みんな上手すぎる!
「間取り図ナイト」の主催は
森岡さん。それにぼくと、そしてDPZライター仲間の大塚さんもレギュラーで登壇していた。長野や名古屋、福岡など全国で開催したものだ。なつかしい。
で、そのイベント会場でお客さんに書いてもらった間取り図は、ぼくがすべて大事に保管してある。数百枚ある。今回はその中からいくつかご覧いただこう。
まず、とにかくみなさん間取り図描くのがとてもうまい。それにびっくりする。
こういう用紙に描いてもらう。ご覧の通り、すごく上手! 魅力的。
戸の引きちがいなどもちゃんと描かれている。すばらしい。
イベント会場でいきなり描いてもらったとは思えないクオリティ。
このレベルの間取り図がざくざくと提出されるのだ。ほんとうにびっくりした。
なにがすごいって、広さがちゃんと描き分けられているのがすごいと思う。面積を正確に描くのはかなり高度なスキルだ。
これはおそらく、日本の間取りが畳を基準に広さを表現しているからだとぼくは推測している。
畳がしっかり描かれた作品。床の間とおぼしき場所の木目表現もぐっとくる。いい。
きちんと描かれた「和室6畳」と、それを基準とした各室の広さのちがいが見事に表現されている。これがさっと描けちゃうのってほんとすごいと思う。
畳という共通モジュールの優秀さを感じる。考えてみれば、そもそも「間取り図が読める」ということ自体がすごいことなのではないか。
例えば、海外に行って不動産屋を見ると(見るんです。たぶん多くの間取り図好きが同じように海外でも見ちゃうはず)、間取り図が掲示されていることが少ないの気づく。
香港の不動産屋店頭。
外観や部屋の中の写真はあるが、間取り図はない。
これも香港。日本の不動産屋と同じようにガラスに貼られているが、文字しか書かれてない。
間取り図があったのはこのひとつだけ。味わい深いいい図だ。
パリもロンドンも、同じようなものだった。「物件紹介にはなにはともあれ間取り図が必須」というのは日本特有かもしれない。そして、それはもしかしたら畳のおかげかもしれない。今後の研究が待たれる。
これは「間取り図」とは違うなにかだ
なんだか妙に「日本すごい系」な内容になってしまった感がある。話を戻そう。
みなさんに描いてもらった間取り図が、不動産屋のそれと違うのは、家具の配置も描かれる点にある。そして、これがとても面白い。
テーブル、テレビ、ソファなどに加え、ドラム、タイヤまで描き込まれている。タイヤ?
たんす、机、ラック、本棚、ベッド。収納家具の配置が事細かに。暮らしぶりが目に浮かんでくるようで、とても楽しい。
暮らしぶりが描かれた間取り図は、最終的にイラストになるのだな、と気づかされた一枚。キュート。
おそらくご実家の間取り図。ダイニングテーブルでの家族の座り位置などまで描かれていて、小一時間眺めていても全く飽きない。魅力的。
これもすごくかわいくて上手。ソファやベッドの描写もいいが「皿」「本」というのがいい。
間取り・設備と家具の配置がもはや区別なく一体となって描かれている。いい。すごくいい。
実際に住まわれている部屋は、もはや単純な「間取り」としては描かれない。むしろ家具の配置や、ものがどこに置かれ、自分がどこにいるか、などのほうが重要になる。
まだ人が住んでいない空っぽの部屋スペックのみが示される不動産屋の間取り図とは全く違うものだ。だからおもしろい。
これは「間取り図」とは違うなにかだ。名前をつけたほうがいいかもしれない。
人間の「間取り図視」能力
これらをじっくり見ていると、「きっとここにすわってごはん食べるんだろうな」とか「本が好きなんだろうな」とかいろいろ分かる。
考えてみれば部屋の様子ってけっこうな個人情報だ。「写真撮って見せて」といったらほとんどの人が嫌がるだろう。だけどイラストならけっこう描き込んじゃう。これっておもしろい。
そこで思いついたのが「間取り図のように部屋の写真を撮ったら面白いのでは」ということだった。
で、撮ってみた。
名作椅子が置かれたすてきな部屋。おふたり暮らし。寝室があけっぴろげですっきりしてるのがすごい。
ひとり暮らしだけど、2DK。ぜいたく。すてき。キッチンが妙に斜めなのもいい。
こちらもあけっぴろげ寝室。革張りソファの存在感がかっこいい。
いたるところに植物、3面採光の温室のような明るい部屋。うらやましい。
どうですか! おもしろい写真でしょ!
