まとめ
「柄」ではなく「つる」と言われた時はもう世界の終わりだと思ったが、2種類作ることで記事のボリュームが増える結果となったのでよかった。
ツーアウト満塁で凡フライを打ち上げるも、相手のエラーにより走者が一掃したかっこうだ。いや、ちょっと違うか。
つるを鶴にするにあたり、はじめは「蔓」という選択肢もあった。
ちょうどゴーヤを育てていたので、めがねを支柱にしたらつるに蔓が巻きつくんじゃないかと思ってやってみたが、時期が遅かったせいかびっくりするくらい巻きつかなかった。
「めがねといえば鯖江、鯖江といえばめがね」そういった共通認識があるだろう。
福井県鯖江市といえば、言わずもがなめがねフレームの生産量国内シェア90%以上を誇るめがねの名産地だ。
しかし、いわゆる「鯖江ブランド」といわれるめがねは高級品だ。めがねを安価で販売するチェーン店に慣れてしまったわれわれ平社員には、高嶺の花ならぬ高値のめがねである。
そんな憧れの「鯖江のめがね」を手に入れるにはどうすればいいか。私が出した答えは「めがねの柄(え)の部分が鯖でできた“鯖柄のめがね”を作ればいいじゃない」だった。
※「めがねの柄」と書くと「めがねのがら」と読まれそうだが、本記事では「柄=え」と読まなければならない法律を制定した。「柄=がら」と読んだら罰金200円サバよ。
※この記事は記事投稿コーナー「自由ポータルZ」にて開催した「夏のライター通信講座」で制作した作品です。
実はこのダジャレ、私が学生の時に思いついたのだが、当時は秀逸すぎて人に言ったらパクられるんじゃないかと不安になり、結局誰にも言わないまま時が過ぎた。
それから20年ほど心の中で温め続けてきたのだが、もうそろそろ殻を破ってネットの空にはばたいてもいいんじゃなかろうか。いや、鯖なのでネットの海を泳いでほしい。秘密兵器を秘密のまま終わらせるわけにはいかない。世間をあっと言わせてやるぞ!と鼻息が荒くなった次第である。
まぁこの時点ではまさか自分があっと言わされることになろうとは露ほどにも思っていなかったのだが。
粘土をこねて絵の具で色を塗るという太古の昔から伝わる製法で鯖柄のめがねの鯖部分を作っていく。
材料でこだわった点は魚の光沢を表現するために金と銀の絵の具を買ったところだ。ちなみにこの2色、キラキラ成分が入っているのでほかの絵の具より50円くらい高かった。折り紙も絵の具も金銀はスペシャル感があって良い。
はじめは本物の鯖を柄に刺してやろうかと思ったが、ちょっとワイルドが過ぎるなと思いとどまったことも付け加えておこう。
本筋と関係ないが「ワイルド」と聞くと今でも上下デニムの芸人さんを思い出してしまうのだが、みなさんはどうだろうか。
鯖を作るにあたって参考のため「鯖 イラスト」で検索したら、しっかり「いらすとや」の鯖も入っていた。生活への密着度がすごい。
そして背中のシマシマ模様が鯖のアイデンティティだということがわかった。
こう作って、こう色を塗る。イメージトレーニングはバッチリだ。もはや成功の未来しか見えない。と自分を鼓舞する。
おれたちの自信の根拠はいつだってぼんやりだ。いざ理想と現実の世界へ!
