じいさんばあさんの人口が多いなら、そちら向けに記事を書くべきでは?と思い当たった
私はこのサイトで20代30代を読者として想定して記事を書いているが、そんなことでいいのだろうかとふと思った。
高齢化社会となった今、おじいさんおばあさんたちを笑わせる記事を書いた方が多くの人に届くのではないか。
だがどうやって?今回はおじいさんおばあさんの笑いのツボを探っていきたい。
漫才協会に学べ!
「おじいさんおばあさんの笑わせ方を知りたいのですが…」と相談したのは、東京で漫才といえばの漫才協会。
名誉会長内海桂子、会長青空球児…浅草東洋館で寄席を開催し、東京のお年寄りたちを日夜笑わせ続けている老舗中の老舗だ。
月一回北千住でやってる「天空寄席」の出番前の芸人さんにインタビュー。無料ということもあって、おじいちゃんおばあちゃんたちがガンガン入ってきてます。
今回お話を伺ったのは、世界少年、ニックス、キラーコンテンツの若手コンビ。寄席(お年寄り向け)とライブ(10代~30代向け)の両方をこなしているので世代による笑いのツボの違いには意識的であるはず。
そして実際に色々な笑わせ方のポイントを教わった。箇条書きではあるがこちらがそうである。
・ゆっくり話す、説明を多くする、情報量は減らす
・問いかけるといい
・話をよく聞いてネタとして理解する
・話をよく聞きすぎ、真に受ける場合があるので盛りすぎ注意
・毒舌や暴力は年齢を伴わないと難しい
・ブラックジョークと自虐はウケる
・時事ネタがウケる
・衣装(カッチリした格好)
・清潔感と眉毛を出すこと
・共感できること、語り手に説得力が必要
・じいさんばあさんはほめられたい
・おばあさんはいつまでも女性だ
・ダジャレやうまいことはウケる
・わかりやすさ(動き、化粧、カツラ、親子の大衆演劇、知っている話)
どういうことであるか?は順を追って見ていこう。
話を聞いたのは、左から世界少年、ニックス、キラーコンテンツの漫才コンビ
あのナイツもゆっくり喋ってる
――お年寄りのお客さんと若いお客さんは違いますか?
吉田(世界少年)
「僕らはもう完全に分けてやってますね。スピードもものすごく落として。話自体も変えて、オチとかもぜんぜん違いますね。若い子はオチまでに細かいボケを入れないと笑ってくれない」
エミ(ニックス)
「若い人向けだと、三秒に一回笑いをとれ、とか言われてますよね」
――えっ!三秒!?
トモ(ニックス)
「大げさだけど、ナイツとかはほんとにそれくらいでやったりするよね」
鯨井(世界少年)
「そのナイツさんも寄席だとしゃべるスピード変えてますからね。速さが全然違いますから。」
トモ(ニックス)
「若い人は振ってボケて振ってボケてでいけるんですけど、お年寄りは振って説明してボケるみたいな。オチまでに一分くらいかかったりとか」
お年寄りには漫才のネタ自体変えるという世界少年の吉田さん(写真左)、鯨井さん(右)。鯨井さんは元銀行マンで芸歴二年。二年でこんなに喋れるようになるのか!と思うほど。
100歳以上はほんとに聞こえないらしいぞ
――ゆっくりやって、説明を多くする、と
エミ(ニックス)
「それでも聞こえないとかありますね。敬老会で漫才させてもらう時はご老人ばっかりで。一番前の方は高齢の方、ほんとに100歳以上とか」
トモ(ニックス)
「いつもの寄席のネタを1.5倍の長さにゆっくり伸ばしていってやるんですけど、何も伝わらないんですよ。前の高齢のおじいちゃんおばあちゃんはポカーンって。
ただそんな最前列のおじいちゃんおばあちゃんが、ふん、とでも笑うと、よっしゃ!って(ガッツポーズ)」
話しぶりを聞くと、若者向けとお年寄り向けの漫才は相当ちがう。ゆっくり喋って説明を入れて、とにかく分かってもらう必要があるようだ。
point
→ゆっくり話す、説明を多くする、情報量は減らす
出演はほとんどが寄席だというニックスのトモさん(妹・写真左)、エミさん(姉・右)。ケーブルテレビ足立に出演中。アメリカ人の祖父を持つクォーター姉妹だが、喋り方はド直球の浅草スタイル。
三角関係を作れ!
