特集 2020年9月24日

アマビエとか新型ノートとか!夏の文房具フェス2020

今年もやってきました文房具の夏フェスISOT。ギリギリまで、本当に開催されるか心配だったけど。

僕らの夏のお楽しみといえば、例年7月に東京ビッグサイトで開催される文房具の国際展示会「ISOT」(国際文具・紙製品展)だ。最新文房具がザクザクで盛り盛りの、夢のようなイベントなんだけど。

今年はコロナ禍でそもそも開催が危うかったり、開催場所と時期が2度にわたって変更になったりで、なんとか9月にやることができたって感じ。

それでも開催されたんなら、今年も取材に行かねば。

1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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コロナに負けるな文房具メーカー

というわけで9月2〜4日の会期で行われた第31回ISOTだが、うーん、やっぱり人は例年に比べるとかなり少ない。

そりゃまぁ仕方ないことだし、今のご時世、逆に人がドバドバと押し寄せるようなら怖くて参加できないし。ある意味これぐらいが今の限界なのかもしれない。

なにより、文房具業界では春からこっち軒並み展示会が自粛になっていたので、久々にオンラインじゃないリアルの展示会。来ているお客さんも、深刻な中にちょっとウキウキしてる感じがあって微笑ましかった。

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ビッグサイト西館エントランス。あちこちから「久しぶり」「ご無沙汰してます」みたいな会話が聞こえてた。
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マスク非着用の人はここで支給されるんだけど、もらってる人は最後まで見かけなかった。さすがに全員マスクしてきてるよな。

もちろん主催側も感染には相当に気を遣っており、受け付け近くにはマスク配布所が設置され、入り口はがっつり検温とマスクチェック。

ついでに取材する人はプレスセンターで「報道」の腕章を借りるんだけど、従来のがっつりした布の腕章から、返却不要で使い捨てのシールタイプ腕章になっていた。

正直、取材終わりに遠くのプレスセンターまで戻って腕章を返すのがいつも面倒くさかったので、むしろこれは便利。

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入口ゲートでは体温チェックも。ここでハネられたらどうしよう、とやや心拍が上がる。
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今後もこれでいいわー、というシール式の腕章。巻くのもラクだし。

で、手指消毒・検温を済ませて会場入りすると…おお、これはヤバい。

もう最初に言っちゃうのが「ヤバい」ってぐらいにヤバい。会場内、スカスカ。

というのも当然で、いつもなら海外メーカーのブースなんかもそれなりに数があるのに、それがゼロ。さらに国内メーカーもかなりの率で出展自粛をしてたり。

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長年取材してるけど、こんな隙間だらけのISOTはさすがに未体験。
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あちこちが休憩スペースみたいになってるので、歩き疲れても休む場所には事欠かない。

ぶっちゃけ会場のスペースで言うと、たぶん去年の1/4ぐらいだったんじゃないだろうか。

今回はオリンピックイヤーということで、もともと会場をいつもの東京ビッグサイトから別館の青海展示棟へ移しての小規模開催になる予定だったのだ。そこへこのコロナ騒ぎで、ビッグサイトは使えるようになったけどコレ困ったな、って感じ。

さらに言えば、参加しているメーカーさんだってここに至るまでに相当な逡巡があったはずで。そんな中でもきちんとブースを出して頑張ってるメーカーさんには、個人的にリスペクトの気持ちしかない。

 

というわけで、その頑張ってるメーカーさんの中でも、特に「これ注目じゃね?」という製品をピックアップしていくので、なんならみんなも応援してあげて欲しい。

具体的には、文房具屋さんとかで見かけたときに「へー、これか」って手に取って見るぐらいでいいんで。

甘エビをサービスするという文房具らしからぬ発想

まず最初に紹介するのは、ノートやふせんなど紙製品を展開しているCRU-CIAL。しっかりした技術がウリの製本会社が母体のブランドなんだけど、なかなかセンスいい感じの製品が揃っているのだ。

