特集 2022年1月12日

バスが列車にトランスフォーム! 世界初の公共交通DMVに乗ってきた

ある時はバスに、またある時は列車に。その名はDMV!

DMV(デュアル・モード・ビークル)という乗り物がある。バスから列車に、列車からバスにモードチェンジする、変形ロボみたいなマシンである。

2021年末、世界初となるDMVの営業運行が始まった。場所は徳島県南部の海陽町。徳島出身の私としては、うれしいニュースである。さっそく乗りに行ってきた。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

前の記事:マウスポインタの移動距離は一日1.2km! 距離計を作って確かめる

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DMVって何だ?

DMVは「Dual Mode Vehicle」の略で、日本語にすると「2つのモードを持つ乗り物」。2つのモードとは、「バス」と「列車」のことである。 

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こちらがDMVの車両。かわいいボンネットが目を引くが、これだけなら誰が見てもバスだ
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車内からの光景を見ても、やはりただのバスだけど……
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なんとこの車両、線路の上も走れてしまう!
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車体や運転席はバスなのに、窓からの風景は鉄道である。脳が混乱する

このように、バスであり列車でもある、道路と線路の両方を走行可能なビックリドッキリ乗り物、それがDMVなのだ。

かつてはJR北海道による開発が進んでいたものの、実用化には至ってなかったDMV。それがついに、営業運行を開始するというニュースが届いた。しかも場所が徳島県、私の地元である。

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世界で唯一DMVが営業運行されている場所、それが徳島県最南端の海陽町(路線の一部は高知県の東洋町、室戸市にまたがる)

運営するのは、海陽町にある第三セクター「阿佐海岸鉄道」。もとは鉄道路線を運行していたが、長い準備期間を経てDMVの実用化を達成。去る2021年12月25日に、世界初となるDMVの運行を開始したのであった。

どうして道路と線路の両方を走れるのか、先にモードチェンジの様子を見てもらった方が分かりやすいだろう。

バスから列車に、列車からバスに変形する様子はぜひ動画で

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モードチェンジの場所(モードインターチェンジと呼ばれる)には、ガイドレールが敷かれており、
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そこにバスが乗り入れる
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しばらくすると、車体から鉄道用の車輪が降りてきて、
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レールの上に乗っかる。バスから列車への華麗なる変身である
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モードチェンジの時間はわずか15秒ほど。運転士による安全確認の後、バスにしか見えない車両は、列車としてレールの上を走り出すのであった

歴史、技術、地域振興、観光などなど、いろんな側面を持っており、自治体や地元の期待を背負うDMV。だけど私の想いはただひとつ、「こんな面白そうなメカに乗らないわけにはいかない!」である。JR全線完乗もしている乗り鉄なので、ただ乗りたいから乗りに行く。これはそういうレポートです。

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DMVに乗りに行くぞ!

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阿佐海岸鉄道DMVの路線図を簡略化して書いてみた。真ん中に4駅分の鉄道区間があり、その両端がバス区間だ(土日祝限定で、一日一往復だけ室戸岬方面行きがある)

もともとの阿佐海岸鉄道は、海部~甲浦(かんのうら)までのわずか3駅しかなかった。それが今回のDMV化に伴って、海部~阿波海南をJR四国から移管。それでも鉄道区間はたった4駅しかない短い路線である。「阿佐」という名の通り、阿波(徳島)と土佐(高知)を結ぶ構想の路線だったのが、途中で頓挫していまの形になっている。

両端のバス区間を合わせても、(室戸岬行きを除くと)全長で約15km、乗車時間は35分である。気軽に往復できる距離だ。なので気軽に往復することにしましょう。

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開業から一週間経った2022年1月2日。始発停留所となる「海の駅 宍喰(ししくい)温泉」へと降り立った。ホテルや温泉が隣接されている、リゾート風味の道の駅だ
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「海の駅」という愛称の通り、目の前が海! 青い海に青い空という、南国チックな雰囲気が気持ちいい

