東横線高架跡、期待しております
「なんだぜんぜんいけるじゃないか」と、飲んだ直後は思ったが、飲み終わった後の余韻がすごかった。いつまでものどに残る微妙なえぐみ。やっぱりお勧めはしないかなー。
先日、2019年9月24日に「東横跡地見学会」が行われた。東急東横線 横浜駅~桜木町駅間の、かつて使われていた高架を再利用した遊歩道に関する催しだ。写真集まで出した高架構造物好きのぼくとしては見に行かなくてはならない。
と、意気込んで参加した結果、セイタカアワダチソウのお茶を作って飲むことになりました。今回はその顛末です。
東横線高架が廃止されてから実に15年。あの高架はいったいどうなるのか、とぼくをやきもきさせたが、今年7月についに遊歩道として一部供用開始となった。先日そこで行われた見学会と「社会実験」に行ってきた。
事業を進めている横浜市と関係事業者が、「単なる遊歩道として終わりたくない!」という心意気のもと開催した(ぼくの解釈です)ものだ。
それにしても15年。長い。横浜の「終わらない工事」といえば横浜駅が有名だが、ここもなかなかのものだ。
なかなか工事が進まない理由、そして今回「社会実験」を行った理由のひとつは、どうやらこの国道に併走しているということに関係しているらしい。
風の噂によると(つまりちゃんと確認していない情報なので大幅に間違っているかもしれない)、この高架は実は国道の一部ということになっていて、つまりオフィシャルな「歩道」としての要件を満たし規制を受けることになるのだという。
出店が出たり、そのための設備が埋め込まれるような「広場」になりにくいということだ。だからこのままいくと単なる遊歩道で終わってしまう。
いやでもせっかくだから、もっと楽しい感じの場所にしたいよね、ということで意思ある関係者のみなさんが、同じような志を持っているであろう人々を招いて意見を募る、というのがこの日の「社会実験」開催の経緯というわけだ。
どんな空間にしたいか、というアンケートもあって、ぼくはもちろん「マンハッタンの『ハイライン』みたいにしてほしい!」と力強く回答した。ハイラインはマンハッタンの西側にある、鉄道高架を再利用して公園にしたものだ。すごーくすてきなのだ。
世界のいくつかの都市で高架を公園にするのがひとつの流れとしてある。パリはプロムナード・プランテ(一九六九年まで使われていた鉄道高架の再利用)、ソウルには高架道路を公園にしたSeoullo7017(ソウル路7017)ができた。ここ東横線跡地もそれらの「すてき高架跡地利用」の仲間入りをして欲しいと強く強く願っている。個人的には渋谷の東横線だったところも高架残してハイラインにしてほしかった。あたらせっかくの高架がもったいない。
で、タイトルの「セイタカアワダチソウ」の件。
現在遊歩道として完成している部分は、JR桜木町駅からほんのつこしの部分だけで、その先には高架跡が手つかずのまま残っている。
上の写真はその手つかず高架跡だが、このわっさわっさと雑草が生えているのを見て、思ったことが2つあった。
ひとつは例によってハイラインのこと。ハイラインの植栽は、廃線となって放置されたままになっていた25年の間に茂った植物をなるべく残す、というデザインがなされている。
東横線高架の雑草を見て「ハイラインみたいだな」と思ったのだ。これ、いかにも「東京の雑草風景」っぽいので、ハイラインみたいにこれをうまいことこぎれいに生かしてみてほしいな、と。
イングリッシュガーデンブームによって、それ以前だったら「ただの雑草」にしか見えなかったこういう植生も、うまいことデザインしたらそれっぽくなるのではないか。
そしてもうひとつ思ったのが「そういえば、線路脇ってセイタカアワダチソウ生えがちだよね」ってことだった。
セイタカアワダチソウはおもしろい生き物だ。北アメリカ原産の帰化植物で、根から周囲の植物の成長を阻害する物質を出すのだ。
