マッケンチーズはアメリカンおふくろの味
洋ドラ以外だと、最近Netflixで見てる「アメリカンバーベキュー最強決戦!」にもマッケンチーズがやたらと出てくる。
ざっくり言えば、全米のバーベキュー名人が集まって課題(ビーバーやバッファローなどの野生肉を焼く、とか、南北戦争時代の機材で調理する、とか)の出来を競う“野良料理の鉄人”みたいな番組なんだけど、その名人たちもサイドディッシュとしてマッケンチーズ作りがち。
アメリカだと学校の食堂メニューには必ず入っているとか、子どもが大好きな家庭料理として広く普及してるとかいう話も聞く。もちろん「mac and cheese」で検索をかけるだけでも膨大な量の画像が出てくるぞ(そして、どれにも「茹でたマカロニにチーズを絡めたなー」以上の情報量が見えてこない)。
ぷりぷりのマカロニにとろーりチーズだし、そりゃ美味そうなんだけど。ただ、その頻出具合に対して、マッケンチーズ文化圏外の人間からすると「え、そこまでのもんなの?」と疑問に感じちゃうのだ。
うーん、そうなってくると、まずは本場もんの味を知らないことには話が始まらない気がする。
ということで、アメリカのスーパーならまず確実に売っているという超メジャータイトル、クラフトの「Macaroni & Cheese Dinner」を購入してみた。
チーズメーカーでお馴染みのクラフトだけに、やっぱりチーズの味が決め手なんだろうか。
パッケージを開けてみると、おお、紙箱に内袋無しで乾燥マカロニが直入れ。さらにその中にチーズソースの素の袋がボソッと埋まっているザックリした感じはアメリカっぽいな。
箱に書かれた調理手順を見ると、まずはこの乾燥マカロニを茹でて、紙袋のチーズソース粉末と、こちらで用意したバター(またはマーガリン)と牛乳を混ぜたらできあがり、という流れらしい。なるほど、これぐらいなら料理が苦手な人でもパパッと作れちゃうだろう。簡単で素晴らしい。
よーし、じゃあマカロニ茹でてる間に他の材料を揃えるぞー、と改めて分量のとこを見ると「バター or マーガリン…4Tbsp」とある。ん?Tbspってなんだ?知らない単位が出てきたぞ。
わー、やばいやばい、マカロニ茹だっちゃう!と慌てて検索すると、Tbspとはどうやらテーブルスプーン(=大さじ)の略、と出てきた。ちなみに小さじはティースプーンで略はtsp。大文字Tが大さじ、小文字tが小さじ、という表記法もあるらしい。
じゃあバター大さじ4杯ってどれぐらいなんだと思ったら、1杯あたり12g換算とのこと。え、じゃあバター48gってことか。たぶんパッケージ的に4人前分量ぐらいだろうけど、それでもすごい量。
今回用意したバターが150gのパッケージなので、その約1/3を一気に使うのか…。すげぇな…。
先に述べた「アメリカンバーベキュー最強決戦!」でも、参加者が「バターは万能なのよ」とか「多少の失敗はバターがあればリカバリできるさ」とか言ってたので、とにかくバターさえ使っていればOKってことなんだろう。
早くもこの撮影が終わったあとの胃もたれが不安で仕方ないが、バターは万能なんだから仕方ない。
茹でて水気を切ったマカロニにバターをドーン。牛乳をちょろっとかけて、粉末チーズソースをバサーッ。
あとはマカロニの穴にまで確実にソースが入り込むまでグイグイと混ぜたら、アメリカ超定番の「マッケンチーズ」が完成である。
うん、見た目はやっぱり「茹でたマカロニにチーズを絡めたやつ」なんだけど、でも実はそうじゃないって我々は知ってる。正しくは「茹でたマカロニにチーズとどえらい量のバターを絡めたやつ」なのだ。
あのバターの塊を思い出して、ややおそるおそる食べてみると…うん、そんなのマズいわけがないよね。うまーい。マカロニがぷりっとしてて、バターとチーズの塩気と乳脂肪がじゅわっとして、こってり。マカロニを噛むと中からチーズがチュルッと。
さらに、味の奥の方にチーズの酸味がほんのりあるのがポイントっぽい。この酸味がアクセントになって、こってりしてるのに味が単調にならないのである。
しばらく食べてるとさすがに食べ飽きるかなと思ったんだけど、しばらく休むとなぜかまた食べたくなってしまう。これは相当に危険な感じだ。
横で調理過程を見てバターの量にドン引きしていた妻(脂っこいの苦手)にも頼んで試食してもらったら、「あ、ヤバい。ダメだと分かってても手が止まんないやつだ」とバクバク食べ出したぐらい。
面白いのは、これ、冷えてもぜんぜん食えるのだ(もちろんできたてのほうが美味いけど)。
バターとチーズが固まってとんでもないことになるのでは?としばらく放置してみたんだけど、いつまで経ってもとろーりしっとり。どうやら調理過程でしっかり混ぜることで、バターとマカロニに残った水分が乳化しているっぽい。もしかしたら粉末ソースに乳化剤も入ってるのかもしれない。
なるほど、作って多少置いといても大丈夫という辺り、家庭料理として使いやすいのは分かるな。
これがママ直伝のマッケンチーズだ!
