特集 2020年9月28日

「天国酒場」の魅力を語り合う

有名な観光地などにあって多くの人が知る「絶景のレストラン」は全国にたくさんあるだろう。

が、そこまでじゃなくても、なんでもない河原とか、大きな公園のなかにぽつんと、ちょっとした茶屋があって、おでんや焼きそばをつまみに缶ビールやカップ酒が飲めたりすることがある。そんな「日常の隣にある非日常」とでもいうべき店に一歩足を踏み入れてみると、「こんな天国みたいな空間がこんな場所にあったのか!」と感動したりする。

我々酒の穴はふたりともそういう店が好きで、どこかに天国のような酒場があると聞けば出かけ、酒を飲んできた。

今回は、我々がこれまでに巡った「天国酒場」の魅力についてあらためて語り合いたい。せっかくなので、それぞれが関東と関西、別々の天国酒場へ出向き、そこから中継をつないで!

日常的な生活の中にぽっかりと現れる「今ここで乾杯できたらどんなに幸せだろう」と思うような場を探求するユニット。なんでもない空き地とか、川沿いの原っぱとか、公園の売店だとか、そういったところに極上の酒の場があるのではないかと活動中。

前の記事:人から聞いた「酒の裏技」を試してみる


天国酒場オンライン

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関東と関西の天国酒場を中継でつなぎつつお送りします

パリ:え〜と、ナオさんが今いるのはどこですか?

ナオ:須磨の山の上の「旗振茶屋」です。

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「旗振茶屋」
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淡路島や
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神戸の街を見渡せる絶景の茶屋

パリ:あ〜、前に僕もナオさんに連れてってもらった! ただ、店の前まで行ったらやってなかったから入れたことはないけど。

ナオ:そうですそうです。

パリ:ざっくり説明すると、神戸の須磨っていうすごい綺麗な海辺の街にあるんですよね。そこからロープウェイとカーレーターっていう乗り物を乗り継いで山の上に上がっていくと、まず「回転喫茶コスモス」という店がある。

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「須磨浦山上遊園 回転展望閣」。「喫茶コスモス」はここの3階

パリ:そこには行けて、まごうことなき天国酒場でした。で、さらに少し山を登ったところに「旗振茶屋」があるんですよね。そこまで行ったら登山客の人が、「さっきまで開いてたんだけど今日は終わっちゃったよ」って。

ナオ:基本的に土日祝だけなんですって。だから今日(この日は金曜日でした)も、偶然お店の方がいてお酒だけ売ってもらいましたけど、料理なんかは出してなくて。

パリ:営業中ともそうでないともいえる感じだ。

ナオ:お店の方が裏で畑をやってるそうで、午前中は大抵いるそうなんです。

パリ:はは。なるほど。天国酒場、営業形態とか時間がふわふわしてること多いですよね。

ナオ:そう。タイミングが合わないとね。

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「旗振茶屋」の店内

パリ:しかし店内の感じ、すっごくいいな〜。店っていうか部室みたいな。

ナオ:ですよね! お店の方の話では、ここは山好きの人たちが集まる場所で、みんなが肉を持ってくればバーベキューするし、年始なんかは寒ブリで鍋するとか。

パリ:まさに天国。

ナオ:で、そういうとき、誰が来てもいいんだそうです。会費さえ払えば身分も何も関係ないそうで。

パリ:身分で断られたら逆にびっくりしますね。

ナオ:はは。身なりで判断されて。

パリ:「うーん、ごめんねー。上下スーツは身なり良すぎでちょっと……」

ナオ:スーツでここまで登ってくるの面白い。アタッシュケース持ってね。

パリ:「せっかくアタッシュケースに寒ブリを詰めてきたんですが」

ナオ:アタッシュケースから酒やらつまみを出す飲み会やってみたいですね。アタッシュケースってテーブルにもなりそうだし。

パリ:わはは!「アタッシュケースでどう飲むか?」

ナオ:それも今度やるとして、パリッコさんが今いるのは?

パリ:あ、そうだ。

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こちらは今、こんな状況です
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パリッコ視点
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あらためて、乾杯!

ナオ:いいですねー! 川が見えている。

パリ:以前ナオさんともご一緒した、埼玉県飯能市にある「橋本屋」というお店で、川にせり出すように建ってるすごい店。

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あらためて眺めてみるとやばい建物

ナオ:そう、ここもいいんですよねー。もう、直接川に飛びこめそうな。

パリ:天国酒場って自然と一体になっているようなお店が多くて、来るたびに表情が違うのも魅力ですよね。今日は小雨が降って若干水位が上がり、かつまだ濁ってなくて、水面が特に美しい日です。

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ずっと眺めていられる景色

ナオ:エメラルドグリーンですね。

パリ:こないだ、夏の盛りに初めて行ったんですが、やっぱり天国でした。

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すべての娯楽がある楽園

ナオ:最高だー! 川遊びをしている人たちを見ながらの酒もまたいいですね。

パリ:浮世離れの極地。

ナオ:お店の中の雰囲気も最高なんですよね。のんびりしてて、ラーメンも美味しかったなー。

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川に面して全面が窓の店内
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正しい醤油ラーメン

ナオ:女将さんはお元気ですか?

