コタツ情報を追いかけて
「コタツが出た!」「コタツを見た!」というUMAみたいな目撃情報は、つい5ヶ月前に当サイトで私が取材した、高松琴平電気鉄道(「ことでん」)・高松築港駅でのことである。駅ナカにしゃれた屋台があって、旨いビールを何とグラスで飲めて、ビールに合うおつまみもいただける。悔しいくらい素敵なところだった。
その記事がこちら:
ホームでパブ飲みできる駅に、ついに行ってきた
駅ナカ(というよりホーム横っちょだ)で旨いビールを飲めることだけでも口福眼福に尽きるのに、その上、コタツだって?えぇ??(うらやましいと、人は怒号に近いものを発するのだ)
これは行きたい。コタツがしまわれる前に!
というわけでサンライズ瀬戸に飛び乗り、瀬戸内海で朝日を拝みながら高松へ入る。
ところでなぜいきなり寝台列車サンライズに乗ったかというと、この日(2月19日)の前後は当方の都合がギリギリで、寝台列車で往復せねばコタツに滑り込めないと判断したためだ。
もっと言えば、そのパブ「Beer Pub Station」の店主・小林さんに「いつまでコタツ、出してますか?」と尋ねたところ「2月中は確実。希望の日にちがあればその日まで延長します」とのこと。コタツしまう日がここ東京からリモート操作可ですと!しかしこれは恐縮、とあわててアポイントを取ったのだ。
東京から遥か香川のコタツへ、まさに滑り込む旅になったのである。
夕刻のパブオープンまで時間がたっぷりあるので、ことでんで仏生山温泉行ってきますイェーイ。
ちなみにオープン前のパブの様子はこうである。駅ナカに、何事かと思うような設備が。しかも前回よりいろいろ増えている。
秋までは左半分だけでも「いったい何が始まるんです?」状態だったが、右半分のいかにもアレっぽいものが異様な静けさを醸し出している。
コタツパブ、オープン
温泉を堪能し、夕闇迫る高松築港駅に戻ると、パブも開店。すでに2名、コタツにあたってお待ちである。
さあ、下の写真をご覧ください。広角で撮られた全体図はこれからほぼ出てこないので、この違和感をさあ、あなたの脳裏に。
パブ屋台部分はしゃれた腰高なチェアやテーブル。右に目をやれば、見まごうことなき、コタツだ。
このお2人には、昨年もお世話になりました。駅の近所でアイリッシュパブ「THE CRAIC」を営み、こちらのパブ店主でもある小林さん(左)と、ことでんの真鍋社長(右)であります。
さあパブらしい夜になろうとしております。この写真だけでも、わくわくしますわね。
視界の端にコタツを捉えてはいるが、すぐに入ってはこの行程がもったいない気がする。じっくり外枠から攻めていきたい(何をだ)。まずはスタンドで、軽く飲ませていただく。
ここでも椅子に根が生えそうになるが、コタツのことも気になってしょうがない私。
さすがことでん。社長は最近まで、コタツがホームに出現したことを知らなかったそうだ。小林店主の独断である。先取の気質に富みすぎてないか、ことでん。しびれます。
さてそのコタツに、社長ともども初めて入らせていただきます。このために、トウキョウからやってきました。
スタンドで飲んでいた常連さん、途中から加わったホテル支配人さんらと。まさにパブ(パブリック)、しかも in コタツ。
前回来たときも土地の方と交流したものだが、今回はその交流ぶりもコタツで一段とパワーアップしている。なんてったって同じコタツに足を入れて飲んでいるのである。親近感の加速度が違う気がする。
違う角度から言えば、「何だこの状況は」ではある。
そういえばこのコタツ、ちゃんと暖かい!通電してある!