エミ(ニックス)
「師匠たちに教わったのは三角関係を作れって、自分たちだけの自己満足のしゃべりでなく、お客さんにふってしゃべって、みたいなね」
――お客さんにふる?
鯨井(世界少年)
「そうですよね?って客席に向かって聞いたりですよね。高齢者の方ってふるとうんうんってちゃんとうなずいてくれるんですよね」
そういえば漫才ではみんな問いかけている。漫才自体が閉じてない、開かれた世界になるし、問いかけられると理解力も上がる。何より親近感がわく。
point
→問いかけるといい
たしかにみんなガンガン客席にふっていた
「わかんねーよ、帰れ!!」
トモ(ニックス)
「今のお笑いはしゃべくりっていうよりはキャラクター重視になってますが、お年寄りだとネタをしっかり聞いて、笑ってくれますね」
和出(キラーコンテンツ)
「寄席で一回ガンダムのネタをやったんですよ」
長谷川(キラーコンテンツ)
「客席から『わかんねーよ、帰れ!!』って言われて…聞いていただいてるなって思いました(笑)」
なぜお年寄り漫才は理解させる必要があるのか?と思っていたがこのためか。ネタをしっかり聞きたいから、分かりやすい方がいいのかも。
そしてゆっくりやって説明聞いてやっと分かった漫才がガンダムだとは。
point
→話をよく聞いてネタとして理解する
寄席でガンダムのネタをやって「わかんねーよ、帰れ!!」と怒鳴られたキラーコンテンツ。今では振り込め詐欺ネタなど大人の漫才を。
すごく素直
――話をよく聞く、と
鯨井(世界少年)
「一度ボケで、栃木のかんぴょうは一年間で地球四周作るんだ、ってちょっと盛って笑わせようと思ったんですけど、すごく素直だからそれを真剣にメモってたんですよ。難しいなって思いましたね」
長谷川(キラーコンテンツ)
「笑ってほしいところで声援がきたことがあります。たとえばですけど、バイトしてるんですよって言ったら『がんばって!!』
って声が返ってくる」
point
→話をよく聞きすぎ、真に受ける場合があるので盛りすぎ注意
漫才中に差し入れがあるのも孫感覚だからか
孫感覚で怒られるぞ
――僕のイメージしてたのは、綾小路きみまろとかなんですが……
トモ(ニックス)
「毒舌は難しいです。きみまろ師匠くらいの年齢いってればお客さん受け入れるんですけど、私たちみたいなのが毒吐いたとしたら『この若造が…』みたいな感じになっちゃうのでそこの駆け引きは難しい」
鯨井(世界少年)
「僕ら世代だと、孫みたいな感じで見てるんじゃないかなって思いますね。母親のことをクソババアって言うネタがあったんですけど、そんときは『ダメだよそんなこと言っちゃあ』
って怒られましたね」エミ(ニックス)
「それでいえば、どつき漫才、手を上げるのとかをやっちゃうと一気にパーッと引いていきますね」
・毒舌や暴力は年齢を伴わないと難しい
ツッコミを強めにしたコンビはアウェーで戦う羽目になる
若い子はブラックジョークがウケない
吉田(世界少年)
「でもブラックジョークはウケますね。自虐とブラックジョークは若い子には受けないんですけど、お年寄りはいける。
賽銭泥棒とかそういうネタって、若い子は"いけない行為"として見るからウケないんですよね、年配はネタとして見てくれるからウケる」
トモ(ニックス)
「『バイトしてます』
って振って『夜人んちに忍び込んだり』
とか、そういうのは受けます。若い人向けのライブだと絶対ウケないですけどね」
若い子にはブラックジョークがウケないというのもちょっと驚き。でもインターネットの世界でも犯罪の冗談は言いにくいし、ちょっと通じるとこがあるかも。
point
→ブラックジョークと自虐はウケる
キラーコンテンツの長谷川さん(写真左)は漫才師になった後も引きこもり歴がある。和出さん(右)は大きなおにぎりの話をしている感じになってるが、特にそういうわけではない。
すごくテレビを見てる世代
鯨井(世界少年)
「時事ネタもけっこうウケると思います」
トモ(ニックス)
「年配の人ってテレビ見てる時間すごくあるんですよ。だから中途半端な情報量だとお客さんの方が知ってるってこともあるんで怖いですね」
和出(キラーコンテンツ)
「そうそう、皇潤とかそういうテレビCMも受けますね」
――キラーコンテンツさんがやってるという振り込め詐欺のネタもウケがいいですか?