パリ:はい。残念ながら2018年にご主人が亡くなられてしまって、一時は本当に泣き暮らしたって言ってたし、お店も休まれてたんですが、さっきは「100歳まで続ける」って言ってました。

ナオ:はは。頼もしい!

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達筆だったご主人の残した味わい深いメニューなどは今も残っている

パリ:去年のでかい台風で階下の倉庫に置いてあったレンタル用のバーベキュー機材とかがぜんぶ流されちゃったらしいんですが、それも「お父さんが無理するなって言ってくれてると思って」って。

ナオ:えー! それは大変でしたね。

パリ:今は、お店のほうをできる範囲だけ、出せるものだけで気ままにやられてるということです。でも、この場所があればもう、何もいらないですよね。なのにそこで、缶チューハイとか缶ビール売ってくれてるっていうありがたさ。

ナオ:そうそう、旗振茶屋も同じですね。

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「たぬきや」が原点だった

パリ:僕らがこういう店を求めだしたのって、もともとはあれですよね、稲田堤にあった「たぬきや」。そこへ初めて一緒に行ったのが2012年。

ナオ:2012年かー。

パリ:「こんな店あったの!」っていう、本当、ウソみたいな店で、もうあの世みたいな。たぬきやのことは以前にもデイリーポータルZに書きましたが。

ナオ跡地飲みしましたね。しみじみと。

パリ:あそこが最高で、いろんな飲み友達とも一緒に行って、みんなで「天国にいちばん近い酒場」なんて呼んでたんですよね。

ナオ:そうでした。

パリ:で、ふと探してみると、そういう類の店、けっこう見つかるんですよ。

ナオ:同じような気分を味わえる場所。それを探そうっていうのが、酒の穴の活動の始まりだったりもしましたもんね。

パリ: そうでした。 前情報もなく多摩川沿いを延々と歩いたり。

ナオ:「こんなとこにいるはずもないのに」ですよ。

パリ:「いつでも探しているよ」っつってね。

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ありし日のたぬきや

パリ:さっきナオさんから送られてきた旗振茶屋の外席の写真、完全にあの世ですよ。

ナオ:というかね、もうそこまで行く途中の電車からして、誰もいなかったのでセルフでとったのですが、

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こんな風に写っちゃって

パリ:ははは!

ナオ:天国へ向かう電車。死んでるのに気づいてない人みたいな。

パリ:霊だ。そしてその先にあるコスモスが、

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これまたあの世

ナオ:しかも店自体が自動で回転してくれるんですよね。

パリ:で、なぜか我々が思春期だった頃のJPOPがガンガンにかかってる。ビール1缶飲んで1周したあたりで、安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE?」が流れたときは、さすがに「あれ? おれ死んだんだっけ?」と思いましたよ。

ナオ:ははは。でも本当に、こういう場所でほろ酔い気分に浸ってるとそう思いますよね。

パリ:一瞬、本気でわからなくなることがある。

ナオ:夢のなかみたいでもあるし。

パリ:つまりですね、渋い大衆酒場とかを飛び越えて、そういう店を追い求めるようになってしまって、この有様という。それが酒の穴。

ナオ:そうです。それが我々です。

パリ:実はこの度、僕の巡った天国酒場をまとめた本が出たんですよ。

ナオ:おめでとうございます! ついに成果物ができあがったわけですね。

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何卒よろしくお願いします

パリ:実は、噂はずっと聞いていて、この本にどうしても収録したくて出張取材の予定まで立てていた店があって。ただ、コロナのことがあってどうしても叶わなかった。そんな茶屋が京都にあるんですよね。

ナオ:はい! 琴ヶ瀬茶屋っていう。

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京都・嵐山の川沿いにある茶屋

ナオ:ここは私が大阪に引っ越してきて「たぬきやロス」で、なかなか行けないじゃないですか。だから同じような場所がないかと探していて、それでふと知った場所だったんです。たぬきやとはまた違う雰囲気だけど、とにかく川に近くて。

パリ:中国の山奥みたいな雰囲気もありますね。

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対岸からボートを漕いで行くこともできる

パリ:しかも、台風などで流されてしまってはまた復活するんですよね。

ナオ:川が近いのでかなり水害の影響を受けやすいんです。でももう100年以上やっていて、その都度お店を直して再開するという。

パリ:そのエピソードがもう、現世の店って感じじゃない。

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店員さんかと思った人がお客さんだったりもする

絶景だけが天国とは限らない

ナオ:パリッコさんの本に収録された天国酒場のなかで、特に思い出に残る店はありますか?

