特集 2014年2月4日

その圧倒的白さ!ポテトサラダ定食めぐり

これがポテトサラダ定食だ
これがポテトサラダ定食だ
サラダでめしが食えるか。

そば屋で見かけたのはサラダ定食650円。怖いもの見たさにたのんでみると「ポテトサラダだけどいいかい?」とおっさんがいう。おっさんはくたくたの巨人帽をかぶっていた。いい、いい。この際なんでもいい。

そして出てきたポテトサラダ定食。その圧倒的な白さ。こんな白い定食があったのか。

家に帰ってすぐ検索し、他のポテトサラダ定食をさがした。
1980年生。明日のアーというコントのユニットをはじめました。動画コーナープープーテレビも担当。記事はまじめに書いてます(動画インタビュー)

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

練馬のポテトサラダ定食へ

検索をくりかえし、都内でポテトサラダ定食を出す4軒の店が見つかった。そのどれも似たような雰囲気がある。一店目は練馬の千曲食堂。
のれんに「大衆食堂」と書いてある練馬の千曲食堂
のれんに「大衆食堂」と書いてある練馬の千曲食堂
カウンターだけの店内。だれもいない。あふれ出る、味。
カウンターだけの店内。だれもいない。あふれ出る、味。

誰もいない店内

午後1時半。店に入るとカウンターだけの狭い店内。だれもいない。テレビがつけっぱなしなので営業はしているようだ。

しばらく待っていると「いらっしゃい」とおばあさんが出てきた。

ポテトサラダ定食はありますか? きいてみると、サラダに定食をつければできますよと。少々イレギュラーな頼み方なのだろうか。
単品に定食をつける形式だという。ここでもサラダ=ポテトサラダ。定食で450円。安い。しかしこの頼み方だと玉子焼き定食550円もできてしまうな。
単品に定食をつける形式だという。ここでもサラダ=ポテトサラダ。定食で450円。安い。しかしこの頼み方だと玉子焼き定食550円もできてしまうな。
ああ白い。そしてその出てくる早さも特徴にあげたい。白さ、早さ、めしの進まなさ。
ああ白い。そしてその出てくる早さも特徴にあげたい。白さ、早さ、めしの進まなさ。

その白さに圧倒される

まもなくポテトサラダとめし、みそ汁、遅れてお新香が出てきた。やはり白い。定食が白い。食べ物というよりはコピー用紙とかそのたぐいに近いんじゃないか。

大量に盛られたサラダは器やテーブルと同化して真っ白いキャンバスを形成している。おかげでこのたくあんの黄色がとにかくあざやかだ。
これが正しいのかどうかわからないがおれはソースをかけて食う。
これが正しいのかどうかわからないがおれはソースをかけて食う。

そのめしの進まなさ、冷たさ、多さ

生まれて二度目のポテトサラダ定食もまたその後のメインディッシュを待ちのぞんだまま終わるような食体験だった。

初めて食べたそば屋では同席者から唐揚げを分けてもらった。そして今回は黄色いお新香でめしをかきこんだ。

少しでもめしを食べやすくするために卓上のソースをかけて食う。成分的にはじゃがいも、マヨネーズ、ソースでコロッケに近い。しかしなれない。なぜだ。

この違和感は温度からくるのではないか。ポテトサラダはメインディッシュとしてはあまりにも冷たい。そしてメインに昇格したので山となって盛られている。

この冷たい山にソースをかけてめしと食うのだ。合ってるのか、これは。めしとして、そしてそれを食う人類として正しいのか。そこから考えていきたい。
なれない。いつになったらメインディッシュがやってくるのだろうという味
なれない。いつになったらメインディッシュがやってくるのだろうという味

これは背徳の味なのか

このポテトサラダ定食、よく出るのかおばあさんにきいてみたところ「出てますよ。うちは単品でやってるでしょう。ポテトサラダとなにかもう一品とかね」という。やはりもう一品か。

そういえばこのお新香も遅れて出てきた。(……この人ポテトサラダしか頼まないな)と思って出したのかもしれない。

となるととたんに分からなくなってきた。

はたしておれのやってることは正当なのか。それともいけないことなのか。このソースをかけて食ういもとめしは、正義かそれとも罪悪か。
ポテトサラダ定食がある街はどこかなじみやすくあたたかい雰囲気だ
ポテトサラダ定食がある街はどこかなじみやすくあたたかい雰囲気だ

東十条のとんかつの名店へ

つづいてのポテサラ定食は東十条のみのや。検索したところ安くてうまいとんかつの名店として出てきた。
どうやら行列ができるらしい。とんかつを食べてみたいものだ。
どうやら行列ができるらしい。とんかつを食べてみたいものだ。
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とんかつ定食500円。昼の2時頃だが店内の席は8割ほど埋まっていた
とんかつ定食500円。昼の2時頃だが店内の席は8割ほど埋まっていた
ポテトサラダ定食は大っぴらには書いてなかったが(過去の配達用チラシ?には書いてあった)ポテトサラダ250円を定食にして出せるという。
ポテトサラダ定食は大っぴらには書いてなかったが(過去の配達用チラシ?には書いてあった)ポテトサラダ250円を定食にして出せるという。

