特集 2022年3月22日

リサイクルのすごい版「アップサイクル」ってなんですか?

公園に突如出現した謎のオブジェ群。これがアップサイクル素材…なの?

編集古賀さんから唐突に「きだてさん、アップサイクル素材に興味ないですか?」という連絡が来た。興味のあるなし以前に、なんなんだアップサイクル。あ、初めましてー、としか返事できないワードだ。

話を聞くに、いま渋谷で開催中のアートイベントで「アップサイクル素材にスポットした展示」をやってるので、その辺りを詳しい人に聞いて記事にしようぜ!という流れらしい。

そう言うことならやぶさかではないが、それにしてもなんなんだアップサイクル。

1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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渋谷のオシャレイベントでアップサイクルを学ぶ

まず現状から説明させてほしい。

実は現在〜3月31日まで、東京のあちこちで「東京クリエイティブサロン」というファッション・アートイベントが開催されている。その中で渋谷で展開中なのが「渋谷ファッションウイーク2022春」だ。

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会期中は渋谷のあちこちでアート展示やったりランウェイショーやったりと、現時点でもうかなり盛り上がっている感じ。気温が春めいてきたのも併せて、街の中がより華やかな雰囲気だ。

そして件のアップサイクル素材が焦点になってる展示というのが、北谷公園にて開催中の「A_BOX Shibuya+Harajuku」である。

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「A_BOX Shibuya+Harajuku」開催中の北谷公園。

北谷公園、公園通りから路地に入った辺りになんかあったな?ぐらいの印象だったんだけど、昨年4月にリニューアルされて、いまやすっかり渋谷おしゃれパーク。

しかし、公園の中にいろいろとオブジェ的なものが立ち並んでいるんだけど、これがそのアップサイクル素材なの?

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大小様々なオブジェ(A_BOX)、座ったりテーブル代わりにしてもいいらしい。

正直、見てるだけではよく分からないな。やっぱり詳しい人に話を聞かないと、単にオシャレスポットでぼんやり日向ぼっこしにきただけで終わりそう。いやそれはそれで楽しいけど。ブルーボトルコーヒー美味いし。

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公園内にブルーボトルコーヒーがあるので、A_BOXに座ってブレンドをいただきます。うめえ。

ということで今回は、

・企画全体のプロデューサーであるDESIGNARTの青木昭夫さん
・「アップサイクルボード」のメーカー、ショーエイコーポレーションの安田さん
・「オーガニックプラスチック」のメーカー、豊島/LandLoopの加藤さん

このお三方に、ビデオ会議でお話を伺ってみた。

「アップサイクル」ってなんですか?

きだて
思いっきり根本的な話ですけど、「アップサイクル」ってなんなんですか?

青木
そうですね、リサイクルの発展版といいますか……リサイクルって、既存のモノを再利用するとか、同じ仕様で繰り返し使うイメージですよね。対してアップサイクルは、再利用時に今よりさらに高い価値を持たせたものと考えてください。

きだて
えーと、例えば廃品の紙を溶かして再生紙にするのがリサイクルですよね。そこから価値を高めるっていうのはどういう状態だ……。

青木
実際の例だと、コカ・コーラのガラス瓶ありますよね。あれを粉砕して、青森のビードロ職人さんによってテーブルウェアに作り替えてもらったことがあります。古い瓶を新しい瓶にリサイクルするんじゃなくて、1万円以上する立派なお皿になった。それをお客様に喜んで買ってもらえたら、価値が上がったということですよね。

きだて
コーラ瓶が1万円のお皿に! あ、そういえば僕がふだん使ってるトートバッグ、首都高で使われていた横断幕をリメイクしたものなんですけど、これももしかして……?

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首都高横断幕リメイク「事故」トート。アップサイクルが意外と身近なところにありました。

青木
それもアップサイクルのひとつですね。

古賀
おー、なんか分かってきましたよ、アップサイクル!

イベント終了後のゴミは、もうゴミじゃない!?

