特集 2023年10月19日

砺波平野の散居村が美しい

富山県の西部に位置する砺波(となみ)平野には、「散居村(さんきょそん)」と呼ばれる農村風景が広がっている。

広大な水田の中に農家の屋敷が密集することなく散在しており、独特の風情と美しさを醸しているのだ。

1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

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砺波平野の散居村を知るには、東側の山の上にある展望台に行くのが手っ取り早い。そこからの眺めを見れば、砺波平野の独自性と美しさが一目で理解できるはずだ。

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できれば田んぼに水を張った春の時期に訪れたい
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まるで湖に浮かぶ小島のように、農家の屋敷が点在している

一般的に昔ながらの町並みといえば、家々が密集して建ち並び、集落を形成しているものである。しかしながら砺波平野では、まるでソーシャルディスタンスを保つかのように家々が距離を開けて散在しているのだ。

GoogleMapでも砺波平野の散村っぷりを見ることができる

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砺波平野は庄川によって運ばれた土砂が堆積してできた扇状地である。故に砂礫ばかりなので開墾の苦労はあっただろうが、庄川の水量が豊富な上に緩やかな傾斜地なのでどこでも水を引き込みやすく、各家が散らばって屋敷を構え、その周囲を水田にできたのだ。

農家の仕事場である田畑は、屋敷から近ければ近いほど移動の手間が省けて作業も楽になる。砺波平野で農家を営むには、散村の形式が一番効率的だったというワケだ。

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それぞれの家が屋敷の周囲を開墾した結果、今に見られる散居村となった

このような散居村が形成されたのは、中世末から近世にかけてのことだという。それから約400年経った今もなお、砺波平野の広大な範囲に渡って散居村の風景が残っているのだから凄いことではないか。

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散居村の家々は屋敷を囲むように木を植えていることが多い
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こうした屋敷林は、砺波平野では「カイニョ」と呼ばれている

家屋が個別に建っている散居村では、吹きっさらしのままだと雨風の影響をモロに受けてしまう。なので雨風や吹雪などから家を守るため、このような屋敷林を備えているのだ。特に冬になると南西の風が強く吹くので、西側と南側に背の高い木が聳えている家が多い。

かつてこれら屋敷林は家の建築や道具を作るための用材にもなり、落ちた枝葉は燃料として焚き木に利用されていた。屋敷林は生活に欠かせない存在として、昔から大事にされてきたのだ。

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こんもりと茂る屋敷林が散居村をより印象的なものにしている
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砺波平野には神社や祠なども数多く、いちいち絵になる風景だ

砺波平野の家々に見られるもうひとつの特徴として「アヅマダチ」というものがある。大きな切妻屋根(開いた本を伏せたような屋根)で、玄関を東側に設けた主屋のことだ。

前述の通り砺波平野は冬に南西の風が強く吹くため、そちら側には屋敷林が植えられている。なので風が弱く屋敷林の少ない東(アヅマ)側に向けて建っているのでアヅマダチと呼ばれてきた。

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南砺市の高瀬地区にはアヅマダチが移築・展示されている​​​​
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内部を見学することも可能で、伝統的な古民家の様相を知ることができる
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柱や梁が密に組まれ、大きな屋根を支えている

このアヅマダチの隣には、平安時代初期の掘立柱建物が発見された高瀬遺跡が存在する。当時この辺りは東大寺の荘園であり、それを管理していた建物だと考えられている遺跡である。

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官衙(かんが、古代の役所)風の掘立柱建物が発見された高瀬遺跡
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平安時代中期の延喜式に記されている高瀬神社もあり、長い歴史が感じられる

散居村に見る農村の原風景

現在の散居村は約400年前に形成されたというが、それより遥かに昔の古代やそれ以前から砺波平野には人々が住み稲作を営んできた。

そして今もなお農業が続けられているのだから、砺波平野の散居村は日本の農村における原風景のひとつといえるのではないだろうか。

なにより高台の展望台から見る散居村はまさに絶景の一言であった。これだけの広い範囲に散居村が残る地域は他にない、個人的に強くオススメしたい文化的景観である。

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砺波平野には越中三大山城のひとつに数えられている増山城もあり、いかに重要な土地であったのかが分かる

 

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