勝手に汚名返上
イギリスの団体とは、その名も「醜い生き物を守る会」だ。そんな団体の選出した、世界で最も醜い生き物。さぞや醜かろう、と画像検索すれば、こんなのが出てきた。うひゃあ。
でろーん。でんでろりーん。
醜い、というかおもしろくなっている。重力に逆らうことなど一度も考えたことないです、って顔だ。これが「ニュウドウカジカ」だ。ネットを見ながら一生懸命模写した。あとは各自画像検索してください。
このコンテストの主旨は、「世の中、かわいいいきものにスポットが当たりがちだが、醜い絶滅危惧種にももっと目を向けてよ」というものだそうだ。
自分もふだん、「パンダは見た目がアレだから大人気だが、同じ仕草をウミサソリがやったとしたらどうか」など常に置き換えて考える性質なので、コンテストの主旨には賛成だ。しかしスポットライトが当たって、かえって気の毒なことになってないだろうか。何しろこの姿である。
ただし、どうもこれは陸に上げられたあとの姿のようで、海中にいると思われる姿や引き上げられた直後と思われる姿はこんな感じなのだ。
ころりん。
さっきの絵とだいぶ違う気がする。個体差なのか、時間経過の結果なのか。
深海底に棲み、ゼラチン質の多いぶよぶよした体で生活しているそうであるから、地上に引き上げられると相当形が変わってしまうのだろうか。しかも大きさも30cm前後ある。自重のせいもあるだろうか。
復元してみよう。
最初のイラストの雰囲気では確かに「世界一醜い」の称号を欲しいままにしているが、果たして元はそんなに醜いのかどうなのか。コロンとした姿が、時間が経つとデロンとしてしまっているだけなのか。それを実際に目の前で確かめてみたいと思う。だがどうやって。
スタイロフォームを芯にして、こんな形の型をまず作る。
つまり何をするかというと、「引き上げられる前と思われるニュウドウカジカの姿を立体で作成し、シリコーンで型を取り、そこにゼラチンを流し込んで、ただ鑑賞する」というものである。この忙しい時に、なぜこんなことになるのか。
電熱線でどんどん切り進めよう。
細かい部分は粘土で表現しよう。彼に細かい部分なんてあまりないわけだが。
全長30cmもの原型・・・は想像するだに恐ろしいので、20cmほどにしてみた。これなら自重も考慮できるボリュームになるのでは。まあそれでもデカイことはデカイ。
あまり調査の進んでない、しかも実際に見たことのない、その上いろいろな姿があってどれが本当の姿かわからない、そんなボンヤリとした魚の原型がこちらだ。
ボーン。
ボン。
自分の彫塑能力に限界が来たようなので、これで完成とさせていただきたい。
オタマジャクシっぽい、頭でっかちなフォルム。そして目と目を離れさせ、その間を高く隆起。つまりは内圧の高そうな感じになればいいわけである。こんなところか。
わからないことだらけ
このモッタリした、でかい原型。これを元に型をとるとなると、相当な量のシリコーンが必要になる。考えただけで今から憂鬱だ。
そんな創造主の困惑をよそに、静かにたたずむニュウちゃん。
少しでも材料を節約するための間取り。
外に材料が漏れ出ないよう、補修工事。
ウォール・ニュウドウ、建設完了。
大変なので、今回は1面からのみ型をとることにした。つまり、1度ここに注げばもう完成。両面からそれぞれ型どりしなくていい。
シリコーンは、1kgのものを念のため2つ買ってきたが、これで足りるのかどうかもわからない。
1kgは使い切るつもりで、容器にいきなり硬化剤を投入。気持ちいい。
よーく混ぜてドバー。
結局1.5kg分のシリコーンで埋めることができた。つまりこの型の重さは1.5kg・・・
業者か私は。
しかしこれも、「どうにもこうにも醜い」との烙印を押されてしまった彼を救うためなのだ。頼まれたわけではないけどそのためなのだ。
そう気持ちを奮い立たせ、硬化するまで8時間待った。
壁を取り除く。
オオカミの腹から赤ずきんちゃん助ける、的な。
エイリアンの巣から助け出す、的な。
あとで保管場所考えよう。
型もでかくなった。なんという重圧感。大きくて重い何かが、うちに増えたよ。精神的にはニュウドウカジカのようにグッタリである。
ともあれ、なんとか中身を取り出せた。中を洗って、いよいよゼラチン作業である。
せっかくのゼラチンなので、食べられる素材で作ろう。さてニュウドウカジカ色の飲料って何だ。
また、これだけの容量(量ったら500cc)にどれだけのゼラチンを使ったらいいか。固さもどう調節していこう。わからんことだらけだ、深海魚ってやつは。
乳酸菌飲料に、ゼラチン5g×9本でやってみる。
溶かすためのお湯に、限界までゼラチンを投入。固体寸前。
冷蔵庫で固める。1時間くらいか。
ガーン。
ちゃんと固まった、というか固すぎるくらい固まった。そして中で分離して、味噌汁か、文字通り煮こごりみたいになってしまった。内部の組成が透けて見えるようで、コワイヨー。
色と固さを見直して、またやってみよう。
果たして検証になっているか
今度はピンク色の肌で、もう少しやわらかめにして挑戦してみる。
牛乳に食紅で色付け。
冷蔵庫から出す。やわらかいので注意が必要だ。
せーの、パカッ、でろん。
なんとかダメージ少なく取り出せた。あとは少々お化粧を施してやるのだ。
クチビルとかヒレの先をピンクにしてあげるか。
目のところをくり抜いて、麦チョコでも嵌めてみるか。
ボクハ シンカイカラ ヤッテキマシタ。
?
この姿はどこに行ってしまったのか。というか果たしてこのゼラチン製カジカは正解なのか。割とそのへんどうでも良くなるほど、なんかかわいいのができた。
いや、これは女子だ。ブヨカワ女子だ。
彼氏がゲームやり終わるのを横で待ってる、ちょっと拗ね気味の女子。
きれいなピンク色なのでつい要らぬ想像をしてしまったが、ピンク色にしたのはそもそも自分だった。
こんなにかわいくていいのだろうか。肩入れしすぎた感もあるが、ニュウドウカジカ、醜い一面もあるが違う一面もあるかも、ってことは提唱できたような気がしないでもない。
型の減価償却の日は来るか
今後もイベントなどの際にニュウドウカジカを作り続けねば、元はとれまい。それっていつだ。いつまでだ。