パリ:あのですね、もうこんなふうに、

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埼玉県飯能市「奥武蔵美晴休憩所」
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東京都杉並区「武蔵野園」
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東京都青梅市「澤乃井園」
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東京都品川区「一龍屋台村」

パリ:いくらでも、っていうと言いすぎだけど、こっちから探し求めるようになるとすごい店がどんどん見つかるんですよ。

ナオ:写真でもう伝わりますね。

パリ:どこも最高。ただ、だんだん、景色がいいのだけが天国酒場でもないような気がしてきて「日常の延長に突然あらわれる非日常感のある店」っていうのが定義なのかな? と、自分のなかで思うようになり、そういう意味では、入間市の繁華街に突然ある、こんな屋台とか。

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え? 屋台?
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酒もつまみも豊富なうえ、ラーメンがうますぎる!

ナオ:いいなー! そうか、確かに、屋台って天国ですよね。

パリ:ですよね! 現世から隔離されているような。

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店内は完全に異空間

パリ:関西にもけっこうあるでしょう?

ナオ:あります。全国的に減ってきてしまっているんだろうけど、例えば布施っていう街には、夜の10時になると銀行の前に現れるおでん屋台があって。

パリ:もうその設定がやばい。

ナオ:少しでも雨が降ると出現しないんですよ。

パリ: はは。まさに幻。いや、酒場の幽霊。

ナオ:そう、客も幽霊なら店も幽霊。

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幻?

ナオ:噂を聞いて何度かトライして、ようやく行けた時は嬉しかったなー!

パリ:あーそれ、天国酒場あるあるですよね。さっきの大吉も、最初に見つけた時はやってなくて、別の酒場で情報を仕入れたりしつつやっと入れた日、大将に「はいよ」ってライターをもらったんですよ。そこに携帯の番号が書いてあって「やってるか知りたかったら電話して」って言われて、脳内にレベルアップの音楽が流れました。

ナオ:はは。RPGですね。ルーラ覚えたような。

天国酒場は霊界との境目?

パリ:あとそうだ、あそこもずっと行きたいと思ってたんですよ。ナオさんが前に紹介してた、大阪の廃バスを利用した居酒屋。

パリ:あれだって要するに、バスの幽霊みたいなもんでしょう。バスの死後の世界というか。

ナオ:「千両」だ。

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大阪府松原市「千両」
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最高に味わい深い店内

パリ:何も知らずに夜道を歩いててこの店あったら、ぎょっとしますよ。

ナオ:これまた天国酒場の一種ですよね。夜なんかもう、外にあるトイレに行って、バスに戻りますからね。

パリ:ははは。酔っぱらいの行動みたいな。

ナオ:「ウィーヒック、あれ? バス?」っていうね。

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バスのなかにこたつ

パリ:唐突なんですけど、本には収録できなかったなんかお気に入りの写真があって、横浜の阿部商店で撮ったものなんですけど。

ナオ:ほうほう。

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これ

パリ: よくないすか? なんか。

ナオ:ははは! 後ろ姿、たまりませんね。……幽霊、ではないですよね? うわ! はっきり写っちゃってる! っていう。

パリ:はは。どうだろう。あれ? 今気づいたけど、

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子供の足がある?

ナオ:怖い!

パリ:本当に心霊写真じゃないよな。いや、この扉の向こうが駄菓子屋になってるので、孫を連れてきたおじいちゃんでしょう。

ナオ:もうでも、ここが霊界との境目でもおかしくないですよ。

パリ:そうそう。ないとは言いきれないのが天国酒場。

ナオ:死と隣合わせ。今日、ロープウェイに乗る時に、ツアーの方々と一緒で、私がひとりだけ部外者っていう状況だったんですが、

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静かなる行列

パリ:はは。行っちゃだめ! って感じの写真。

ナオ:ね。乗り場の方に「こちらで全員ですか?」って私が聞かれて「は、はい」って。うっかり霊界ツアーに入り込んでしまった気分でした。

パリ:ははは。


パリ:このような天国酒場、僕が関東を中心に探し歩いただけでけっこう見つかるので、全国的にはきっとすごいところがまだまだあると思うんですよね。

ナオ:そうだ! 教えて欲しいですね。ハッシュタグ #天国酒場 とかでね。おじゃまにならぬよう巡らせてもらいたい。

パリ:わざわざ遠方まで行って、臨時休業の刑とかくらいたい。

ナオ:はは。あえてね。

パリ:もう変態だから。

ナオ:でも大丈夫。外で飲むので。

パリ:そうそう。で、「はい訪問!」って。

ナオ:それってもう、行かなくていいんじゃないの?

パリ: でもほら、現地で「はい訪問!」って言いたいじゃないですか。そうだ、これからもう「乾杯」もさ、「訪問!」にしません?

ナオ:ははは。そうしましょう!

パリ:「かんぱい〜!」って実は、ちょっと言いづらいんですよ。

ナオ:確かにそう。「パイ」の部分がね。パピプペポが言いづらい。訪問! うん、言いやすいです。

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