話を伺うことで、なんとなく「アップサイクルの正体」が見えてきた。
次は、北谷公園の展示「A_BOX Shibuya+Harajuku」とアップサイクルの関係性である。

とはいってもすでになんとなく見当はついている。公園のあちこちにある机やベンチみたいなオブシェ、あれがきっとアップサイクル素材で作られたものなのだ。そうでしょう青木さん。

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たぶんだけど、これがアップサイクル素材に違いないぞ。布のような、でもカッチリと硬い不思議な質感だ。

青木
そうです。展示するものがすべてアップサイクルをする前提で設計されてたり、素材を使っていたりというものなんです。イベント後もゴミにするんではなくて回収業者さんに引き取って貰ってアップサイクル素材にしてもらう。

きだて
あ、アップサイクル素材を使ってるだけじゃなくて、終わった後に出るゴミもアップサイクルするんですか。こういうイベントって、だいたい終了後に「マジかよ…」みたいな膨大な量のゴミがでるじゃないですか。もしかして、あれがゼロになる?

青木
うーん、どこまで厳密に言うかなんですが、ウソのない言い方をすると、アップサイクル率は99%ぐらい? 演出用にコケとか土とか回収しづらいものもあったりするんで。

きだて
それでも充分ですよね。99%のゴミが回収されてより高価値のものになるって、むしろ儲かっちゃう可能性はないですか。ある意味錬金術ですよそれ。

ちなみにこの「A_BOX Shibuya+Harajuku」は、世界の第一線で活躍する建築家の谷尻誠さん、吉田愛さん(SUPPOSE DESIGN OFFICE)が担当している。

岡山のデニムを中心にハギレ、残布、古着を再利用したアップサイクルボードを全面に用いたA_BOXは、テーブルやベンチとしても機能するインスタレーション。また、このA_BOXは土日に開催されるフリーマーケットの什器にもなるとのこと。

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ちなみにこの大きめなA_BOXの中は……
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内部が棚みたいになってる。ここにもフリマで売るものが並ぶとのこと。

青木
ハギレが元になったアップサイクルボードで、ミノムシのミノをイメージしたデザインを作りました。

きだて
ミノムシ? あ、そうか、枯れ枝とか木の葉とかを合わせてミノを作るあの感じだ。あれも廃棄物のアップサイクルって言えるんですね。

青木
大屋根の下に3mぐらいの大きなA_BOXがあるんですが、そこはフラワーアーティストの田中孝幸さんが作った「蓑虫庵(ミノムシアン)」といいまして、中に入った人があたかもミノムシになったかのような静寂な空間を作っています。

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こちらがミノムシ体験ができるという「蓑虫庵」。

きだて
ミノムシになる体験というのはまったく意味分かんないですが、興味はメチャクチャ惹かれますね。

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伐採した街路樹の枝がみっしり貼られた「蓑虫庵」内部。静かで落ち着く感じがいいな。

青木
街路樹って定期的に枝を剪定してるんですが、その通常捨てられる剪定枝を伐採した枝でミノの内側を再現しました。これも撤退後は木粉にして、Land Loopというバイオプラスチックにアップサイクルされるんです。

アップサイクルするのに接着剤が大変だ問題

なるほどー。しかしそこまでイベント撤収後のアップサイクルを徹底するには、事前に気を遣っておくこととか、コツみたいなのもあるんじゃないだろうか。

ペットボトルのリサイクルをするために予めラベルを剥がしておくとか、そういう手間もあるんじゃないか。

古賀
実は「接着剤が指定されている」という話をちょっと聞いたんですよ。

青木
そうですね! アップサイクルする上で、エポキシ樹脂などはすごく邪魔になります。

エポキシ系接着剤は接着強度が非常に強いので、建築なんかにも多用されている。イベントで立体物を組み立てるなら、ほぼマストで使うものだと思ってた。それが使えないとなると、かなり大変なんじゃないだろうか。

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ちなみに、環境負荷の少ない特殊な耐水コーティングも施されているそう。アップサイクル、いろいろと大変だ。

青木
なので、接着剤は比較的害の少ない木工用ボンドを使うとか。それ以外にも、撤収時に分解しやすいような工夫はいろいろとしています。

安田
すいません、うちがあとから再利用しやすいように、分解しやすいようにと無理なお願いをしました(笑)。 作るときからその辺りは考えておいてもらうとありがたいです、と。

