特集 2014年3月27日

建物の汚れカタログ

最後には「この汚れがイイ!」となってることを目指します
最後には「この汚れがイイ!」となってることを目指します
建物は長年の雨風でどうしても汚れる。

建築家はそれをよしとせず、なるべくキレイに保つ工夫をするが、ぼくはむしろその汚れが好きだ。

汚れを丹念に見ていくと、実はいくつかのパターンがあることに気づく。なかには「そう来たか!」というレアな汚れもあるのだ。それらの見分け方と愛で方を紹介したいと思います。
1976年茨城県生まれ。地図好き。好きな川跡は藍染川です。(動画インタビュー)

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建築物の汚れとは

ピカピカのビルでもない限り、たいていの建築物はどこかしら汚れている。だから改めて「建物の汚れ」と言われても却ってピンとこないかもしれない。しかし現に汚れはあり、そこには理由がある。

分かりやすいところから紐解いてみよう。
分かるかな
分かるかな
このブロック塀、真ん中のところだけが黒く汚れている。気がついただろうか。そしてそれは何故だろうか。

カギは、その上に立つ白い支柱にある。雨は支柱を伝わり、その真下のブロックを集中的に濡らす。するとブロック塀の上に溜まったホコリが押し流されたり、カビがはえたりしてブロックが黒くなるのだ。
支柱が雨を集める
支柱が雨を集める
これでもうあなたは「支柱パターン」が分かったことになる。その目で見れば、真ん中の支柱だけじゃなくその左右の支柱の下のブロックも少し汚れていることに気づくだろう。

階段に典型的なパターン

階段の側面に注目
階段の側面に注目
今度は階段を見てみよう。1段目と2段目が分かりやすいが、側面に規則的な茶色い筋がある。これは何だろう?

カギは、タイルの目地だ。足を踏む面に降った雨は、タイルの目地を集中的に伝わり、その真下に赤茶色の鉄錆の筋を残す。
目地が雨を集める
目地が雨を集める
これが「目地パターン」だ。目地は雨を集めるということが分かる。今度は側面にも目地がある場合を見てみよう。
さっきの階段と汚れの印象が違う
さっきの階段と汚れの印象が違う
さっきと違い、側面の汚れは目地の中に閉じ込められて、その周囲に広がっていないことが分かるだろう。それによって目地の筋が汚れというよりむしろ模様に感じられる。

実は、冒頭の支柱パターンにもこの「垂直な目地」の効果が出ていたことに気づいただろうか。
左右の支柱と、真ん中の支柱との違い
左右の支柱と、真ん中の支柱との違い
左右の支柱は、その真下がちょうどブロック塀の目地になっている。だから雨はあまり周囲に広がらず、汚れが目地の中に閉じ込められている。

真ん中の支柱の下には目地がない。だからここだけ雨がじんわりと広がってしまっていたのだ。
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建物の外壁にあるものといえば換気口

だいぶ理屈っぽくなってしまったので、次はカタログをめくるように気軽に汚れのパターンを見てみよう。
換気口パターン
換気口パターン
換気口の上にたまったホコリが雨に流されて、両脇に筋を作っている。
これも換気口
これも換気口
換気口は汚れを作る。ということは建築家もよく分かっているので、その筋をあらかじめ塗っておくパターンもある。
そう来ましたか
そう来ましたか
換気口に限らず、外壁に何かでっぱりが出ている場合には同様のことが起きる。
看板
看板
出窓
出窓
こういうのはまとめて「庇タイプ」と呼んでいる。上部にホコリの溜まる場所があり、雨によって両脇に流れ落ちるという点が同じだからだ。

次は階段の外壁パターン。
階段の根元に注目
階段の根元に注目
これも階段の根元
これも階段の根元
どちらも、斜めに降りて来た階段の外壁が水平になった地点の真下に筋がある。

流れ落ちて来た雨水の速度が急に落ちて、滞留した水がそこから落ちるためだ。
次はバーコードパターン
次はバーコードパターン
これは自販機の裏
これは自販機の裏
目地や庇のようなきっかけが何もないばあい、このようなバーコード的なパターンになる。

広告看板などではこうならないように上部全てを庇で覆うような対策をするが、自動販売機の裏側にはそんなことをする意味がないのでこのようになる。大変味わい深い。
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推理してみよう

ここまでで建物の汚れのパターンがだいぶ分かったと思う。支柱に目地に庇、どれも似たような原理だ。

なので、次は推理をしてみてほしい。写真を見て、なんでそこが汚れてるのかを考えてみてほしいのだ。まずは、こんなの。
ここの汚れはなぜ?
ここの汚れはなぜ?
上側には目地もないし、支柱もない。どうしてここだけ汚れてるんだろう?ちょっとだけ想像してみてほしい。

答えは、近づいて上を見てみると分かる。
こうなってた
こうなってた
建物が途中で折れ曲がってて、そこの外壁沿いに雨が伝わって落ちて来ていたのだ。なるほど、こんなパターンもあるのか。

では次はどうだろう?
これらの筋
これらの筋
支柱パターンのようにも見えるが、よく見ると雨の筋は支柱のラインからずれている。いったいどういうことだろう?

ちょっと想像してほしい。

これも、近づいて上から見ると分かる。
そういうことか
そういうことか
なるほど、横からは見えなかった上側に目地があったのか。支柱に見せかけた目地パターン。上級者向けである。
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レアな汚れカタログ

これはすばらしい!と唸ったレアな汚れをいくつかお目にかけたいと思う。
庇逆転パターン
庇逆転パターン
まずはこの、庇となる換気口の下だけ奇麗というパターン。換気口の下は汚れるという固定観念を打ち崩してくれる。

外壁の汚れはある程度は雨が洗い流してくれるが、雨で汚れが落ちにくい外壁の場合は、かえって庇の下ほうがいつまもでキレイに残るということなのだろう。
「絶対わざとだろ」パターン
「絶対わざとだろ」パターン
次はこの壁。苔むした緑の筋が美しい。近づいて見てみよう。
もうあなたには一番上に目地が見えるはず。
もうあなたには一番上に目地が見えるはず。
緑色の筋が始まるてっぺんの部分にタイルの目地がある。今のあなたならすぐに気づくはずだ。

ところが、あろうことかてっぺんの目地とすぐ下の外壁の目地が一致してないので、そこから雨水が広がり放題なのだ。

ただ、そこで目地の位置を合わせるなんてことは誰でも気づくことなので、これはわざとやってるんだろうと思う。そのおかげでとてもいい景色になっている。
こすった跡のようなものが見える
こすった跡のようなものが見える
次のこれは本当にすごいものだ。今までのどれとも違うパターン。まっすぐじゃなくて、円を描くようにこすったような跡が見える。これは何か。
木が切られてる
木が切られてる
そう。これはもともとあった木の葉っぱが、風に揺られて外壁をこすった跡なのだ。その部分だけホコリが落ちてキレイになっている。

「超芸術トマソン」などで知られる赤瀬川原平氏は、こういうものを「植物ワイパー」と呼んでいる。車のワイパーのように、揺れる植物が外壁をきれいにするからだろう。

この場合、木が切られた上に電柱に隠れていることで、植物がこすった跡だけが純化して見えている。非常な名品だと思う。

汚れは味である

石垣に苔むしているのを見て、汚れていると思う人はいない。

ブロック塀が経年で黒ずんでいるのだって、ぼくは同じだと思う。どちらも長年の自然の作用で生じた味である。
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