窓から車に乗る

車はだいたい同じような形をしているので、どんなメーカーの車でもさほど悩むことなく乗ることができる。

しかし考えてみてほしい。あなたが初めてこの鉄の塊に遭遇したとしよう。なんとなく中に椅子があるし足が丸いので中に入って動き回るものなんじゃないかと、そこまでは予想できると思う。

ではどうやって中に入るのか。

ドアの存在を知らないあなたは、開いている穴から入ろうとするだろう。

その穴を、我々は便宜的に「窓」と呼んでいるだけのことなのだ。しゃらくせえ。

というわけで今日は人類が初めて車を見たときのことを思い描きながら、窓から車に乗車してみたい。

こういうことをやるまで気が付かなかったのだが、車の後部座席って窓が全開しないのだ。

おそらく子どもがうっかり窓から出てしまわないよう、安全を考慮した設計なのだろう。カーメーカーの安全対策に感謝しながら、運転席の窓から入ることにする。

上半身をもぐりこませてはじめて運転席の狭さに気づく。運転席というのは頭から入ってくる人に対してスペースを確保していない。

まっすぐに入れないことがわかったので、シートの上で丸くなりながら全身を収納していく作戦に出た。ここまで2分。住宅街である。あと5分もしたら巡回中の警官が来るかもしれない。

境界線を越えたところで今度は丸めていた体を逆にひねりながらペダルの方へと伸ばしつつ収納していく。人の体というのはつくづく狭いところに入り込むように進化していないのだ。

窓から車に乗ることはできた。ただ、メーカーはおそらく窓から乗る人のことを考慮していない。ユニバーサルデザインのざるからもれるバカもいるのだということを明記しておわる。