同好の士をふやしたい
そんなゆるいオフ会を企画したのはライターの井上マサキさん。
路線図好きの井上さん
実は、このオフ会の参加メンバーは、井上さんとぼく以外は「ちょっと興味があるかも」といった程度の人たちであった。
路線図マニアというのは鉄道マニア界においてもかなり希少だと思う。ぼくも、いち路線図好きとして、それは自覚しているつもりだけど、やはり同好の士というものはふえて欲しい。
このオフ会に参加してくれた人たちが「ちょっと興味あるかも」から「路線図っておもしろいな」ぐらいになってくれれば御の字だ。
まずは駅の路線図をながめてみましょうか
まずは駅にある路線図をみんなでながめてみたい。
運賃表の路線図
今いる駅から、目的の駅までの運賃を調べるための「運賃表」駅の券売機の上には必ずある路線図の一種だ。
これもよく観察すると面白いんです
井上さん「この運賃表、よく考えるとその駅その駅で内容が違っているわけで、一点もののはずなんですよね、私がとくに面白いなって思うのが中央線や南武線のところですね」
大胆に曲がっている
井上さん「ありえないほどに曲がっているでしょう。これ、横幅に収めようと思ってデザイナーが頑張ったんでしょうね……いいですねぇ」
たしかに、中央線、ひん曲がりすぎてて面白い。南武線も一緒にひん曲がってて、なんだかうまいこと折りたたまれた感じがする。
井上さん「これだけ曲がってたら地理的には不正確ですけど、あくまでこれは運賃を確認するためのものですから、形は正確じゃなくてもいいんです。ただ、いくら正確じゃなくてもいいといっても、あまりに違うとわかりにくい、そのへんのバランス感覚は必要ですよね」
たしかに、路線が適当でもいいのであれば、もっとコンパクトにできるかもしれないけれど、おおまかな形は崩さないように描かれている。
井上さん「東京湾なんかもギリギリでちゃんと入ってて面白いですよね」
ギリギリのところで形を保つ東京湾
そもそも、山手線が丸いのも形としては不正確だ。山手線って地図で見ると米粒みたいな形をしていてぜんぜん丸くない。
そういう意味では東京駅の運賃路線図の方が地図に正確かもしれない。
東京駅丸の内南口の運賃路線図は山手線がちょっと楕円
東京駅の運賃路線図は、左右に余裕があるためか、中央線や南武線が無理矢理な折り曲げ方をしていない。
ちなみに中央線でぐっと西にむかって西立川のあたりだとこんな感じ。
山手線が丸い!
山手線が丸いのはいいとして、東京湾の描き方がちょっと違っている。中央線の折り曲げ方も渋谷とは違って、若干の余裕がある。
西日暮里のは上下が潰れている
運賃路線図は、おそらく、駅ごとに設置できるスペースが違うので、パターンがいくつかあるのかもしれない。
色が書いてある路線図が必ずある地下鉄路線図
続いてやってきたのは地下鉄の切符売り場。
メトロの切符売り場の工夫を解説
井上さん「メトロの切符売り場にはかならずある工夫がしてあるんです」と教えてくれたのはこれ。
何のためにある路線図か
切符売り場の横に必ずあるこのふたつの路線図。実は色覚障害のある人のための路線図と外国人観光客のための路線図が必ず掲示してあるのだ。
上の路線図を見てみると、確かに色覚障害の人が認識しづらい路線にはうっすら縞模様が施してあったり、路線名の横に色名がちゃんとふってあったりする。
うっすら縞模様がみえる
東西線は「スカイ」で有楽町線はゴールドだったのか……
「地下鉄路線図は色分けがしてあって便利だなー」と単純に思っていたけれど、それだけではわかりづらい人たちもいたのだということを、この路線図は教えてくれるのだ。
その辺にある路線図でも、じっくり眺めると、けっこういろんな発見があったり、感想がわいて出てくるものだ。
場所を移していいねぇーというだけの路線図鑑賞会
さて、カラオケボックス・ルームに場所を移し、路線図を鑑賞してみたい。
井上さんが持ってきた路線図のデータや、路線図パンフレットを、参加メンバー全員で鑑賞したい。