徳島市内からは約2時間の距離で、交通手段は車もしくはJRになる。

私はバス→列車→バスの経路を通しで乗りたかったので、どうしても最初に始発の停留所まで来る必要があった。となると、移動手段は車が現実的だ。公共交通に乗るため車で来ることの是非はあるかと思うが、DMVは各駅に駐車場も用意されているし、後述の「みどころ」を巡るにも車がないと厳しいのも事実。

手段や目的はなんにせよ、DMVに乗って、グッズを買って、地元にお金が落ちればそれが最善だと思うものです。

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カウントダウン看板は「GO!」
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建物の中には大がかりな鉄道模型があり、そこを走るはDMV!
DMVグッズの中にはDMVカレー(混ぜると味が変わる=モードチェンジする)なんかもあったりして、もう本当にDMV! DMV! って感じなのです

阿佐海岸鉄道(阿佐東線)は、JR線以外で全国一利用者が少ない路線というデータもある。私も乗りつぶしのため過去に一回乗ったのみで、今回が18年ぶりの訪問となった。四国の徳島にあり、さらに徳島市内から片道2時間という距離は、なかなか足を伸ばすハードルが高い。

なので、この街ぐるみのDMVフィーバーとも言える様子に、地元の期待をヒシヒシと感じるのであった。 

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いよいよDMVに乗るよ

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停留所はバス停だ。この時点ではバスなので、当然といえば当然だが
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やがて定刻になると、緑色のDMV車両(「すだちの風」号)が姿をあらわした。DMV! DMV! 私もつられてテンションが上がる
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運行開始記念のヘッドマーク付き。ナンバーは、徳島のご当地ナンバープレート「阿波踊り」だ
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運行開始から間もないので予約制になっており、検札が行われる。このあたりの光景は高速バス風味
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車内の様子。座席は全部で18席と少なめ

車体はマイクロバスを改造したもので、車内も完全にマイクロバスである。これが線路を走るの!? って想像すると、無性にワクワクしてしまう。人間40年近くも生きていると、新しい体験というのがもうほとんどない。でもいまから、マイクロバス車両で線路を走るという初体験が味わえるのだ。DMV! DMV!

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運転席も、パッと見た感じはバスだ。運転士は「中型二種自動車運転免許」と、鉄道車両が運転できる「動力車操縦者免許」の両方を所持しているという
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休日の昼間ということもあり、ほぼ満席でDMVは出発した
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車窓にはずっと長閑な景色が広がっていた

バスモードで道路を走っているので当然ではあるが、この時点の乗り心地は完全にバスである。でもいよいよ近づいて来ているのだ。鉄道車両への変形が行われる「モードインターチェンジ」が!

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バスから列車へのトランスフォーム

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甲浦駅からは、スロープを上って高架に乗り上げる。その先が「甲浦モードインターチェンジ」だ

もともとの終着駅である甲浦駅のホームが、最初のモードチェンジの舞台。「モードインターチェンジ」という格好いい名前で呼ばれており、そこに到着するとバスは一旦停止する。

そして「ただいまから、鉄道モードにモードチェンジを行います」というアナウンスが流れると……

その様子はぜひ動画でご覧ください

やにわに流れ出す「チャンカチャンカ」のリズム。これは……阿波踊りの「ぞめきのリズム」! 

徳島県民は、なにかにつけて阿波踊りである。空港は「徳島阿波おどり空港」だし、小学校の運動会では阿波踊りを踊る。夏になると街中いたるところで阿波踊りの練習が行われており、この「ぞめきのリズム」が聞こえると、今年も夏が来たなあと感慨にふけるのである。

そんな徳島出身の私は、「モードチェンジまで阿波踊りにしなくても!」とは思ったが、いやいや、これが徳島のアイデンティティなんだとも感じた。個人的には一番の見せ場なので、ロボットアニメよろしく、かっこいいSEや熱のこもったセリフがあってもいいんじゃないかと思ったり。アニメの街でもある徳島なので、いろんな作品とコラボできそうな可能性を勝手に感じたのだけど、どうでしょう。

