DMVって何だ?
DMVは「Dual Mode Vehicle」の略で、日本語にすると「2つのモードを持つ乗り物」。2つのモードとは、「バス」と「列車」のことである。
このように、バスであり列車でもある、道路と線路の両方を走行可能なビックリドッキリ乗り物、それがDMVなのだ。
かつてはJR北海道による開発が進んでいたものの、実用化には至ってなかったDMV。それがついに、営業運行を開始するというニュースが届いた。しかも場所が徳島県、私の地元である。
運営するのは、海陽町にある第三セクター「阿佐海岸鉄道」。もとは鉄道路線を運行していたが、長い準備期間を経てDMVの実用化を達成。去る2021年12月25日に、世界初となるDMVの運行を開始したのであった。
どうして道路と線路の両方を走れるのか、先にモードチェンジの様子を見てもらった方が分かりやすいだろう。
バスから列車に、列車からバスに変形する様子はぜひ動画で
歴史、技術、地域振興、観光などなど、いろんな側面を持っており、自治体や地元の期待を背負うDMV。だけど私の想いはただひとつ、「こんな面白そうなメカに乗らないわけにはいかない!」である。JR全線完乗もしている乗り鉄なので、ただ乗りたいから乗りに行く。これはそういうレポートです。
DMVに乗りに行くぞ!
もともとの阿佐海岸鉄道は、海部~甲浦(かんのうら)までのわずか3駅しかなかった。それが今回のDMV化に伴って、海部~阿波海南をJR四国から移管。それでも鉄道区間はたった4駅しかない短い路線である。「阿佐」という名の通り、阿波(徳島)と土佐(高知)を結ぶ構想の路線だったのが、途中で頓挫していまの形になっている。
両端のバス区間を合わせても、(室戸岬行きを除くと)全長で約15km、乗車時間は35分である。気軽に往復できる距離だ。なので気軽に往復することにしましょう。
徳島市内からは約2時間の距離で、交通手段は車もしくはJRになる。
私はバス→列車→バスの経路を通しで乗りたかったので、どうしても最初に始発の停留所まで来る必要があった。となると、移動手段は車が現実的だ。公共交通に乗るため車で来ることの是非はあるかと思うが、DMVは各駅に駐車場も用意されているし、後述の「みどころ」を巡るにも車がないと厳しいのも事実。
手段や目的はなんにせよ、DMVに乗って、グッズを買って、地元にお金が落ちればそれが最善だと思うものです。
阿佐海岸鉄道(阿佐東線)は、JR線以外で全国一利用者が少ない路線というデータもある。私も乗りつぶしのため過去に一回乗ったのみで、今回が18年ぶりの訪問となった。四国の徳島にあり、さらに徳島市内から片道2時間という距離は、なかなか足を伸ばすハードルが高い。
なので、この街ぐるみのDMVフィーバーとも言える様子に、地元の期待をヒシヒシと感じるのであった。
いよいよDMVに乗るよ
車体はマイクロバスを改造したもので、車内も完全にマイクロバスである。これが線路を走るの!? って想像すると、無性にワクワクしてしまう。人間40年近くも生きていると、新しい体験というのがもうほとんどない。でもいまから、マイクロバス車両で線路を走るという初体験が味わえるのだ。DMV! DMV!
バスモードで道路を走っているので当然ではあるが、この時点の乗り心地は完全にバスである。でもいよいよ近づいて来ているのだ。鉄道車両への変形が行われる「モードインターチェンジ」が!
バスから列車へのトランスフォーム
もともとの終着駅である甲浦駅のホームが、最初のモードチェンジの舞台。「モードインターチェンジ」という格好いい名前で呼ばれており、そこに到着するとバスは一旦停止する。
そして「ただいまから、鉄道モードにモードチェンジを行います」というアナウンスが流れると……
その様子はぜひ動画でご覧ください
やにわに流れ出す「チャンカチャンカ」のリズム。これは……阿波踊りの「ぞめきのリズム」!