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CRU-CIALブース入口にドーンと鎮座する紙製遊園地。こういう緻密な加工も得意とするメーカーなのだ。
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組木や和文様の木表紙ノート。シックさでわりと人気が高い。

そのCRU-CIALが最近わりと力を入れているのが、レーザー加工された木製表紙のノートやご朱印帳。

和文様とか猫とかそういうベーシックにウケそうなものが並ぶ中に、あー、やっぱり今年はあるよね、アマビエ。ベタすぎだろー。

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やっぱりあるよね、アマビエ。

案内してくれたCRU-CIALの担当さんも「いやー、ベタですよねー」と少し恥ずかしそうだ。

「もう、あちこちのメーカーさんがアマビエ柄はやっちゃってるじゃないですか。うちは後発なんで、せめて裏表紙にはアマエビを足しときました」

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口頭で冗談として言うなら分かるけど、本当に商品化しちゃうやつはそんなにいないぞ、アマビエと甘エビ。

すごい。「後発なんで」以降の部分、意味が完全に通らない。後発だからアマビエでなにか工夫するとかでなく、甘エビを足しておくという発想。

ちゃんとしたメーカーのくせに、完全にデイリーポータル寄りの考え方である。つまり、親しみが持てる。

しかも、せめて〜足しときました、という言い方から察するに、どうやらこれはサービスのつもりなのである。甘エビをサービス。海鮮居酒屋か。

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そして、猫がマグロを抱いてうっとりしてる「まぐねこ」メモ。この猫とマグロの関係性はなんだ。

ハッと目を移すと、さらに新製品として紹介されているのが、この一筆箋としても使えるメモ用紙。

そうか、やっぱり海鮮居酒屋なのか。

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これはかわいい、スイーツなメッセージカード。

他にも、スイーツっぽいメッセージカードもあったり。袋をビリッと破って開封するとパンケーキやアイスバー型カードが出てくるのは、なるほどなかなかキュンとする感じ。

つまり、デザート系も充実して女性に人気の海鮮居酒屋である。

新発想、リングのないルーズリーフ

このISOTがデビュー戦となる新ブランドも発見した。こちらも印刷会社が母体のノートブランドpagebaseだ。

で、そのpagebaseブースで今年の12月から発売予定と紹介されていた「SLIDE NOTE」が、なかなかに面白そうな感じなのである。

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「リングのないスライド式ルーズリーフ」という説明に興味が高まる。

いわく、「リングのないルーズリーフを目指しました」というらしいこのノートバインダー。見た目はまったく普通のノートっぽいし、開いてもまぁ普通のノートだ。

ところが背表紙部分をヨコに引っ張ると、バシャッと中に仕込まれたスライドクリップがオープン。すると中に綴じ込んだ紙が自由に出し入れできるようになるという仕組み。

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背側のフレームをつまんで…
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ジャキッと引くだけ。これでスライドクリップ(2個の金属パーツ)が開いて、紙の出し入れができるように。

確かに感覚的にはルーズリーフっぽくページの編集が自在だし、それ以前に、リング穴の開いてない紙だってそのまま綴じることができる。

たとえば会議の議事録を書いたページの次に、配布されたプリントアウトの資料をそのまま綴じちゃうことだってできるので、これ、普通にめちゃくちゃ便利じゃないか。

従来のレールホルダーでも似たような運用はできるけど、スライドクリップの分だけ開閉はラクだし。

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ルーズリーフ感覚だけどルーズリーフよりも手軽で、しかも紙に穴が開いてなくてもいい。なるほどこれは使いやすそう。

さらに印刷会社だけあって、このノート用の紙も面白い。

本体発売に合わせて、紙質や罫線のタイプ(横罫の罫幅・方眼サイズ・罫線色)などを自由にカスタムして購入できるサイトもオープンさせるとのこと。

好みで作ったノート用紙をSLIDE NOTEに綴じれば、自分専用オリジナルのノートが作れるわけで、これは気になる人も多いと思う。間違いなく僕も作る。

 

