特集 2017年1月31日

日本最大のハゼ「ハゼクチ」を釣って巨大ハゼ天にして食べたい

ハゼにしてはデカいでしょ!ピンとこない?ハゼにしてはデカいんだよ!
ハゼにしてはデカいでしょ!ピンとこない?ハゼにしてはデカいんだよ!
ハゼという魚がいる。体長はだいたい十数センチから20センチほどの、天ぷらにすると美味しいあの小魚である。
しかし世の中は広いもので、なんとハゼはハゼでも体長40センチ以上、時には50センチを超えることもある巨大なハゼが有明海にいるのだという。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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いざ冬の有明海へ

えっ!そんなハゼなら超でっかいハゼ天が作れるじゃん!刺身だって難なく取れるぞ!
夢と幽門が広がってしまった僕は九州へ向かった。もう数年前の出来事である。
普通のハゼ(マハゼ)。キスやギンポと同じような、天ぷらのタネにちょうどいいサイズ感だ。
普通のハゼ(マハゼ)。キスやギンポと同じような、天ぷらのタネにちょうどいいサイズ感だ。
ハゼ天はバツグンに美味いが、一枚が小さいのでいくつかまとめて食べないとちょっと物足りない…。ハゼクチはこの悩みを打ち砕いてくれるはずだ。
ハゼ天はバツグンに美味いが、一枚が小さいのでいくつかまとめて食べないとちょっと物足りない…。ハゼクチはこの悩みを打ち砕いてくれるはずだ。
ハゼクチは有明海にたくさん生息しているらしいが、狙いすまして釣れるのは彼らが散乱のために岸へ近づく冬季のみだという。秋が釣り頃、食べ頃のマハゼに遅れてシーズンがやってくるわけだ。
というわけでやってきたのは有明海。ワラスボとかムツゴロウとか、変な魚がいっぱいいる変な海だ。
というわけでやってきたのは有明海。ワラスボとかムツゴロウとか、変な魚がいっぱいいる変な海だ。
有明海では「もぐり」と呼ばれる特殊な潜水漁でタイラギなどが採られてきた。ほかにもムツかけやスボかきなど面白い伝統漁法がいくつもある。環境が特殊だと、そこに住む生物も彼らを獲る漁法も、自ずと特殊なものになるようだ。
有明海では「もぐり」と呼ばれる特殊な潜水漁でタイラギなどが採られてきた。ほかにもムツかけやスボかきなど面白い伝統漁法がいくつもある。環境が特殊だと、そこに住む生物も彼らを獲る漁法も、自ずと特殊なものになるようだ。
だが、具体的にどこでどうやって釣ればいいか見当がつかない。
悩んでいると、福岡に住む魚好きの友人がハゼクチ釣りを得意としていることが判明。案内してもらえることになった。
ハゼクチ釣りを案内してくれた小宮くん。当時高校生だが地元では「福岡のさかなクン」と呼ばれる有名人。現在は福岡県柳川市のやながわ有明海水族館の館長さん。
ハゼクチ釣りを案内してくれた小宮くん。当時高校生だが地元では「福岡のさかなクン」と呼ばれる有名人。現在は福岡県柳川市のやながわ有明海水族館の館長さん。
実は彼、小宮春平くんといって福岡では「九州のさかなクン」と呼ばれている有名人である。その異名に違わず、待ち合わせ場所に行くとすでに先乗りしてスズキを釣ってニコニコしていた。魚好きすぎだろう。
有明海での魚釣りでは潮の満ち引きに注意を払う必要がある。潮の干満差が日本一激しく、干潮時には船が陸に取り残されるほど。タイミングを誤ると水が数十メートル先まで干上がって、物理的に釣りにならないこともあるのだ。
有明海での魚釣りでは潮の満ち引きに注意を払う必要がある。潮の干満差が日本一激しく、干潮時には船が陸に取り残されるほど。タイミングを誤ると水が数十メートル先まで干上がって、物理的に釣りにならないこともあるのだ。
小宮くんの案内してくれた漁港で釣りを始める。エサはゴカイで、仕掛けや釣り竿は適当。
仕掛けを投げ込んで数十分経つが、反応は無い。
あれ?エサ外れちゃったかな?確認しようと仕掛けを回収すると…!
おー!釣れてた!これがハゼクチか~。
おー!釣れてた!これがハゼクチか~。
なんと、なんのアタリも魚らしい引きも感じなかったが、既に針にかかっていた。
獲物の姿は図鑑で見たハゼクチそのもの。
マハゼによく似ているが、もう少しスレンダーで尾ビレが大きい。
しかし、こんなにあっけなく釣れるとは!
確かに立派!マハゼだったら刺身にできる特大級だ。
確かに立派!マハゼだったら刺身にできる特大級だ。
小宮くんが言うには「いつの間にか釣れてるのがハゼクチという魚」らしい。針にかかってもあまり暴れないおっとりとした性格のハゼなのだ。
その後も…
その後も…
その後もコンスタントにハゼクチは釣れ続ける。かなり数は多い魚らしい。
次々に…
次々に…
次々に釣れるが…。
次々に釣れるが…。
しかし、釣れるのはせいぜい30センチをちょっと超える程度のものばかり。
十分大きいが、マハゼの中にもこれくらいに成長するものはいる。
せっかくなら40センチとか50センチとかのハゼ界の超弩級サイズを拝んでみたい。
「マハゼだったらすごく大きい」「マハゼでもまああり得る大きさ」までのサイズしか釣れない。
「マハゼだったらすごく大きい」「マハゼでもまああり得る大きさ」までのサイズしか釣れない。
諦めきれず、小宮くんの教えを参考に、翌年の冬も実家への帰省ついでに有明海へ通った。しかし、やはり極端に大きなものは現れなかった。
どうやら、僕らが捜索しているエリアには小型~中型のハゼクチばかりが集まるようで、地元の人に訊ねても、大型個体を見たという情報は出てこなかった。
こうなったら大物が集まりやすいポイントをどうにか探さなければ…!