「A_BOX Shibuya + Harajuku」で主に使用されている建材は、安田さんのおられるショーエイコーポレーションで作ったハギレ製のアップサイクルボードだ。

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アップサイクルボード(画像提供:株式会社ショーエイコーポレーション)

しかもイベント撤収後はさらに回収して、もういちどアップサイクルボードに作り直す(これはリサイクル)らしい。そりゃ、加工しやすいように頼みたい気持ちは分かるけど、それにしたって木工用ボンドで組み立てるのは、強度とか考えるとかなりキツそうな気がする。

安田
さらに、そもそも接着剤少なめで、ともお願いしています。

古賀
木工用ボンドで、さらに少なめ! 大変!

安田
アップサイクルを考えると、やはり木工用ボンドであっても少なめの方がいいですね。

青木
とはいえ、当然ながら事故があっちゃいけないし。ボードが剥がれたり、風で飛ばないようにとかの懸念はあるので、どうしても強度が必要な一部に関してはタッカー(建築用のホチキス)も使う可能性はあります。すると回収する際に金物が混じっちゃう可能性もあるので、この辺りは協議しながらですね。

安田
ボードにするとき、事前に繊維を綿みたいに細かくほぐして、空中にバーッと飛ばすんですよ。エアレイドって言うんですが。

きだて
へー!

安田
そのとき、タッカー針のような重い金属片は全部下に落ちるので、分離はできるんです。ただ、量が多くなると難しいので、「回収したボードのこの辺りに入ってるよ」とマーキングしといてもらうとか、その辺りが事前に協議しておきたい部分ですね。

で、実際どうやって作ってるのアップサイクル素材

最初は「アップサイクル、錬金術じゃん。するほどに大もうけじゃん」みたいなことを考えていたけど、当然ながら大変な要素はいろいろとあるっぽいな。

そこで改めて、アップサイクル素材の作り方も教えてもらおう。

きだて
ショーエイコーポレーションさんのアップサイクルボードって、これ、わりと硬い板ですよね。これが古着とかハギレでできてる?

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叩くとコンコン音がするレベルでしっかり硬いアップサイクルボード。これが元はハギレなのか。

安田
製造上のハギレだったり、売れ残り、店頭からの回収古着などですね。そういったものを仕分け・断裁したら、反毛機に入れます。

きだて
反毛機? まったく聞いたことない機械がでてきたぞ。

安田
布をガリガリひっかいて梳いていくような形で、細かな短繊維にまでほぐしていく機械ですね。で、その繊維をフェルトのシートに成形します。

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こちらが反毛機(画像提供:株式会社ショーエイコーポレーション)

きだて
まだこの時点では普通に柔らかいフェルトですか。

安田
そうですね。

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この時点ではまだふわふわ(画像提供:株式会社ショーエイコーポレーション)

安田
そこからが弊社独自の技術なんですが、融着繊維を加えて加熱・プレスして冷却、という流れで繊維ボード化ができます。ちなみに融着繊維というのは、熱で溶けて固まる合成繊維です。

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平たくボード化した様子(画像提供:株式会社ショーエイコーポレーション)

きだて
そうか、それが繊維の間を固めてカチカチになるんだ。

安田
面積あたりの繊維量を調整することで、厚手ジーンズぐらいの柔らかさから、硬いボードまで、わりと自在ですね。

きだて
おー、使える幅が広そうな感じ。あとはコストですよね。例えば同じサイズ・厚みのアクリル板と比べたら、やっぱりお高い感じになっちゃいます?

安田
同じモノをアクリルで作るよりは、安価に済みますよ。本来は捨てる繊維が原料ですし。だから、今回のイベントが終わったあとに回収するものも、僕らにとってはゴミではなくて資源なんですよね。これを粉砕してフェルトにしてまたボードにして、ができるわけで。

こんなふうに商品の素材としても生かされている(画像提供:株式会社ショーエイコーポレーション)
こんなふうに商品の素材としても生かされている(画像提供:株式会社ショーエイコーポレーション)

もちろん、製造上の歩留まりなんかもあるので、完全に100%がボードに再利用できるわけではないらしいが、それでも古着やハギレがこういう形でアップサイクルされるのは頼もしいかぎりだ。 

衝突エネルギーで木が燃やせるプラスチックになる?

