我が憧れの、大仙陵古墳
一般的に前方後円墳と聞いて、まずイメージするのはおそらく大仙陵古墳(仁徳天皇陵)ではないだろうか。歴史の教科書でおなじみの、地図の上にぽっかり空いた、鍵穴のようなアレ。
大仙陵古墳はエジプトのクフ王ピラミッド、中国の始皇帝陵と並んで世界三大墳墓に名を連ねており、特に面積では世界一の大きさを誇る、第一級の文化財である。
その大仙陵古墳があるのは大阪府堺市。周囲に点在する古墳らと共に、百舌鳥(もず)古墳群と呼ばれている。
大仙陵古墳でおなじみ、百舌鳥古墳群
また、堺市の東10kmぐらいに位置する羽曳野市やその周辺には、大仙陵古墳の次に巨大な前方後円墳である誉田御廟山古墳(応神天皇陵)を含む、古市古墳群が存在する。まぁとにかく、大阪には巨大な前方後円墳がボコボコとあるのだ。
こちらは二番目にでかい誉田御廟山古墳のある古市古墳群
しかしながら、数ある古墳の中でも大仙陵古墳はやはり特別な存在だ。一番でかくて、しかもあの綺麗な鍵穴形。地図でその姿を眺めているだけで、思わずにやけてしまう。ぜひとも見学しに行きたいものだ。
そして先日、いよいよついに大仙陵古墳を訪れる機会に恵まれた。さてはて、世界一巨大な墳墓とはいかなるものかと、胸を躍らせ訪ねてみると……
いやはや何と言うか、拝所から見る大仙陵古墳は非常に厳かで、聖域という雰囲気がひしひしと感じられるものの、期待していた通りのものが見られたかと言われれば、残念ながら首を横に振らざるを得ない。
ご覧の通り、この拝所からでは古墳がどんな形であるかも分からないし、墳丘(被葬者が埋葬されている部分)の周囲を巡っているはずの内濠を認めることすら叶わない。私の目前に広がるものは、ただ青々と茂る木々のみである。
この古墳の様子を見て、なぜ私が前方後円墳の見学に満足できないか、お分かりになられたのではないだろうか。
そう、巨大すぎるのだ。あまりに大きすぎて、あの特徴的な鍵穴の形を確かめることができない。故に前方後円墳を見たという達成感が少なく、素直に感動することができないのである。
1500年前という大昔。精密な測量機器など無い中で、よくぞここまで巨大な土木構造物を築いたものだ。それには脱帽。頭の下がる思いである。しかし、悔しいじゃないか。古墳の全容を確認することができないなんて。何か重大な古代の秘密を、隠されたままであるような気がして。
堺市役所の21階展望ロビーから、古墳を見る
もっと上のアングルから俯瞰できる、少しでも前方後円墳を鍵穴型に見ることができる、そんな場所は無いだろうか。
ちょうど大仙陵古墳の前に、観光案内に励むボランティアガイドのおじさんがいたのでその旨を尋ねてみると、堺市役所の展望ロビーから百舌鳥古墳群一帯を眺めることができるという話を聞かせてくれた。
なるほど、展望台。そういうのもあるのか。
早速、その堺市役所にまで足を伸ばしてみる事にした。大仙陵古墳から歩いて30分くらいだっただろうか。堺市役所の市庁舎は非常に立派な高層ビル。展望ロビーはその最上階、21階にあるという。
エレベータで一気に上へと上がり、全面ガラス張りの展望ロビーに到着した。そこからは、なるほど、確かに大阪湾から生駒山地まで、広く南河内の平野を見渡せる。
目的の大仙陵古墳はと探してみると、それはすぐに見つけることができた。しかし――
あぁ、こんなものか。やはり、こんなものか。
古墳から堺市役所まで結構な距離があったことからも薄々気づいていたが、やはりこの堺市役所展望ロビーからの眺めもまた、満足できるものではなかった。あまりに、遠すぎる。
一応、地上から見るより古墳の起伏を確認することはできるものの、古墳をぐるりと囲む濠も見えないし、なによりやはり、例の鍵穴型が分からない。もし、あれはただの丘ですなどと言われたら、はいそうですかと易々信じてしまうことだろう。
ダメだ。こんなものではダメだ。鍵穴だ。もっと、完全な形の鍵穴を見てみたい。あぁ、私の鍵穴見たい欲はたぎるばかり。見たい。大仙陵古墳の鍵穴が見たい。
しかし、地上からはダメ、展望台もダメとなると、一体これから私はどうすれば良いのだろう。これはもう、鳥のようにぴょーんと空でも飛んでみるしかないのではないだろうか。
はて、空を……飛ぶ?