これらは「グッドルーム」という不動産仲介の会社のウェブサイトで、「
お部屋を上から覗いてみよう」というそのまんまの名前でぼくが連載している写真。
この写真がおもしろいのは、あまり違和感がないこと。というのは、部屋に住んでいる人も、このような視点で自分の部屋を見たことがないはずなのに、なぜか見たことがあるような感じがする、というのだ。
もしかしたらふだんからぼくらは頭の中で、空間を間取り図のようにして見ているのかもしれないと思った。
ちなみにこうやって撮って、つなげて作ってます。
ペットが描かれがち
話を戻そう。
家具のほかに描かれるのが動物だ。
「ペット脱走中」って蛇に注釈があるけど大丈夫か。
こちらの猫も脱走するらしい。大丈夫か。
ペットは比較的ちゃんと描かれているのに、自分は棒人形で表現。ペットに対する愛を感じる。
猫を描き入れる方は本当に多い。
家具はまだ動かないものだから間取り図に描かれても当然という感じがするが、「動産」であるペットが描き込まれるのは不思議だ。
ぼくは動物を飼ったことがないので、ここらへんの間隔がいまひとつピンとこないが、ペット好きにとっては、彼らを描き入れたくなるのは当然なのかもしれない。
大家さんも触れられがち
さて、動物だけではなく、人間についてもよく触れられる。図やイラストとしてではなく、注釈でだが。
上のものに「大家さんが勝手に天井をスゴイ青に塗ってしまっている」とあるが、このような大家さんエピソードがしばしば記されて、これがとてもおもしろい。
たとえばこれ。
「大家さんが1年の間に2回も変わった(死亡のため)」! 「逆大島てる」である。
これは
「毎月大家さんからピー缶をもらえる」とのこと。タバコの缶でしょうか。こういう「なんだかものをくれる大家さん」ってけっこういそう。
魅力的に家具が描かれたこちらは
「入居に大家さんとの面接が2回もありました」。なぜだ。
お風呂事情も興味深いが、左に書かれた
この大家さんの噂がいい。
思えば大家さんって「不動産を持っていて貸している」という以外に共通点がない人種なので、いろいろな人がいる。よく言えばユニークな人たちだ。いわば「部屋の付属品」として一言書きたくなるのも頷ける。
家族と「開かずの間」ミステリー
大家さんだけではなく、家族や恋人などについても一言添えられることが多く、それらがかなり興味深い。
「祖母が死んだ直後にガラスに祖父の愛人がへばりついてたりもしました。よく見えました」よく見えました、って!
「初カレができた。この部屋で」倒置法で書かれているのがいい。
「新婚当時の間取り。当時の旦那様は今はどこにいるのでしょう?」意味深な内容と、シンプルな間取り図とのコントラストがまぶしい。
間取りと関係した家族の話もある。その多くがいわば「開かずの間」系とでもいうべき内容で、これがちょっとこわい。
大胆に斜線が引かれた部屋は
「入れてもらえなかった暗黒地帯」
こちらは「扉の母の私物のせいで数年間中を見ていない部屋」。
こちらは「元同居人の大量のにもつのためほぼつかっていない」。元同居人? 元?
「父の部屋は謎」。その部分だけ図がおかしくなっている点に「謎」感をひしひしと感じる。
こうやって見ると、一つ屋根の下に知らない部屋があるのは、なんだかちょっと気味が悪いが、そうめずらしいことではないのかもしれない。思い起こせば、子供の頃は確かに両親の部屋は「謎」だった。
……まだまだたくさん描いてもらった間取り図はあるのだが、今回はここらへんで。折を見て残りもまたご紹介したい。
最後に衝撃の作品を。
おとなりさん……!
間取り図を描いてくれた皆さん、ありがとう。
なぜだか間取り以外のことを言いたくなる。間取り図を描く、という行為にはそういう不思議な効能がある。みなさんも、友達同士で間取り図を描き合う、っていう遊びをやってみたらいいと思う。
「人んちを通らないと部屋には入れない」こういう気になる間取り図まだまだたくさんあります。
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