ちなみにモードチェンジ時は、「ちょっと車体が持ち上がったな」というくらいの体感である。地味といえば地味なので、雰囲気で盛り上げるのは重要だと感じた。

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鉄道区間は高架になっており、車窓からは海が見下ろせる
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バスなのに列車という、これまで味わったことのない雰囲気を堪能

レールに乗ったことで、乗り心地は気動車へと変貌した。車両もエンジンも同じだし、違いと言えば道路から線路に変わっただけ。なのに「列車に乗っている」って感じるのは不思議な気分だ。目をつぶれば完全に鉄道旅行である。

鉄道モードになっても運転方法は大きく変わっておらず、運転士はバスのアクセルとブレーキペダルで運転していた(ハンドルは固定)。動力を伝えるのも、バス後輪のゴムタイヤである。

考えれば考えるほどヘンテコで、これぞビックリドッキリメカだなあ、と何だかうれしくなってしまった。そんなものが長年の研究のすえに実用化されて、徳島を走っているという事実を想うと、ただただ感動してしまうのだ。

そんな鉄道区間も20分ほどで終了。阿波海南駅でふたたびバスモードにチェンジしたのち、わずか5分足らずで終点となる「阿波海南文化村」に到着した​​​​​
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そしてそのままとんぼ返りで、出発地の「海の駅 宍喰温泉」へと帰還

唐突に往復して終了したので、あれ? これだけ? と思うかもしれないが、乗車時間が短いこともあって、だいたいこんな感じで終わるのだ。もちろんDMVは乗るだけで楽しいし、新たな体験ができる。でも実際に乗ってみて課題に感じたのは、終点まで行ってもそこから動きようがないという点……。

もちろん沿線にみどころもあるのだけど、車がないとどこへ行くのも大変なので、終点で放り出されるとわりと困ってしまうのだ。

なので現状のDMVは、アトラクション感覚で往復乗車するのがお手軽な楽しみ方かなと感じた。そして、車と組み合わせることで真価を発揮するのではないかと思う。DMVに乗るという目的は達したので、ここからは私が「これがみどころだ!」と思う箇所を巡る旅にモードチェンジしていこう。

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個人的みどころを巡る旅

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個人的に「みどころ」だと感じる箇所をピックアップしてみた。パンフレットに載るようなものでは全然ないのだが、これだけは見ておきたかった

鉄道区間の各駅に見たいものがあったものの、いかんせん本数も限られるDMVに乗ってこれらを巡るのは大変だ。特にモードチェンジは「車外から見学したい!」と誰もが思うだろうけど、「モードチェンジ中だけ降りて、終わったらまた乗る」というのができない。なので乗車と見学の両方を堪能するためには、見学のためにまた駅まで戻ってくる必要がある。これは結構な課題だなぁと、素人ながらに感じた。

ともあれ、ここからは車で巡ります。まずは「鉄印」がある宍喰駅へGO!

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宍喰駅で鉄印をもらう

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鉄道区間で唯一の有人駅である宍喰駅。広い駐車スペースがあるので、車で来ても安心だった
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グッズも充実

ここで「鉄印」がもらえる(買える)という。鉄印とは、神社でいただく「御朱印」の鉄道バージョン。全国の第三セクターでもらえる乗車記念証みたいなものだ。実は今回しらべるまで存在を知らなかったのだけど、こういう「コンプリートもの」にめっぽう弱いので、ぜひともゲットしておきたかった。

ちなみに最近は、全国のフェリーでもらえる「御船印」というのも誕生している。確実に印ブームが来てる。

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駅でこういう鉄印帳(御朱印帳のオマージュ)を購入し、
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無事に鉄印をゲット(買うには当日乗車した証明が必要)。こういうのが全国40社分あるのだ。コンプへの道は長い
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グッズも購入したら、一緒にこんなカードをもらった。「鉄カード」というらしい

鉄カード、そういうのもあるのか。どうやら全国の鉄道事業者でもらえるカードらしく、「ダムカード」の鉄道版といったところか。

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もちろんコレクション物の雄、駅スタンプもある(この図柄以外にもいっぱいあった)

