためんつゆのペットボトル。このビジュアルである。新品だとはとても思えない
落ちてたそばに「これだ!」と落ちてたつゆをかける古賀さん。ゼルダの伝説みたいだ(※そういうゲームがあります)
そして食う! 古賀先輩、おれ一生ついていきます!
マンネリの解消に拾い食いを
古賀さんがケーキしか用意してこなかったので、このあとずっと仕込む側にまわったがその中でも渾身の出来のそば。
「そばはやばかったな。袋なんだもん」と古賀さんは言っていたが、それでも躊躇なく食べていた。
「これ倦怠期のカップルとかがやればいいんじゃないかな。ドキドキと信頼感の確かめ合いみたいな」と何かひらめいていた。それも限りなく廃棄されたものに近いそばを食べて、だ。
そのあとちょっと戻ってリポビタンDをまた飲む! まだ日本にこんな若者がいたとはのう…現代の荒くれがいた!
それで「すごいね! これすごいね!」と爆笑してるのである。古賀よ、海を渡るのじゃ! 日本はもうお前には小さい!
拾い食いフルコースはつづく。今度は道に寿司である。
それも鯖の棒寿司だ。近くのゴミを寄せておいて、パックにひと押ししてへこませた。これはぜったいにいけないというビジュアルになった
躊躇なくいく古賀さん。すごいな! フグを初めて食べて死んでいった人を見てるようだな!
道に落ちてた鯖の棒鮨食べて「…うまい!」である。しびれる! 森でつかまえた動物の脳みそとか客人にふるまってそう!
彼女にいいところ見せるための拾い食い
古賀「鯖寿司すごい。ベッコリへこんでたね。これでお腹こわさないなんて信じられない」
――古賀さんやるなあと思いましたよ。躊躇なく食ってるなって。
古賀「拾い食いには躊躇ない人を見る楽しさもある。さっきの倦怠期のカップルでいうと、彼氏にいいとこ見せるという点もあるね」
――不良を仕込んでおいて撃退するデートのマンガ的な手法にも応用できるかもしれないですね。道に鯖寿司を置いておいて、デート中にさっと拾い食いする
古賀「女の子は『素敵ー! 抱いて!』って」
――『抱く……鯖寿司を食べて、お前を抱く……』か、なるほどねー
うっかりその場ではなるほどしてしまったが、よく考えるとそうはならないことは容易にわかる
なにかを見つけてほくそ笑む古賀さん
マンホールの上のエビ天であった。(エビ天型に切り抜いたラップを下に敷いてある)
そして古賀さんがその近くで見つけたものは
小袋に入ったなんだかわからない白い粉(用意しておいた塩)である
道に落ちてたエビ天になんだかわからない粉をつけてパクっといった! お嬢さん、塩らしき粉をすぐに塩だと思わないで!
わはははは、うめー! すげー! すげー! と古賀さん。「あの子、夏休みでなにかあったのかな…」という女の子はこんな感じじゃないかな(ぼくは男子校だったので分かってないんですが)
「食べていいんだよ…」(ダメだけど)
古賀「塩、これに入れたっていうのがヤバイね」
――今日は古賀さんの"見知らぬ粉に落ちてたエビ天入れた記念日"ですね
古賀「でも今日最初の落ちてるケーキを食べた時点で『食べていいんだ』ってなった。解禁!って感じになったね、人生レベルで。
道に落ちてるものを見たときに食べる想像してゾッとしたりよくしてた。あー、食べちゃったりして……って。
うち父方のおばあちゃんは家の中に落ちたものを食べていい家で、母方の方は一切食べちゃだめ。でもほんと、落ちてるものこそ食べたいって思ってたので今日はうれしかったです」
古賀さんの最終回みたいな感じになってきた。さようなら古賀さん。アメリカに行ってもお元気で!
最後はプランターに
肉を置いてみた。100均で買ってきたプランターを洗ってスーパーのローストビーフを移し替えたのだが
もうキャプションも「ウホッ」しかあてはまらない
ううめ~!! あー、人間っていいな!という感じがする
夢は叶えていける!
――拾い食いしていい世界っていうのは信頼の上に成り立ってる理想的な世界だから
古賀「性善説だ。やさしい世界だよ」
――そう、毒を道に置く人なんていないと信じるし、細菌に対しても物を腐らせてないと信じるような世界
古賀「でもほんとものは拾って食いたいなと思ってたのでうれしいなあ。
あのさあ、 夢はかなえていけるって思った。だって落ちてる寿司を拾って食うなんて……こんな夢がかなうなんて思わなかったからね、一生のうちで」
古賀さんを拾い食いしてもらって本当によかった。道に落ちてた鯖寿司食って夢をかなえたのだ。こんなことってあるだろうか。
体験としてとにかく圧倒的だった。まっ暗闇で対話するイベントがあるように、道にリポD転がして飲むものがあってもいいような気がしてきた。
撮影終了後、プランターで食う人
興奮しきって放心した古賀さん
興奮オブ・ザ・2015上半期
その日思う存分拾い食いをしたあと、なぜかはわからないが駅前のユニクロに入り、セールだという下着を買った。ウォーホルの描いた牛が全面にプリントされていた。
もう、こういうものを買わねばおさまらなかったのだろう。拾い食いによって道は食卓になり規範ははちきれんばかりに膨張し、身も心も興奮した。いったいこの短い時間で何回「すごい」を言ったことか。
優勝した野球チームは水中メガネをかけたうえでビールをかけるくらいなら、拾い食いをするべきではないだろうか。それほどまでのお祭りだった。
古賀さんは走って帰っていった。走る必要はなかったそうだが彼女は拾い食いの夢をかなえて走って帰っていった。