特集 2014年2月15日

辛い日本酒は無い!日本酒はみんな甘いんだ! ~日本酒講座開催の記録~

講義と体験試飲の2部構成。
講義と体験試飲の2部構成。
先日、依頼を受けて日本酒講座の講師をやりました。飲み会の席に呼ばれてその場のノリで何か話すみたいなものではなく、受講者から受講料を貰って行う本気の講座です。

日本酒をメインにした店はやっていますが、先生と呼ばれるような事は特にしていません。デイリーのイベントでスライドショーをするのとも違います。

さあ、どうなる!
1972年生まれ。元機械設計屋の工業製造業系ライター。普段は工業、製造業関係、テクノロジー全般の記事を多く書いています。元プロボクサーでウルトラマラソンを走ります。日本酒利き酒師の資格があり、ライター以外に日本酒と発酵食品をメインにした飲み屋も経営しているので、体力実践系、各種料理、日本酒関係の記事も多く書いています。(動画インタビュー

前の記事:ネパールの人が飲む命の水の作り方

> 個人サイト 酒と醸し料理 BY 工業製造業系ライター 馬場吉成 website

開場は池袋の自習スペース

今回の日本酒講座の会場は池袋にある会員制自習スペース「勉強カフェ」。
南池袋の奥の静かなエリア。ビルの2階にあります。飲食店で言うなら隠れ家的な店。勉強スペースだからこれでいいのか。
南池袋の奥の静かなエリア。ビルの2階にあります。飲食店で言うなら隠れ家的な店。勉強スペースだからこれでいいのか。
会員制自習スペースと聞いていたので、行く前は壁と個室ばかりの無機質な場所を想像していたのですが、開放的で明るい感じでした。
勉強部屋というイメージではない。
勉強部屋というイメージではない。
こちらの勉強カフェでは各種勉強会やサークル活動なども行われているそうで、今回の日本酒講座は会員の方が企画。その会員の方が私の店に来ていた事もあり、講師役として私の所に依頼が来たというわけです。
池袋スタジオマネジャーの橋本さん。お酒は好きだが弱いのであまり飲めないとのこと。美味しい物をちょっとだけ。
池袋スタジオマネジャーの橋本さん。お酒は好きだが弱いのであまり飲めないとのこと。美味しい物をちょっとだけ。

一応講師の経験はある

さて、こんな経緯で日本酒講座の講師をやることになったのですが、当方ただの飲み屋のオッサン。何をどう講義していいのやら。
4年近く前。家庭科の先生50人ぐらいを前に弁当作りについて講演。ただの弁当作り好きの素人のオッサンがプロに向かって講演するという恐ろしい講師体験だった。
4年近く前。家庭科の先生50人ぐらいを前に弁当作りについて講演。ただの弁当作り好きの素人のオッサンがプロに向かって講演するという恐ろしい講師体験だった。
一応講演の講師役というのは経験したことがあります。私が話している間に蚊が死ぬと言われるぐらい話すのは好きな方です。
1度ばかりか2度も講演依頼を受けて福島まで行って弁当作りについて講演。恐ろしく楽しい体験だった。講演依頼を頂いた菅野先生はお元気だろうか?
1度ばかりか2度も講演依頼を受けて福島まで行って弁当作りについて講演。恐ろしく楽しい体験だった。講演依頼を頂いた菅野先生はお元気だろうか?
それが災いして講演内容が盛りだくさん過ぎてもマズイ。今回は日本酒初心者に向けての基礎講座をお願いされたので、内容は極力絞っていかねばなりません。
資料作成に焦り、この一言で片づけてしまい後はアドリブで行こうかと、一番やってはいけない方向に走りそうになった。
資料作成に焦り、この一言で片づけてしまい後はアドリブで行こうかと、一番やってはいけない方向に走りそうになった。
最終的に企画者、勉強カフェのスタッフの方との打ち合わせの上、以下のような内容について講義、体験を行う事に決まりました。