ただ、現時点のサンプルを触った限りでは、少し綴じる力が弱かったり、表紙が開きづらく感じたりもしたんだけど。これは発売までに改善されるといいな。

高級手帳ブランドは意外なヤング展開

皮革素材の高級めなシステム手帳でお馴染みアシュフォードの新製品として展示されていたのは、意外にも手帳未経験の若年層がターゲットの新手帳「DESIGN REFILL PAD」。

「へー、あのアシュフォードがこういうの作るのか」という意外性がすごい。

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アシュフォードのブースなのに革製品じゃない?というのがまず驚きポイント。
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その名の通りパッドのような外見でリング剥き出しの「DESIGN REFILL PAD」。サイズはミニ6とバイブルの2タイプ。

モノとしては、樹脂の板にリングがついたものを裏表紙にして、そのリングに同じく樹脂の表紙とリフィル(手帳用紙)を綴じている。背表紙無し、リングも剥き出しだし、と「わー、いろいろ削ったなー」って感じだ。

システム手帳は端的に言えば「リングにリフィルを留めるだけ」の存在なので、ある意味これが必要最低限のシステムと言えなくもない。

もちろん、その分だけシンプルに軽くて携帯しやすいし、価格も手を出しやすくなっている。手帳初心者にはやや振り切った感もあるけど、ともあれ最初の一冊として使ってみるにはアリなのかも。

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リフィルも若者向けに、主張がちょい強め。紫のマージン罫、おじさんには使いこなせないな…

あと「リフィルも若い人向けに新たに作りました」って話なんだけど、これはちょっと、えー、なんというか、派手だなー。若い人はこういうのがエエんかいのう、とすっかり老人気分で眺めるばかりである。

ま、自分で選んだリフィルを自由に使えるのがシステム手帳のメリットなので、その辺りは好きに楽しめばエエんじゃろう(ヨボヨボ)。

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手芸ブランドの高級和風文具は香りもいいぞ

KAWAGUCHIは手芸用品メーカーながら、ここ数年ISOTの出展を続けており、もうすっかり「文房具もおもしろいの出すメーカーさん」という印象が定着している。

特に、国内の地場産業や工芸のテイストを取り込んだ手芸用品/文房具ハイブランド「Cohana」は、毎年なかなかに興味深い展開があって目が離せないのだ。

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いろいろと面白いモノを出してくるので、常に注目度の高いKAWAGUCHIブース。

今回「おっ」と思ったのは、ヒノキ(間伐材)の鉛筆。

無垢の素朴な感じなんだけど、よーく見るとワンポイントのマークが寄木細工で作られていたりと、芸が細かい。

さらにヒノキ材なので、香りもいい。鉛筆削りで削ったあとまでいい香りなので、わざわざ削りカスを入れて持ち歩く用の、専用香り袋まで付いているのだ。

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ヒノキの鉛筆と、寄木細工の鉛筆削り。おしゃれー。横のハサミも漆塗りだったりと、伝統工芸の高い技術で作られている。
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こんな小さい格子柄のマークもちゃんと寄木でやってるのがすごい。

もともと普通の鉛筆も、インセンスシダーというヒノキ科の香りの良い木材でできているので、鉛筆マニアの中には、削りカスの香りを楽しむ趣味の人もけっこういる。

とはいっても、メーカーが純正で「これに入れて削りカスを嗅いでね!」と袋を付けてくれるというのは初耳だし、なかなか面白い。

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削りカスがやたらといい香りでウットリする。

あと、文房具ではないんだけど、個人的に気に入ったのがコンパクトな裁縫セット「TSURETTE」。

ミニサイズのかわいいビニールトートに針と糸、ボタン、布用両面テープ、染み抜きなど、“持ってるとわりと助かる”系の裁縫ツールがセットされているのだ。

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手のひらサイズのトートに布関係のエマージェンシーキットが詰まっているので、旅行のお供にも良さそう。
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とりあえずこれだけあれば急場はしのげるセット。布用両面テープとか、あると重宝するぞ。

