決定的瞬間をカメラに収めたい
勝手にほどけてしまうのは気に入らないが、いっぽうで僕も大人なので、気に入らないからといってやみくもに相手を恨むわけでもない。
靴ひもには靴ひもの事情があり、本人は望んでいないのにやむなくほどけている、ということもありうる。
いったい何が原因で靴ひもがほどけているのか。その決定的瞬間をカメラに収めることで、特定できるのではないだろうか。それが、相互理解への第一歩である。
借りたカメラもグルグル巻きに
問題は撮影方法だ。手持ちカメラでずっと撮りながら歩くのも手だ。しかし靴ひもなんていつほどけるかわからないし、カメラを持って下を向いたまま何キロも歩き続けるなんて、歩きスマホがかわいく見えるほどの危険行為である。
まあでも命がけで撮影した映像っていうのもそれはそれでかっこいいしな……とうっかり腹をくくりかけたところで、そういえば同僚の安藤さんがこれを持っていたのを思い出した。
ご存知の方も多いと思いますが小型カメラのGoProです。
さっそく借りてきた。
あとはうまいこと足に固定さえできれば、簡単に撮影できそうだ。いちおう三脚用のネジ穴はついているのだが、こういうのは変に凝った加工をせずテープで貼るのが一番確実だったりする。
ここでGoProをテープで固定する際のコツをひとつ伝授しよう。借り物のカメラでも気にせずテープをベッタベタに貼りまくることである。(安藤さんごめん、ちゃんと拭いたから)
ビニールテープで金具に固定
それを足首にぐるぐる巻きに
金具の上に靴下を重ね履きして、より強固に
スマートフォンでプレビュー。こんなふうに撮れてる
あんまり画角とか距離とか考えずに適当に固定したのだが、けっこういい感じだ。
ちょっと外を歩いてみるとこんな感じ。
すごい。結び目の具合はもちろん、歩くのにあわせてヒモの先が揺れる様子など、バッチリ撮れている。よし、ほどけるまで歩くぞ!
ただし片裾だけ上がっており、かなりだらしない見た目。せめてもっと地味な靴下にすればよかった…
あとはただ歩くだけ……でもなかった
ここからは、ただ歩くだけの簡単なお仕事…とおもったのだが、意外にそうでもなかった。
まず、足が痛い。
この辺が痛い
靴下の中に金具が差し込んであるのだが、その先端がすねに食い込んで痛いのだ。すねといえば「弁慶の泣き所」とも呼ばれる、日本人の伝統的な弱点である。そこを一歩歩くごとに金属片でグリグリやられるのだ。
唇を噛んで空を仰ぐ系のつらさ
ちなみに弁慶の泣き所に相当するものがヨーロッパではアキレス腱になるようだが、別にあそこあんまり痛くなくない?と思うのは僕が日本人だからか。
そしてもうひとつ問題がある。バッテリだ。GoPro、思いのほか電池が持たないのだ。
持たないこと自体はしょうがないとして、問題はバッテリ状況のわかる液晶画面がレンズ側についていることである。
見えない
見えない!
カメラの液晶に写して見てはどうか、と工夫したものの見えていない様子が、バッチリGoProの映像に残っていた
写真に撮ってみたがピンボケで見えない
ものすごいがんばって体を捻じ曲げて見ようとしているところ(でも見えない)
さらにがんばって体をねじって、このぐらいメガネがずれるとようやく見える
信号待ちのたびに足をできるだけ高いところに置いて腰をクネクネさせたり首をひねったりする必要がある。自然と人通りの少ない路地へと足が向いた。
そして歩くこと1時間……
ほどけたぞ!!!!
ハイ電池切れてたー
ハイいままでの苦労全部ムダー
たかが一時間といえど、苦痛に耐えながら体をくねらせながらの一時間である。労力的にも痛いが、再充電するまでリトライできないのもまた痛手。
この日は早々にあきらめ、続きは翌日撮影することにした。
人間は失敗から学ぶ生き物
転んだら絶対にただでは起きたくない。昨日の失敗を生かし、今日は装備を強化してきた。
金具の端をゴムで巻いた
すねにあたる部分にクッションを当てた。これでもう痛くないうえ、グリップ力も上がりカメラの固定性能が向上した。
それからもうひとつ。カメラをちゃんと満充電してきた。実は昨日はのこり半分以下の状態からのスタートだったのだ。そりゃ切れるよな。エヘヘ。
撮れた
で、結論からご報告しますが、撮れました!靴ヒモがほどける瞬間。
さっそく映像でごらんいただきましょう。
見た!?見た!?!?
これで、靴ひもがどうやってほどけているのかわかった。
2:15くらいからスロー映像があるのでそれを見てもらうとわかりやすいと思うんだけど、せっかくなので画像でも説明しよう。
歩いてると靴ひもは緩んでいく。すごく緩んだ状態で、足を振り下ろすと…
振り下ろした足は地面に着くと急に止まるので、慣性でヒモの先が前に振れる
振られたヒモの先は勢い余ってそのまま回転、
その勢いですっ飛んでいって、結び目を引っ張る。(慣性ってことでいいんですか?)
見事、ほどけた
というわけで、着地時に足が急停止したことによりヒモの先だけがすっ飛んでいって引っ張られ、蝶結びがほどけてしまうことがわかった。
「気づかないうちに靴ひもを踏んでいるんじゃないか」とか思っていたのだが、そういうウッカリの話ではなく、もっと物理っぽい原因だったのだ。
豊かな明日のための結び方研究
先ほどの結果、個人的には、「完全に納得!」という感じであった。なぜならさっきの靴ひも、最初からこんなふうに結んでいたからだ。
ヒモの先をかなり長くあまらせている
これは意図的ではなく、単に癖だ。いつもこんな結び方をしているから、ヒモの先がよけいに振り回されてほどけやすくなるのだろう。では結び方を変えてみたらほどけにくくなるのだろうか。
ヒモの先を短くして再挑戦
実際歩いてみたところ、効果はてきめんであった。さっきは20分ほどでほどけたのに対して、こんどは120分ほど持った。6倍である。
そして、ほどけ方も少し変わったのだ。
ほどけ方が違う
1回目は、普通に靴紐をほどくときと同様、ヒモの先が引っ張られて、輪っかのほうが結び目から抜けてしまい、ほどけた。
今回は輪っかのほうが引っ張られて、ヒモの先が結び目から抜けてしまい、ほどけた。
最初の結び方により、ほどけ方も変わってくるのだ。
こんどは「ヒモがゆるむ仕組み」を調べたい
というわけでそれなりの知見は得られたけど、靴ひもがほどけるメカニズムが完全に解明されたわけではない。映像でわかるのは「ひもがゆるみきっている状態から完全にほどける瞬間」であって、その前段階「なぜひもがゆるむのか」についてはよくわからなかったのだ。でも、直感的には、ほどける瞬間と同様にヒモの先が暴れることによってすこしずつほどけていくのでは、という気がする。ヒモの先が暴れにくい2回目のほうが長持ちしたし。
ともあれ、今回はひとまず「ヒモの先をいっぱい余らせる結び方はほどけやすいぞ」ということがわかり、個人的には大きな収穫であった。
余談だが、ネットでよく「絶対にほどけない靴ひもの結び方」みたいな動画を見かけるが、何度見ても理解できない。今回得た知見で満足のいく効果が出なかった場合、いよいよ禁断の瞬間接着剤を導入しようかと考えている。