徳島県民は、なにかにつけて阿波踊りである。空港は「徳島阿波おどり空港」だし、小学校の運動会では阿波踊りを踊る。夏になると街中いたるところで阿波踊りの練習が行われており、この「ぞめきのリズム」が聞こえると、今年も夏が来たなあと感慨にふけるのである。
そんな徳島出身の私は、「モードチェンジまで阿波踊りにしなくても!」とは思ったが、いやいや、これが徳島のアイデンティティなんだとも感じた。個人的には一番の見せ場なので、ロボットアニメよろしく、かっこいいSEや熱のこもったセリフがあってもいいんじゃないかと思ったり。アニメの街でもある徳島なので、いろんな作品とコラボできそうな可能性を勝手に感じたのだけど、どうでしょう。
ちなみにモードチェンジ時は、「ちょっと車体が持ち上がったな」というくらいの体感である。地味といえば地味なので、雰囲気で盛り上げるのは重要だと感じた。
レールに乗ったことで、乗り心地は気動車へと変貌した。車両もエンジンも同じだし、違いと言えば道路から線路に変わっただけ。なのに「列車に乗っている」って感じるのは不思議な気分だ。目をつぶれば完全に鉄道旅行である。
鉄道モードになっても運転方法は大きく変わっておらず、運転士はバスのアクセルとブレーキペダルで運転していた(ハンドルは固定)。動力を伝えるのも、バス後輪のゴムタイヤである。
考えれば考えるほどヘンテコで、これぞビックリドッキリメカだなあ、と何だかうれしくなってしまった。そんなものが長年の研究のすえに実用化されて、徳島を走っているという事実を想うと、ただただ感動してしまうのだ。
唐突に往復して終了したので、あれ? これだけ? と思うかもしれないが、乗車時間が短いこともあって、だいたいこんな感じで終わるのだ。もちろんDMVは乗るだけで楽しいし、新たな体験ができる。でも実際に乗ってみて課題に感じたのは、終点まで行ってもそこから動きようがないという点……。
もちろん沿線にみどころもあるのだけど、車がないとどこへ行くのも大変なので、終点で放り出されるとわりと困ってしまうのだ。
なので現状のDMVは、アトラクション感覚で往復乗車するのがお手軽な楽しみ方かなと感じた。そして、車と組み合わせることで真価を発揮するのではないかと思う。DMVに乗るという目的は達したので、ここからは私が「これがみどころだ!」と思う箇所を巡る旅にモードチェンジしていこう。
個人的みどころを巡る旅
鉄道区間の各駅に見たいものがあったものの、いかんせん本数も限られるDMVに乗ってこれらを巡るのは大変だ。特にモードチェンジは「車外から見学したい!」と誰もが思うだろうけど、「モードチェンジ中だけ降りて、終わったらまた乗る」というのができない。なので乗車と見学の両方を堪能するためには、見学のためにまた駅まで戻ってくる必要がある。これは結構な課題だなぁと、素人ながらに感じた。
ともあれ、ここからは車で巡ります。まずは「鉄印」がある宍喰駅へGO!
宍喰駅で鉄印をもらう
ここで「鉄印」がもらえる(買える)という。鉄印とは、神社でいただく「御朱印」の鉄道バージョン。全国の第三セクターでもらえる乗車記念証みたいなものだ。実は今回しらべるまで存在を知らなかったのだけど、こういう「コンプリートもの」にめっぽう弱いので、ぜひともゲットしておきたかった。
ちなみに最近は、全国のフェリーでもらえる「御船印」というのも誕生している。確実に印ブームが来てる。
鉄カード、そういうのもあるのか。どうやら全国の鉄道事業者でもらえるカードらしく、「ダムカード」の鉄道版といったところか。
集めるものが多すぎて大変だ。コレクションの海に溺れたい方は、ぜひ宍喰駅に来るといい。
阿波海南駅でモードチェンジを見学
モードチェンジが行われるのは、鉄道区間の両端である「阿波海南駅」と「甲浦駅」。ただ行ってみると分かるのだが、甲浦駅は高架上でモードチェンジするので、見学するのに適していない。じっくり見たいなら、阿波海南駅に行くのがいいだろう。
撮影スポットもあれば、新たに作られたであろう来客用の駐車場も用意されていた。至れり尽くせりである。ここでしばらく滞在して撮影していたのだけど(冒頭のモードチェンジの動画はこの場所)、DMVが到着する時刻になると人が集まってきて、結構にぎやかになっていた。
外からだと、ガイドレールに沿って車両が入っていく様子や、車輪がせり出してレールに乗る様子をまじまじと眺めることができる。モードチェンジは時間にして15秒ほど。これだけ短時間でスムーズにモードチェンジできるのは、長年にわたる研究開発や実地検証があってのことだ。あらためて、実用化まで行ったのはすごいことだなぁと、素直に感動してしまった。
ただこのタイミングで、車内では阿波踊りの音が流れてるんだと思うと、ちょっとニヤニヤもしてしまうのであった。
海部駅で有名トマソン「無用トンネル」を見る
最後は、海部駅の「無用トンネル」を見に行こう。観光案内には載らないようなニッチな名所なのだけど、一部愛好家のあいだでは有名な物件なのだ。
このトンネル、特に何もない空間に穴だけが存在しており、周囲に山はない。開通当初はちゃんと山があったらしいのだが、宅地造成で山が削られ、穴だけがそこに残ったのだ。トンネルという本来の用途を超越した物件であることから、「純粋トンネル」という異名もあって、個人的にはそっちの呼び方が好きである。
で、ここへ何をしに来たかというと、このトンネルを通るDMVが見たかったのだ。さすがにモードインターチェンジの賑わいに比べると閑散としており、カメラを構えているのは私の他に一人だけだった(一人いたのも驚きだが)。
そんなわけで、次のDMVが来るまで待つことしばし。
個人的な名所も見られたし、この辺で帰ることに……と思ったけど、名残惜しいので、もう一回だけ「阿波海南モードインターチェンジ」に行ってみた。
DMVを味わい尽くす
DMVを堪能し満足したので、これにて海陽町を後にする。ふたたび2時間かけて、徳島市内の実家へと帰宅したのであった。
面白い乗り物が好きな私にとっては、DMVはたいへん魅力的な体験だった。ただ文中に書いたような課題も感じてしまい、これが観光の起爆剤になるかと言われると、なかなか厳しい印象も。とはいえ、地元にできた世界初の公共交通である。これからも応援していきたい。DMV! DMV!
※記載した情報は、2022年1月現在のものです。お出かけの際は最新の情報をご確認下さい。