ついに大物が!

…ある時、そういえば父親が有明海沿いの出身だったことを思い出し、何の気なしにハゼクチの話を振ってみると「あー、ハゼ?地元でいっぱい採れよったぞ。ハシクイって呼ぶ人もおったなあ。ふとかとは(大きなものは)50センチくらいあったとじゃなかかな。」という返事が。
え。超身近なところから超有力な情報が。
さっそく、父親の故郷へ出向いて釣竿を伸ばす。と、早々にグニグニッと竿先が鈍く動いた。
ようやくハゼクチらしい大物が!マハゼではまず考えられないサイズだ。でもなんか細長いな~。
ようやくハゼクチらしい大物が!マハゼではまず考えられないサイズだ。でもなんか細長いな~。
リールを巻くと、ガクンガクンという確かな手応え。今までのやつとはちょっと違うかも!
数十秒後、勢いよく鈍色の水面から飛び出したのはアホみたいに大きいハゼだった。
長さは40センチ近くある。身体は細いがすごい迫力!
「これで天ぷら作ったら食べ応えありそうだなー」などと思っているともう一本の竿も穂先が曲がっているのに気づいた。
こっちはさらに長い!ただし、異常なほどやせ細っている。これは産卵を終えた満身創痍の個体で、「流れハゼ」「流れハシクイ」と通称される。
こっちはさらに長い!ただし、異常なほどやせ細っている。これは産卵を終えた満身創痍の個体で、「流れハゼ」「流れハシクイ」と通称される。
今度はなんと40センチを超えるハゼクチ!ただし、かわいそうなくらい痩せ細っていて、ひどく貧弱な印象。どうやら産卵を終えて消耗しきった個体らしい。
ペットボトルと比較するとこの迫力!…頭以外はほっそいけど。
ペットボトルと比較するとこの迫力!…頭以外はほっそいけど。
父の話だと、こういうハゼクチを現地では「流れハゼ」とか「流れハシクイ」と呼ぶらしく、特に大型個体にはこういう体型のものが多いそうだ。
ちなみに、ハゼクチの一生は一年サイクルで、卵を産んで痩せ細った親魚たちは間も無くその生涯に幕を降ろすのだという。
なるほど。では海の藻屑と化す前に、見事に子孫を残し生をまっとうした彼らに敬意を表しつつ、おいしく食べさせていいただこう。
長さ40センチ以上。まな板からはみ出すハゼが有明海にはいるのだ。
長さ40センチ以上。まな板からはみ出すハゼが有明海にはいるのだ。
頭もデカいが、特に口がデカい!親指なんて余裕で入っちゃう。
頭もデカいが、特に口がデカい!親指なんて余裕で入っちゃう。
口の中には意外と立派な歯が並んでいる。これに加えて顎の力も強く…
口の中には意外と立派な歯が並んでいる。これに加えて顎の力も強く…
下顎を掴んで持ち上げたらがっつり指を噛まれて血が滲んだ。痛かった。
下顎を掴んで持ち上げたらがっつり指を噛まれて血が滲んだ。痛かった。
お腹側。左右の腹ビレが合体して吸盤を作っているのがハゼの仲間の特徴。これで岩や海草にペタリと張り付くことができる。
お腹側。左右の腹ビレが合体して吸盤を作っているのがハゼの仲間の特徴。これで岩や海草にペタリと張り付くことができる。
よーし!この調子でバシバシ特大サイズ釣りまくるぞ!と意気込む。
が、その後はひとまわり小さな個体を釣り上げたきり、海はパッタリと沈黙を決め込んでしまった。エサを食べる時合がものすごくハッキリしている魚らしい。
だが、これだけ釣れれば十分!さあ、食べよう食べよう!