ここのとんかつを食べたい

隣では相撲取りのような男がとんかつをのせた大盛りのごはんをわしわし食っている。君はなんだ、象徴か、そういう妖精か。うらやましさを押し殺して注文をする。

「すんません、ポテトサラダ定食」

一瞬、店内が静まりかえったような気がした。そういうものがあるのか、通がやってきたといった空気がながれた。

そうだ、しかし通ではない。おもしろだ。
これは白い。まぶしいといってもいいほどに白い。洗濯洗剤のCMのようだ。
これは白い。まぶしいといってもいいほどに白い。洗濯洗剤のCMのようだ。

デジカメが狂うほどに白い

真っ白の定食がでてきた。マヨネーズもじゃがいもも黄味がかった色であるはずなのに、ポテトサラダはどうしてこうも白いのか。

それは何か魔法がかかったかのような白さだ。

雪国でデジカメの設定をオートにすると暗い写真になる。周りが白すぎて明るさを抑えよう抑えようとするのだ。同じことがポテトサラダでもおこった。そうか、雪の白さかこれは。

雪の降らない東京では、恋人たちがポテトサラダでめしをかっこむホワイトクリスマスがあってもいいかもしれない。

キリストもとんかつ屋で生まれたことにして。
細かくにんじんが入っているくらいであとは徹底的にじゃがいも。ソースがうまい。
細かくにんじんが入っているくらいであとは徹底的にじゃがいも。ソースがうまい。

豚汁のこまぎれがメインディッシュだ

ポテトサラダ自体はじゃがいも9にニンジン1と大変シンプルな構成であとはたまねぎの酢漬けだろうか、酸味がよくきいていた。

とんかつ店なのでソースがうまい気もする。根拠はない。

ポテトサラダの個体差はわかったものの、味の優劣はどうともいえない。どちらもまあおいしい。しかしまだなれない。

ここでは豚汁に入ったこまぎれの豚がめしの友になった。ああ、とんかつはすばらしいんだろうなと思わせる豚の脂の甘み。脳が静かにかたむいていくような感覚がある。
この豚汁に入ってる豚のこまぎれがうまい。とんかつ、うまいだろうな。
この豚汁に入ってる豚のこまぎれがうまい。とんかつ、うまいだろうな。
志村三丁目駅から歩いてすぐ。白い館という居酒屋もランチでポテトサラダ定食を出す
志村三丁目駅から歩いてすぐ。白い館という居酒屋もランチでポテトサラダ定食を出す

ポテトサラダ出してそうな雰囲気を感じる

三店目は志村三丁目にある白い館。外から見た感じは居酒屋だが、中に入ると、これは出るだろうなという雰囲気がある。

霊ではない。ポテトサラダである。

大きな将棋の駒や仏像などの置物、相撲のポスターや皇室カレンダーといったものがあるとポテトサラダ定食が近くにあると見ていい。

3日連続でポテサラ定食を食べ歩いているとそういうポテトサラダの霊的な能力がそなわってくる。
オーセンティックな食堂のランチヒエラルキーの中で最下層に位置するのがポテトサラダ定食である。500円。
オーセンティックな食堂のランチヒエラルキーの中で最下層に位置するのがポテトサラダ定食である。500円。

「ポテトサラダ定食」の文字をはじめて見る

3店目にして「ポテトサラダ定食」とうたってる店をはじめて見る。数あるランチメニューの中でも一番下に一行あけて書かれていた。納豆と卵がつくと書いてあってそのうえ一番安い。卑下しすぎではないか。

お店もポテトサラダでめしが食えるか、と思っているのだろう。昨日までのおれもそう思っていた。
白いうえに納豆と卵、お新香もつく
白いうえに納豆と卵、お新香もつく
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ソースが定食といっしょにやってくる。やはりソースをかけて食べるのが正しいのか。
ソースが定食といっしょにやってくる。やはりソースをかけて食べるのが正しいのか。

……開眼した

腹がすいていた。ポテトサラダとめしを前にして腹をすかせていた。

うちのは3度食べてくださいとうたうラーメン屋がある。ポテトサラダ定食を3日連続で食べてきた自分にも異変がおきた。

ここにきてはじめてポテトサラダでめしを食べたいと思ったのだ。湯気がたった白いめしの上にひんやりとしたポテトサラダをのせ、たっぷりのソースをたらして。

そんな描写をされてもなと思うかもしれない。しかしそれはまだポテトサラダ定食の開眼式が終わってないのだろう。あなたはまだポテトサラダの鑑真を唐からお招きしてないのだろう。

扉は開いた。その先にある世界は、とにかくなんていうか、白いぞ。
口の端にポテトサラダつけてものすごくご満悦な写真が出てきた。ポテトサラダとめしに慣れてきたのだ。
口の端にポテトサラダつけてものすごくご満悦な写真が出てきた。ポテトサラダとめしに慣れてきたのだ。