10人中9人は魚だと思うだろうけど、ひとりは「発芽したサツマイモ」と答えるかもしれない。そのひとりは無視して、ここからは9人で進めていこう。
さて、めがねの左右に付けなければならないので、これが2つ必要だ。どうするか。
本物の魚もさばいたことがないのに、粘土の魚を2枚におろすことになろうとは。
糸を使ったら思いのほかキレイに切れたが、その糸は細すぎて写真にうまく写らなかった。
「その糸は細すぎて」ってなにかの歌詞であったかなと検索してみたが、まったくヒットしなかった。
「その手は冷たすぎて」とか「その声は小さすぎて」ならありそうだなと思ったが、今は関係ないなと我にかえったので作業を再開する。
鉛筆で下書きをしたら、いっきに鯖缶…ではなく鯖感が出た。
色を塗ったらよりいい感じになった。
なんだか自信がでてきたぞ。もしかしたらすごくいいものができるんじゃなかろうか。鯖を持つ手が汗ばんできた。
おお、当初の予想よりもずいぶん鯖になった。理想と現実の急接近。これはあれだ、ラブコメだ。
ずっと床に座って作業をしていたので尻のしびれが切れてしまったが、そんなことも気にならないくらいの出来栄えじゃないか。あれ、自画自賛がとまらないぞ。
さて、これをどうやってめがねの柄にするか。
フックを付けて着脱式にした。
これでふだんは普通のめがね、いざという時は鯖柄のめがねと、TPOに合わせて楽しむことが可能に。鯖柄のめがねが必要なタイミングは各々で考えてほしい。
ではさっそくめがねに装着してみよう。
ついに「鯖柄のめがね」が完成した。
ずっと頭の中にだけ存在していた鯖柄のめがねが、20年の時を超えて今具現化されたのだ! もう達成感だだもれである。
鯖の主張がすごいが、「やりすぎくらいがちょうどいい」って何かの本に書いてあったから、これくらいがちょうどいいんだろう。鯖柄のめがねは奥ゆかしさの対極にあるのだ。
いいものができたぞと知り合いに見せたら「めがねのその部分って“つる”じゃないの?」とのひと言に、あっと言わされた。正確には関西弁で「そこって“つる”とちゃうん?」だった。まじかよ。いや、ほんまかいな。
まずい。「これが鯖柄のめがねだ」と声高に叫んでいたが、根本が揺らぎだした。
せっかくヒットを打ったのに、私は三塁に向かって走っていたのだろうか。
その真偽を確かめるべく、めがねの柄の部分をなんと呼ぶかアンケートを取った。
会社やら居酒屋やらで聞いたところ圧倒的に「つる」が多かった。つるが優勝だ。
だがわれらの「柄」派も2人いたのだ。全体で2位。クライマックスシリーズ出場である。
さらにテンプルというあらたなネーミングも飛び出した。寺か。
念のため「めがねの柄の部分」と言われて通じるかも確認したところ、全員「通じる」との回答を得られた。私の無実が証明されてよかった。
しかし「柄」がこんなにマイノリティだとは思わなかった。
これはもう時代のニーズにあわせて「つる」と読んだほうがいいんじゃないか。
じゃあ、めがねのつるを鶴にしないといけない。
ということで、さっそくつるを鶴にした。
さきほどの鯖とくらべてずいぶんシンプルなうえ、かわいい仕上がりに。
鯖よりジャストフィットしてしまった。
「先日助けていただいた鶴です」と恩人宅を訪問するときにちょうどいいアイテムだ。
ご覧になられている鶴のみなさん、いかがでしょうか。
ここまでめがねのエクステとして紹介してきたが、着脱可能のフック式にしたおかげで使わない時はインテリアとしても機能する。
これは完全に想定していなかった使いかただが、用途の幅が広がって商品価値がより高まった。どうだ、そろそろみんな欲しくなってきただろう。
とまあ、爪をデコったりスマホをかわいいケースに入れたりするように、めがねも着飾ったらどうだろうという提案である。
さいごに、友人たちに「鯖柄のめがね」および「つるが鶴のめがね」をかけてもらった様子を紹介して締めたいと思う。
めがねの企画で集まってもらったが、偶然みんなめがねをかけていた。筆者もふくめ、めがねが4人そろった。ぷよぷよだったら消えているところだ。
ざっくり趣旨を説明したところで、おのおののめがねに鯖と鶴を装着してもらった。
まずは鯖柄のめがねで会場がどっと沸いた。
「鯖だ!鯖だー!」「でかい!でかい!」
ベンチの子どもがずーっとこちらを見ていた。
慣れてきたのか悪ノリがはじまった。いいぞ、もっとやれ。
ハンドスピナーを持ってポーズをとることにより、能力者か戦隊ヒーローみが出た。
鯖と鶴のキャラに変身して、地球の…いや、この公園の平和を守ってくれそうだ。
というかハンドスピナー3つも持ち歩いてるの誰だよ。
最後に「利用者の声」としてコメントを求めたところ、
「思っていたよりずいぶん軽くて、つけてないみたい」
「見た目がヘアアクセサリーみたいでかわいい」
「鯖の裏側が視界に入ってくる」
「しっかり固定されていないのではげしく動くとずれる」
「利用者の声ってカスタマーレビューのことですか?」
とのこと。
カスタマーレビューを真摯に受け止め、改善に努めます。
「柄」ではなく「つる」と言われた時はもう世界の終わりだと思ったが、2種類作ることで記事のボリュームが増える結果となったのでよかった。
ツーアウト満塁で凡フライを打ち上げるも、相手のエラーにより走者が一掃したかっこうだ。いや、ちょっと違うか。
つるを鶴にするにあたり、はじめは「蔓」という選択肢もあった。
ちょうどゴーヤを育てていたので、めがねを支柱にしたらつるに蔓が巻きつくんじゃないかと思ってやってみたが、時期が遅かったせいかびっくりするくらい巻きつかなかった。
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