愛されるローカルチェーンはまだまだありそう
お店に入ると色々な世代の人が楽しく談笑しながらご飯を食べている。家族の憩いの場であったり、友だち同士が語り合う場であったりと様々だ。地元に根付いたチェーン店の良さを改めて感じた。なんか、新聞に出てくる文章のシメになったな。
老若男女に愛されるローカルチェーンというのは各地にある。地元の人には愛されるが、他の地域にいるとその味を確かめることができない。そんなのずるいじゃないか。そういうローカルチェーンが長野県にあるらしい。行ってみることにした。
そのお店の名前はテンホウというらしい。街の中華料理屋のような親しみのある名前である。私は知らないが、もしかしたら有名なチェーンの可能性があるのでTwitterでアンケートをとってみた。
216票で80%の人が知らない。なので地球上のほとんどの人が知らないと言っていいだろう。
一方、知っている人からは「ど定番です!」「安いので学生の頃よく行っていました!」「店舗によって結構味やメニューが違います」というコメントをもらった。そうか、みんなの意見はわかった。まとめると行くしかないということだな。
今回来たのは長野県松本市である。実はテンホウは長野県全域に広がるチェーン店ではなく、諏訪湖を中心に展開するチェーン店である。なので、長野県民でもテンホウを知らない人も多いそうだ。
知り合いの長野出身者に聞いたら、「長野は盆地が違うと生活の共通項がなくなる」らしい。「でも、信濃の歌(県歌)はみんな知っている」らしい。調べたら歌詞に自然があふれていて心の中に花が咲いた。
アンケートを採ったところ「タンタンメンは絶対に食べたほうがいい」という意見が多かった。なので絶対に食べたい。明日、健康診断だったとしても食べたい。
松本駅から歩いていると大通り沿いに気持ちいいほどシンプルな「テンホウ」の大きな看板が出てくる。
中に入ってメニューを確認する。ラーメンだけではなく、色々なメニューがあって迷ってしまうがここはタンタンメンを頼もう。
色々な具材が乗ったラーメンもおいしいが、必要最低限の具材だけのシンプルなラーメンが食べたくなることはないだろうか。安心するラーメンである。
そして、味だ。辛くないのに「タンタンメンだ!」となる。食べた瞬間にゴマの風味が口の中にぶわっと広がる。風味豊かでコクがある味の中にも素朴で後味がさっぱりしている。毎日食べられるような味だ。
そして、おすすめなのが肉揚げのトッピングである。豚ロースを特製のタレで漬け込んで揚げたものである。
「豚 特製のタレ 揚げる」で思わず検索してしまうぐらいおいしい。タンタンメンに乗せると、衣のカリカリの部分とスープを吸ってフワフワになった部分の食感を楽しむことができる。
タンタンメンもおいしいが、忘れていけないのが餃子である。テンホウの餃子は多分、全国でもここでしか味わえないぐらいオリジナリティあふれている。という話を聞いたので食べてみよう。
きつね色の焼き目がおいしそうな餃子であるが、見た目は普通の餃子である。なにが違うのだろうか。
具材は肉と野菜で同じなのだが、隠し味に八角やシナモンなどの香りの強い香辛料が入っている。
食べた瞬間に八角の香りが口の中に広がって、普段食べている日高屋の餃子と違ってびっくりする。でも、みんな違ってみんないいのでおいしいです。
そして、このぎょうざであるが普通、しょうゆ、お酢、ラー油で食べるのが一般的だが、テンホウでは違う食べ方がある。
餃子専用のお酢。周りには染まらない、自分だけの世界観を持った職人気質のようなかっこよさがある。将来、餃子専用のお酢みたいな人になりたい。
このお酢、岐阜県で100年以上続く内堀醸造というところでテンホウの餃子の為に特別に作られたそうで、うま味と甘みが餃子と合わさるとたまらないおいしさになるそうだ。
食べてみると、お酢、七味唐辛子、餃子、全ての風味が爆発して口の中が風味祭りになる。酢とコショウで食べるのが流行っているが、七味とお酢で餃子を食べるのもありかもしれない。
タンタンメン、餃子の他にも食べたほうがいいメニューがある。どこのお店にもあるのだが行っておきたいお店がある。
実はここのお店、テンホウで野菜炒めラーメンを初めて出したお店である。それがヒット商品となる多くのお店の定番メニューとなったそうだ。