私のスライドは真っ黒(文字ばかり)と言われる。スイマセン、気の利いたイラストでも書ければいいのですが工学出身なもんで図面書くのが限界です。
私のスライドは真っ黒(文字ばかり)と言われる。スイマセン、気の利いたイラストでも書ければいいのですが工学出身なもんで図面書くのが限界です。
まずは日本酒の製法について簡単に解説。続いて他の酒類との違いを話します。つづいて日本酒を選ぶ際の助けとなるラベルの見方や用語の解説。ここまでが前半の座学。

後半は実際に試飲体験。「好きな日本酒は?」と聞かれて「辛口の日本酒」と答える方は多くいますが、辛口とはどういう物なのかを体験を元に説明していきます。

休憩を挟んで約2時間の講座となりました。
勉強カフェの講座の中でも異例の速さで定員に達したそうです。日本酒への関心が高まっているのか。ありがとうございます。
勉強カフェの講座の中でも異例の速さで定員に達したそうです。日本酒への関心が高まっているのか。ありがとうございます。
ありがたいことに講座は2週間ほどで定員に達してキャンセル待ちが出る状況でした。日本酒への関心の高まりか?

なにはともあれ講座開講です。
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女性参加率が高い

まずは前半の座学。
店に立つ時と同じ格好で講義。
店に立つ時と同じ格好で講義。
講座の定員は16名で、内10名が女性でした。年齢層は20代から40代前半。若い人の方が多かったでしょうか。

参加者の多くの方は、最近日本酒に興味を持ち始め、まずは日本酒の基本的な事を知りたいという感じでした。

日本酒の製造工程をザックリと説明。日本酒は平行復発酵という高度な技術で作られているのです。黒い資料でスイマセン。
日本酒の製造工程をザックリと説明。日本酒は平行復発酵という高度な技術で作られているのです。黒い資料でスイマセン。
まずは日本酒の原料や製造方法についての解説です。上のような図を用いて解説。実際の製法はもっと細かく色々あるものの、その部分まで話し始めるとそれだけで軽く2時間は行ってしまうので簡略化。後半の用語解説に関わる部分など最低限の情報にとどめます。
日本酒のラベルにはこんな事が書かれています。これは必ず書かなければいけない内容。ゴチャゴチャしていて申し訳ない。ちなみにラベルは島根県の天穏という日本酒。燗映えするいい酒です。
日本酒のラベルにはこんな事が書かれています。これは必ず書かなければいけない内容。ゴチャゴチャしていて申し訳ない。ちなみにラベルは島根県の天穏という日本酒。燗映えするいい酒です。
続いて他の酒類との原料や発酵過程の違いなどをザックリ解説してラベルについての解説。どんな項目が書かれているかを説明していきます。
ちなみに、この基準に入らないが「米だけの酒」のように特定名称の「純米酒」と類似するような用語を使う場合は8ポイント以上の文字で該当しない事を書かないといけません。
ちなみに、この基準に入らないが「米だけの酒」のように特定名称の「純米酒」と類似するような用語を使う場合は8ポイント以上の文字で該当しない事を書かないといけません。
店をやっていて特に聞かれることが多い純米酒、吟醸酒、特別純米酒など「特定名称酒」と言われるものの分類については表を使って解説します。

本当は、各分類の日本酒についての大まかな味の特徴も解説しようかと思いましたが、これもその部分だけで講義時間全部を使いそうなので分類の基準の話だけで終わる。

皆さん真剣にメモを取りながら講座を受講。もう少ししたら試飲があるのでこのまま講義をお聞きください。
皆さん真剣にメモを取りながら講座を受講。もう少ししたら試飲があるのでこのまま講義をお聞きください。