和出(キラーコンテンツ)
「やっぱり聞いてくれますよ、身近な問題なんですよね」
長谷川(キラーコンテンツ)
「実際にうちのおばあちゃんとこにも『もしもし僕(長谷川)だけど』ってかかってきましてね。僕その場にいたんですけどね(笑)。『仕事で30万円必要になった』って。そしたらうちのばあちゃんは『うちの孫は仕事してません!』
って切ってました(笑)」
point
→ 時事ネタがウケる
「みんながおれを見ている気がして下ばかり見て歩いていた(笑)」「漫才協会はリハビリセンター」長谷川さんの引きこもりエピソードには散々笑わせてもらったが、取材と関係ないので割愛
スーツへの食いつきはちがう
吉田(世界少年)
「あとは衣装もありますね。普段着で出ないほうがいいって」
――スーツとか?
鯨井(世界少年)
「最初の食いつきは違うと思いますね」
トモ(ニックス)
「大きい会館とか敬老会とかだと最低限のちゃんとした格好じゃないとあんまり受け入れられないので、スーツ着たりとか」
吉田(世界少年)
「逆に若い人向けのライブだと衣装着てるとカタいと見られて受けなかったりとかもします」
お年寄りがジーパンに怒ったりという話はよく聞くが、カッチリした衣装だと若い人にウケないというのは新鮮だった。でもたしかにリアリティがないのかもしれない。
point
→衣装(カッチリした格好)
白スーツ!演芸見にきたなという実感がわく
眉毛が一番重要だ
トモ(ニックス)
「年配の方って清潔感が求められるのかなって」
エミ(ニックス)
「女の子だと前髪は眉毛にかかってはダメっていいますね。男女ともになんですけど、舞台では眉毛の形が見えないと笑顔とか表情が分からないんですって。
漫才はじめた頃先輩方に、眉毛が一番重要、それで表情読むって言われました。それが清潔感にもつながるんだと思います」
タメになる情報が出てきた。眉毛を出すと表情がわかりやすくなるらしい。と言いつつも、舞台上には前髪垂らしてる人もいる。
point
→ 清潔感と眉毛を出すこと
スーツなんだけど蝶ネクタイと半ズボンとか、カチッとした変な格好の人が多い
共感させるということ
トモ(ニックス)
「うちの姉が『太る』って言ったらウケるけど、(隣の世界少年を見て)この辺のガリガリが言っても共感できないって」
鯨井(世界少年)
「例えば、若い子が時事の話をしても、説得力がないと聞いてもらえないので。だから自分たちの話をしたほうがいいって言われますね」
エミ(ニックス)
「時事ネタに限っては女の子はダメなんです。コロムビアトップ師匠に『女性が時事ネタをやるっていうのはものすごく小生意気に見えるからやってはいけない』って教えてもらいましたね」
共感というか説得力というか。女の子が小生意気に見えたらいけないというのも古い考えだが、お年寄りだからしょうがない。
point
→共感できること、語り手に説得力が必要
そういえばニックスのトモさんは眉毛の話のあとの舞台で、きっちり帽子をかぶっていた……
たまにナイーブな問題がある
和出(キラーコンテンツ)
「僕らが経験したので言えば、前期高齢者とか後期高齢者とかの話題。さわれないっすね。終わったあとにおばあちゃんに言われたんだよね」
長谷川(キラーコンテンツ)
「『善い喜ぶでゼンキ、善喜高齢者にしたら?』って。例えば、高齢者を前期後期で分けちゃいけないんですよね、それだったら善喜高齢者と光輝高齢者にしないとね、とか」
――うわー、おもしろくなさそう(笑)
和出(キラーコンテンツ)
「でもそれ実際めっちゃくちゃウケるんですよ!」
光輝高齢者!歯が浮くようなほめ方であるが、うちの母がよく行ってた宗教の講演ではこういう言葉が頻出していた。
point
→じいさんばあさんはほめられたい
最後には足立区長が出てきた
めちゃくちゃウケる「成人式かと思いました」
トモ(ニックス)
「年配の人は持ち上げられるのには弱いかもしんない。ここの全員にあるあるだと思うんですけど、敬老会で『今日成人式かと思いました』とかものすごくウケますね」
エミ(ニックス)
「逆に、今日はもうお花畑にいるみたいですね~ここはゆりの花でここはランの花でここはドライフラワーって言ったらムッとされたりとか」
トモ(ニックス)「きれいでいたいっていう気持ちは、女の人だといつまでもあるみたいですね」
point
→ おばあさんはいつまでも女性だ
六人集うとほんとにトーク番組みたいなことがはじまる
どういう人がウケている?