ポテトサラダと白めしになれてきた

昨日までと味がかわったわけではない。舌がなれたのだ。

わかってきた。ポテトサラダには個体差はあるが、だいたいうまい。少なくともまずくはならない。ソースをかけて食うからなおさらだ。ほぼソースの味だといってもいい。しかしそれでいい。それでいいのだ。

決めた、殴ろう。何か言うやつがいたら殴ろう。とにかくこれはこれでいいのだという味がする。

納豆でもごはんを食べてみたがそれはもう完全に脇役で、主役はポテトサラダだった。

空っぽになった皿には昨日までの自分に対してのメッセージ「SA YO NA RA」をソースで書いて席を立つ。
そしてはじめてポテトサラダ定食と出会ったさか本に凱旋ポテサラ
そしてはじめてポテトサラダ定食と出会ったさか本に凱旋ポテサラ

下高井戸さか本に帰ってきた

最後はポテトサラダ定食と出会った店、下高井戸の名店さか本に帰ってきた。

味がうまいから名店というわけでもない。とにかくただならぬ雰囲気があるのがこのさか本である。ここがポテトサラダ定食を教えてくれたのは偶然ではなく、こういう店にポテトサラダ定食はあるのだ。
多すぎるメニュー。新喜劇に出てきそうな雰囲気。店員と化した巨人帽の常連。安いわけでもうまいわけでもないのににぎわう客。「広いので休憩に利用してください」と書かれた広すぎる店内。誰も買わない「食券を買い求めください」。壁をめぐらせた延長ケーブル。ふすまを開けるとおばさんがすし詰めになっていたりする秘密の部屋。こういう店が異世界の扉を開けるのだ。
多すぎるメニュー。新喜劇に出てきそうな雰囲気。店員と化した巨人帽の常連。安いわけでもうまいわけでもないのににぎわう客。「広いので休憩に利用してください」と書かれた広すぎる店内。誰も買わない「食券を買い求めください」。壁をめぐらせた延長ケーブル。ふすまを開けるとおばさんがすし詰めになっていたりする秘密の部屋。こういう店が異世界の扉を開けるのだ。
きた。なんて潔い白さだ。つけものまで白いしみそ汁の具は大根である。
きた。なんて潔い白さだ。つけものまで白いしみそ汁の具は大根である。
ソースもあるが、そうか、ここはふりかけもあるのか。救済としてだな。
ソースもあるが、そうか、ここはふりかけもあるのか。救済としてだな。

ポテトサラダ定食のロマンス

サラダ定食、ひとつください。巨人帽ではない本来の店長にたのむと「ポテトサラダだけどいいかい?」と同じことをいう。

はじめていわれたときのことを思い出す。あのときは(……この際、もうなんでもいい!)とおもしろ半分だった。だが今はちがう。それがいい。ポテトサラダがいいのだ。

こういう状況は少女マンガで読んだことがある。偶然の出会いから一回りして、またあの時と同じシチュエーション。今ならいえる「好きです」と。目の前には食堂のじいさん、恋心はポテトサラダに。しかし思いは同じだ。
ウスターソースでびっしゃびしゃ。これとポテトサラダの甘さが合う。
ウスターソースでびっしゃびしゃ。これとポテトサラダの甘さが合う。

凱旋にふさわしい

もう完全になれた。ポテトサラダ定食、どこがへんなのだ。

さか本のポテトサラダはとにかく甘い。ポテトサラダには隠し味として砂糖を少し入れるらしいが、ここのは露骨である。全く隠せてない。すき焼きみたいなものだと思ってもらっていい。

はじめて食べたときは驚いたものだが、今となってはそれがいい。この甘さにびしゃびしゃにかけたウスターソースが合う。

人は変わる。ポテトサラダと白めしでさえ、いいと思えるようになる。さか本のポテトサラダが、やっとわかってくれたかといってる。放蕩息子が帰ってきたのだ。
ふりかけごはんにしてみたが、そこはもう白くてもいい。もう、完全になれた。ポテサラ定食。
ふりかけごはんにしてみたが、そこはもう白くてもいい。もう、完全になれた。ポテサラ定食。

地球は青かった

白く、安く、早く、多く、冷たく、めしが進まなく、炭水化物ばかりでぶくぶく太る定食。ポテトサラダ定食。

東京の大衆食堂にはポテトサラダ定食が残っている。それはポテトサラダがしゃれたものだった時代のなごりなのか、それともただポテトサラダがよく売れて定食化したのかそれはわからない。とにかく、味のある店にはポテトサラダ定食がある。

今となってはここで何をいうべきかもわからない。ポテトサラダでめしをくうことに完全になれてしまって何がおかしいとも思わないのだ。殺し屋もこういうことを思っているのだろうか。とにかくおれは変わってしまった。昨日までの自分でない。もし、じゃがいもとマヨネーズとソースと白めしが道に落ちてればとりあえず全部まぜる。そのあとで食うかどうかを考える。

ただ、白いということは認めよう。それはまぎれもない事実だ。とにかく白かった。怒涛のポテトサラダ定食めぐりを終えて、どうだったかと問われたら、白かったとしか答えようがない。ポテトサラダ定食は白かった。
こういう世界
こういう世界
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