けっこうあるぞ、門かぶりの松
この記事を書くために調べて、ついさっき「門かぶりの松」という正式名称を知るまで、個人的にこれらを「松ゲート」と呼んでいた。略して「松ゲ」とか言ってた。
このことからもわかるように、本稿は門かぶりの松にまつわるちゃんとした情報をお届けするものではない。専門家に話を聞いたりもしていない。
これまでに見つけた門かぶりの松をご紹介するだけの記事であります。
ただ、この記事を読んだ皆さんが「お、あそこに門かぶりの松があるぞ」と、いままでスルーしていたものが目に付くようになるといいな、と思っている。
あと「門かぶりの松」って池波正太郎の作品に出てくる町人の愛称みたいだ。「傘屋の松」とかいう感じの。
さて、まずはお手本のような門かぶりっぷりを見ていこう。
敷地入り口部分の上空を見事に横切る枝振り。
当然のことながら、横断している枝はだいたい補強されている。
見応えのある充実した補強。
冒頭のエンタープライズ号。これもやはり補強が印象的。
門かぶりの松とは、このように枝の一部が水平方向に伸ばされ、文字通り門の上にかぶっているものをいう。
この枝の伸びっぷりが見所なわけだが、その補強も面白いことに気がついた。上のものがそうだが、中にはキャンチレバー(片持ち梁)では耐えられず、終端部分に柱を立てて支えているものもある。正真正銘門だ。
いずれにせよ、枝のうち一本だけを誘導しつつ剪定を繰り返し形を整えるのには、たいへんな時間とお金がかかるだろう。
家屋本体に迫る勢いの松。もはや門の域を超えている。伸び放題の新芽も荒々しい。
補強の先端が門柱の上に乗っている。正真正銘の「門かぶり」である。
枝のカウンターバランスのように曲がった幹がかっこいい。
補強レスの作品もときおり見かける。門ではなく階段を上ったところに配置しているのもダイナミックでいい。
これも補強がない。個人的にはこれが見たものの中で一番気に入った。コンパクトな佇まいとか、おそらく建て替えたとおぼしき家屋とのちぐはぐさ具合がいい。
建築より庭木の方が寿命が長いので
それにしても地味な記事だ。ここまで読み進めてくれている読者はいるのだろうか。
これらの松は、見てもらうために良い感じに仕立てられている。つまりすてきなのは当たり前だ。門かぶりの松が流行したのは江戸後期から明治というから、歴史もある。こういうものに対していまさらぼくが独自の愛で方を見いだすのは難しい。もともとぼくはじっくり見られるとは思っていなかったものを愛でる方が得意なのだ。
ただ一点、現代ならではの楽しみを見つけた。それは上のもののような「家屋が建て替えられて松は以前のまま」というケースに見られる。
たとえばこれ。フォルムは門かぶりだが、場所が門ではない。確証はないが、もしかしたら建て替えで門が移動したのではないか。
これも同様。充実した補強が印象的な、かなりのキャンチレバーだが、微妙に門の上じゃない。
もしかしたら門かぶりの松は必ずしも門の上にあるものではないかもしれないので、これらはオリジナルの姿である可能性もある。あるいはやむなくこうしたかもしれないし。
そこらへんちゃんと調べろよ、って話だ。しかし問題はこれが正しいかどうかではない、と強がりをいっておこう。ぼくが気がついたのは「木って簡単に動かせないんだよな」ということ。まあ、当たり前なんですが。
切ってしまうのもかわいそう。門にするために手塩にかけて育てたものならなおさら。だから昔の建築はなくなっても植栽の形と位置がその名残をとどめる、ということもあるかもしれない。普通の植栽と違って門かぶりという「方向」があるものだけにそれが顕著だ。
というようなことが今回の発見だったわけです。相変わらず地味な楽しみですが。
「方向」でいうと、門に対して直角方向の作品もあって、なんかむずむずした。
これも直角物件。このダイナミックさはすごい。
横から見て、その飛距離に驚いた。しかも補強がない。
あらためて、植栽っておもしろい
さて、門かぶりの松に注目し出すと、ほかの植栽にも目が行くようになる。以前クリハラさんが「
他人の庭木」というすてきな記事を書いていた。その気持ちがよく分かった。そういえば当該記事にも門かぶりの松が少し出てきていた。
塀から大きく飛び出した植栽。きれいに刈り込まれているだけに、街灯の食い込みっぷりが際立つ。
壁に面した後ろ半分がすっぱり平ら。家電製品の裏側っぽい。
こちらは一部がニッチのようになっているマンションの生け垣。
大邸宅のニッチにはよく像が置かれたりするので、収まってみた。いい大きさ。
つねづね、ディズニーランドの植栽はその整えられっぷりがとても面白いと思っている。
そのうちアトラクションには一切乗らず、植栽だけを見るツアーをやってみたい。
庭に植えられたちゃんとした植栽もいいが、鉢植えもいい。とくにこういう手作り感あふれるやつ。
門かぶりのビヒダス。
すごく腸が健康そうな家である。
これは門かぶりなのか?
門かぶりの松を観察して回っていると、しばしば境界事例に出会う。門かぶりなのかそうじゃないのか微妙なもののことだ。
松の位置は間違いない。そして門の上に枝もある。が、これは門かぶりなのだろうか。
これも悩む。生い茂った結果、門の上空に枝の一つが達しただけ、と見えないこともない。
いくつかの悩ましい物件を見た結果分かったのは、綺麗に刈り込まれていないと「ただ伸びただけ」に見えてしまうということ。高さは低く抑えられ、門上空の枝だけが長い、という状態でないと「門かぶり感」が出ない。
かっこいいけど、木全体が門かぶりしちゃうと、なんかちょっと違う気がする。
これも体全体で覆い被さっちゃってるケース。キュートでいいなとは思う。
「門にかぶってやるぞ!」という意気込みを感じる一品。補強も大胆。
確かに枝の一本が門上空を横切ってはいるのだが。どうなんだ。
つまり手間暇をかけないと門かぶりの松は実現しないということだ。たいへんだな。格式を示すのに使われるというのも頷ける。
さて、最後に、現在までにぼくが見た中でもっともびっくりした門かぶりの松をご紹介しよう。
両サイドに門かぶってる!
かなりの滞空にもかかわらず、この水平っぷりはすごい。
反対側は、なんと90度折れ曲がって続いている。
門かぶりの松情報お待ちしてます
いま写真を見て気がついたのは、もしかしたらぼくが松に懐かしさを感じていたから門かぶり注目したのかもしれない、ということ。
ぼくが育ったマンションの外構部には松が植えられていた。でも最近の植栽に松はあまり選ばれない。グリーンにもはやりがあって、ここ数年はひょろっとした色の薄いものが好まれている。ショップやモールにはオリーブが多いし、マンションやデザイナーズ住宅にはシマトネリコだ。その前はコニファーをよく見た。
浮かれ電飾をやる家にはコニファーが生えてる印象がある。その世代が好んでいるのか。そういえば、往年の団地には松がよく植えられている。時代によってグリーンは変わる。部材なんだな、植栽は。
ともあれ、今後も門かぶりの松を見て回ろうと思っている。いい門かぶりがあったら教えてください。