寒いときに食べる野菜炒めラーメンは絶対においしい。食べようと思ってメニューを開くと違うメニューに心を奪われてしまった。
チャーハンじゃない、チャーメンである。野菜炒めが乗った汁なしラーメンだ。男の料理という豪快さがある。
このメニュー、テンホウの前身となる店「つるの湯 餃子菜館」というお店で出していた初期からあるメニューとのこと。
シャキシャキした野菜とモチモチした麺、タレがさっぱりしながらもコクのある味でばつぐんにうまい。
現在、営業中の店舗の中で一番古いと言われている城南店。「おいしいものをありがとうございます」とお礼を言いに来た。
ここではお店の名前がついた「テンホウメン」をいただくことにした。
炒めた野菜を白湯スープに入れた、長野にいるのに長崎にいるのかと錯覚してしまう長崎チャンポン風ラーメン。
見た目は濃厚そうだが、するすると食べられる。お酒を飲んだあとのシメでこれを食べたい。あと、お腹が減っているときにも2杯食べたい。
満足したので次のお店へ向かおうとお店を出た。すると、タンタンメンののぼりが出ている。なんでお店から少し離れておいてあるのかと思って上を見上げたら、答えがあった。
実は隣のテンホウは「中華そばてんほう」というお店で、ここにしかないお店だ。鶏ガラのスープの中華そばがおすすめらしいが、他にもおいしそうなメニューが数多くある。無限に食べることができれば全部食べてしまうのに。
限界突破タンタンメンを食べてみたい気持ちもあるが、いやどうだと葛藤をしながらメニューを見ていると、気持ちが一番動いたメニューがあった。
ラーメン屋でメインであろう、ラーメンを頼まない勇気。大人になるってこういうことを言うのだろう。噛む度にあふれる肉汁と絶品のタレで白飯を食べ、合間にラーメンを食べる。生きていることを実感できる。ラーメンも食べたくて小さいのを頼んだ。自由ってこういうことだ。
今回、最後の訪れたのは辰野店である。
辰野店は今回訪れたお店の中でも一番オリジナルあふれるメニューが多くあるお店だ。何度も通って全メニューを制覇したい。
後で入ってきたお客さんは変わったメニューではなく、普通にタンタンメンを頼んでいた。さすが人気商品。
オリジナルスープで作られたカレーを食堂で食べるカレーとはひと味違って、スパイスの向こう側にうま味がぎゅっとつまっている感じがする。これだけでもいいなと思っていたが、頼まなければならないメニューを見つけてしまった。
辰野町のホームページによると「日本の緯度と経度が0分00秒で交わる点が国内に40カ所ほどあり、その中でも、辰野町のゼロポイントは「日本の地理的中心」である、との記載が「信州学大全」(元長野県立歴史館館長 市川健夫氏著)にあります」とあり、ど真ん中をモチーフにした町おこしをしている。
その中のひとつで、ど真ん中メニューというのを各飲食店で提供しており、ここのテンホウではど真ん中ラーメンとど真ん中カレーを提供しているのだ。
運ばれてきた瞬間、「二郎か?」と思ったが、野菜が350g、えびしんじょ(エビをすり身にして山芋や卵と混ぜて蒸したもの)、肉揚げ、カツ、ちくわの磯辺揚げが乗ったボリューム感あるラーメンがど真ん中ラーメンである。
カレーとボリュームのあるラーメン。「へー変わったメニューがあるのなら食べてみよう」と気軽に頼んでいいラーメンじゃなかった。
ここからの記憶がない。一人フードファイト状態で必死に食べた。俺の胃袋は宇宙だと15回ぐらい心の中で叫んだ。
食べ切れないと思ったが、気持ちでカバーしてなんとか食べきった。胃袋が120%まで膨れても「食べきるぞ」という強い気持ちを持てばなんとかなるものだ。
お腹いっぱいすぎて頭がボーッとする。この後、東京へ帰る高速バスが全然来ないなと思っていたら、バス停を間違えていた。それぐらいおいしかったということだ。
回れなかったお店や紹介したいメニューもまだまだあるが、長野に来た際には一度行ってみてほしい。懐かしくも味わったことのない味がそこにはある。
お店に入ると色々な世代の人が楽しく談笑しながらご飯を食べている。家族の憩いの場であったり、友だち同士が語り合う場であったりと様々だ。地元に根付いたチェーン店の良さを改めて感じた。なんか、新聞に出てくる文章のシメになったな。
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