カバンにぶら下げておいてもかわいいし、なにより実用的。

あと、糸巻きにはQRコードが印刷されていて、そこから「わかりやすい縫い方動画」にアクセスできるようになっている。これなら、裁縫セットは持ってても使い方が分かんないよう、的な人でもピンチをしのぐことができそうだ。この辺り、さすが手芸メーカーだけに気が利いている。

ISOTと同時開催の展示会にも文房具はある

ここしばらくのISOTは、国際デザイン製品展やデザイン雑貨EXPOなどいくつかの雑貨系展示会と同時開催、という形をとっている。

ざっくり言えばISOTだけじゃビッグサイトの展示スペースを埋められないからなんだけど、ついでに楽しい雑貨がいろいろと見られるので、見て回る側としてはお得なのだ。

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プラモ感覚で組み立てるウッドパズルのAzoneブース。

しかも、だいたい雑貨の中でも文房具要素のあるものが拾えたりするので、お得度はさらにアップする。

今回も、ウッドパズルメーカーのAzoneで文房具っぽいものが発見できた。

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ちゃんと微妙に傾いてるピサの斜塔ペンスタンド。
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「たまたまその穴にペンが入っただけじゃねえのか」という疑いが捨てきれないサックスペンスタンド。

ウッドパズルって、つまりは板材から抜いたパーツを組み合わせて立体物を作るホビーなんだけど、その中にあったのがペンスタンド。

うーん、ペンスタンドって言ってるけど、単にペンが入るスペースがあっただけなんじゃないか、という気がしないでもないが。それでも発売元が「ペンスタンド」って名称で販売してるんだから、それで充分だ。

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日本刀に目盛りが刻まれた定規。鍔があるからまっすぐに測れないだろう、それ。
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定規をここまで物々しく飾ることがあるだろうか。

もうひとつ「日本刀定規」というキットもあった。

そのまんま、日本刀の刃の部分に目盛りが入ってるだけなんだけど、ちゃんと鞘とセットで飾れる刀掛台つき。

定規としては、鍔がついたままでどうやって定規として使うんだよ、と突っ込まざるを得ないんだけど、まぁ楽しいからいいわな。

 

年々と規模が縮小してるISOTなんだけど、いやー、それにしたって今年はキツかった。例年はがっつり3日間の会期をフル取材していたのに、今回は初日だけであっさり見終わってしまったんだから、そりゃショックも受けるというものだ。

それでも、開催できるかどうか自体が危うかっただけに、こちらとしては「よくやってくれた」という気分である。

来年がどうなるのかはまだ見当もつかないけど、とりあえずISOTが無くなっちゃうと、業界の端っこで生きてる人間としても途方に暮れてしまうのだ。

なんとかコロナに対応して、うまいこと続けられるように頼む。マジで。


ISOTとは直接関係がないんだけど、このコロナ禍でビッグサイト敷地内のコンビニが全滅してるのはショックが大きかった。

展示会取材の際は時間の都合で手早く飲食を済ませたいので、コンビニめしに頼ることが多い。今回もちゃちゃっとおにぎりでも買うかー、と行ってみたら、ローソン・セブンイレブン・ファミマ全てから電気が消えていたのである。大げさでなく、ヒザから崩れる感じ。

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いやまあ展示会自体が無くなってるんだから当然かもだけど、それでもさー。

一刻も早く、感染を気にせず展示会を見て回れて、コンビニでサクッと昼ご飯を買える状況に戻らないものか、と思う次第だ。ほんと、ビッグサイトは食事環境悪いんだからさー。コンビニ無いと詰むんだって。

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