ハゼクチ、美味し!

こうして遂に巨大ハゼ天にふさわしい立派なハゼクチを入手できた。
では、さっそく調理しよう。試食しよう!
背開きにしたハゼクチ。構造や肉の色などはほぼマハゼだが…。
背開きにしたハゼクチ。構造や肉の色などはほぼマハゼだが…。
捌き方はマハゼに準ずるが、スケールが絶妙にデカいので戸惑いと感激が入り混じった高揚感に襲われる。
圧倒的なボリューム。というか長さ。脂がよく乗っていて、撮影後は腕と手がヌメッヌメになった。※熱で身が傷むのでこういう持ち方はやめよう。ヌメッヌメになるし。
圧倒的なボリューム。というか長さ。脂がよく乗っていて、撮影後は腕と手がヌメッヌメになった。※熱で身が傷むのでこういう持ち方はやめよう。ヌメッヌメになるし。
兎にも角にもまずは天ぷら!ということで油も温め、さあ揚げるぞというところでトラブル発生!
兎にも角にもまずは天ぷら!ということで油も温め、さあ揚げるぞというところでトラブル発生!
デカすぎて揚げ物鍋に全然収まらない!結局大きめのフライパンで揚げることになった。
デカすぎて揚げ物鍋に全然収まらない!結局大きめのフライパンで揚げることになった。
巨大ハゼ天ことハゼクチの天ぷら。大きさを大葉やシシトウと比較してみてほしい。
巨大ハゼ天ことハゼクチの天ぷら。大きさを大葉やシシトウと比較してみてほしい。
用意した揚げ物鍋に入りきらないなどのトラブルを乗り越えつつ完成した巨大ハゼ、ハゼクチの天ぷらは、いまさらながらハゼとは思えぬ迫力。アジフライよりずっと大きいんだもん。
せっかくだから刺身も造ろう!というわけで三枚におろして皮を剥く。
せっかくだから刺身も造ろう!というわけで三枚におろして皮を剥く。
さて、天ぷらだけでも満腹になれそうだが、せっかく大物が手に入ったのだから刺身にもしたい。ついでに煮付けも作ってみよう。ハゼクチ尽くしだ。
骨はとげ抜きで取り除き、薄造りにしていく。
骨はとげ抜きで取り除き、薄造りにしていく。
ハゼクチの刺身。身は透明感があってとてもおいしそう。
ハゼクチの刺身。身は透明感があってとてもおいしそう。
ハゼクチの姿煮。「ハゼを箸でむしって食べる」という貴重な経験ができた。
ハゼクチの姿煮。「ハゼを箸でむしって食べる」という貴重な経験ができた。
魚体の大きさに対してほほ肉のボリュームがすごい!魚のほほ肉といえば顎を動かす筋肉。こりゃ噛まれれば痛いわけだ。
魚体の大きさに対してほほ肉のボリュームがすごい!魚のほほ肉といえば顎を動かす筋肉。こりゃ噛まれれば痛いわけだ。
ハゼクチ、いただきます!でっけぇー!
ハゼクチ、いただきます!でっけぇー!
うまい!
うまい!
まず刺身を食べて驚いたのが、甘みと旨みの強さ。痩せぎすの死にかけとは思えないほど脂が乗っていて上品な甘みが舌の上に広がる。てっきり「図体デカい分、大味なんだろうな」と思っていたがマハゼに負けない奥行きのある旨みも感じられる。しかも、それをたった一枚だけで存分に楽しめる。素材がこれだけ良いのだから当然、天ぷらも煮付けも抜群のおいしさ。そして圧巻のボリューム。
これは…この冬もまた釣りに行かねば!!二月いっぱいくらいまでは、まだまだチャンスがあるはずだ。

「日本最大のハゼ」はもう一種いる

ハゼクチは文句なしに美味い魚だったが、実はもう一種類「日本最大のハゼ」の称号を持っている魚がいる。
日本では南西諸島に生息するホシマダラハゼというハゼである。体長では多少ハゼクチに劣るとされるが、こちらは体型がビール瓶のように太く、体重で比較するとハゼクチよりもはるかに重くなる。レッドリストに載っているので自粛しているが、いつかこちらも食べてみたいなあ。
日本最大(体重部門で)のハゼ、ホシマダラハゼ。いつかハゼクチと食べ比べてみたいものだ。
日本最大(体重部門で)のハゼ、ホシマダラハゼ。いつかハゼクチと食べ比べてみたいものだ。
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