熱が逃げないよう、また汚れ防止にとビニール掛けが。
なぜコタツを出しちゃったかと言えば、四国といえども冬はやはり寒く、まず「おでんをパブで出したい」と小林さんは考えたそうだ。そして「おでんといえばコタツ」という真っ直ぐな思考により、ここに駅ナカコタツパブというものが誕生したのだ。
ちなみにこのコタツ、小林さんが家で1人コタツを楽しもうと、しれっと買ったものだそうだが、スペースを食うので奥さんからコタツ排除令が出され、よってここに持ってきた、とのこと。本当はそれが主な理由なんじゃないか。
「通りかかるお客さんからの視線が冷ややかなのが、またいいですね」とは、社長にあるまじき発言。
その後「お客さんだけでなく、ことでん社員からの視線も冷ややかなんじゃないか」と皆に突っ込まれていた。その真面目に働く社員さんを遠目に見つつ飲む。
冷ややか、というより。駅の中でコタツに入って酒を飲む人たちを見て、普通どんな顔をすればいいというのだろうか。
自分が通勤客とかだったら、これを見てうらやましいと思う反面、コタツは一層ジョインしづらそうである。でも聞くと、相席でも入る人はけっこう入ってくるそうだ。そしてコタツ利用者の年齢層は結構高め、だとか。あー、私確かにコタツにすっかりなじんでますわ。
そういえば実家はともかく、自分の家にコタツって、最近ない感覚ですね…と皆で改めて思う。小林さんがたまに自分用に買ってみたくなった気持ちもわかる。
やがて、冷ややかというより意外と寒い香川の夜に、上半身と下半身の温度差は徐々に開きつつあった。さあ、ここで温かいものをお腹に入れようじゃないか。
話題は広がる 人はダメになっていく
宴会とコタツと自動改札の見切れる駅構内の風景、何て素敵なんでしょう。
繰り返すがこんな場所で飲んでます。リマインダとしてたまにこういう広角写真を挟まないと、この奇妙さが伝わらない。
さあ、コタツ導入のきっかけとなった、おでんをいただこう。パブでおでんというのもよく考えたらなかなかの違和メニューである。
ギネスビールに合うアイリッシュなメニューにも、ベーコンとポテトの煮込みなどおでん風のものはあるそう。だがお客さんからの要望には「(会社帰り=)おでん」というものが多かったらしく、「いろいろと実験をさせてくれる場なんですよ」(小林さん)とは、つくづく ことでん らしい話である。
かねてからご用意いただいた、見るからに味のよく滲みた逸品。
上半身の冷えを補うかのように、食い入るように見つめる人々。
18時過ぎから今まで2時間あまり、コタツで温まってるとはいえ、上着を着ていても体は冷えてきた。温かい食べ物が身に滲みることこのうえない。
店長の心づくしの特別スープ。
っくー、滲みるぜ。
調子が乗ってきたところで、「しあわせさん こんぴらさん」ラッピング電車が到着、やった、しあわせが来た!
前回いただいたスモークナッツが美味しかった、と申したらば、本店からスモーク品をあれこれお持ちいただいた。早速しあわせが来た!
ビールとコタツの力だろうか、皆の口が滑らかに回りだす。ここにテレビ置いたらどうすか。相撲見たいな。それじゃもうここから動かないよ。じゃ麻雀は?いやUNOがいいな。ジェンガ置こうぜ。ムエタイ見ながらとか、いいなー。
話の運びが、家飲みか、ってくらいヌクヌク、ダラダラしてきた。
おかわりも、ここではことでんのICカード「IruCa(イルカ)」で支払い可能なのだが、ついにチャージ自体をマスターに頼む人が出てきた。すぐそこのチャージ機に行くにも、コタツからもう出たくないってわけですよ。
素晴らしき世界。
「限定1日1組とかいいんじゃない」「俺カップ酒売って欲しいんだよね」「じゃやっぱおでんだ」
そんなダラついた場に、さっそうと外国の方が!そして相席になった!皆で少しづつ移動して席を空ける。
彼は隣の町で英語の先生をしているそうだ。さあ、このあと話はどんな流れになるのかな~と思っていたら…
「おっと、僕この電車に乗る予定だったんですよ」と、今着いた電車を見て今来たビールをぐいーっと流し込み、さっそうと乗り込んで行ってしまった。いろいろな意味ですごい力量である。本場の作法を垣間見た思いだ。一陣の風がさわやかに吹き去った。
自分がコタツに入ってたこと果たして認識してただろうか、って速さ。
その後も、寝台列車の発車時刻になるまで、自分ちのような宴は続いた。最後には格段に話がくだらなくなってきて、手元のメモの最後には「ビールって、乾くとニチャニチャするね」と書かれていた。それはそうだろう。メモるなよ。単に私自身がグダグダなだけだったかもしれない。
コタツのおかげで、話に花が咲いていったわけだが、同時にコタツは人をダメにするものと相場は決まっている。
ここを、愛を込めて「人をダメにする、夢の駅ナカ」と名付けたい。
前回記事終わりの謎のポーズを再び。ありがとうございました社長。
外は寒いのに、内では暖かくして飲むのは非常に愉快だ。雪国のかまくらとか博多の屋台とか、まさに外気に直面している場所ならなおのこと。
コタツで飲むそういう場所もぜひ、全国で増えていって欲しい。
そうだ、残念ながらここではもうコタツはしまってあると思います。
ここに滑り込みたい方は来年までお待ちください、という壮大な告知をしておきます。
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Beer Pub Station
営業時間
水曜~土曜 17時から21時
日曜 15時から20時
定休日
月、火
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ことでん(高松琴平電気鉄道)Webサイト
http://www.kotoden.co.jp/
撮影ご協力:ムレ マサフミさん