ザックリとした特徴だけ知っておけばなんとかなる

言葉が多くて分かりづらい日本酒ですが、ラベルに書かれている日本酒選びの助けになるキーワードに限ればそれほど多くないので、続いてはそれを中心に解説していきます。
秋ごろに沢山出てくる「ひやおろし」の日本酒。ひと夏越えていい感じ熟成されたうまい日本酒です。他に「あらばしり」「中取り」「無濾過」「原酒」「生酒」なども解説。
秋ごろに沢山出てくる「ひやおろし」の日本酒。ひと夏越えていい感じ熟成されたうまい日本酒です。他に「あらばしり」「中取り」「無濾過」「原酒」「生酒」なども解説。
加熱殺菌の回数や保存方法、搾り方などでも名前の変わる日本酒。しかも、同じ工程を指す言葉でも微妙に言い方が違うので更にややこしくなります。
質問される日本酒用語ナンバーワンかもしれない山廃。これも詳しく話し始めると非常に長くなる。「山卸廃止もと」の略。現在は醸造用乳酸菌を入れて作る速醸という方法が多いです。
質問される日本酒用語ナンバーワンかもしれない山廃。これも詳しく話し始めると非常に長くなる。「山卸廃止もと」の略。現在は醸造用乳酸菌を入れて作る速醸という方法が多いです。
例えばこの「きもと」や「山廃」という言葉。「きもと系」と言われる作り方の中に「きもと」「山廃」という分け方があって実にややこしい。ひとまず「どちらも昔ながらの作り方で、旨味や酸味が多く力強い味わいの日本酒が多い」ぐらいの感じで知っておけば酒を選ぶ際には問題なし。

しかし、言葉の細かい意味についてまで知っていると、後ろに隠れている物語まで見えてきて飲む時の楽しさも増えるのです。

酒飲みは感じるままに飲んでしまうしそれが楽しいのですが、たまには頭を使って飲むのもいいものです。大体最後の方には忘れていますが。

ブラインドでの試飲。もう「辛口の日本酒をください」とは言わせない。
ブラインドでの試飲。もう「辛口の日本酒をください」とは言わせない。
さて、座学はここまで。休憩を挟んで試飲タイムです。試飲のテーマは「辛口の酒」とは何かを知ること。


ちょっと強引な言い方ですが、辛い日本酒というのは存在しません。日本酒はみんな甘いのです。それを試飲しながら解説していきます。
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数値の違う3種飲み比べ

試飲体験では3種類の日本酒を用意しました。
試飲とはいえ酒だけではさびしいので酒の肴も店から少し用意。塩麹漬け野菜や納豆、酒粕、味噌などを混ぜたディップ。あと以前記事で紹介したなんちゃってカラスミも。
試飲とはいえ酒だけではさびしいので酒の肴も店から少し用意。塩麹漬け野菜や納豆、酒粕、味噌などを混ぜたディップ。あと以前記事で紹介したなんちゃってカラスミも。
日本酒では「日本酒度」と言われる数値があります。
ラベルのどこかに書かれています。書いてない事も多い。
ラベルのどこかに書かれています。書いてない事も多い。
この数値がプラスに行くほど日本酒業界としては辛口。マイナスに行くほど甘口とされています。算出方法は日本酒度計とよばれる比重計を使って日本酒の中に残る糖分を測っています。
3種を飲み比べて自分が一番辛口の日本酒だという物を挙げてもらいます。
3種を飲み比べて自分が一番辛口の日本酒だという物を挙げてもらいます。
試飲では日本酒度±0、+4、+12の3種をラベルが隠された状態で飲み比べてもらい、自分が一番辛口だと思うものを挙げてもらいます。
結果は3つそれぞれに票が集まりバラける。辛口のとらえ方は人それぞれなのです。
結果は3つそれぞれに票が集まりバラける。辛口のとらえ方は人それぞれなのです。
結果としては+12の物を選んだ人が7、+4が5、±0が4人。日本酒度の高い物に票が多く集まりましたが割とバラけました。

米から作られる日本酒は全部甘いのです。
米から作られる日本酒は全部甘いのです。
日本酒は米のデンプンを糖に変えて、糖をアルコールにして作られます。つまり、味覚としてはかならず甘味が感じられる事になるのです。人間の舌には辛さを感じる部分がありません。味覚で言う所の辛いという感覚は、カプサイシンなどの辛味成分が舌の粘膜を刺激することによって起こります。