集めるものが多すぎて大変だ。コレクションの海に溺れたい方は、ぜひ宍喰駅に来るといい。

阿波海南駅でモードチェンジを見学

モードチェンジが行われるのは、鉄道区間の両端である「阿波海南駅」と「甲浦駅」。ただ行ってみると分かるのだが、甲浦駅は高架上でモードチェンジするので、見学するのに適していない。じっくり見たいなら、阿波海南駅に行くのがいいだろう。

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というわけで阿波海南駅に戻ってきた。JR四国との乗換駅でもあり、ホームに見えているのはJRの気動車
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DMV自販機!(売ってるのは普通のドリンク)
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モードインターチェンジの横に、分かりやすい撮影スポットがあった。ありがたい

撮影スポットもあれば、新たに作られたであろう来客用の駐車場も用意されていた。至れり尽くせりである。ここでしばらく滞在して撮影していたのだけど(冒頭のモードチェンジの動画はこの場所)、DMVが到着する時刻になると人が集まってきて、結構にぎやかになっていた。

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大人気DMV

外からだと、ガイドレールに沿って車両が入っていく様子や、車輪がせり出してレールに乗る様子をまじまじと眺めることができる。モードチェンジは時間にして15秒ほど。これだけ短時間でスムーズにモードチェンジできるのは、長年にわたる研究開発や実地検証があってのことだ。あらためて、実用化まで行ったのはすごいことだなぁと、素直に感動してしまった。

ただこのタイミングで、車内では阿波踊りの音が流れてるんだと思うと、ちょっとニヤニヤもしてしまうのであった。

海部駅で有名トマソン「無用トンネル」を見る

最後は、海部駅の「無用トンネル」を見に行こう。観光案内には載らないようなニッチな名所なのだけど、一部愛好家のあいだでは有名な物件なのだ。

というわけで海部駅に到着。高架に上ると見えてくるのが……
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無用トンネル! 正式名称は「町内(まちうち)トンネル」という

このトンネル、特に何もない空間に穴だけが存在しており、周囲に山はない。開通当初はちゃんと山があったらしいのだが、宅地造成で山が削られ、穴だけがそこに残ったのだ。トンネルという本来の用途を超越した物件であることから、「純粋トンネル」という異名もあって、個人的にはそっちの呼び方が好きである。

で、ここへ何をしに来たかというと、このトンネルを通るDMVが見たかったのだ。さすがにモードインターチェンジの賑わいに比べると閑散としており、カメラを構えているのは私の他に一人だけだった(一人いたのも驚きだが)。

そんなわけで、次のDMVが来るまで待つことしばし。

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無事に、無用トンネルを通過するDMVをおさめることができた。青い車体の「未来への波乗り」号
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ついでに「駅のホームなのに止まってるのはバス」という、うなされたときに見る夢みたいな写真も撮れた
向かいのホームには、DMV化前に走っていた気動車が留置されていた
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駅名標は創英角ポップ体!

個人的な名所も見られたし、この辺で帰ることに……と思ったけど、名残惜しいので、もう一回だけ「阿波海南モードインターチェンジ」に行ってみた。

DMVを味わい尽くす

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しばらく待っているとやってきたのは、赤いDMV「阿佐海岸維新」号! これで赤・青・緑の全3台の撮影コンプである
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列車からバスへのモードチェンジを行い……
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日が傾きだした冬空のなかを、颯爽と駆けていった

DMVを堪能し満足したので、これにて海陽町を後にする。ふたたび2時間かけて、徳島市内の実家へと帰宅したのであった。

面白い乗り物が好きな私にとっては、DMVはたいへん魅力的な体験だった。ただ文中に書いたような課題も感じてしまい、これが観光の起爆剤になるかと言われると、なかなか厳しい印象も。とはいえ、地元にできた世界初の公共交通である。これからも応援していきたい。DMV! DMV!

※記載した情報は、2022年1月現在のものです。お出かけの際は最新の情報をご確認下さい。


開業記念証をおみやげに。見る角度によって写真が変わる懐かしい雰囲気のカード、久しぶりに見たー!
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