最近のカラオケボックスはパソコンのデータをテレビに出力できるんですな
井上さん「路線図を語る上でこれは外せないですね」とまず見せてくれたのがロンドン地下鉄の路線図だ。
ロンドン地下鉄路線図がすべてのはじまり
井上さん「現在のようなデザイン化された路線図はもともとロンドンの地下鉄路線図で使われはじめたのが最初だったんですが、ロンドンの地下鉄路線図も昔は地図に地下鉄路線を書き込んだだけの、ちょっとわかりづらいものだったんです」
なんかちょっとわかりづらい
井上さん「そこに電気技師のハリー・ベックという方が、電気回路の回路図をヒントに、簡略化した路線図をオリジナルで作ったんです、で、それがオフィシャルでも使われはじめて広まったのが地下鉄路線図の始まりなんですよ、だから、いまでもロンドン地下鉄の路線図にはハリー・ベックさんの名前が載ってるんです」
Harry Beckの名前が載っている
まさに、今の地下鉄路線図やバス路線図のデザイン化された路線図のルーツはロンドン地下鉄路線図にあるのだ。
やっぱり色がグワーッとなってるところがいい
やはりどの路線図が好きなもの同士が集まると、ついつい「どの路線図が好き?」といった話題で盛り上がってしまう。
やはり、見応えあるのは複数の路線がグワーッと集まってるところの路線図のあのカオスな、タコ足配線したようなそんな路線図に心惹かれてしまう。例えば、都営浅草線と京成線の乗り入れてるところとか……。
井上さん「ありますよー」
――あるんですかー。
これこれ、青砥のあたりとかたまらないですよね
井上さん「たしかに、これはすごいですね。でも、上野東京ラインができてからのJRの路線図もけっこうスゴイことになっていますよ」
――そうですか?
上野東京ライン開通でさらにややこしくなった
上野と東京がつながって、東海道線と宇都宮線や常磐線などがつながるようになったので、列車の種類が増えた分、路線図はカラフルになったのだ。
ゴチャっとしててかっこいい
たしかにこれはゴチャっとしていてかっこいい。
わかりやすい、わかりにくいは二の次でいい、純粋に路線図中二心をくすぐってくれるという意味では素晴らしい。
東海道線利用者から「寝過ごしたら宇都宮に行く可能性があってこわい」みたいな意見も聞くけれど、路線図がかっこよくなったからいいじゃないか、と思う。
バス路線図はもっとゴチャゴチャしていてかっこいい
もっとゴチャゴチャしているといえば、バス路線図もおさえておきたい。京都の市バス路線図だ。
うへー
……。
京都の市バスは、乗ってしまえばそんなにややこしいわけではないけれど、路線図の見た目は、ふつうのひとだと身構えてしまうかもしれない。
ちょうどよい路線図はワシントンメトロ
いままでゴチャっとしてる路線図ばかり紹介してきたけれど、たしかにロンドンやパリ、ニューヨークといった都市の地下鉄はちょっと多すぎという意見もわかる。
そこでぼくがおすすめしたいのがワシントンメトロだ。
スッキリしててかっこいい
中心部から郊外へ放射状に伸びる路線網。似てる色が少ないラインカラー。こぎれいにまとまっていてかわいい。
モスクワ地下鉄も捨てがたいけれど、ワシントンメトロのほうが若干スッキリしている。
インベーダーみたいなモスクワの地下鉄路線図
井上さん「モスクワの地下鉄は防空壕としても使えるように作ったので地下深くて、ソ連が国力を示すために作った
内装がゴージャスなんですよ。内装がゴージャスといえば、大阪の心斎橋駅なんかも立派だけど、モスクワの地下鉄は、国力を示すため国をあげて作ったから気合が違うんです」
スゴイんですよ内装が
へぇー
「いいねぇー」しか言わないオフ会
世界にはいろんな路線図があって本当にたのしい。
ぼくと井上さんの路線図話を、やさしく聞いてくれた他の参加メンバーにお礼を申し上げたい。
「ちょっと興味あるかも?」から「路線図っておもしろい」ぐらいにはなってくれたものと信じたい。