特集 2019年5月7日

ガラスの尿酸結晶

2018年の年末、AR忘年会というイベントでガラス細工のアーティストに会った。

作品の写真を見せてもらうと、ガラスのネクタイなど変わったものを作っていた。

そこで僕は「ガラスの尿酸結晶なんてどうですか?」などと軽はずみな提案をした。

それから4ヶ月、完成したという連絡をもらって工房を訪ねた。
 

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと新宿区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

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怖いのになんであんな形をしているのか

尿酸結晶が気になるようになったのは、知人(痛風)が画像を見せてくれたのがきっかけである。

「痛風になると血管のなかにこんな結晶ができるんです。」

それはこんな画像だった。(リンク先の画像をどうぞ

こんなトゲトゲしたものが血管のなかにできるなんて怖い。怖いけど、美しい…。いや、やっぱり怖い。むしろ怖いよ。

健康診断の結果で僕の尿酸値の値はもうすぐ要注意ゾーンだ。痛風は身近な恐怖として存在するし、生活習慣病はシリアスな話題である。

でも、この形はなんなのだ。なんでこんなにキラキラしているのか。怖いのに。

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最近のクリスマスツリーの上の星は尿酸結晶に似ている

レディーガガの衣装が尿酸結晶に似ているというツイートも話題になっていた。(リンク

怖い存在なのに、人の目を引くためのものに似ているのだ。毒蛇の模様を見たときのような気持ちになる。

そんなとき、ガラスのアーティストに会い、僕は「尿酸結晶を作ってくれませんか?」と言ったのだ。

写真でしか見たことがなかったものが立体に

ガラス細工のアーティストとは平野元気さん。岩手県北上市にアトリエを構えている。

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消防士からガラス細工職人に転じ、14年のキャリアを持つ

工房に入ると尿酸結晶があった。その美しさと恐ろしさに息を呑んだ。

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顕微鏡写真で見たあれが立体に

「台座は尿をイメージして真鍮にしました」のとこと。つまり、黄色ということだ。

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陽の光に当てるとまた輝きが増す(周りは運番用の仮の木枠)
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一本一本の棒の先がとがっている

とがっているが指にひっかからない。心地よく丸みを帯びている。でも強く押したらたぶん刺さる。

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影もまたおもしろい

平野さんは作るまでに時間がかかるタイプなので4ヶ月でできたというのは驚異的なスピードらしい。

「『納品はいつでも大丈夫です』という注文もいただきますが、完成まで1年ほどお待たせしたこともあります…」

「尿酸結晶は製作工程をずっと考えていて、気付いたら試作を始めていました。」

怖美しさに惹かれた人がもうひとり増えた。

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このように作る過程では針の先を固定しておき、仕上げでカットする
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中央に針を一本一本くっつけてゆく

ガラスはバーナーで炙るとぐにゃりと柔らかくなるので、その間に曲げたりくっつけたりする。できる気がまったくしなかった。

なんどか途中で割れるなどの困難を経て尿酸結晶はできあがった。

意外な作品ばかり作っている

工房にかかっているハンガーがガラス製だった。

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ものすごく軽い

軽くて強い、ということはなく弱いらしい。「すごく軽いものしかかけられません。おもしろいかなと思って」とのこと。

このほかにも

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ガラスの折り鶴
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ガラスの紙飛行機

そのはかなさに小声になってしまうようなものを作っていた。紙飛行機は3800円だそうだ。

高いのか安いのかよく分からないが、「端数に800円をつけてお得感を出した」そうだ。これだけ実用性のないものを作っておきながら唐突なお得感がいい。

作品を入れている箱のなかにきれいな球を見つけた。

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ネックレスにできるようにひもを通す穴もついている
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小さな球のなかに立体の模様が入っている

きれいだし、不思議だ。これは売れそうじゃないですかと言うと

「それですね。宇宙ガラスと呼ばれていて綺麗で人気があります。楽しみにしてくれる人もいます。
 
でもハンガーとかまだ無いものも作りたくなってしまうんですよね。」

 
宇宙 or ハンガー。あまり聞いたことがない二者択一である。

だが、ハンガーや紙飛行機のような単純な形状ほどやり直しやごまかしが効かないので基礎が問われると平野さんがこっそり教えてくれた。技術あってのおもしろだ。

ガラスハンガーのほかに超富裕層に売れそうな作品もあった。

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このキラキラしているものは
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シャボン玉を作るためのものだった

どこの王族が使うのかねという豪華さである。フタについた輪はただのデコレーションではなく、せっけんの液剤がよく絡むように試行錯誤した結果だという。

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分子モデルのようなシャボン玉ができるのも面白い
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セットで60,000円
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シャボンがよく絡むための工夫

興味を持った石油王はいかがだろうか。ただ、平野さんは作るばかりでネット通販などをまったくしてないので直接連絡してください。

あかいめだまのさそり

ガラス製のクワガタやサソリもかっこよかった。

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すごくかっこいい
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怖かっこいい。ガラスは恐ろしいものが合うのかもしれない

このサソリは宮沢賢治の作品に登場する紅い目玉のサソリをモチーフにしている。

宮沢賢治ゆかりの施設で販売しているが、梱包に気を使うので、店員さんに緊張を強いる作品らしい。

「賢治さんが書いた作品に、なにかしら関連があるとお店に置いてもらえるのですが、痛風は…」

雨ニモマケズの人と美味しいものを食べる痛風はなかなか結びつかない。

 


抱えて持って帰ってきたぞ

ガラスの作品は輸送中に壊れることもあるらしい。

持って帰りますよと気軽に来たものの、これを新幹線で持って帰れるだろうか。

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木枠も作ってくれていた。それからダンボールに梱包
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東京まで抱えて持ってきた

「尿酸結晶できました」という連絡をもらったときはまじで!?と思ったが、いいものを買った。
アクリルケースに入れて毎日眺めよう。

取材協力:
Seed Lampwork 平野元気
インスタグラム
メール glass.genkiアットgmail.com
(カタカナのアットを@に変えてください)

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