再開発用地などで急に更地になった土地でまっ先に生い茂って、その間ほかの植物を寄せ付けない。すごい。でもこの物質、なんとセイタカアワダチソウ自身にも効いちゃうので、そのうち数が減って、最終的には競合するススキに場所を奪われちゃう、というのがよくある成り行きだそうだ。したたかなのかまぬけなのか分からなくてよい。
「線路脇に生えがち」ということに気が付くと、セイタカアワダチソウの「隙間癖」が見えてくる。
たとえば下。
ちなみに上の柵の向こうは京急大師線の脇。地下化される前にみんなで散歩したあの場所も、いまやこんな風に地下になりました。よく見ると、上にかつての線路がまだ残ってておもしろい。それこそこの跡地どうなるんだろう。
用地の「スキマ」をテリトリーとするセイタカアワダチソウ。どこでも生えて生きていけるタフさがあるが、あからさまに「誰かの土地」だと、その「誰か」によって伐採されてしまう。結果として「そこって、どっちの土地?」っていう微妙な場所に残る。線路脇や田んぼ脇はその例だ。
つまり、土壌とか気候とかじゃなくて「人間の管理がぬかりがち」というのがこの植物の生育条件なのだ。
セイタカアワダチソウは今が開花時期。上空から都市を見ると、人間の土地の境界線は黄色く縁取りされているのではないか。
「人間の都合を黄色く縁取る植物」というのが、今回書きたかった結論だ。
以上なのだが、これで終わるのもなんなので、お茶を飲むことにした。
もちろんセイタカアワダチソウの。
お茶用のセイタカアワダチソウ採取に土手にきたが、いざとなると手に入りにくい。
出向いたのは家の近所の多摩川なのだが、考えてみればこの遊水池代わりの河原も「河なのか道路なのか」という「スキマ」だ。いざというとき増水した水のバッファとなるための土地なのだから、平常時と緊急時のいわば「スキマ」といえる。そしてさらに言えば、ホームレスの方も「スキマ」で生活する人々なわけだ。
先日の台風でこの場所は完全に水没した。ホームレスの方はだいじょうぶだっただろうか。きっと家は浸水してしまったと思われる。気の毒でならない。
なかなか生えていないものだなあ、と歩き回ってみつけたのは、工事の残土が積まれている場所だった。
そもそもなぜ唐突にお茶なのか。
セイタカアワダチソウって前述のようにブタクサと混同されて言われなき差別を受けた生き物だ。ぼく好みのハードな郊外の未利用地や工業地域などで生い茂るため、周りの環境とセットで疎まれる傾向にある。
つまり、ぼくの趣味と彼らが生える場所って重なる。「同志」って感じがするのだ。
だからってお茶か? っていう声も聞こえます。論理的飛躍が過ぎる。なんとか彼らとの距離をもっと縮めたいというパッションが湯を沸かせた、って感じなんです。いろいろ調べたらどうやらお茶にして飲んでる人がいるらしいと知ったので。
思いつきのまま、まったくの手探りで「こんなもんじゃないかな」ぐらいのさじ加減で進めたセイタカアワダチソウ・ティーづくり。ティーバッグにいれ、お湯を沸かしていよいよ試飲。
なんと!
ふつうにおいしい!
いや、おいしくはないか。でもぜんぜん飲める。正直、すごく不味いんだろうな、と覚悟していたのだが、ふつうだ。はじめてコーン茶を飲んだときの方が「なんじゃこりゃ」感があった。
積極的にお勧めはしないが、飲んでみようという人を止めもしない。そういう味。
そういう意味では、味すら「スキマ」だった。スキマに生きる植物、セイタカアワダチソウである。
「なんだぜんぜんいけるじゃないか」と、飲んだ直後は思ったが、飲み終わった後の余韻がすごかった。いつまでものどに残る微妙なえぐみ。やっぱりお勧めはしないかなー。
今週日曜日まで開催の『TOKYO 2021』美術展に横幅7mの団地写真(!)を出品しております。デイリーで記事にしたあのファイアーウォール団地・白鬚東アパートの全景です。これ制作するの夢だった。今回の為に作った新作。会場になっている取り壊し予定の戸田建設ビルもかわいいビルなので、お勧めです。
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