――寄席ではどんな方がウケるんですか?
エミ(ニックス)
「わかりやすいのはあれじゃない?春風こうた・ふくた師匠の」
トモ(ニックス)
「美空ひばりさんのりんご追分って歌を歌うんですけど、りんごりんご♪りんごりんごりんご♪ってずっと言って歌わせないんです。最後に、これでいいんだよ、りんご多いわけ、って。これでドーンとウケルんです。
――お、ダジャレはどうなんですか?
トモ(ニックス)
「うけるうける。ダジャレ言ったりうまいこと言ったりは」
point
→ ダジャレやうまいことはウケる
春風 こうた・ふくた(写真:漫才協会)
トモ(ニックス)
「他には、ザ風林火山さんっていう方がいるんですけど、大衆演劇みたいな感じでやるんです。
親子でやってて、そこは、なんていうんでしたっけ、忠太郎や~い…ってやつあるじゃないですか…(誰もわからなかったが後に番場の忠太郎だと判明)」
ザ風林火山(写真:漫才協会)
吉田(世界少年)
「正直僕らが見てても内容がわからないけど、もう、めっちゃくちゃウケルんですよ」
トモ(ニックス)
「寄席なのにおひねり出たりするんですよ。客席歩いたりするからね」
和出(キラーコンテンツ)
「わかりやすいっていうのもあるでしょうね。動きとか」
長谷川(キラーコンテンツ)
「全員話を知ってるっていうのもありますしね」
若手が見ても内容がわからないというのがすごい。じいさんばあさんだけの世界が確実にあるのだ。
point
→ わかりやすさ(動き、化粧、カツラ、親子の大衆演劇、知っている話)
芸人さんが集うと何もしなくてもすぐトーク番組みたいになっていく
葛藤はないのか?
――新しいことやってるけど、お年寄りにも受けるな~ってパターンあります?
吉田(世界少年)
「ないです」
長谷川(キラーコンテンツ)
「難しいんじゃないかな~」
――となると、若手にとってやりたいこととの葛藤みたいなのはあるんじゃないですか?
吉田(世界少年)
「葛藤みたいなのはないですね。今の漫才も昔の漫才もも好きなんで、お年寄り向けもできればいいし若い人向けもできればいいし、って」
長谷川(キラーコンテンツ)
「僕はあきらめてます。ぼく引きこもりだったんですけど、僕が好きなことっていうのが、多分どこにもウケナイことなんで。たとえば浅草の寄席でウルトラマンとかガンダムのネタをやってもウケるわけがない」
「今日の僕らのネタはお年寄り向けじゃないんですけど…」と言ってた世界少年は、最終的にヤギになって終わっていた。そりゃお年寄り向けじゃないわ!
結局は人を見てやる
トモ(ニックス)
「結局、人間対人間みたいなもので、ほんとにお客さんを見てやるしかないんです。このネタが受け入れられなかったら変えるしかないんで」
――漫才中に変えるんですか?
トモ(ニックス)
「やりはじめてぜんぜんついてこないと、絶対うけないからこっちのネタに変えようとか、まったく変えたりしますね」
お客さんの反応を見ながらネタを変えたりするらしい。いろいろとコツを知ったうえで、さらに臨機応変に対応する。寄席の世界はすごい技術で支えられている。
と、色々と教わったうえで、今度は自分でもお年寄り向けの記事を書いてみることにする。
以上を踏まえて次ページからは吉祥寺のリスを探しに行く記事を書いてみます
以上を踏まえて実践する
以上を踏まえて、おじいさんおばあさん向けの記事を一度書いてみた。教えてもらったポイントを反映した点はオレンジ色の太字で注釈を入れてある。
私には葛藤がある!
とりあえずできた記事を実家の父に送り、祖母(81歳)に見てもらって電話をした。「いいの見させてもらってありがとうございました」とのことだった。あとは、ひ孫の顔を見て食べさせたくなったからさくらんぼとメロンを贈るとのことだった。
何がどうだったのかさっぱりわからないまま、高級くだものをゲットするというものすごく即効性のある結果が出たわけだが、はたしてこれでいいのだろうか。
若い人向けも高齢者向けもどっちもできればいいと言っていた世界少年の吉田さん、自分のやりたいことをあきらめて高齢者向けにやってますと言っていたキラーコンテンツの長谷川さん。お二人はえらいな、とファブリーズ大北は思うわけです。