さて、本場のインスタントが美味くて優秀なのは理解できた。
だけど、やはり基本はマカロニとチーズ(とバター)を混ぜるだけなので、ママ直伝レシピ、と言われるような工夫の入り込む余地が分からない。
じゃあ、実際にママ直伝と謳うレシピから作ってみたらいいんじゃないか、とダイレクトに「mom's mac and cheese」(ママのマッケンチーズ)で検索してみたら…うわー、出るわ出るわ。アメリカ版クックパッド的なレシピサイトが大量にあって、それぞれにまた大量のママのマッケンチーズレシピが。
で、見ていてハタと気が付いた。普通の「mac and cheese」での検索結果はシンプルなマカロニのチーズ和えばかりなんだけど、検索ワードに「mom's」を追加すると、いわゆるベイクド…つまり、マカロニチーズをオーブンで焼いた、グラタン風のものの比率がドバッと増える。
なるほど、正調アメリカンおふくろの味は、焼いたマッケンチーズなのかもしれない。
さらにレシピをひとつひとつ見ていくと、「チーズはベルビータ(クラフト社のチェダーっぽいチーズ。日本ではまず売ってない)に限る」や「多めの粉マスタードがポイント」、さらには「マカロニを茹でるときは塩と同量の砂糖も入れる」といった謎めいたものまで、Tipsがあちこちにあって面白い。特にベルビータチーズ必須というレシピが多い。
あー、なるほど。こういうのが“ママ直伝”って部分っぽいな。
ということで、その中からとりあえず、手に入らないベルビータチーズを使わなくて良さそうなものを作ってみた。
まずチーズたっぷりのホワイトソースっぽいものを作るんだけど、問題なのはここでもバターの量である。
人数を1人用に換算してなお、まず必要になるのがバター1オンス(約28g)。多い!それで小麦粉を炒めて牛乳を加え、塩胡椒で味を調えたら最後に1カップのシュレッド(ピザ用に使う細切り)のチェダーチーズをドバー。これを茹でたマカロニにしっかり絡めたら耐熱皿にセット。
ちなみに、このレシピにおけるママ直伝ポイントらしき部分が「そのまま焼いてもいいけど、冷蔵庫で6時間以上冷やすと一体感が増して美味しくなります」だったので、それに従って冷やしてみた。
さらに追加のバターで炒めたパン粉を上からふりかけたら、華氏375度(約190℃)で余熱したオーブンで30分焼いたら、ママ直伝のマッケンチーズのできあがり。
まず感じるのは「あ、見た目は似てるけど、これは俺の知ってるマカロニグラタンじゃない」という部分。
例えば日本のホワイトソースって、もうちょっとミルク風味が強くてまろやかなものだと思うのだ。しかし、ママのマッケンチーズはとにかくバターとチーズの味が支配的。そして旨味が強烈。食べた瞬間に口の中がバター&チーズ味で満たされるのである。
その強すぎる味をマカロニが中和して、また食べ続けられる。味の濃いおかずと白ごはんの組み合わせと同じ仕組みだ。なるほど、マッケンチーズが「Comfort food(食べるとホッとする、心安まる食事)」と言われる所以はこれか。 いや、ここまで大量のバターに慣れてない日本人としては、心が休まる要素が薄いんだけど。
あと、冷やした一体感の部分は正直よく分からなかった。そんなに変わるか?