もうひとつ「A_BOX Shibuya+Harajuku」で撤収後に行われるアップサイクルが、豊島のバイオプラスチック、Land Loopだ。

今回は主に展示に使用された木材を回収・細かく粉砕したあとでLand Loopにするという。

加藤
Land Loopの特徴は、例えば木材とか、あとはホタテの貝殻とかコーヒーの残渣だったりを半分以上原料にしてプラスチックが作れる、ということです。

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粉砕した木材からプラスチックを作る……?(画像提供:豊島株式会社)

きだて
そんなことができるんですか。

加藤
これらの有機物をPP(ポリプロピレン)やPLA(ポリ乳酸)と混ぜて作るんですが、このときに接着剤や添加剤を入れて融合させると、それは環境に負荷がある。そこで接着剤を使わず、衝突エネルギーを使うんです。

きだて
分からない状態に、追加で分からない要素を足された! 接着剤の代わりに衝突エネルギー? それは代替可能な要素なんですか。

加藤
ヒーターなどの熱源も使用せず、材料同士が衝突する際に発生する熱を利用して、物質を溶融させるんです。そうすることで、接着剤をつかわない世界初のバイオプラスチックとして作ることが出来たわけです。で、木材を50%以上溶融させると、表記上はプラスチックじゃなくて木になるんです。

古賀
表記上は木!

原材料が50%以上木材であれば法律上も問題なく燃えるゴミとして処理できるらしい。

しかも従来のバイオプラスチックは成型方法に制限があって使いづらかったのが、Land Loop射出・押出し・プレス成形と、普通のプラスチック的な加工が可能。これもアップサイクル素材として価値が高いところだそう。

きだて
それにしても、衝突エネルギーでどうにかなるというのがやっぱり分からない。

加藤
細かく砕いた原料と樹脂を、巨大なホイップミキサーみたいなのでガーッとかき回すんです。

きだて
えっ、単にかき回すだけ?

加藤
それの超激しい版だと思ってください。それで原料同士をぶつかり合わせて熱を発生させるんです。

古賀
それでくっついちゃうんだ……。ちなみに原料ってどういうものが使えるんですか?

加藤
だいたいなんでもいけますよ。沖縄のパイナップルの皮を使ったこともあります。

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こちらもLand Loopの作例(画像提供:豊島株式会社)

原料をかき回すだけで有機物がプラスチックになってしまうだけでも充分にすごいが、元の原料によって機能性を持たせることもできるというのは、驚きだ。

アップサイクル素材の技術ってすごい。正直、将来性しか感じないぞ。

渋谷の路地裏スポットでぼんやりアート展示を眺めるだけでも充分に楽しいけど、さらに「アップサイクル素材すげーな!」という視点を加えて見ると、より深く堪能できるはず。

とりあえず、A_BOXに座って「これが元々はハギレかー」って思うだけでも楽しいし。
ひとまず天気の良いタイミングを見計らって北谷公園に行ってみるの、オススメだ。ついでにミノムシ体験もして欲しい。

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「A_BOX Shibuya+Harajuku」は3月31日まで開催。ぽかぽか陽気の中でのんびり座ってると最高だぞ。

今回みなさんにインタビューさせてもらう中で、ちょっと気になった話があった。

昨今、よくあるSDGsイベントでたびたび「サステナブル技術展」みたいな展示会が開催されているんだけど、その撤収時にはものすごい量のゴミが出ちゃうらしいのだ。おお、ぜんぜんサステナブルじゃなくて、皮肉な寓話っぽさがすごい。

そういう意味では、今回の「A_BOX Shibuya + Harajuku」の撤退まで含めたアップサイクルな取り組みは、大きな意味がありそうにも感じられるなー。

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とりあえずアップサイクルボードがどんな感じなのか、触りに来るだけでもぜひ。

 

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