アルコールや含まれる酸の刺激で日本酒でも辛味を感じる可能性はありますが、基本的に日本酒は全部甘いのです。
味の感じ方は人それぞれ。
味の感じ方は人それぞれ。
日本酒業界でいう所の日本酒度が高く糖分の少ないスッキリとした辛口の日本酒がうまい酒ともてはやされたのは、流通の関係だとか、CMの関係だとか諸説あります。

しかし、それがいつの日か「うまい酒=辛口の酒」となり、日本酒度でいう所の辛口とは異なる、米の旨味や甘味の多いしっかりとした味わいの酒をうまい酒と思う人はそのような酒を「辛口の酒」と思う。吟醸酒の様に果物や花のような香りの高い酒をうまいと思う人は、そういう感じの酒を「辛口の酒」と思う。

本来の味を表す意味を離れ「自分のうまいと思う酒=辛口の酒」というような現象が出てきたのです。人の味の感じ方は違うのに言葉は一緒。実にややこしい。
日本酒は甘味、酸味、旨味、香り。あと口当たりの程度などを伝えてもらうと選びやすいです。
日本酒は甘味、酸味、旨味、香り。あと口当たりの程度などを伝えてもらうと選びやすいです。
店でも「辛口のお酒を下さい」と言われた時は、年の感じ、注文された料理などを見たり、普段飲んでいる銘柄などを聞いてこの辺りかとオススメするのですが最初は結構外れる。

その酒を基準にもっと甘さの少ない方がいいか?酸味が強い方がいいか?米の味が濃い方がいいのか?口に入った時にもっとどっしりしている方がいいのかなど感想を聞いて、その人の中にある「辛口」のイメージを探る事になるのです。
飲みつつ、食べつつ、聞きつつ。受講者からの質問に答えていきます。
飲みつつ、食べつつ、聞きつつ。受講者からの質問に答えていきます。
そんな話をしつつ、残った日本酒を飲みながら質疑応答。そして講座のシメとしてこの言葉を出しました。

飲酒は自由だ!
飲酒は自由だ!
日本酒を飲むとなると、冷やしてグラスで!燗にして陶器の器で!氷を入れて飲むなんて邪道!日本酒なら和食!なんて決められたルールでもあるかのようにいう人もいます。もちろんその飲み方で飲むのには意味もあり、より美味しく飲むのにはいい方法ではあります。

しかし、日本酒に限った話ではないですが、飲み方は飲み手の自由。ルールなんてありません。味の濃い原酒に氷やソーダを入れてもいい。和食に限らずチーズや各種料理に合わせてみると意外な美味しさを発見出来るかもしれない。

酒をもてあそぶのはダメですが、酒で色々遊ぶのは大いにいいと思います。もっと自由に楽しく飲んでください。そんな言葉で講義をシメました。ご清聴ありがとうございました。

講師は難しい

こんな感じで講師は無事終了。講座アンケートを見ると、概ね内容には満足、大満足の評価を頂き嬉しかったです。内容に不満というのもありましたが、どうも希望の内容と今回の内容が違っていたようで、事前の内容案内をもう少し明確にしておいた方が良かったと反省するところです。

あと、スライドが黒すぎるのはもっとどうにかした方がいいので、次回に向けて検討したいところ。好評だったようで近いうちに同内容での2回目の開催の依頼も頂きました。そのうち告知が出るでしょう。

では、みなさん今夜もよい日本酒を!
同内容でなく、日本酒の歴史についてとか、燗酒講習とか、作りと味の違いについてとかなど。やれれば各種講座をやってみたいものだ。依頼があれば全国どこでも行きます。ご依頼おまちしています!
同内容でなく、日本酒の歴史についてとか、燗酒講習とか、作りと味の違いについてとかなど。やれれば各種講座をやってみたいものだ。依頼があれば全国どこでも行きます。ご依頼おまちしています!
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