もちろんアレンジマッケンチーズもいろいろあるぞ
しかし、食べ慣れない身としてはそろそろ、マカロニとチーズとバター以外のものも食べたくなってくる頃合いである。
そこで「mom's mac and cheese recipe」の検索結果の中から、ちょっと違う食材の入ってそうなのも選んでみた。それが「Cheeseburger Macaroni(チーズバーガーマカロニ)」だ。
チーズバーガーといっても、ハンバーガーのようにバンズでマッケンチーズをはさんだものではない。単に牛ミンチを混ぜた和え物タイプのマッケンチーズって話なんだけど。
牛ミンチを塩・胡椒・ガーリック・パプリカで味付けて炒めたら、そこに牛乳と、ミンチと同量のレッドチェダーチーズ、ホイップクリームチーズ(生クリームと合わせてホイップしたクリームチーズ)を加えて、チーズが溶けたら茹でたマカロニとガーッと和えて絡めて完成だ。
実はちょっとソースを加熱しすぎたようで、油分と分離したチーズが牛ミンチと結合しちゃってるんだけど、それでも確かにチーズバーガーっぽい味がする。
あとこのレシピ、バター使ってない!その分だけ牛肉とチーズの味がしっかり感じられて美味いのだ。わりと日本人向けのマッケンチーズかもしれない。
なにより、撮影の都合上、1日ずっと朝からマッケンチーズを作って食べるを繰り返していたので、そろそろ本格的に強バター味がつらくなってきたのだ。
そして1日がかりとはいえ、かなりの量のマッケンチーズを作ってしまったので、当然ながら食べきるのは難しい。ぶっちゃけ、そこそこ残っちゃってる。
しかしさすがはマッケンチーズ先進国アメリカ、そんな程度のことは折り込み済みである。食べきれないならピザに載せて焼いちゃえばいいのよ。
OH ! ママ、そんなのウソだろう!?と思うが、ちゃんとあるのだ、マッケンチーズ・ピザのレシピ。
市販のピザ生地に余ったマッケンチーズ(和えるタイプ)、シュレッドチェダーチーズ、フレッシュモッツアレラを載せてオーブンで焼くだけ。まさに“ザ・ご家庭の余ったもの料理”ってシンプルさである。
それにしたって、具材は大量のマカロニのみ(チーズバーガーマカロニが余ってたので、ちょっと牛肉も入ってるけど)。小麦粉オン小麦粉 with チーズのビジュアルは、なかなかの迫力と言えるだろう。
味もまさに「マッケンチーズをピザにした味」以上でも以下でもないんだけど、香ばしさとピザ生地のサクッとした食感が加わると、それなりに食べられてしまうのが不思議。
あと、タバスコによる味変がすごく効果的。
たぶん、アメリカのママも「もう、マッケンチーズが余ってるじゃない!じゃあピザにしちゃうわよ?」みたいなことを言ってるんだと思う。
これもまたアメリカンおふくろの味なんだろうな。
今回の記事は、アメリカのレシピサイトをいろいろと見回っては、ピンと来たのを翻訳サイトに突っ込む…を繰り返しだった。で、ひとつ気になったのは、その翻訳結果にやたらと「安っぽい」というワードが出るのだ。
例えば「ママの安っぽい美味しさ」とか「すばらしく安っぽい味」とか「信じられないほど安っぽい」とか。これはさすがに、ママの自慢レシピを紹介するワードじゃないだろう。
で、改めて原文を確認してようやく納得。レシピ内にある「cheesy」という単語がそれだったのだ。
これ、本来は「チーズ風味の」という意味なんだけど、スラングで「安っぽい/俗っぽい」的な使われ方もしてて、それが訳に出ちゃってたのである。
それにしたってマッケンチーズの味がチーズ風味なのは当たり前なので、わざわざ「cheesy」って言う意味あるのか、とも思ったんだけど。
きだてさんが食べていた、インスタントのマッケンチーズはこちら!
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